2023年9月 6日 (水)

漫画家の世界と殺人鬼の世界

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 漫画家として成功する夢を抱く山城圭吾。いろんな賞に応募しても、いくら出版社に企画を持ち込んでも採用されない。絵の上手さはみんなが認めるのに。長年アシスタントとして仕える師匠からは、「いいヤツだから、悪人が描けないのよ」と言われている。しかし、夢をあきらめる決心をしたその夜、凄惨な殺人現場に遭遇。

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 彼は目に焼き付いた殺人鬼の姿をもとに悪のキャラクターを生み出す。その作品は大ヒットし、いきなり超売れっ子漫画家となっていく。そのキャラクターを主人公にした作品を描いていく山城。やがて彼の描くストーリーに酷似した殺人事件が発生し始めるのだ。血だらけの現場。異常な犯行。とうぜん警察からは疑いを持たれる。

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 フィクションの漫画の世界と、リアルな連続殺人事件。この関係に気づいて秘かに探っている刑事は、警察組織のはぐれモノ。そんな中、得体のしれない殺人鬼が、山城の前に再び姿を見せる。どこから現れるのか、どこへ消えるのか。ダークサイドに潜む影のような存在は、両角と名乗り、「事件はオレたちの共作だ」とうそぶく。

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 ハラハラドキドキ、意外な展開が続く独創的な原案・脚本を書いた長崎尚志。奇妙な恐怖を見事に演出した永井聡監督。創作とモデルとの関係。宗教二世の問題。警察の見込み捜査。さまざまな話題の要素が織り交ぜられて、一級品のサスペンスに仕上がっています。それこそよくできた漫画が原作か、と思ってしまいました。

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 漫画家・山城圭吾を菅田将暉。SEKAI NO OWARIのボーカルFukaseが殺人鬼・両角を演じて俳優デビュー。この2人の交錯をキーに物語は進行する。そして山城の妻を高畑充希。刑事の2人組を小栗旬と中村獅童。それぞれが大事な役どころで持ち味を発揮して、驚きの物語に深みを与えている。(ネタバレしなくて良かった)

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2023年9月 1日 (金)

OLの世界は力が全てだ

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 コスメに、グルメに、オシャレに・・・ごく平凡なOL生活を楽しんでいる直子(永野芽郁)。でも社内ではオモテからは想像もつかない過激な派閥争いが繰り広げられていた。「OLの世界は力が全て! 空前絶後のバトルロワイヤル開幕」というキャッチフレーズの、関和亮監督『地獄の花園』がおもしろい。企画と脚本はバカリズムです。

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 中途採用で入社してきた蘭(広瀬アリス)と、直子はすぐに仲良しになるが。じつは蘭はキレイな顔に似合わずケンカがメチャ強い武闘派。瞬く間に各職場の名だたるリーダーたちを倒し、派閥を統一して頂点に上り詰める。まるで漫画みたい、コミックならそうなるよね、という展開。これで社内に平和が訪れるかと思ったけれど。

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 その噂は近隣の会社にも知れ渡り、いろんな異常なキャラの挑戦者が次から次へとやってくる。そしてケンカと暴言。可愛くゆるいOLが、いざとなったら激しいヤンキーへ変身。この意外なギャップとド迫力のアクションが、スカッと爽快感を感じさせます。しかし最後に現れた強大な敵は、蘭を呼び出すために直子を人質に。
 
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 単身で敵地に乗り込む蘭。さぁこの危機から直子を救えるか。ま、あとの展開はネタバレになるので書きません。このお話、学園ヤンキーもののパロディなんですが、華やかな職場のウラで権力闘争を繰り広げるOLたちという設定が秀逸。しかも血が飛び散るむき出しのバイオレンス。非日常の世界がテンポよく進む。

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 ほかの出演者は、菜々緒、川栄李奈、大島美幸、勝村政信、松尾諭、丸山智巳、遠藤憲一、小池栄子などなど。ここに名前を挙げた俳優さんたちは全員OL役なんですよ。どんなんやねん、とツッコミを入れたくなりますが。ハチャメチャ ノンストップ コメディ、バカリズムの世界をみなさん楽しんで演じていらっしゃるようです。

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2023年8月28日 (月)

ゾンビになるまでに?

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 麻生羽呂(原作)と高田康太朗(作画)によるヒット漫画を基に、石田雄介監督が実写映画化したのが『ゾン100 ~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』。ゾンビも見慣れてきたせいかそんなにホラーでもなく、お気軽に楽しめるコメディに仕上がっています。希望に燃えて入社したのが、とんでもないブラック企業。さぁどうする?

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 連日の徹夜。上司のパワハラ。憔悴した天道輝は自殺を考えるまで追い詰められる。そんな彼がある朝起きたら街中がゾンビだらけに。逃げ惑う輝だが、ふと「もう今日から会社に行かなくてもいいんじゃね⁉」と、超ポジティブ思考に転換。すっかりハッピーになった彼は、「ゾンビになるまでにしたい100のこと」を書き出していく。

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 〇部屋の大掃除をする 〇べランピングをする 〇髪を染めてみる 〇大型バイクに乗る 〇打ち上げ花火を上げる 〇サップヨガをする などなど。やりたいことリストをつぶしながら、ゾンビと闘う。どんなに危険があっても「会社へ行くよりマシだ」と親友の救出に向かい、隣人の世話をする。そんな中でもステキな出会いが。

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 「みんなを助けるスーパーヒーローになる」と小さいころからの夢もリストに書いた彼。いつもは優柔不断だけれど、ゾンビに嚙みつかれても大丈夫なボディスーツがあると知り、ぜひ手に入れたいと旅に出る。リストに書いたパラグライダーやサップヨガ、温泉を楽しみながら行き着いた先は、思いがけない事態になっていた。

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 キャストの赤楚衛二、白石麻衣、柳俊太郎、北村一輝。どの俳優さんもなかなかの熱演で好感が持てました。お気楽だけど感じるところはある。この映画で知った教訓を二つ。 (1) ゾンビは音に反応して向かってくるから、うまく利用してリスク回避せよ。 そして (2) ブラック企業で働き続けるのはゾンビになるようなものだ。

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2023年8月24日 (木)

サバカンを見ると思い出す

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 「僕にはサバの缶詰を見ると、思い出す少年がいる」と言うナレーションで始まる、金沢知樹監督の『サバカン SABAKAN』。2人の少年が繰り広げるひと夏の体験を、みずみずしい感性と抒情的な映像で綴る感動作です。と書くと、『スタンド・バイ・ミー』を思われるかもしれませんが。これは家族の愛に包まれた日本の昭和の物語。

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 1986年夏、長崎。斉藤由貴とキン消しが大好きな小学5年生の久田。夫婦ゲンカばかりだが愛情深い両親と弟と暮らしている。夏休みのある日、彼は家が貧しく同級生から避けられている竹本から、「いっしょにイルカを見に行こう」と誘われる。自転車で山を越え、海沿いの町にあるブーメラン島へ。少年たちの期待と不安。

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 自転車が壊れたり、ヤンキーに絡まれたり、海で溺れそうになったり・・・。さまざまなトラブルに巻き込まれるも、そのつど優しい人たちに助けられる。しかしイルカは見つけられず、なんとか家に帰り着く。別れ際に、「またね」、「またね」。「またね!」、「またね!」。「またねー!」、「またねー!」と言いあう2人。ジーンときます。

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 小さな冒険を成し遂げた久田と竹本は急速に親しくなる。その夏中いっしょに遊び、友情を育む。しかし別れは突然やってくる。悲しい事故が起こったのだ。2人の少年を演じた番家一路と原田琥之佑が素晴らしい。少年期の心の機微や恥じらいを、存在そのものになりきって演じている。演技に見せない演技力か、監督の演出力か。

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 久田の父親を竹原ピストル、母親を尾野真千子。そして草なぎ剛が大人になった久田とナレーションを担当。これだけのキャスティングで悪い出来になるわけがない。また最近思うのだけれど、方言ってなんと良いのだろう。この映画でも長崎弁が人物造形にリアリティをもたらし、物語に深みを与えている。まさに隠れた主演。

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 現在の2人の話も秀逸だ。作文が上手だった久田は小説家。(まだ売れていないけれど) サバの缶詰で寿司を握ってふるまってくれた竹本は、長崎で寿司屋をやっている。名物はサバカン寿司。(あまり人気はないそうですが) それぞれが大人になって自分の道を歩んでいても、2人ともあの夏の日々の輝きを、今も忘れない。

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2023年8月20日 (日)

愛を求めたエルトン・ジョン

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 セラピーで語るつらい少年時代から、物語は始まる。母から嫌われ、父から捨てられ、いくら愛を求めても得られない内気な少年、レジー・ドワイト。ただ音楽の才能だけは並外れてスゴかった。やがてロックに傾倒し、プロのミュージシャンを目指す決意をしたレジーは「エルトン・ジョン」という新たな名前で音楽活動を始める。

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 映画『ボヘミアン・ラプソディ』を完成させたデクスター・フレッチャーが監督した『ロケットマン』は、エルトン・ジョンの栄光と苦悩に満ちた半生を描く。本人も製作総指揮に名を連ね、エンディングで流れるこの映画のために書き下ろした新曲「(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン」は、第92回アカデミー賞主題歌賞に輝きました。

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 一度チャンスをつかんだ彼は、とんとん拍子で世界のスーパースターへと駆け上がる。天から与えられた作曲の才能と運命的に出会ったバーニーの作詞。奇抜なコスチューム&ど派手なパフォーマンス。しかし向かうところ敵なしのエルトン・ジョンにも、いくつもの苦難が忍び寄ってくる。天才が堕ちていくのを見るのはつらいけど。

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 アルコール、薬物、セックスへの依存。有名になり、富豪になっても、誰からも愛されない孤独。ゲイであること、そして自殺未遂。グループセラピーでの告白と回想で進むクレイジーな生きざまを、ミュージカル仕立てにしたユニークな演出。各場面に応じて散りばめられる大ヒット曲の数々。フレッチャー監督の手腕が光ります。

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 そして自分自身で立ち上がり、立ち直り、本当の自分を取り戻していく。子ども時代のレジーをエルトンが抱きしめる感動のラストシーンへ。やっと素直に自分を愛せたのだ。そして、しらふで音楽を作れるのか不安を抱いていた彼は、力強く前向きな歌を作曲する。生きる意味を教えてくれる愛を求めたエルトン・ジョンの半生でした。

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2023年8月16日 (水)

長岡藩のラストサムライ

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 徳川から明治に変わる時。大政奉還が行われても政権交代はすんなりとは進まなかった。討幕か、佐幕か、日本中のさまざまな藩が、この争いに巻き込まれていく。戊辰戦争。いまの新潟県にあった長岡藩の家老・河井継之助は、民衆を守るため中立の立場を取ろうとするがかなわず、困難な戦いに踏み出していく。

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 司馬遼太郎の長編小説『峠』を原作に、小泉堯史監督が映画化。西洋列強がアジアを狙う世界情勢にも明るい河井継之助。日本の将来を考えつつ徳川家への忠義の気持ちも忘れない。長岡藩の置かれた立場。民の幸せのための平和。藩政改革を進めた彼は、人望もあるが敵も多い。実行力があるリーダーの宿命でしょうね。

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 彼に比べれば薩長連合の司令官たちは思慮が浅いように思う。しかしそれは誰の視点で描くかによるので、必ずしも正解とは限らないのだけれど。この作品は、歴史とは常に勝者の物語なのだと思い知らされる。まさに勝てば官軍。進歩的な考えを志向しながら、忠孝や仁義など封建的な価値観に縛られる侍の悲劇。

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 しっとりした美しい映像。加古隆によるリリカルな音楽。主題歌は石川さゆり。役所広司と松たか子が演じる夫婦のセリフ「愛するとは互いに見つめあうことではなく、二人で同じ方向を向くこと」が印象に残りました。ただし司馬遼太郎が坂本龍馬と並ぶ幕末の偉人を描いた物語としては、2時間の映画では無理がありましたか。

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 長岡藩のお城の跡地は、現在JR長岡駅と長岡市シティホールプラザ「アオーレ長岡」になっている。市役所やアリーナが大屋根付き広場でつながったアオーレ長岡は、隈研吾さん設計の素晴らしい複合交流施設。10年ほど前の当ブログ「アオーレ長岡で、会おうれ」でも書いています。興味のある方はご一読ください。

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2023年8月12日 (土)

夏はスカッとスポーツ映画

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 タイ・ロバーツ監督の映画『マイティ・マイツ ~12人の屈強な戦士たち~』(12 Mighty Orphans)は、スポーツの世界で起こった奇跡を描く、実話に基づく物語です。恵まれない境遇の少年たちが、社会的偏見や差別を乗り越え、強く成長していく姿は感動的。各選手の個性を生かすアメフトというチームスポーツがピッタリでした。

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 大恐慌時代のテキサスが舞台。教師兼コーチとして孤児院にやって来たラスティ・ラッセル。彼はシューズもボールもないひどい状況からチームを立ち上げる。人数はギリギリ。攻撃チームと守備チームを編成するなんて不可能だから、ひとりで何役もこなすことに。しかもプレー経験もなく、体格で劣り、団結心もない少年たち。

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 そんな彼らにラスティは画期的な戦術を授ける。誰も見たことがないスプレッドオフェンスの誕生だ。その結果、片田舎の孤児院チームは奇跡の大躍進を果たす。その評判はルーズべルト大統領にまで届き、大いに称賛される事態に。社会的弱者である彼らの活躍は、大恐慌で苦しむ多くの国民に頑張る勇気を与えたのだ。

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 自分を信じる。仲間を信じる。そしてチャレンジする。少年たちは試合を重ねるうちに、自ら考えてプレーできるまでに成長を遂げる。ラスティは優れた戦術家であるとともに、類まれなモチベーターでもあった。そして試合に勝つことで得られる自信が彼らの自立を促し、立派な社会人になるという信念を貫いた、真の教育者だ。

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 実績を上げた名コーチとしての特権的地位を捨て、田舎の孤児院へやって来たラスティ。彼自身もじつは孤児で第一次世界大戦で大きな傷を負っている。良き協力者の医師ホールもつらい過去を持つ。成長を遂げるのは選手たちだけではない。すでに大人の指導者もともに苦難を克服しながら、人間として成長しているのだ。

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 理不尽な差別に怒る。過酷な境遇をあきらめる。不遇な運命を呪う。これでは何も好転しない。この映画は「運命をそのまま受け入れ、前に向かって進み続ける勇気を持て」というアメリカ的楽観主義で成り立っている。そんなに簡単じゃあないよなと思いながらも、爽やかな気持ちになれる夏向き感動スポーツ映画でした。

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2023年8月 4日 (金)

タコは海の賢者?

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 南アフリカの嵐が荒れ狂う岬。そこにある小さな入り江だけは穏やかなケルプ(昆布のような海藻)の森が広がり、さまざまな生き物が生息していた。映像作家のクレイグ・フォスターはそこで出会った一匹のタコと特別な絆を築き、奇跡のような映像作品を生み出しました。2021年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞。

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 クレイグはそのタコの驚異的な生態に魅了され、毎日シュノーケリングで会いに行く。その一年間にわたる交流の記録。まず驚いたのがタコの知能の高さ。彼を危険のない存在と認識し、そのうち親しみを込めて触れ合うようになる。警戒されることなくありのままの姿を撮影できたのは、イヌやネコ並みといわれる賢さのおかげ。

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 餌となるカニやエビの狩りの方法。天敵のサメから逃げる知恵。泳ぐ。スミを吐く。二足歩行。色や形を変える擬態。ケルプの大きな葉を体に巻き付け身を隠す。貝殻をたくさん身にまとい防御する。時にはダンスを踊り、魚たちと遊ぶ。知的な好奇心が旺盛としか思えない。捕食者となり餌となる厳しい自然界の中での遊び心。

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 人間とタコの身体と身体、皮膚と皮膚、文字通りの触れ合いだ。信頼と愛に基づいた行動に感動を覚える。やがてタコは交尾し、産卵し、1年余りの寿命を全うする。緻密で、もろくて、しかも完結する生態系。その中で繰り返し繰り返し続いていく営み。クレイグは深く学んでいく。人間の勝手で地球環境を変えることは許されないことを。

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 制作・出演はクレイグ・フォスター。監督はピッパ・エアリックとジェームズ・リード。ロジャー・ホロックス撮影の美しい海を舞台に、優雅で思慮深いタコとの交流を通じて、自らの人生を見つめ直すクレイグ。いままで観てきた宇宙人とのコンタクト物語より、はるかにリアルで刺激的でした。原題は『My Octopus Teacher』です。

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2023年7月26日 (水)

9日間での裁定

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 あまり起伏がないお話で、しかも内容はよくわからない。でも緊張感があって、画面に集中して最後まで観てしまう。なんとも不思議な映画だった。魂(普通に人間の姿をしている)が人として人間界へ送られるか、それとも消えてしまうか、9日間で決定されるという設定。選ばれるのはやって来た候補者(魂です)から、ただ1人。

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 舞台は荒涼とした砂漠の中の一軒家。ロケ地はユタ州のようですが、地球上とは思えない。室内では、壁一面のモニターに映し出されるいろんな人間の地上の生活。リアルタイムの映像もあれば過去の出来事もある。熱心に画面を注視している寡黙な男。彼が、ひとつできた空き枠に誰を送り出すかを裁定するウィルだ。

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 生命を左右する決定的瞬間にどう対処するか。気になる映像を選んで感想を述べよ。ウィルが発する質問に取り組む魂たち。彼/彼女たちも人間界に生まれ変わりたいので必死だ。それらの質問には正解はないのだが。彼/彼女たちとやり取りを続けるなかで、ウィルも自分自身やその職務の存在意義を問い直し始める。

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 この世に生れ落ちる前の魂とはいえ、それぞれが個性的なのもおもしろい。無色透明、無味無臭な存在ではないのだ。そして地上に送る魂を選別する仕事は、誰が与えたのか。ウィルは神さまではなくて、あくまで職務を誠実にこなしているだけ。よくわからない理由の一つが、この魂と人間をめぐる壮大なシステムの全体像。

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 人間になれなかった魂は消滅するなんて、切ない話です。しかもチャンスは一度きり。こういう哲学はどこから生まれたのでしょう。監督、脚本はエドソン・オダ。出演者はウィンストン・デューク、ザジー・ビーツ、ベネディクト・ウォンほか。なかなかの名演技で、謎に満ちているけれど、なぜか引き込まれるお話を支えています。

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2023年7月17日 (月)

さかなクンか、ミー坊か

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 男か女かは、どっちでもいい。こんな言葉が冒頭にあらわれて、沖田修一監督の『さななのこ』は始まります。自伝『さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~』(講談社)を原作に、ミー坊がさかなクンになるまでを、フィクションも織り交ぜてユーモアたっぷりに描く感動作。主演をのんに決めたことが、まず成功の一因です。

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 お魚が大好きだった幼いころから、小学校、高校、社会に出てからも、ずっと全力でまっすぐに「好き」を貫き通すミー坊。水族館に行くと閉館時間まで見ている。毎日お魚の絵を描く。毎日お魚を食べる。フツーじゃないさまざまなエピソードが笑えます。家族もクラスメートも教師も、困惑しながらも温かく見守っていく。

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 バカなのか、天真爛漫なのか、ジョーシキが一切通用しない不思議なキャラ。お魚のこと以外は全く考えられない。でも憎めない。イジメられたりもしない。番長や他校の不良グループも、ミー坊の魚に対する情熱に圧倒され、一途に打ち込む姿に引き込まれていく。「好き」に徹する強さ、前向きな思いと行動力に感激しました。

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 まわりの友人たちは、社会に出てみんな変わっていく。それが大人になるということ。ミー坊だけは変わらない。傍から見ては風変わりな、フツーじゃない人生を突き進む。とはいえ何か仕事をしないとと思って、水族館や寿司屋や熱帯魚屋など、魚に関連した仕事に就くもののうまくいかない。「好き」だけでは生きいけないのだ。

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 やがて友人たちとのつながりで魚の絵を描く仕事も入り始める。そして思わぬ幸運でTV番組に出演するまでに。さかなクンの誕生です。自分の「好き」に疑いを持たず、まっすぐ進んだキラキラした半生でした。うらやましいけどマネしたくない。それが正直な感想です。さかなクン本人も、ギョギョおじさんとして出演しています。

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