2019年11月15日 (金)

ゴッホが信じた崇高な美

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 ジュリアン・シュナーベル監督の意欲的なゴッホ映画が誕生した。世間の無理解と戦う狂気の天才。謎の死を遂げた悲劇的な人生。生前にたった一枚しか売れなかったにもかかわらず、オークションでとてつもなく高額で取引される・・・。狂気と創造。先見性と時代の衝突。フィンセント・ファン・ゴッホは作品そのものより、エキセントリックな生きざまがワイドショー的切り口で書籍や映画になることが今までは多かった。

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 この映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』では、有名な画家でもあるシュナーベル監督がゴッホという芸術家の創作の核心に迫ろうとしている。オリジナルタイトルは『At Eternity's Gate』 彼が亡くなる1890年の春、サン=レミの精神病院で描いた作品名からきている。日本語名では『悲しむ老人』。この作品について弟テオに送った書簡には、神と永遠との存在の証と思えるもの、崇高で偉大なものを作品の中に盛り込むのは画家の義務だと述べている。

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 「画家とは実物そっくりに見せかける正確さではなく、もっと自由な自発的デッサンによって田舎の自然の純粋な姿を表出しようとする仕事だ」とも言う。自然と一体化すると、目の前に永遠が広がる。(神が作り給うた)彼だけに見えた「この世の美しさ」を、時代を超えて広く人々に伝えたいという情熱。何の変哲もないヒマワリや麦畑や星空が、彼の手にかかれば生き生きと輝きだす。それはなぜか。シュナーベルが伝えるゴッホ芸術のキモではないでしょうか。

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「未来の人々のために、神は私を画家にされた」と精神病院で神父に語るゴッホ。「キリストも磔刑にされたとき、全く無名だった」とも。牧師を目指したこともあるゴッホは、自身を芸術における予言者か殉教者のように感じていたのでしょうか。死ぬ直前の、自分で撃ったのか?の問いに「誰も責めないでくれ」と答えた彼。この時には、実生活における不遇と孤独を克服し、実り豊かな芸術的境地に達していたに違いない。新しいゴッホ像の誕生です。
 

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2019年10月13日 (日)

ジョーカー、悪の誕生

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 かつてジャック・ニコルソンやヒース・レジャーが怪演したバットマン最大の敵、邪悪なジョーカー。その誕生の秘密が明かされる映画です。今年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、トッド・フィリップス監督の作品『ジョーカー』は、原作コミックにはないオリジナルストーリー。主演はホアキン・フェニックス、リバー・フェニックスの弟だ。この悪役の名演で、そんな形容詞つきで呼ばれるのはもうおしまいでしょう。

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 悲惨な境遇、積み重なる悲劇、そして弱者に無関心な社会。コメディアンを夢見る心優しい青年が、痛々しい出来事やまわりの無理解から少しずつ心をむしばまれていく。そして巨大な悪へと変貌を遂げる。一人の孤独な「人間」がなぜ狂気あふれる「悪のカリスマ」になったのか? 彼の切ない運命に、知らず知らず心情的に寄り添ってしまう。日本でもそんな悲惨な状況で生きる人がニュースに取り上げられることが増えてきた。でもそれは事件を起こしたり、生に破綻したり。悪いことでなけれぼ、注目されることもない。

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 自分は社会に必要なのか? 彼は存在意義を見出せない中、イジメられ、差別を受け、虐げられて堕ちていく。いまアメリカでも、ヨーロッパでも、日本でも、底辺の人々の急増が問題になっている。支えあう社会のシステムも働かなくなっている。偏見と不寛容。この映画はそんな現代を考えさせる。数十年前の良き時代の常識は壊れ、カオスの中に突入しているのだ。映画の舞台は1980年代の架空の都市ゴッサム・シティ。でもそれが、現代の大都市に似ているのが不気味だ。

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 羽を大きく広げて空に昇っていく鷲の舞のようなダンスシーンが象徴的だ。堕ちていくばかりだった主人公が、ジョーカーに変貌を遂げて昇っていく瞬間。それは差別と偏見、不寛容に満ちた格差社会から自分を取り戻す自由と解放のダンスなのだ。しかし自分自身の開放が、悪の道しかないというのが悲しい。歪んだ思想。独りよがりの哲学。第二第三のジョーカーを生み出さない社会を、人間が人間らしく生きられる世界を再構築する必要性を強く感じました。

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 この映画は、悪を肯定する、暴力を誘発する、だから有害だ!と叫ぶ人が必ず出てくると思います。たしかに子どもなど観る人によっては勘違いされるおそれがある作品なのでR-15指定。ただし誤解のリスクがあったとしても、いま観るべき現代の映画。人々の不満がたまってくると、社会は不安定になる。ドストエフスキーの本が異常に売れたり、ヒットラーやムッソリーニの映画が次々と作られたり。なんか世界がイヤな方向に向かいつつあるように感じる今だからこそ、ぜひ観ていただきたい。

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2019年10月10日 (木)

駅ピアノで見出された天才

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 日本でも『蜜蜂と遠雷』や『ピアノの森』など、正規の音楽教育から外れた生い立ちと境遇から現れた天才を扱った小説やアニメや映画がヒットしました。これはフランス版、ピアノの天才物語。ルドヴィク・バーナード監督の『パリに見出されたピアニスト』(au bout des doigts / 英題 In Your Hands)日本版のタイトルは、翻案し過ぎ? それはさておき、どれも育った環境に恵まれない天才のサクセスストーリーです。凡人には理解できない天才という説明不能の存在。それに対するあこがれやロマンが作者のベースにあるからこそ、生まれた作品だと思います。

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 いま世界でもポピュラーになった駅ピアノや空港ピアノ。TV番組で見ていてもかなり上手な人がいますが、そんなストリートから現れた天才が、よき理解者のサポートを受けながら、苦難と葛藤を乗り越え成功に至る。サッカーで言うと路地裏で裸足でボールをけっていた少年が、世界的なスターになる。そんな話。こんな風に簡単に言ってしまうとよくある物語なのですが、作品の優劣を決めるのはディテールの表現と底に流れる哲学です。この映画はそこがよくできている。

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 まず出演者の演技が素晴らしい。主演のジュール・ベンシェトリはなんとジャン=ルイ・トランティニャンの孫だそうだ。ディレクター役のランベール・ウィルソン、ピアノ教師役のクリスティン・スコット・トーマスがさすがの名演技。そして主人公が置かれた環境の描写に説得力がある。日本よりはるかに厳しい階層社会が生きているヨーロッパは、生まれた時から教育の機会も進むべき道も限定される格差社会。食べるものも、ファッションも、住む町も、聴く音楽も、つまり生きる世界すべてが違うのだ。しかもその社会構造が固定化される傾向が強まっている。クラシック音楽界では特に厳しいこの壁を乗り越える苦闘が手際よく描かれている。 

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 譜面通り正確に弾くならコンピューターでもできる。上手に聞かせるピアニストはいくらでもいる。しかし魂のこもった自分だけの音を出せるピアニストはまれだ。「同じ楽譜なら同じ音楽になる」と単純に考えがちだけど。何百年も同じ譜面なのにその時その時代で拍手喝采を受ける演奏家がいました。それら天才とたたえられるピアニストたちの歴史を変える演奏。何百年も前の曲なのにつねに新しい。それが色あせない魅力の源泉。芸の力です。クラシック音楽は従来とは違った時代性や人生観を表現できる一握りの天才の演奏によって進歩し成り立ってきた。そのおかげで周辺の人たちも生きていける。だからみんな天才にロマンを感じるのだ。

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 クラシック音楽のキモは、演奏に自分の感情を込めること。魂を込めること。あらゆるものから自由になって自分自身を表現すること。それは伝統的な正規の教育では優等生を育てられても天才は生みだせない、ということか。この映画を彩るバッハ、リスト、ラフマニノフなどの名曲を聴きながら、神が与えた才能と人間が授ける教育について考える。天才は正規のルートの外から出現する異邦人のようなものかもしれない。まぁこんな面倒くさいことは考えなくても、気持ちよく楽しめるサクセスストーリーです。「この指で未来を拓く」主人公を素直に応援できました。

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2019年9月16日 (月)

宮廷を舞台にした歴史劇

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 今年のアカデミー賞の主演女優賞、助演女優賞(2人)、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、衣装デザイン賞、美術賞、編集賞の最多10ノミネート。そしてオリヴィア・コールマンが主演女優賞を受賞。なんかスゴイねという映画、ヨルゴス・ランティモス監督の『女王陛下のお気に入り』 The Favourite です。「お気に入り」よりむしろ「最愛の人」。The が付きますからね。遅ればせながら観ました。

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 たしかに3人の女優の演技は素晴らしい。国の統治よりも愛に生きる女王アン。女王を操る幼馴染みの権威主義者・サラ。成り上がりを目指す若いアビゲイル。三者三様の個性が見事に表れている。コスチュームや宮殿内部の装飾も華麗だ。もちろん時代考証もしっかりしているはず。深みのある落ち着いた色調は、ほぼ自然光で撮影しているからでしょう。暗いかげりが美しい。

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 18世紀のはじめ、英国とフランスが第二次百年戦争と呼ばれる戦いを続けていた時代。スチュアート朝最後の女王アンをめぐる二人の女の物語です。こう書くと重厚で堅苦しいシリアスなドラマと思われがちですが、実態は笑いどころがいっぱいのコメディです。ただしブラックですが。日本人なら『大奥』の愛憎と『仁義なき戦い』を思い浮かべるかもしれない。

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 戦争を継続するか、和平を推進するか。すでに議会があった英国ではそれぞれの党派が主張をぶつけ合う。最後は情緒不安定ですぐに思考停止におちいる女王のツルの一声で決まる。君主制ですから。その女王を動かすのは側に仕える二人の女官。大臣や議員もまずはこの女官に取り入らないことには意見も通らないので必死です。今もどこかでありがちな話で笑えます。

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 戦争をしていても、宮廷は庶民の疲弊や苦悩とはまったく別世界。優雅で上品なはずのセレブたちはお下劣なバカ騒ぎはするし、ゲスな行いばかりで、モラルのかけらも持ち合わせていない。こんな連中が国の将来を考えることができるのか、と心配になるぐらい。でもそんなやり方でも歴史はちゃんと動いてきた。もしあのとき違う決定が行われていたら、なんて考えはこの映画のテーマではありません。

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2019年9月 7日 (土)

アレックスの静かなる挑戦

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 アレックス・オノルド。ロッククライミング界のスーパースターだ。日本でも毎年秋に開催されるバンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバルBMFFで何回も観ているので、そのすごさは知っていました。なぜかpatagoniaが2年前から日本上映の主催者を撤退してしまいましたが・・・。この『フリーソロ』は、彼がカリフォルニア州ヨセミテ国立公園にそびえる巨岩エル・キャピタンに挑んだドキュメンタリー映画です。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門をはじめ世界で数々の賞を受賞している。

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 監督はエリザベス・チャイ・バサルヘリィ&ジミー・チン。高さ975mの断崖絶壁を、身体を支えるロープなど安全装備を一切使わず、たった一人で自分の手と足だけで登る。こんな前人未到のチャレンジを、臨場感あふれるカメラワークでその一部始終を収めた。アレックスもすごいが、撮影クルーもまたすごい。いま流行りのCGや合成などはまったく使っていない。断崖にロープでつり下がったクルーの手持ちカメラ、地上から狙う超望遠レンズ、頭上のドローンのみの映像だ。リアルなこの体感は作り物の映像では表現できなかったでしょう。

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 死と隣り合わせの冒険。このようなアレックスを撮るべきか、もし失敗=死ならどうするのか、記録する側の葛藤も隠さず映し出しているのが素晴らしい。災害報道でも思うのですが、カメラは時として冷徹な傍観者になってしまう。ここでは撮影クルーも一方の当事者として、また生身の人間としてチャレンジしている気概が伝わってくる。無謀とも思える彼の行為を止められない恋人や友人クライマーたちの苦悩も丁寧に描く。しかし彼はまわりの思いを十分承知しながらも孤独な戦いに進んでいく。

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 入念なルートの検証とイメージトレーニング、そしていくつもの恐怖の要素の排除。何より大切なのは思い描いたとおりに身体が動くように心を整えること。人間の肉体の可能性、人間の精神力の偉大さ、未知に挑む勇気を教えてくれる傑作だと思います。でもアレックスは「ほんのちょっとクライマーの限界を広げただけ」ときわめて謙虚。超人的な人ほど、自分がすごいとは思わないのかもしれません。求道者のようなストイックな生き方も魅力的です。静かなる挑戦の全貌をぜひご覧ください。

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2019年9月 1日 (日)

世紀末ウィーンに咲いた花

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「圧力なべの中に最先端の学問と芸術を入れて圧をかけたとき、吹き出た蒸気がクリムトやシーレやフロイトである」。ミシェル・マリー監督のドキュメンタリー映画『クリムト エゴン・シーレとウイーン黄金時代』に出てくる言葉だ。原題は Klimt & Schiele - Eros and Psyche(クリムトとシーレ ― エロスとプシケ―)。ギリシャ神話の純愛物語からとったタイトルで、官能性と精神性をあらわしている。タイトルに「クリムト」とありますが、彼の伝記ではなく、彼が生きた時代を描いた映画です。

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 時は19世紀末から20世紀初頭にかけて、ハプスブルク家が統治したオーストリア=ハンガリー帝国の末期。場所はトラム網も整備されたメトロポリスのウィーン。封建的な社会や保守的な芸術に反発した画家や音楽家、作家や建築家、医者や科学者がカフェにたむろして議論を戦わせるサロン文化が花開く。「時代には芸術を 芸術には自由を」をモットーに掲げた『ウィーン分離派』を起ち上げたグスタフ・クリムトはその中核をなす人物だ。

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 金箔を多用し妖艶で死の香りを漂わせる夫人像を多く手掛けたクリムト。ねじ曲がった体躯と苦悶に満ちた表情で魂の痛みを表現したシーレ。このような当時としては異端なテーマは、ジークムント・フロイトがたどり着いた精神分析の誕生と時を同じくしている。(お互い影響を受けていた可能性ももちろんあります) 人間の不安や畏れ、エロスを描いた新しい絵画表現で、いままでなかった革新的な芸術を生み出した。

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 音楽でもマーラーやシェーンベルクやリヒャルト=シュトラウスが躍動。世紀末のウィーンは、既成の社会秩序や芸術観を打ち壊す、真に現代へとつながる歴史の転換点だったのだ。それは何百年も繁栄したハプスブルク帝国がなくなる前の一瞬の輝き。熟した果実が崩れ落ちる直前の甘美。フロイトのエディプスコンプレックス説になぞらえると、秩序を崩壊させることは新時代の種子が産まれるために避けて通れない道筋だったのかもしれない。

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 この映画はクリムトとシーレの没後100年となる2018年に製作された美術史ドキュメンタリー。この爛熟した時代の終焉とともに、ヨーロッパは第一次世界大戦、スペイン風邪によるパンデミック、世界大恐慌へと続く長く暗い時代へ突入する。19世紀末から20世紀初頭にかけてウィーンで花開いた絢爛たる芸術の時代背景を学ぶ、最高の美術史講義を受けた気分。国立国際美術館で始まっている「ウイーン・モダン」展をより深く楽しむための予習として観ましたが、とても役立ちました。

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2019年8月10日 (土)

アフリカの希望の風

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 キウェテル・イジョフォー監督の「風をつかまえた少年」The Boy Who Harnessed the Wind という映画が素晴らしい。2010年に出版された同名のノンフィクション(ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著 文藝春秋刊)が原作です。貧困のために学費を払えず中学校を退学になったウィリアム。その14歳の少年が独学で風力発電の風車をつくり、乾燥した畑に水を引いて村を飢饉から救った奇跡の実話の映画化。

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 森林破壊や地球温暖化による異常気象でアフリカの最貧国のひとつマラウイで大干ばつが起こる。そして数千人規模の餓死者を出した。そんなころ学校の図書館に潜り込み出会った一冊の本をきっかけに、少年は電気を起こす風車を作ろうと思いつく。ユーカリの木、自転車の部品、廃品のプラスチックパイプなど、身近で入手した部材で風力発電装置を製作。その電力でポンプを動かし、井戸から水を引く。

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 いまだに祈祷師の祈りで雨を降らせようとするような部族社会。村の大人たちは家族でさえも少年の夢物語に耳を貸すはずはない。でも彼のまっすぐな想いとひたむきな努力が、次第に周りを動かし始める。学ぶことの大切さを、こんなにストレートに、しかも説教臭くなく表すお話は初めてだ。少しアンバー調の美しい映像と、アフリカの大地を思わせる力強いリズムの音楽が、希望の物語を盛り上げる。

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 21世紀はアフリカの時代と言われ、このところアフリカ関連の書籍もたくさん見かけるようになりました。特に2050年以降は世界の中でアフリカ諸国が占める位置は大きく重要になるという。人口の増加、経済成長、国家や社会の発展、民主主義の成熟。それぞれの国や地域で解決しなければならない課題はいっぱいある。でも着実に良い方向へ変わっていくのでしょう。そう望みたい。

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 この数百年、世界を支配した西洋近代主義や科学技術や進歩の思想。いろいろ弊害もあらわれているけれど、飢餓や疫病から人々を守るためにはアフリカではまだまだ『近代化』が必要なのだ。負の側面を強調せず、プラス思考で未来を見つめるこの映画。アフリカを応援したくなるとともに、私たちまでとても前向きな気持ちにしてくれる。ウイリアム少年に勇気をたっぷりいただきました。

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2019年8月 4日 (日)

水を極めた「天気の子」

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 エンドロールの途中で席を立つ人はゼロ! こんな映画はいつ以来だろう。新海誠監督の『天気の子』。観客はみんな深い感動で息を止めたように、すぐには立ち上がれない様子。この映画は上映の1ヶ月近く前からサントリーやソフトバンク、日清食品などのコラボCMで盛り上がっていましたね。『君の名は。』(2016年)の大ヒットに続け!という期待の表れだったのでしょうが、予想以上の面白さ。完全にKOされてしまいました。

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 激しい雨、水滴、雨粒の跳ね返り、水たまりの映り込み。これら水の表現の素晴らしさは「雨」が3人目の登場人物と言われた『言の葉の庭』(2013年)ゆずり。きっと美術監督・滝口比呂志さんの力量によるのでしょう。音楽は『君の名は。』に続いてRADWIMPSの野田洋次郎。ストーリー展開と一体になった音楽は、100のセリフ以上に主人公の心情を雄弁に語る。まぁそれもこれもすべてひっくるめて原作・脚本・監督の新海誠の才能だ。

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 天気の調和が狂っていく時代。連日雨が降り続く東京を舞台に、少年と少女は自らの運命を勇気をもって選択する。描かれた世界のスケールの大きさと、取るに足りないちっぽけな人間との対比。人類の愚かさと、人間への希望。あーあ、ネタバレにならないように書くのは本当に難しい。ディテールまで細かく作りこまれているので、見れば見るほど新しい発見がある、とだけ言っておきます。この作品もきっとメガヒットになること間違いなしでしょう。

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2019年7月15日 (月)

グッバイ、Mr.レッドフォード

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 スポーツ選手は肉体的衰えや精神的疲労から思うようなプレイができなくなったら、現役を引退せざるを得なくなる。でも俳優が引退宣言するって、珍しいのではないでしょうか。病気とかでなければね。ロバート・レッドフォード、82歳。年齢を重ねても、「まだまだ」というか、「ますます」というか、カッコよくて仕事の質も上がっているのに。いい年の取り方のお手本でした。俳優業は引退しても、監督業やプロデューサー業は末永く続けてくれることを期待します。

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 初めてロバート・レッドフォードを観たのはアメリカン・ニューシネマの傑作『明日に向かって撃て!』(1969年)。犯罪者なのに、さわやかでユーモアがあって知的なサンダンス・キッド役が、それまでのハリウッドにはなかった鮮烈な個性を輝かせていた。そして最後になるのが『さらば愛しきアウトロー』のフォレスト・タッカー役。どちらも実在の銀行強盗。本人もアウトローを演じるのが好きだと言っているし、俳優人生を締めくくるにはこれほどふさわしい作品はなかったのかもしれません。

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 時代はちょっとレトロな1980年代。舞台はのどかな中西部の田舎の町々。礼儀正しくジェントルな老人が、誰ひとり傷つけず微笑みながら繰り返す銀行強盗。犯罪者なのに凶悪なイメージとはいっさい無縁で、被害を受けた銀行の担当者たちでさえ夢を見ているよう。そして追っかける刑事まで魅了されていく。ほぼ真実の物語、とクレジットされたこの作品。不思議なキャラクター「黄昏ギャング」を肩の力が抜けた名演技で表現したレッドフォード。これも彼の代表作の一つになるでしょう。



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 この映画は犯罪者を主人公にした作品だけれど、派手なアクションや緊迫した展開で見せるのではない。彼が主演するだけのことはあって、情感に満ちた穏やかな映画に仕上がっている。気のきいたセリフ、美しいトーンの映像、時代の雰囲気を再現したデビッド・ロウリー監督の演出が素晴らしい。そしてケイシー・アフレックやシシー・スペイセクら共演陣も見事な演技で大スターの去り際を支えている。スポーツの名選手の引退を胴上げで送る感じ。それにそれに、劇場のお客さんの入りもよくて、うれしくなりました。

 

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2019年6月30日 (日)

これぞディズニー!のアラジン

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 このところ「美女と野獣」や「ダンボ」など過去の名作アニメの実写映画化で大成功をおさめているいるディズニー。今度はガイ・リッチー監督で「アラジン」です。ファミリー層に向けたエンターテインメント。子どもにも大人にも夢と希望を与えてくれるディズニー精神。それらが最もよく表れているのが、このアラジンと魔法のランプをもとにした今回の映画だと思います。

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 エキゾチックで絢爛豪華なアラビアンナイトの世界を、実写ならではのスケールと映像美でうまく表現している。猥雑だけど活気ある市場のにぎわい。生あたたかい夜の空気。アニメでは表現が難しい奥行きやリアリティを、ディテールまでまでこだわった撮影、美術、コスチューム、音楽で生み出しています。期待をはるかに超えた出来。

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 ランプの魔人ジーニーを演じるウィル・スミスが素晴らしい。ダンス、歌、演技。どれも超一級。ハチャメチャな過剰演技も、しっとり心にしみいるシーンも、カッコよすぎるじゃないか、と言いたくなる。おまけでアラジンを手助けしてやるジーニーと、最後3つ目の願いで魔人に自由を与えるアラジンの友情。子どもだましとバカにできない、都感動的な映画に仕上がっています。

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