2022年6月29日 (水)

イタリアは美味しい学校

   Love-jerato

 ローマ路地裏の絶品マリトッツォ。ばあちゃん秘伝のピスタチオのジェラート。観ているだけでヨダレが垂れそうな、イタリア美味と恋の探求コメディ。一見お気楽な映画ですが、母の秘密と自分のルーツ探しもからめ、堅物アメリカ女子の成長物語としてもなかなか見ごたえがありました。ブランドン・キャンプ監督の『ラブ & ジェラート』。

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 がり勉で世間知らず、ボーイフレンドも作れないリーナ。亡き母との約束で、大学入学直前の夏休みをローマで過ごすことになる。現地で母の旧友から渡された昔の日記。そこには知らなかった母の意外な一面と初めて聞く名前。日記を手掛かりに美しい街と優しい人々に囲まれて、リーナのルーツ探しの冒険が始まる。

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 自分から動き始めることによって生まれるさまざまな出会いと別れ。セレブのパーティやオペラ鑑賞、ローマ庶民の家庭でキッチン修行など、驚きと喜びを初体験することばかり。この辺りは『ローマの休日』にちょっと似ている。二人の若者の間で揺れ動きながら、母の思いが詰まったローマとフィレンツェの街並みを巡る。

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 いろんな困難に立ち向かいながら成長を続けるリーナ。そして母の自分への深い愛を知り、母がいちばん教えたかったのは「自分自身を大切にすること」だと思い至る。美味を知る。恋を学ぶ。前向きに生きる。気持ちが浮き立つワクワク感と、後を引くおいしさ。母の時代も娘の今も、イタリアはまさに人生の学校だ。

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 この作品が気持ちよかったのは、アメリカ人も、イタリア人も、それぞれの良い面が偏見なく描かれているところ。ともすれば一方的な立場から類型的に表現してしまいがちですからね。本当によくできたイタリア観光プロモーション映画でした。このところのコロナ禍で行けなかったイタリア。そろそろ行きたくなってきました。

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2022年6月26日 (日)

願う、信じる、前を向く

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 お手軽な作り話のようだけれど、実話に基づいた映画だという。2014年、メキシコのロスカボスを舞台にした『ブルーミラクル』。いや~、ホントに奇跡のような出来事があったのだ。資金難でつぶれそうな孤児院を、カジキ釣り大会の優勝賞金で救おうと奮闘する二人の男。予想通りのハッピーエンドですが、素直に拍手を送りました。

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 こんなに見え透いた結末なのに、なぜ感動を覚えるのでしょう。まず、舞台となったメキシコの状況。治安が悪く殺人事件も多発する。親を亡くし住む家も失った子どもたちはストリートチルドレンに。目の前にはクスリや悪事の誘い。生きていくために避けられないのか。こんな孤児たちの面倒を見ているのが、主人公オガール。

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 孤児院カサ・オガールは銀行からも見捨てられ、その存続は風前の灯火。しかも大型ハリケーンに襲われ万事休すか? そんなとき出会った、元腕利きのカジキマグロ漁船の船長ウエイド。考え方も性格も全く違う二人が、ぶつかり合いながらもオンボロ船で3日間の大会に挑む。乗船した孤児たちもみんな個性的。

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 がんばればきっといいことがある。正しい行いをしていれば神さまが願いをかなえてくれる。口では言うが、「本当は人生は不公平なものだ」とみんな分かっている。でもどんなに誘惑に駆られても、ズルをしないし、間違ったことはお断り。しかし奇跡は起こったのだ。最後の最後、彼らは苦闘の末にチョー大物を釣り上げて優勝。

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 主人公オガールを本当の父親のように慕う孤児たちとの強い絆。妻子と疎遠になっているウエイドの悔悟と人生の再出発。二人の人生はもちろん、子どもたちそれぞれが背負う人生も丁寧に描いた、監督・脚本のフリオ・キンタナの手腕は素晴らしい。諦めない努力と熱意が報われたことに、理屈を超えて感動しました。

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 実話に基づいたこの映画。エンドロールで孤児院カサ・オガールの「その後」も紹介されていた。もちろん無事に存続し、賞金できれいに建て替えられていた。運営するオガールさん夫妻は本当にいい人だから、めでたし、めでたし。なお世界高賞金のカジキマグロ釣り大会 Bisbee's は、今も盛り上がっているようですよ。

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2022年6月23日 (木)

歌舞伎の赤胴鈴之助

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 赤胴鈴之助は子供のころラジオドラマで聴いていました。今でも主題歌を歌える。歌詞まで覚えているのには、我ながら驚いた。今朝のことは忘れても、昔の記憶は鮮明。さて前置きはこれくらいで。尾上松也・歌舞伎自主公演『赤胴鈴之助』の映像化作品を、Netflixで観ました。昨年8月、下北沢の本多劇場での舞台です。

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 日本一の剣士を目指す鈴之助は、小さいころからの親友・竜巻雷之進といっしょに江戸へ出る。そこで出会った千葉周作と、その娘さゆり。剣の修業に励みながら、みんなで力を合わせて江戸の町を騒がす鬼面党を退治するというストーリー。絡み合った人間関係。古から続く血の宿命。数々の苦難を克服して邪悪に勝つ!

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 尾上松也演じる赤胴鈴之助が、ついに極めた特技は真空斬り。生田斗真演じる竜巻雷之進が、悪に授けられた秘技は稲妻斬り。その邪悪の根源こそが冥界の王、平将門と娘の瀧夜叉姫。現代(江戸時代)によみがえり街の人々を悪に導びこうとしている。騒動を起こし体制を転覆するのが目的だ。さて親友同士の対決は?

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 主演の尾上松也と生田斗真。じつは高校の同級生で、それ以来続く親友だそうだ。さすがに息ピッタリ、見事な競演。特にジャニーズの生田は、さぞ稽古を頑張ったんだろうなと思わせる出来栄え。セリフも所作も決まりの形も、よくぞここまで!と感心させられた。映像と照明でダイナミックに表現した真空斬りも面白かった。

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 瀧夜叉姫と陽炎大夫の市川蔦之介。千葉周作と平賀源内は澤村國矢など。共演陣も芸達者ぞろい、安心して楽しめる。また和太鼓が舞台中央に置かれ、演奏者の周りで立ち回りをする尾上菊之丞の演出も秀逸。作品の出来栄えもさることながら、何よりも尾上松也と生田斗真の新たな挑戦に拍手を送りたいと思います。

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2022年6月 8日 (水)

光をにぎった二人

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 ドラマチックな展開もなく物静かに時間が進む、映画『わたしは光をにぎっている』。そう書けば、すぐに寝てしまいそうと思われるかもしれません。しかし一時も目が離せない、心に沁みわたる作品でした。田舎育ちの引っ込み思案な娘が、東京へ出てきて、自分の居場所を見つける物語。監督は中川龍太郎。主演は松本穂香。

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 中川監督の構成、演出力。松本穂香のウソのない演技。この二人は日本映画界にとって大きな発見です。美しい映像でつづられる成長物語。前を向いてしゃんと生きていく人間の強さ、人間のやさしさが気持ちいい。明治から大正にかけての詩人、山村暮鳥の『自分は光をにぎってゐる』を根幹に据えた構成が見事です。

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        自分は光をにぎつてゐる
        いまもいまとてにぎつてゐる
        而もをりをりは考へる
        此の掌をあけてみたら
        からつぽではあるまいか
        からつぽであつたらどうしよう

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 早くに両親を亡くした主人公・澪。祖母に育てられてきたが、祖母の入院を機に亡き父の親友を頼って上京。彼が営む銭湯に居候することに。慣れない都会で、スーパーのアルバイトさえまともに務まらない澪。「目の前のできることから、ひとつずつ」という祖母の電話に励まされ、変わり始める。銭湯の手伝いを始めるのだ。

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        けれど自分はにぎつてゐる
        いよいよしつかり握るのだ
        あんな烈しい暴風の中で
        掴んだひかりだ
        はなすものか
        どんなことがあっても
        おゝ石になれ、拳

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 やっと見つけた自分の居場所。と思ったら都市再開発計画で、銭湯がなくなるという。馴染み始めたこの街もなくなるのだ。しかし自分の足で歩き始めた澪は、目標もやりがいもなかった以前の澪ではない。「最後までしゃんとやりましょう」と、周りを巻き込んで驚きの行動へ。消え行く街と、そこに生きる多くの暮らし。

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        此の生きのくるしみ
        くるしければくるしいほど
        自分は光をにぎりしめる  

 しっかりとした意志と、強い覚悟を持って、自分を信じて生きていく。これが自立ということか。過去でもなく、未来でもなく、今を生きる覚悟。難しそうですが、「見る目と聞く耳があれば、大丈夫」と勇気をくれる。じわっと湧いてくる感動に久しぶりに出会いました。  

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2022年6月 5日 (日)

美味しい料理とガンコ者

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 オーナーの命令でセラピーに通わされているケイト(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、マンハッタンにある高級レストランの凄腕料理長。スコット・ヒックス監督による『幸せのレシピ』は、豪華な食材と美味しそうな料理があふれる厨房を舞台にしたロマンチック・コメディです。いい香りと立ちのぼる湯気まで感じられます。

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 自分にも他人にも厳しい完璧主義者のケイトは、部下とのコミュニケーションは悪いし、客とケンカをするしで、困った人なのです。誰に対しても心を開けないケイト。セラピーは必要です。いくら料理の達人でも、お友達にはしたくないタイプ。そんな彼女のもとへ、突然の交通事故で亡くなった姉の娘、9歳のゾーイがやってくる。

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 さあ大変。姪の引っ越しや、小学校の転校。子どもとの付き合い方が分からない彼女は大苦戦。数日ぶりに店に出てみると、知らないシェフがいる⁉ オーナーを問いただすと、新たに雇った副料理長だという。名前はニック。イタリアンの名手だった。頑固で神経質なケイトと違って、彼は陽気で社交的。まるで正反対の二人です。

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 何もかもが気に入らないケイトですが、料理は超一流。うずら、フォアグラ、ロブスター、舌平目、ムール貝、ヤギのチーズ、ラムラック、手長エビ、鴨、スズキ、黒と白のトリュフなど厳選した材料。テリーヌ、カルパッチョ、ビスク、タルタルステーキと、考え抜かれたメニューはゆるぎない。絶品サフランソースの隠し味にはコブミカン。

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 反感を募らせるケイトですが、おおらかなニックに徐々に心を開いていく。そして、あれよあれよという間にハッピーエンド。ゾーイも、ケイトも、ニックも、みんなが幸せになるレシピがありました。ちょっとイージー過ぎるストーリー展開ですが、まぁいいか。お店のスタッフ全員で賄を食べるシーンもグッド。ごちそうさまでした。

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2022年5月26日 (木)

前は山火事、後ろは殺し屋

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 アメリカで毎年大きな被害を出す山火事。地球温暖化の影響か、近年ますますその規模が拡大している。テイラー・シェリダン監督の『モンタナの目撃者(Those Who Wish Me Dead)』で、森林消防隊という専門組織があることを知りました。凄まじい火の勢いと、猛烈な延焼スピード。彼らは悪魔のような火に勇敢に立ち向かう。

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 主演のアンジェリーナ・ジョリーは、トラウマを抱えながらも職務に打ち込む消防隊員ハンナを演じる。狂暴で冷酷な暗殺者コンビに命を狙われる少年と、彼を救うことによって過去を乗り越えようと奮闘するハンナ。サスペンス、アクション、サバイバル、ヒューマンドラマ・・・いろんな要素がギュッと凝縮された上質の1時間40分です。

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 いつまでも執拗に後を追ってくる殺し屋。行く手を阻む大規模な森林火災。絶体絶命の危機を生き抜いていく、心に傷を負った者同士。そのうち二人には相棒としての信頼感が芽生えてくる。相変わらず強い女を演じるとピカイチのアンジェリーナ・ジョリーと、みずみずしい少年を演じたフィン・リトルが、なかなかの名コンビぶり。

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 ほかの出演者たちもみんな素晴らしい。なかでも妊娠6ヵ月の警官の妻を演じたメディナ・センゴアが、アッと驚く強さを見せる。いちばん弱々しい立場かと思いきや、知恵と度胸と腕力で殺し屋たちを痛い目に合わせるじゃないですか。しかも生まれてくる子供を思う情愛の深さ。殺伐としがちなアクション映画に潤いを与えました。

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 本来なら出会うはずのなかった人たちが、偶然ひとつの事件に巻き込まれてしまう。そして極限状況を共に体験することによって生まれる深い絆。強さも弱さも、勇気も犠牲心も、ぎりぎりの状況に置かれると人は本性をさらけ出す。でも強さが善で弱いからダメなわけではない。それぞれが個性。しかもそれは日々成長し続けるのだ。

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 潔いラストがカッコいい。じつは殺し屋の背後には、政治、行政、警察など地方権力を牛耳る巨悪がいるのだが、彼らは捕まるのか? 救い出されたハンナや少年はどうなるのか? そんなことは一切触れずスパッと終わる。中途半端と感じる人もいるでしょうが、観客が勝手に想像すればいいという割り切りが気持ちいい。

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2022年5月23日 (月)

戦場の臨場感がスゴイ

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 1940年ドイツ軍の電撃作戦で、ドーバー海峡に面したダンケルクに追い詰められた英仏軍40万人の兵士たち。彼らを生きて英国に戻すために、史上最大の退却作戦が始まった。クリストファー・ノーラン監督が有名な史実を描いた『ダンケルク』。その圧倒的な戦場のリアリティは、戦争映画に新風を巻き起こしました。

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 戦争映画で大きな作戦をテーマに取り上げる場合、全体像がわかるように「神」の目線で描く場合が多い。そこまででなくても「国のリーダー」や「司令官」の視点で。しかし現実の戦場では兵士たちは見える情報と経験だけで戦っている。ここに着目したノーラン監督は陸、海、空、自分の持ち場で戦う「個人」の主観で描いたのだ。

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 個人の目で描くと、観客も同じく瞬間瞬間の情報しか得られない。その結果、まるでその場に放り込まれたような緊迫感。もうひとつスゴイのは陸、海、空の局面に少しずつ時間のズレを作っていること。その結果それぞれの戦場の繋がりが徐々にわかってくる仕掛け。とはいえ最低限の歴史知識があったほうがより楽しめる。

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 この作品は、作戦全体の説明がない。派手な戦闘シーンがない。敵が見えない。などの理由で、従来の戦争映画に慣れている人には不評かも。しかしよくわからず戦っていた、というのがリアルな戦場だろう。自分自身が生き残るのが精いっぱいの。現代のようにスマホやPCがあるわけでもない時代。それが限界だった。

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 マクロの視点で俯瞰するか。ミクロの事実を集積するか。戦争など大きな出来事を語る場合、二つのアプローチが考えられる。ヒーローを中心に据えて語ることも、名もない個人の行動から描くことも。ノーラン監督はリアリティを最重視して後者を選択。そして現在進行形の演出が緊迫感を最大化するのに成功している。

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 4年後のノルマンディー上陸作戦と違って、ダンケルクは追い詰められての退却作戦。なのになぜ大成功と記憶されるのか? それは装備の大半を失っても40万の人的資源を保全したから。連合国が戦意を失わず戦い続ける転機になったから。ここに英雄はいない。兵士たちの生き延びる気力が、人々に勇気を与えたのだ。

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2022年5月17日 (火)

時間について考える

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 「私は幸せを模索する、普通の人々に興味がある」と語る、リチャード・カーティス監督・脚本の『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』。2013年の傑作ロマンチックコメディです。コーンウォールの海辺の家に住む、自分に自信が持てない青年ティム。21歳の誕生日に父親から一族の男たちの衝撃の秘密を知らされる。

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 なんとタイムトラベルの能力が、代々の男たちに受け継がれているというではないか。風変りだが愛情深い家族に囲まれて育ったシャイなティムは、この能力を使って恋を成就しようと奮闘する。つまづいてしまった彼女との出会い。これをタイムトラベルでやり直す。何度も、何度も。誠実で一生懸命なのだけど、なぜか空回り。

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 誰にでも思い当たる青春のトキメキ。身近にいそうな親しみやすいキャラクター。ウイットに富んだ会話。登場人物たちを見守る監督の温かいユーモア。それらすべてが心地いい。タイムトラベルという視点を加えることによって、家族や恋人と過ごす平凡な日常の大切さが逆に浮き彫りにされる。うまい手法だと思います。

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 今日という日をしっかり生きる。それが人生を素敵にする秘訣。そしてまた、過ごしてきた時間の積み重ねが、人生に彩りをもたらしてくれる。この映画のタイトル、『アバウトタイム』は時間の愛おしさ、時間の豊かさについての考察という意味でしょう。タイムトラベルは時間を物語るための手段であって、目的ではないのだ。

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 主人公ティムを演じるドーナル・グリーソン。恋人から愛妻へ、彼の人生の喜びを共にするメアリー役のレイチェル・マクアダムス。タイムトラベルという秘密で結ばれた父親役のビル・ナイ。キャスティングも見事でした。タイムトラベルを繰り返す軽いコメディの前半から、逃れられない死と家族の絆の物語へ。感動を生む構成でした。

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2022年5月14日 (土)

キューバサンドが食べたい

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 肉が焼けるニオイ。野菜を刻む包丁さばき。ベニエを揚げる音。これでもか!というぐらい「ウマイ」がいっぱいの映画です。あふれる調理シーン&食べるシーン。しかもそれらは高級レストランの料理とは限らない。屋台の名物料理もあれば、家庭でササっと作るパスタやクロックムッシュも。シェフがほんとにウマイと感じる味。

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 ジョン・ファブローが製作・監督・脚本・主演を務める『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』がおもしろい。しかし観ていると猛烈に食欲が湧き起こる。主人公はLAの高級レストランの有名シェフ。斬新なメニューに挑戦しようとした彼は、保守的なオーナーと衝突してクビになる。失意の彼は、息子と元妻とマイアミへ向かうハメに。

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 そこで出会った新しい味がキューバサンド。「これだ!」とひらめいた彼は、ボロボロのフードトラックを手に入れて息子と一緒に改造。商売を始めると、これが大当たり。マイアミから、ニューオリンズ、LAへと移動販売をしながらアメリカ横断の旅。疎遠だった息子も調理を手伝ううちに、徐々に親子の気持ちが通じあっててくる。

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 この映画は7~8年前の作品なので、SNSの理解度のギャップも面白おかしく取り入れている。メールとツイッターの機能の違いを理解していない父親と、SNSを軽々と使いこなす10歳の息子。慣れていないばっかりにヒドイ目に合うエピソードも笑えます。逆に息子がSNSで商売のPRをしてくれていた、という裏話も泣かせます。

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 なかなかよくできたハートフルコメディですが、困ったことに食欲全開。キューバサンドが食べたい! できれば本場の。それから、なんとなく思ったのだけれど、ヤセた料理人は信用できないなと。ゴメンナサイ。なんとなくですから。またダスティン・ホフマンやスカーレット・ヨハンソンが出演しているのも驚きでした。カメオじゃなく。

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2022年5月11日 (水)

クセになるセトウツミ

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 あまり期待せずに観たけれど、これはスゴイ! 2016年の大森立誌監督の『セトウツミ』。そこらへんにゴロゴロいる目立たない高校男子、瀬戸と内海が、放課後たわいもないことをウダウダしゃべっているだけの映画。よくもまあ映画にしたな、というお話なのだが、実に面白い。うまくハズシ、うまくマトメ、上々の出来栄えです。

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 ケンカもない。部活もない。壁ドンもない。「喋る」だけの放課後 とキャッチフレーズにあるように、ありふれた日常。つまらない毎日。天然の元サッカー部員はボケまくり。クールなインテリ塾通いはツッコミまくり。性格も家庭環境も真逆な二人が、なんとなく時間つぶしに来てしまう場所。そこが彼らの唯一の居場所。

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 原作は此元和津也による同タイトルの連載漫画。ヒーローでもない、ワルでもない。リアルな高校生がここにいる。「ヒマを潰すだけの青春があってもエエんちゃうんか」と、冷めたセリフをシニカルに吐く。かと思えば深い深い哲学的な考察も。高校生、というのはそんな年代なのか。それにしても、いまの子たちは優しい。

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 ダブル主演の菅田将暉と池松壮亮の演技がサイコー。関西弁だからこそのおかしみを、これ以上なく上手に伝えている。ロケ地になった堺を流れる名も知らぬ川の堤防もいい。都心でもない、田舎でもない、ゆるい風景。ここで繰り広げられるムダ話は、シュールな漫才だ。あれっ、もしかしたら面白がるのは関西人だけ?

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 全編を流れる平本正宏の音楽がまたサイコー。ちょっとレトロなタンゴのリズム。哀愁あふれるバンドネオンの響き。イマドキのナニワ男子にはまったく似合わない音世界と思いきや、これがメチャはまってる。この映画に一本しっかり横串をさした、音楽の功績も大きいと思う。平本さんを選んだ、大森監督のセンスの良さを感じます。

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 家族の話。女の子の話。将来の話。飼いネコの話。ヤンキーに絡まれる話。とりとめもないようだけれど、苦しみ悩みも、夢も挫折も、それなりに知っている。でも若さのエネルギーで、深刻な話も笑いのネタに変える二人。家庭の事情。ガールフレンドとの関係。そしてなによりも友情。新時代の青春映画が誕生しました。

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