2020年9月16日 (水)

ジャズの帝王がよみがえる

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 「クールの誕生」(1949-50)、「カインド・オブ・ブルー」(1959)、「ビッチェズ・ブリュー」(1969)と、10年おきにジャズのサウンドを革新する歴史的名盤を生み出したマイルス・デイヴィス。65年の生涯は、ジャズの進化の歴史です。光もあり闇もある、ジャズの帝王の知られざる素顔に迫るスタンリー・ネルソン監督のドキュメンタリー、『マイルス・デイヴィス クールの誕生』が素晴らしい。

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 ビバップ、クール・ジャズ、ハード・バップ、モード・ジャズ、フュージョン。彼の開拓した斬新な音楽は、ジャズにとどまらずロックやヒップホップに至るまで幅広いアーティストに影響を与えた。ミュートを使用しヴィブラートをあまりかけない彼の演奏は、静かで理知的。でも燃えたぎる情熱を内に秘めた、中音域の伸びやかな音は力強い。1音聞いただけでそれとわかるアーティストはちょっといない。

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 ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーター、ロン・カーターなどマイルスのバンドに在籍したジャズメンをはじめ、クインシー・ジョーンズ、カルロス・サンタナ、ジュリエット・グレコなどさまざまなジャンルの大御所が、マイルスの魅力や隠されたエピソードを語っている。恋人、結婚、DV、人種差別、クスリ中毒、フェラーリの大事故・・・さまざまな苦難と絶頂。ジェットコースターのような波乱の人生だ。

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 どん底まで落ちても、その都度不死鳥のように復活。しかも自分が作ったスタイルを自ら打ち破って、まったく違う次元に至る。その変貌の激しさに賛否両論はあったが、あくなき挑戦を続けるマイルス。成功に安住することなく、愛するフェラーリのように猛スピードで駆け抜けた天才。しかし好き嫌いの激しさ、自分に正直に生きる信念が、家族や仲間へ与えた負の側面も大きかったのだ。

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2020年9月13日 (日)

資金力 vs. データ

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 ベネット・ミラー監督、ブラッド・ピット主演の痛快な『マネーボール』。原作はオークランド・アスレチックのGMビリー・ビーンを主人公にした、マイケル・ルイスによるノンフィクション『マネーボール 奇跡のチームをつくった男』(ランダムハウス講談社)です。彼はいかにして貧乏球団をMLBの強豪チームに変えていったのか。

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 野球に限らずプロスポーツは、サッカーもバスケットボールも資金力で一流選手を集めたチームはますます強くなり、財力なきチームとの格差は開くばかり。これが常識だ。彼は「客観的なデータ分析による統計学的手法」で「長年の経験と実績」に頼る伝統的な価値観を覆す方法で常識に挑む。評価されていない埋もれた戦力を発掘し、低予算でチームを改革。常勝軍団に仕立て上げたのです。

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 映画は2001年シーズンの終わりから2002年シーズンの終わりまでの1年を、当時の映像も使ってリアルに描く。選手の評価や采配をめぐっては、当然のことながら監督やスカウトたちと衝突する。どの分野でも革新的な思想や方法論を取り入れようとすると、大きな反発と抵抗を生むものだ。特にプロ球界など専門性の高い世界ほど「常識」の壁は堅固で高い。

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 短気で妥協できない性格で、思い通りに進なければロッカールームで暴れたりもする。しかし信念を貫いてチームを引っ張るビリー。野球はデータではなく人間がプレーするもの、という業界人の信念を打ち破った実行力と、良き理解者との出会いもあった。ドラフトやトレードの駆け引きなど、球団経営ビジネスの裏側もおもしろい。

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 ドラフト1位と期待されながら活躍できなかった自分。妻との離婚と娘への愛情。金のために決断を下したことへの後悔。怒りっぽく強引に事を進めるので敵も多い。でも真剣に改革しようとする熱意は、ついに連勝記録やプレーオフ進出で報われる。この実在の熱血GMにまつわる感動の人間ドラマを、ブラッド・ピットが魅力的に演じる。マネーボールというタイトルも素晴らしいと思いました。

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2020年9月10日 (木)

フジコ・ヘミングの歩んだ道

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 パリ、東京、ベルリン、サンタモニカ、京都にある住居、パリの猫やベルリンの犬に囲まれたその生活、時代を超えた独創的なファッション。他の誰とも違う、彼女の存在そのものが芸術とも言えるフジコ・ヘミングを追ったドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』。60代後半で世界に見いだされた奇跡のピアニストの物語です。

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 本名:ゲオルギー=ヘミング・イングリッド・フジコ。日本人ピアニストの母とロシア系スウェーデン人の画家・デザイナーである父の間でベルリンに生まれる。そして幼少時に日本へ移住。父との別離、厳しい母のレッスン、ハーフへの差別。戦中、戦後の日常を、彼女自身の絵日記で伝える手法も効果的だ。よく残っていたと驚くと同時に、めちゃ絵がうまいのにも感心する。

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 20代のころドイツへ音楽留学を目指したとき、国籍がないことが判明。混乱の時代で手続きができていなかったためだ。その後、ドイツ大使の尽力で難民としてパスポートを取得。ドイツに渡りピアニストとして順調に成長を遂げたが、大きなチャンスを目前にして、病気で耳が聴こえなくなる。それからはヨーロッパで貧しい生活。

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 1999年にテレビのドキュメンタリー番組で取り上げられ、一躍脚光を浴びる。そしていまは「魂のピアニスト」と呼ばれ、コンサートで世界を飛び回る日々。ショパン、リスト、モーツァルト、ベートーベン、ドビッシー・・・。彼女が奏でるピアノの音色には哀しみ、喜び、厳しさ、優しさがあふれ、多くの人々を魅了している。

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 劇的な展開は特になく、制作者の思い入れも強く出さず、あえて淡々と進める小松荘一郎監督。あまり多くを語らないフジコの姿勢。熱くならないクールな演出が、魂のこもった彼女の音楽をより際立たせる。80歳を過ぎてさらに輝きを増すフジコ・ヘミング。自由に生きる強さに感動し、多様性についても考えさせられました。

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2020年9月 7日 (月)

永遠の、オズの魔法使い


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 主題歌「虹の彼方に Somewhere Over The Rainbow」で有名な、歴史的名作ミュージカル『オズの魔法使い』。ライマン・フランク・ボーム原作の児童文学を1939年にヴィクター・フレミング監督が映画化したファンタジー。フレミング監督は同じ年に『風と共に去りぬ』も作っています。すごい人なんですね。ちなみに日本での公開は、戦争が終わってからの1954年。不自由な時代だったのですね。

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 冒頭部とラストをモノトーンのセピア色で、魔法の国のパートは鮮やかなカラーで表現。まだ極めて珍しかったカラーフィルムを効果的に使って、現実の生活(カンザス)と、夢の中(オズ)の出来事を見事に描き分けている。特撮や特殊メイクなどを当時の最先端技術を駆使した映像は、後の映画界に大きな影響を与えました。

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 ドロシーと冒険の旅を続ける仲間は、脳が欲しいカカシ、心が欲しいブリキ人形、勇気が欲しいライオン。彼らが助け合いながら苦難を乗り越え、ともに成長していくストーリーは永遠の定番。また「There's no place like home. お家が一番だわ」というセリフに代表される、幸せは身近なところにあるというテーマも不滅です。

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 ジュディー・ガーランドは、この作品で一躍国民的スターに。しかし薬物中毒と神経症に悩まされ自殺未遂を繰り返す。そして47歳にして滞在先のロンドンのホテルで死亡。若くして得た名声と破滅的な人生。彼女の知られざる苦悩にフォーカスした映画『ジュディ 虹の彼方に』が、レネー・ゼルウィガー主演で昨年公開されました。

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2020年9月 4日 (金)

覚悟の「新聞記者」に拍手

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 今年3月6日に授賞式があった第43回日本アカデミー賞。最優秀作品賞、主演男優賞、主演女優賞に輝いたのは、藤井道人監督の『新聞記者』でした。政権の暗部に迫る若き新聞記者とエリート官僚。その対峙と葛藤を描く社会派サスペンスです。原案は東京新聞の望月衣塑子さんの同名ベストセラー。あの菅官房長官の「天敵」と呼ばれた骨のある記者です。

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 大学の新設計画、担当官僚の自殺、メディアへの圧力。フィクションと断っていますが、現実に見聞きしてきた事件と符合するところが多くて心底怖くなります。自粛や忖度や自主規制。この数年で目立って増えてきた行政やメディアの姿勢。これも表に出たものだけで、見えない部分は如何ばかりかと思われる。

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 それぞれの正義を貫くより、自分の保身や組織の安泰のために口をつぐむ。あるいは口をふさがれる。まわりも面倒に巻き込まれたくないし、波風を立ててほしくない。それが日本の現状。主演のふたり、松坂桃李とシム・ウンギョは権力の闇と戦う覚悟と、家族や仲間に降りかかる困難を想う複雑な心理を静かに強く演じている。

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 何かスキャンダルが露見すると、記事を書いた記者の人格攻撃や反対ヘイトがすぐにSNSにあふれる。これも内閣情報室のコントロールか。政権に不都合なニュースを誤報だとする情報を息のかかった新聞社にリークし、国家規模のSNS捏造で当事者をつぶす。国の安定のためという活動の不気味さに、鳥肌が立つ思い。よくこれを映画にしたなと、関係者の皆さんの勇気に拍手を送ります。

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2020年8月29日 (土)

チャーチルの4週間

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 1940年、英国は真っ暗闇の時を迎えていた。危機的状況でリーダーに就いた男は、ナチス・ドイツに呑み込まれようとしていたヨーロッパを救えるか。ジョー・ライト監督の『DARKEST HOUR ウインストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は、チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの、密度の濃い4週間を描く。

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 頑固で怒りっぽく、意見の異なる相手に罵声を浴びせる型破りの政治家は、同僚の国会議員や国王からも嫌われている。破滅の危機に瀕した英国は、ヒトラーと和平交渉をするか徹底抗戦を選ぶか、国論は二分。周りの反対を押し切って作戦を進め、いかに「嫌われ者」が「伝説のリーダー」になっていくか。歴史の裏側に迫る。

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 追い詰められたダンケルクの戦いは、民間の漁船、ヨット、はしけまで、ありとあらゆる船舶を寄せ集めて、40万人の将兵を救出し英国へ運ぶというきわめてハイリスクな作戦。常識的に考える人が反対するのも当然だ。しかし国民の声に耳を傾けたチャーチルは、ヒトラーと対決する道を決断。議会で歴史的な演説を行うに至った。

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 チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンがアカデミー賞主演男優賞。オールドマンの特殊メイクを担当した日本人メイクアップアーティストの辻一弘さんたちが、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。まったく似ていないオールドマンをチャーチルに仕立てたメイクアップ術。存在感を際立たせた演技力。ともに素晴らしい。

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 朝食にスコッチ、昼食にシャンペン、夕食にワイン、そして夜はブランデーやポートワインを、飲む、飲む、飲む。そしていつも葉巻を手放さない。不健康極まりない生活だ。家庭では奥さんの尻に敷かれている恐妻家。奥さん役は『イングリッシュ・ペイシェント』のクリスティン・スコット・トーマス。苦しい時も英国人らしいユーモアを忘れない人間味豊かなチャーチルを、しっかり支えていました。

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2020年8月26日 (水)

「パワー」の力とリスク

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 飲むと5分間だけ超人的な力を発揮できる謎のクスリ、その名も「パワー」。アリエル・シュルマン & ヘンリー・ジュースト監督の『プロジェクト・パワー』は、ニューオーリンズを舞台にしたSFアクション・ファンタジー。ひそかに持ち込まれたクスリの広まりにつれて、街で不可解な犯罪が頻発するようになる。

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 スーパーヒーロー願望を叶えてくれる魔法の薬物とも言えるが、人によって出現の仕方が違う。透明人間になったり、火炎人間になったり、氷結人間になったり。どうなるかわからないうえに、副作用で死に至る可能性もある。超人化プロジェクトに隠された遺伝子科学の光と闇。そんな危険な新技術をめぐる争い。

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 出演は特殊部隊の元軍人ジェイミー・フォックス、はみだし警官ジョセフ・ゴードン=レヴィット、高校生の売人ドミニク・フィッシュバック。このなんとも不釣り合いな3人が協力して、「パワー」はある軍需産業によって政府公認の研究所で開発されたことを突き止める。犯罪組織と権力を向こうに回して、戦いが始まる。

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 社会に広まるドラッグ。人体実験とその道義性。貧困と犯罪。現代が抱えるさまざまな問題を内包してストーリーは進む。そして無事に1件落着。しかし元軍人のDNAを通じて「超人」が紛れ込んだ娘の将来は、どうなるのでしょうか。もしかしたら続編も考えてたりして。主要な3人も生き残ったし、クスリの謎は不明なままだし。

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2020年8月23日 (日)

夢の中の夢の中の夢の中

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 他人の頭の中に侵入して、潜在意識から情報を抜き出す「エクストラクション」と、本人とは違う考えを植え付ける「インセプション」。クリストファー・ノーラン監督の2010年作『インセプション』は、夢と現実を行き来する新感覚のSFサスペンス。レオナルド・ディカプリオが演じる、すご腕の産業スパイが主役です。

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 夢の世界は多層構造になっている。第1階層の夢の中で夢を見ると第2階層へ、第2階層の夢の中で夢を見ると第3階層へ、と深く降りていく。しかも深い階層になるほど時間の経過が遅くなる。なにそれ?こんなややこしい世界をどう思いついたのか? うっかりしているとついていけなくなる。難解だ!と言われるのもナットクです。

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 街全体が垂直に持ち上がったり、崖が崩壊したりするのは夢だから不思議じゃないかもしれない。が、それを映像化、視覚化する技術にはびっくりします。重力の感覚、時間の感覚。本当に異次元の体験です。橋から車が落下するわずか3、4秒の間に、深い階層の夢の中では1時間近くもの激しいアクションが繰り広げられている。

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 その車の落下も夢の中。こう書くと複雑過ぎて寝てしまいそうだけど、眠気を感じるヒマもないほどの緊張感。あっという間に2時間半が過ぎてしまいました。おもしろい設定、ユニークな展開、(夢のような)美しい映像。テーマの、洗脳を超えた「操脳」と呼びたくなるような深層心理に届く怖さは、いつまでも残るでしょう。

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 共演者たちも豪華でみんな存在感が強い。マリオン・コティヤール、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、トム・ハーディ、エレン・ケイジ、マイケル・ケインほか。夢と現実。脳と意識。クリストファー・ノーラン監督は『インターステラー』に次いで、またまったく新しい世界を創造しました。この人の脳の中も見てみたい。

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2020年8月20日 (木)

昭和レトロの、あやカノ

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 韓国映画『妖しい彼女』をリメイクした、水田仲生監督の『あやしい彼女』がおもしろい。見た目は20歳、中味は73歳の、チョーあやしい女の子が大活躍する爆笑と感動の物語。可愛い顔で罵声を浴びせ、ときには熱く説教する。気っぷが良くてしおらしい。クルクルと表情を変える多部未華子、天性の才能がはじけています。

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 町の人々やお年寄り仲間にも煙たがられている毒舌ばあさんが、ひょんなことから20歳の姿に。こうなったらとことん好きなように生きてやる! 倍賞美津子が73歳の下町のばあさん、多部が20歳のあやしい彼女、主人公を2人1役で演じている。歌に、恋に、失われた青春を取り戻すことができるのか。

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 多部未華子が透き通るような声で歌う「見上げてごらん夜の星を」、「真赤な太陽」、「悲しくてやりきれない」など昭和のヒット歌謡の数々。彼女が着ているちょっと外れているけどキュートな70'sファッション。どこかレトロでカッコいい。閉塞している現代(2016年の作品だから平成時代)とのギャップがかえって新鮮だ。

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 共演者も芸達者がそろっている。小林聡美、北村匠海、志賀廣太郎、要潤、金井克子、温水洋一などがドラマを盛り上げる。たくさん笑って、ほっこりできる2時間5分のファンタジー。誰にでもある人生リセット願望を刺激し、逆に家族や友だちなど今の人間関係の良さに気付かせてくれる。観た後に少し素直になった自分がいます。

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2020年8月17日 (月)

大林監督、3時間の遺言

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 肺ガンで余命3ヵ月を宣告された後も制作をつづけ、この春4月10日に亡くなった大林宣彦監督。コロナがなければ、まさにその日が『海辺の映画館 キネマの玉手箱』の公開予定日だった。奇跡というか、運命というか、何者かの不思議な力を感じます。監督の遺作にふさわしく、舞台は尾道の映画館。さぁ最後の興行です。

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 新選組や白虎隊や娘子隊。坂本龍馬に西郷どん。満州事変に沖縄戦。原爆投下に玉音放送。スクリーンの中に入り込んでしまった観客(?)が時空を超えて駆け回る。白黒からカラーへ。無声映画からトーキーへ。ミュージカルあり、SFあり、悲劇あり、純愛あり、アクションありの盛りだくさん。何が出てくるかわからない玉手箱。

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 戦争の歴史と映画の歴史を交錯させながら、平和の希求、映画が持つ力への信念、これからの若者への期待を描いた快作です。こんな文字面を見ると堅苦しく感じるかもしれませんが、決して説教臭くはないし退屈でもない。テンポ良く快調に進むストーリーに身をゆだね、「監督、どこへ連れて行ってくれるのですか?」という感じ。

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 この作品を「遺言」だと思うのは、最後の作品になったからだけではない。ここに大林監督の世界観、歴史観、美学がすべて詰まった密度の濃い179分だから。ポスター表現のとおり、いろんな要素のどこにも映画作家の情熱とサービス精神があふれている。場面転換、あるいは狂言回しに使われる中原中也の詩も素晴らしい。

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 出演者もとても多い。厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子、小林稔侍、高橋幸宏、白石加代子、尾美としのり、武田鉄矢、片岡鶴太郎、柄本時生、村田雄浩、稲垣吾郎、蛭子能収、浅野忠信、伊藤歩、入江若葉、渡辺裕之、根岸季衣、中江有里、笹野高史、満島真之介、川上麻衣子、渡辺えり、窪塚俊介、長塚圭史、ミッキー・カーチス、犬塚弘ほか。

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 日本が世界が、また不穏な空気に包まれつつあるいま、大林監督が現代の若者へ残してくれた遺言。オシャレな映像美とユーモア感覚で、極上のエンターテインメントに仕上っている。童心に帰ったような自由奔放さで、映画作りを心から楽しんでいる様子も伝わってくる。終戦記念日に観るのにふさわしい映画でした。

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