2019年5月22日 (水)

ダマし屋がいっぱい

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 騙しダマされ、最後に笑うのは? 香港を舞台にした詐欺師たちのストーリー。ハラハラ、ドキドキ、どんでん返しの連続は脚本の古澤良太さんの才能です。息もつかせぬ展開は監督の田中亮さんの手腕。コンゲームを描いた映画はどれも好きですが、この『コンフィデンスマンJP』は特別おもしろかった。スケールの大きいストーリ展開がとってもオシャレです。そしてすべて合点がいく見事なラスト。

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 ハチャメチャなダー子(長澤まさみ)、不器用でいいやつのボクちゃん(東出昌大)、とぼけたベテランのリチャード(小日向文世)。この三人組が絶妙だ。入念な準備、果敢な行動、冷徹な決断。まるで優秀なビジネスチームのよう。このチームのまわりを三浦春馬、竹内結子、江口洋介らがサービス精神旺盛な濃いキャラ過剰演技でからむ。そりゃそうでしょう、おもしろくないはずはない。

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 人間の果てしなき欲望と金。しかし世の中、ウソ、ウソ、ウソ? 出演者みんながダマしあい演技を楽しんでる感じがすごく伝わってくる。こんな痛快なコメディは久しぶり。悪い奴はバチが当たる!それ昔からの常識でしょ。でも本当に悪い奴っていたかなぁ・・・。TVドラマシリーズは見たことなかったけれど、映画だけでも十分楽しめましたよ。何も知らないコンフィデンスマン初心者にもやさしい劇場版でした。

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2019年5月13日 (月)

壮大、華麗、ワルキューレ

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 リヒャルト・ワーグナー。その思想と音楽性がヒトラーとナチスドイツに愛されたこともあり、負のイメージが付きまとう19世紀後半のロマン派の巨匠。その音楽はイスラエルでは現在もタブーだという。『ワルキューレ』は4夜にわたって上演される彼の超大作『ニーベルングの指環』の二番目の楽劇です。そのなかの第3幕の序曲「ワルキューレの騎行」は特に有名。フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』で、ヘリコプター部隊が北ベトナム攻撃に出陣するシーンに効果的に使われていました。

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 2018-19 MET ライブビューイング 10作品の中でも、上演時間が5時間におよぶ屈指のスケールです。北欧神話をベースにした神々と人間が繰り広げる愛と欲望のドラマ。ロベール・ルパージュの演出が素晴らしい。舞台美術はスタッフたちが「マシン」と呼ぶ巨大な24枚の厚板。これを自在に動かしカタチを変化させ、表面にプロジェクションマッピングで映像を映し出す。それは嵐の海になり、森になり、館の壁になり、空翔ける馬になり、岩山になり、炎のバリアになる。

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 お話でおもしろいのは、神は全能ではない、というところ。一神教のキリスト教やユダヤ教、イスラム教の神とはそこが違う。北欧神話もギリシャ神話も日本神話も、いろんな神がいてみんなそれぞれ弱みを持っている。神々の長だって妻には頭が上がらないし、深い苦しみと将来の不安におののいている。笑うと失礼だけど、人間的で可笑しい。その辺にいる誰かの悩みと大して変わらないじゃないか。ね、とても親しみが持てるでしょ。

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 音楽の面では金管楽器を充実させた編成で、勇壮な音をより強調している。華やかな音色、高らかな響き。フィリップ・ジョルダンによるスケールの大きい指揮がドラマを劇的に盛り上げる。ちなみに「ワルキューレ」とは、最高神の娘たちで甲冑で身を包み剣や槍を携えて天馬で空を翔ける、美しき女戦士のこと。日本では戦乙女とか戦女神と訳されている。戦う天女たち、英雄、神や女神が、愛し闘い別れを告げる壮大な物語にふさわしい音楽でした。
 
 

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2019年4月 7日 (日)

桜の季節のシネマ歌舞伎

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 『野田版』の歌舞伎はどれもおもしろい。この「桜の森の満開の下」も期待通りの楽しさ。しかも古代史や民俗学の興味深い視点も散りばめられ、一筋縄ではいかない複雑さでいろいろ考えさせられる作品だ。残酷と陶酔。狂気と秩序。饒舌な言葉遊びと笑いが、壮大でシリアスなストーリーの緊張を和らげる。平成29年8月の歌舞伎座公演を映画化したものです。

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 坂口安吾の妖しく甘美な世界を野田秀樹が見事に紡ぎあげ、中村勘九郎や市川染五郎(現*松本幸四郎)らが歌舞伎役者ならではの表現力で作品に生命を与える。圧倒的な舞台の魅力。しかもシネマ歌舞伎なら、カメラの切り替えやアップの表情をまじえて、ベストポジションで観ることができる(生の迫力には及ばないでしょうけれど)。

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 繰り返し流れるプッチーニの名アリア「私のお父さん」が、とても印象深く使われている。また、ひびのこづえさんの衣装と堀尾幸男さんの美術が秀逸でした。歌舞伎というエンターテインメントが、伝統芸となって埋もれることなく、新しい血を得てよみがえるのは素晴らしい。野田版だけでなく、漫画「ONE PIECE」にチャレンジする試みなども期待大です。

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2019年3月17日 (日)

魔性の女か、自由な女か。

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 世界有数の人気オペラ『カルメン』。2月2日に上演された舞台を、METライブビューイング版で観ました。1845年に発表されたメリメの小説を原作に、ジョルジュ・ビゼーが作曲し、1875年に初演された全4幕のフランス語オペラ。クレモンティーヌ・マルゲーヌ(メゾソプラノ)とロベルト・アラーニャ(テノール)が素晴らしい。

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 序曲が始まってたちまちカルメンの世界に引き込まれる。19世紀スペインのセヴィリヤを舞台にした物語です。自由奔放に生きる女と、運命を狂わせる勤勉な兵士。音楽もフルートやピッコロ、オーボエなどをうまく使い、ジプシーの音楽やスペインの舞曲でエキゾチシズム満載です。ルイ・ラングレの指揮もいい。

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 第一幕と第三幕の冒頭に躍られるバレエの使い方に感心しました。赤を背景にした運命の出会い。

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 青を背景にした避けられない死。それぞれのバレエは、これから始まる物語を暗示するイメージを提示している。

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 リチャード・エアは群衆シーンでも見事な演出を見せる。三重のターンテーブルを駆使したダイナミックなシーンは圧巻だ。伝統や社会常識に縛られない自由に生きる強い女、カルメンの強烈な個性を際立たせる。魔性の女か?自由な女か? ご覧になって判断をしてください。

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2019年3月 5日 (火)

グリーンブックって何だ?

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 アカデミーの作品賞、脚本賞、助演男優賞を受賞したピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』。グリーンブックとは、人種差別の激しい南部を旅する黒人のための施設利用ガイドだそうだ。1936年から1966年まで毎年出版されていたという。この映画はグリーンブックを頼りにディープサウスへのコンサートツアーをする黒人天才ピアニストと、彼に雇われた運転手兼ボディガードの物語です。

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 時は1962年、ケネディ大統領の時代ですね。超インテリで繊細な芸術家、カーネギーホールに住むドクター・シャーリーと、無学でガサツだけれど家族や友に愛されている腕っぷし自慢のトニー・バレロンガ。ニューヨークから差別のきついテネシーやアラバマへ。さまざまなトラブルに巻き込まれながらの珍道中。ハラハラドキドキ、ときどき笑い。

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 生い立ちも性格も正反対。水と油のような二人が次第にお互いへの理解を深め、認め合うようになる。そして固い友情と尊敬で結ばれる。まぁいかにもアカデミー賞というストーリーですが、実在の二人の話だそうです。プロデュース・脚本のニック・バレロンガが「父から聞かされたいい話」を映画化したもの、と言っている。多くの人は観たあとスカッと気分が爽やかになるのではないでしょうか。

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 アカデミー賞受賞については異論や批判も出ているようですが、私は受賞が妥当だと思います。たしかに甘っちょろいかもしれない。白人視点のご都合主義かもしれない。でも、差別意識は一気にはなくならないから、少しずつでも時間をかけて取り組み続けることが大切だ。この愛すべき二人のおじさんの映画も、そんな一歩に位置づけられればいいと思います。

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2019年2月27日 (水)

天使が戦士に目覚めるとき

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 遠い未来、荒廃したクズ鉄町で心を持ったサイボーグの少女が再生するところから、物語が始まる『アリータ バトル・エンジェル』。最新のVFXで描かれる迫力の格闘シーンと、心揺さぶられるヒューマンドラマの両立が、大きな感動を与えてくれる作品です。

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 『アバター』のジェームズ・キャメロンが製作・脚本、ロバート・ロドリゲスが監督。そして知らなかったけれど、原作は1990~1995年にかけて発表された日本の『銃夢(ガンム)』。木城ゆきと作の伝説的SFコミックをハリウッドで実写映画化したものです。

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 支配する者と支配される者。空中都市と地上の絶望。二つに分断された世界の秩序を破壊していく戦士に目覚めていく少女。ハンターウォーリア、モーターボール、ドールボディ・・・ストーリーに散りばめられた刺激的な概念を、究極の映像表現で楽しめるのがうれしい。でも3Dは吹き替え版のみだったのが残念(2D字幕版を見ました)。

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 「斬新で創造的な世界観に魅せられ、脚本を書いたのは私の娘が13歳の時だった。これは、少女が自分の衝撃的な過去に気づき、運命に立ち向かっていく成長物語でもあるんだ」と、ジェームズ・キャメロンは述べているそうだ。さすがキャメロンの娯楽大作、続編も楽しみです。

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2019年2月18日 (月)

月面着陸を成し遂げた男

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 1970年の大阪万博でいちばん人気を集めた展示品は、アメリカ館の『月の石』でした。50年前、1969年7月10日にNASAはアポロ11号による人類初の月面着陸に成功している。TV中継で宇宙飛行士がピョンピョン跳ねるように月面を移動する姿を見て、胸躍る感動を覚えたものです。まだ科学技術の進歩に希望を抱いていた、良き時代の最後ごろですかね。

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 この映画『ファースト・マン』は初めて月に一歩をしるしたアポロ11号の船長、ニール・アームストロングの物語。デイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリング主演。あの『ラ・ラ・ランド』のコンビです。「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」(That one small step for (a) man, one giant leap for mankind.) 彼が月面で発した言葉はいまも記憶に残っている。

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 このように書くと華々しい英雄伝のようですが、チャゼル監督はまったく違う視点で作っている。歴史的偉業を達成したヒーローの物語ではなく、人生の苦悩と葛藤をかかえながら生きるひとりの人間ドラマに仕上げている。そのあたりは評価が分かれるところかもしれない。私はそこが素晴らしいと思いましたが、偉大なアメリカを具現したヒーローを期待した人には物足りないでしょうね。

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 その当時はバラ色の宇宙開発計画と無邪気に思っていたけれど、決してそうじゃなかったようだ。時はソビエト連邦との冷戦真っただ中。しかもアメリカはことごとく後れを取っていた。国威発揚のため、軍事技術向上のため、どうしてもデカい花火を打ち上げたかったのだ。かなり無理をしてでも。映画の中でも多くの死が描かれる。そのうえ巨額の予算を使う宇宙開発への反対運動も勢いを増す。そんな中でのアポロ計画。

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 アームストロングという人は寡黙で非社交的で自己顕示欲の少ない人だったようだ。そして冒険家ではなく、困難なミッションもたんたんとこなす普通の仕事人。もちろんその仕事はとても普通とは言えませんが。自己主張の強さばかりが目立つ今の社会。すぐに英雄視して持ち上げて、あっという間にたたき落とす今の時代。『ファースト・マン』を観る価値はあると思います。
 
 
 

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2019年2月12日 (火)

METの椿姫、新演出です

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 いまや知らない人のほうが多いレーザー・ディスクLD !?で何度も観た「椿姫」。パリ社交界の花と田舎出身のブルジョワ青年の悲恋。「椿姫」の決定版といえば、そのLDだった。1985年、フランコ・ゼフィレッリ監督の作品です。ヴィオレッタをテレサ・ストーラス、アルフレードをプラシド・ドミンゴ、指揮ジェームズ・レヴァイン。その後、いろんな歌手、いろんな指揮者のものを観てきましたが・・・。

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 そのジョゼッペ・ヴェルディ不朽の名作「ラ・トラヴィアータ」が、今回METライブビューイングにマイケル・メイヤーの新演出で登場しました。指揮は新音楽監督に就任したヤニック・ネゼ=セガン。ヴィオレッタがディアナ・ダムラウ、アルフレードがファン・ディエゴ・フローレ、ジェルモンをクイン・ケルシーです。2018年12月15日に上演されたこの舞台が、これから椿姫のスタンダード。と、思わせるほど素晴らしい出来でした。

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 舞台を19世紀から18世紀に移したという。でもフランス近代史に疎いので、違いはよくわかりません。きっと社会通念や個人の権利など、18世紀はより保守的だったのでしょう。ただ社交界の爛熟した人間関係や衣装の豪華さで、ヒロインの悲劇性を際立たせた演出は見事です。METならではの名優、音楽、大がかりなセット。お金がかかった総合芸術の頂点を見た思いです。

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 ライブビューイングならではのオマケが幕間のインタビュー。制作の意図、音楽の狙い、役作りの思いなどを直接聞けるから、物語をより深く理解できる。特に今回よかったのはネゼ=セガンとダムラウが共同作業で役を作り上げるドキュメンタリー。一音もおろそかにせず向き合っていく過程は感動的です。こんな取り組みがあってこそ名作は生まれるのですね。La Traviata(道を踏み外した女)。必見です。

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2019年2月 3日 (日)

ん?世界で一番ゴッホを描いた男

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 ん?どういうこと? 不思議な、そしてキャッチーなタイトルに惹かれて元町映画館へ出かけました。ユイ・ハイボーと娘のキキ・ティンチー・ユイの共同監督による映画「世界で一番ゴッホを描いた男」。独学で油絵を覚え、ゴッホの複製画を20年もの間描き続けている画工チャオ・シャオヨンを追ったドキュメンタリーです。英語のタイトルは CHINA'S VAN GOGHS 。日本語の翻訳が絶妙だと思いませんか。

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 「おい、オランダから『夜のカフェテリア』の注文が300枚入ったぞ、40日以内、急げ!」 こんな調子でシャオヨンは弟子たちを使い働きづめで働いているが、生活は苦しい。彼の工房は、世界市場の6割、1万人以上の画工が複製画づくりに従事する深圳の「油画村」と呼ばれるところにある。印刷技術も進歩しているのに、こんな仕事、こんな町があるなんて驚きだ。

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 画集や写真を見て描くだけの彼は、いつしか本物のゴッホをこの目で観たい!と強く願うようになる。ゴッホの芸術の高みにもっと近づきたい。ひたむきに描き、日々苦悩する彼は滑稽でありながら、その真摯な姿勢に心を打たれる。「僕は貧しくて中学にも行けなかったから」と慟哭する彼。オリジナルと模倣。芸術家か職人か。それらを理解していない無知を笑えない。

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 念願かなってアムステルダムを訪れた彼が見たものは? そしてアルルの精神病院やゴッホと弟のテオの墓参りで感じたことは? 本物のすばらしさに衝撃を受けた彼は、自分の人生を、これまでの仕事を見つめなおすようになる。そして自分自身の作品を作ろうと一歩を踏み出す。世界で一番ゴッホを敬愛する男というユニークな視点から、芸術の崇高さを考えさせる優れた映画でした。

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2019年1月31日 (木)

ぼけますから(他人事じゃなく)

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 認知症の母と耳の遠い父と離れて暮らす私 ― とサブタイトルが付いた、信友直子監督・撮影・語りの映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』が素晴らしい。二ヶ月ほど前に元町映画館で上映されていたとき満員で入れなかったため、アンコール上映の今回、再チャレンジです。「他人事」ではない中高年たちが、いっぱい詰めかけて盛況でした。

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 信友さんはドキュメンタリー番組のディレクターとして活躍している方で、これが初の劇場公開作品になる。自分の年老いた両親を撮った1200日の記録。肉親だからこそ撮れた、ありのままの老いの姿。あんなにしっかりしていた人が、という思い。周りに迷惑をかけたくないのに、どうしたんだろ私、という思い。悲しく、苦しく、ちょっと滑稽な日々を親密な視線で追う。

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 団塊の世代がオーバー70になるこの時代。もうすぐ認知症と寝たきりと介護疲れが日本を覆うことになる。そしてみんなそれぞれの事情は違う。ある数字では介護を必要とする人644万人。介護する人とされる人を合わせると1,288万通りの物語があることになる。この映画はその中の一つの物語に過ぎない。でも普遍的な時代を超えた物語に昇華されているのは、作家の目と力量があってこそ。

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 人間は歳とともに衰える。脚も腰も、目も耳も、内臓もアタマも。これは生物としての限界でどうしようもない。認知症で壊れていく母親87歳。初めての家事に悪戦苦闘する父親95歳。二人が支えあい懸命に生きる日々を克明に記録した信友直子さんの勇気と深い愛情に感動しました。ドキュメンタリーの傑作、誕生です。

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