2020年4月 3日 (金)

タイトルは「接触感染」

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 2011年に公開されたという映画『コンテイジョン Contagion』は、この度の新型コロナを予見したような内容で話題になっている。で、定番になったNETFLIX 巣ごもり鑑賞。たしかに、恐ろしいほどこの数か月の状況に符合する。2002年に中国の広東省から起こったサーズ SARS 流行時の医学的な知見や社会的な不安の経験が活かされているからに違いない。ドアノブ、グラス、エレベーターのボタン、電車のつり革・・・。近未来(製作時は)の未知の接触感染症をテーマにしたパンデミック映画です。

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 物語は香港から始まるし、感染力は強いし、あっという間に世界に広まるし。ふんふんと観ているうちに引きこまれる。感染経路をたどる。医療従事者に犠牲が出る。都市が封鎖される。デマが拡散する。パニックになって暴動がおこる。ワクチン開発も思惑や利権が絡んですんなりとは進まない。まさに今、世の中はこの映画をなぞるように動いているからコワイ。ドキュメンタリータッチでリアルに表現するスティーブン・ソダーバーグ監督の手腕は確だ。

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 個人の愛や悲しみと社会的責務との葛藤。さまざまな規制が立ちはだかるなかでワクチンの研究開発。医療崩壊を防ぐため時間との闘い。人の行き来も、情報の伝達も、圧倒的に速く広くなった現代。政策の決定も何よりスピードが求められる。そして政府や行政は正確な情報を的確に流すことが必要だ。人々を物資の買い占めに走らせるのは、情報不足による不安感から。他人事のように無自覚にふるまうのは、感染症ウイルスに対する無知から。

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 NYのコロンビア大学公衆衛生大学院が制作する新型コロナに関する解説動画に、『コンテイジョン』に出演したマット・デイモンやケイト・ウインスレット、ローレンス・フィッシュバーンなどが出演。デイモンは「映画のなかで、僕は世界中に蔓延する架空のウイルスに免疫がある男を演じました。いくつかのことをはっきりさせておかなければなりません。まずあれは映画で、これは現実です。僕が新型コロナウイルスに免疫があると信じる根拠はありませんし、あなたも同様です。どれだけ若いとしても」と語っているそうだ。


 
 

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2020年3月29日 (日)

ローマ教皇も人間なんだ

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 こんな面白い映画なら、昨年末に公開されたときすぐに見ておけば良かった。フェルナンド・メイレレス監督の『2人のローマ教皇』、最近多くなったNETFLIXオリジナルです。ベネディクト16世が退位する前年にアルゼンチンからベルゴリオ枢機卿をローマに呼んで、二人で数日にわたり対話をする。これがストーリーの核。カトリックの総本山ヴァチカンの舞台裏に迫る人間ドラマです。

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 教皇庁No.2の官房長官のような役職を長年務めたドイツ人の教皇。厳しい保守派の代表で、演じるのはアンソニー・ホプキンス。片やジョナサン・プライス演じる慣習にとらわれないアルゼンチン人の枢機卿は、ピッツァとサッカーを愛する庶民的な改革派。考え方も経歴も正反対の二人がお互いの違いを踏まえながら理解を深めていく。その後ベネディクト16世の退位により、ベルゴリオがフランシスコ教皇となる。実話を基にしているだけにリアルだ。

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 宗教界のトップに上り詰めても「人間だから完璧じゃない。罪も犯す」と言えるスゴさ。いろんなスキャンダルで揺れるカトリックの起死回生PR映画、かと思いきやとても見ごたえがある感動作です。二人の運命が交わる2005年ヨハネ・パウロ二世の死によるコンクラーヴェ、2013年ベネディクト16世の引退によるコンクラーヴェ。同時代の歴史を作ったローマ郊外の夏の離宮やシスティーナ礼拝堂のロケが印象的です。そして2018年ブラジルW杯決勝(ドイツ vs アルゼンチン)をTV観戦する二人が人間らしくて好感が持てました。

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2020年3月26日 (木)

あらためて、最強のふたり

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 事故で首から下が動かなくなった大富豪の紳士フィリップと、介護人に雇われたスラム街育ちで前科持ちの黒人青年ドリス。身分も育ちも教養も正反対の2人が繰り広げる日々のギャップが笑えるコメディです。エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが脚本・監督した『最強のふたり』。2011年第24回東京国際映画祭でグランプリを受賞したフランス映画です。主演のふたりも最優秀男優賞を受賞。

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 障がい者を障がい者と思わないドリス。遠慮もないし憐れみも感じない。障がいも一つの個性だとしか思っていない。雇われている身なのに主人と対等に付き合う。この手のお話でありがちなお涙頂戴にはなっていない。さらっとした人間関係ながら、さりげない優しさがとても気持ちがいい。そこから生まれる真の友情。「彼は私に同情していない」というフィリップの言葉が真理を突いている。

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 障がい者の問題。格差の問題。人種の問題。さまざまな社会問題をうまく取り込んでリアリティある映画になっている。実話をもとに作られたこのストーリー。まったく違う人生を歩んできたふたりが築き上げていく絆の深さに感動します。幸福感に包まれました。新型コロナによるイベントなどの自粛のためNETFLIXで映画鑑賞。2012年の公開では見逃したけれど、見ることができてとても満足です。

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 ハリウッドのリメイク版も制作されましたが、こちらはオリジナル。最後に『最強のふたり』の名前と写真が出て、この物語の後日談というか現在のふたりそれぞれの幸せな生活ぶりが記述されている。それによると今も親しい交流が続いているという。「親友」を超えた「真友」を見つけた歓び。実話ならではの強さが伝わってきて、心いやされる思いでした。涙はなくても感動はとても深い。

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2020年3月17日 (火)

汝の道を進め、そして

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 蜷川実花の『FOLLOWERS』は、日本版『セックス・アンド・ザ、シティ』の趣。時代の先端を生きるカッコいい女性たちが、自由に才能を発揮し、人生を謳歌する。そんな風に見えながら(あるいは目指しながら)も簡単にはいかないのが現実。だからドラマになるのだけれど。監督の実像を彷彿とさせながら、社会のいろんな問題をサラッと盛りだくさんに散らばめている。

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 このシリーズは2つのテーマを持ったトレンディドラマだ。一つは女性の自立、地位の向上。いつまでたっても男女平等社会に近づかない日本で闘う売れっ子フォトグラファーの日々を、ポップにオシャレに描く。LGBT、仕事と出産、パワハラ、無理解・・・。蜷川実花が経験してきた古い因習や社会との軋轢がベースになっているのでしょうか。多様性を尊重する社会への願いがこもっている。

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 二つ目は野心に燃える少女の成長物語。夢は女優になること。器用に立ち回れない。愛想笑いもできない。与えられた仕事はどれもしっくりこない。自分が何者なのか、何者になろうとしているのかも見失いがちな日々。反抗心をどこにぶつけたらいいかもわからない。誰もわかってくれない。不安、焦燥。それがいい出会いをきっかけに立ち直っていく。自分らしさに目覚めていく。

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 これら二つのテーマが最終的にどう交差してひとつにまとまるか? それがダンテの『神曲』からの「汝の道を進め そして人々をして語るにまかせよ」という言葉。他人の言うことなど気にせず自信をもって生きろ!というメッセージ。炎上してもいいじゃないですか、と。自立と凛々しい生き方を象徴しているかのように、東京タワーがすっくと立っている。蜷川美学ではスカイツリーじゃないんだね。

 

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2020年3月14日 (土)

蜷川実花の Followers

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 疾走感あふれたオンリーワンの映像美。 極彩色の氾濫でドギツイ悪趣味に陥る寸前の妖しい調和。ファッションも、インテリアも、夜の光も、どこを切り取っても蜷川実花の世界だ。Netflixオリジナルのドラマシリーズ『FOLLOWERS』全9話。世界190ヵ国に配信される という。さすが Netflix! さすが蜷川実花! 彼女の手にかかれば見慣れた東京の街が、きらめくTOKYOに変わる。

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 『FOLLOWERS』というタイトルが示す通り、SNSが日常生活のツールとして浸透している現代社会。思いがけず交差する情報に直接的、間接的に影響を受けている。中谷美紀が演じる売れっ子カメラマンと、池田エライザが演じる売れない女優の卵。時代の先端を生きる2人の生きざまにフォーカスし、カリスマ的プロゲーマーや人気ユーチューバーも絡んでストーリーは展開する。
 
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 華やかなファッション界や芸能界には、光もあれば影もある。人生の成功者にだって悩みはある。ギョーカイの慣習になじめない若者にも野心はある。まぁそうは言っても登場人物はみんな恵まれた人たちだ。世間一般からはかけ離れているけれど、社会派ドラマじゃなくてトレンディドラマなのだから、これでOK。リアリティは不要だ。人間臭さを感じさせないドライさも魅力のひとつだと思う。

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2020年3月 5日 (木)

「1917」サイコーです

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 サム・メンデス監督『1917 命をかけた伝令』。第一次世界大戦のフランス西部戦線を舞台に、若き二人のイギリス兵の「1日」を全編ワンカット(に見える)映像で描く。ロジャー・ディーキンス撮影の究極の映像美。こんなすさまじいノンストップ体験は初めてです。アカデミーの撮影賞と視覚効果賞を受賞したのも当然だ。 

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 ワンカットかどうか、どこでうまくつないでるかなど些細なことは忘れ、いつしか主人公になった気分。ハラハラドキドキ、緊張が途切れることなく2時間が過ぎた。終わってしばらくは立ち上がれないほど、ぐったり心地よい脱力感。こんなに集中したのはいつ以来だろう。戦争映画には違いないけれど、深い人間ドラマにも感動です。

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 塹壕や廃墟。抑えた色のトーン。これらはヨーロッパの光と色だ。泥水や死体のニオイ。どろりとした血の触感すら伝わってくる圧巻の臨場感。皮膚感覚にまで訴えてくる映像ってあるのだ、と思い知らされる。しかも決してグロテスクではない。SFXも駆使しているはずだけど、まったくハイテク技術を感じさせない。その自然さこそ、壮大なお話に引き込む源泉なのでしょう。
 
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 銃弾が飛び交う戦場の最前線。ヒリヒリする緊張感の中で一ヶ所だけホッとするシーンがありました。白い桜の花びらが舞い散るシーン。しかし主人公は狙撃兵に撃たれて急流を流されている。命の危機に直面しているのに、ホッとしていたら不謹慎かもしれません。が、これも演出の妙。その一瞬後にはゾッとさせられるのだから。

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 戦争の無慈悲さ容赦なさ。軍隊あるいは命令系統の理不尽さ。過酷な状況であればあるほど、友情や家族の絆の大切さが浮かび上がる。人間の献身的な振る舞いや勇気ある行動が感動を生む。メンデス監督の力量に参りました。すべてを越えて、圧倒される2時間。体験してみる価値はあると思います。サイコー!

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2020年2月11日 (火)

日本の美学で演出、蝶々夫人

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 今回のMETライブビューイングは、2019年11月9日に上演されたプッチーニの『蝶々夫人』。ミラノのスカラ座で1904年に初演された異国情緒にあふれたこのオペラ、一途な愛に生きる凛とした日本人女性と気ままで軽薄なアメリカ人男性にまつわる悲劇です。この設定は原作小説のものですが、当時の欧米社会の東洋趣味とアジア蔑視の感情が下敷きにあるは確か。でもそれはプッチーニのせいではなく、物語が作られた時代の反映でしょう。

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 演出は映画『イングリッシュ・ペイシェント』を監督した故アンソニー・ミンゲラ。2006年の初演からMETで何度も上演されている名舞台です。障子やふすま、提灯などを使って「省略」を極めたシンプルな舞台美術。音楽のない出だしや効果的な照明。幻想と現実が入り混じった見事な演出で、歌舞伎より能に近い世界を生み出している。ミニマルでいて多くを語る。豊かなイメージが膨らむ。侘茶や禅に通じる日本文化をよく研究していると感心しました。

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 生身の子役よりピュアな存在感を醸し出す文楽風の人形や黒衣の活躍も印象的。エンディングには筆で書いた「蝶々夫人」のタイトルが舞台の背景に大きく映し出される。予定されていたキャスティングからピンカートン役と領事役が交代となったけれど、どの出演者も熱演でした。なかでも素晴らしかったのが「スズキ」を演じたエリザベス・ドゥショング。難しい役どころを微妙な心理まで繊細に演じ分けていた。このオペラはコスチュームが多少ヘンでも、余りあるおもしろさ。期待を大きく上回る公演でした。

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2020年1月30日 (木)

キャッツを実写で作る時代

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 ウエスト・エンドの初演からもうすぐ40年。世界でロングランを続けた超人気ミュージカル、『キャッツ』。ノーベル文学賞を受賞した20世紀を代表する詩人、T.S.エリオットの『キャッツ ― ポッサムおじさんの猫とつき合う法』が原作です。ミュージカルとしては大傑作なのですが、映画については批判と反発の嵐。そりゃまたどういうこと?

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 『レ・ミゼラブル』のトム・フーパ―監督によって実写映画化されました。アメリカで昨年公開されるやいなや、「気持ち悪い」とか「ホラーだ」とか、さんざんな評価です。それは最新の映像技術がスゴすぎることによるのだと思う。ユーモアあふれる猫ファンタジーが、リアルな猫人間物語になってしまったから。人形がリアルになるほど不気味に感じる感覚に近いかも。

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 ミュージカルの舞台では、着ぐるみ的キャラが歌ったり踊ったりする。いろんな個性豊かな猫に、「そんな人いるいる」と似た人間を思い浮かべて、笑ったりハラハラしたり。それに対して映画ではCG技術で毛並みをつけられた出演者たちが、きわめて自然で生々しい。この距離感に戸惑いを隠せない評論家もいるでしょう。拒絶反応を起こす観客もきっといるでしょう。

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 でも映画人なら想像上のイメージをできるだけリアルに映像化しようと考えるのは当然だ。ペットとして生きている猫とは別種の生き物『ジェリクルキャット』の物語と受け取られてもいいじゃないか、と。もともと猫が歌ったり踊ったりする不自然を、「作り話ですよ」という舞台の設えで許していたのに、一線を越えてしまった? この違和感は理屈じゃない。生理的な嫌悪からくるものだと思う。

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 jewelryとmiracleからエリオットが考えたと言われる造語『ジェリクル キャッツ Jellickle cats』。その世界観をトム・フーパ―監督はうまく表現していると思います。『キャッツ』のことを書いて作者・作曲家のアンドリュー・ロイド=ウェバーに触れないわけにはいかないでしょう。『ジーザス・クライスト・スーパースター』、『エビータ』、『オペラ座の怪人』など歴史に残るミュージカルの傑作をありがとう。舞台、映画の別なく、あなたの素晴らしい音楽は永遠です。

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2020年1月24日 (金)

10歳が見つめた偏見

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 第二次世界大戦下のドイツが舞台。という前触れで見に行ったら、いきなりビートルズの『抱きしめたい』(ドイツ語バージョン)が鳴り響いて驚いた。タイカ・ワイティティ監督は天才だ。この一発で観客の心を鷲づかみにするのだから。主人公は10歳の少年、いやまだ少年にもなっていないガキンチョだ。未熟で無知で弱虫で、そのくせ勇敢な兵士になりたいと夢想する。感じやすい、感化されやすい子供にとって疑う余地はない。ま、そんな時代だったのですね。

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 きっとわが日本にもこんな純粋無垢な軍国少年がたくさんいたのだと思います。この10歳が見た戦時下の生活を、映画『ジョジョ・ラビット』は描く。子どもから見ると優しく勇敢な母親も、少年少女にナチス的教育を指揮するヒトラーユーゲントの隊長も、わからないことだらけだ。彼に寄り添い親身になってアドバイスをくれる(空想の中の)友人は、なんとアドルフ・ヒトラー。笑えるでしょ! 演じているのは監督のタイカ・ワイティティ。才人です。

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 困ったことに、時代にマインドコントロールされた彼が、ふとしたことでユダヤ人の少女に出会ってしまう。得体のしれない最悪の敵? はてさて、彼はどう折り合いをつけるのか。自分の眼で認め、自身の頭で考え、少しずつユダヤ人に対する偏見から解放されていくジョジョ。しかし社会の同一性から逸脱する危険も同時に知っていく。成長と勇気。愛と哀しみ。これらの微妙な感情をみずみずしく演じたローマン・グリフィン・デイビスが素晴らしい。未熟で無知なガキンチョ、などと失礼いたしました。

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 1975年ニュージーランド生まれの監督は重くなりがちなテーマを明るくコミカルに描いている。見事なヒューマンエンターテインメント。ナチスや、戦争や、人種差別を、シリアスに描くだけではうまく伝わらないと考えたのではないでしょうか。時代の熱狂。集団的な狂気。「偏見は作られたもの。憎しみより、愛を」。 世界で再び人種差別やヘイトスピーチを叫ぶ勢力が増えつつある現代だからこそ生まれた映画であり、深く伝わるメッセージだと思います。 

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2020年1月 6日 (月)

寅さんは永遠に

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 日本映画を代表するキャラクターと言えば、1969年に始まった『男はつらいよ』シリーズの寅さん。しかし主演の渥美清さんが亡くなってもう20数年、歴史の彼方にしまい込まれようとしていました。それがまさかの新作。50周年で50本目、久しぶりに製作されたのが『男はつらいよ 50 お帰り 寅さん』です。いわば総集編。

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 過去の作品を4Kデジタル修復した映像と、新たに撮影された映像が違和感なくうまく使われている。目覚ましい映像技術の進歩があったからこそ可能になった作品です。ただし、新しく渥美さんを撮影することはできないので、吉岡秀隆さん演じる満男の物語になっている。登場するのは母・さくら、父・博などおなじみの面々に、なんと初恋の人・イズミちゃん。おまけにリリーまで出てくる大サービス。

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 思い出や幻として出てくる寅さん以外は、当然ながら年を取っている。倍賞千恵子さんも前田吟さんも後藤久美子さんも浅丘ルリ子さんも。くるまやの座敷に上がるところに手すりがついているところなど、芸が細かい。しみじみと歳月が感じられます。人は亡くなっても思い出は残る。しかも思い出の中では年を取らない。寅さんはいつまでも寅さんで、寅ジイにはならないのだ。

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 「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。おじさん、どっからでも飛んできてやるから」。破天荒で騒々しいけど心優しいおじさんは、満男だけのヒーローではない。寅さんは永遠に私たちのそばにいるのだ。「生まれてきてよかったと思うことが、そのうちあるさ」と励ましてくれる声が、悩み多く生きづらい今の時代によけいに深く響く。

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 山田洋次監督は生みの親として『男はつらいよ』を完結させる責任があると考えていたに違いない。渥美さんの死によって停まっていたけれど、ようやく決着がついたというところでしょう。よくある言い方をすれば、これで寅さんも安心して成仏できる。そして日本人の記憶の中で永遠に生き続ける。必要とする人がいる限り。

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