2019年1月 7日 (月)

マリア・カラス、真実の人生

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 「マリアとして生きるには、カラスの名が重すぎるの」。これはオペラ史上最高の歌手、マリア・カラスの言葉です。ドラマチックな53年の生涯は、音楽界にとどまらず社会的にも広く関心を集め、後の世界に多大な影響を与えた。そんなカリスマ歌姫のドキュメンタリー。

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 この映画は舞台やコンサートの映像、TVのインタビュー、ニュース映像、未完の自叙伝など、すべて彼女に関する事実で出来上がっている。ここには誰か女優さんがマリアを演じた部分はまったくない。それが潔い。それが映画に凄みを与えている。トム・ヴォルフ監督の見事な構成です。

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 女王や大統領も駆けつける圧倒的なステージ。その成功の影に隠された苦悩とスキャンダルやバッシング。愛や家族を切望するマリアと、倒れるまで歌うことをあきらめなかったカラス。そのどちらもが彼女の真実の姿だったのだ。

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 歌に生き、恋に生き(プッチーニ「トスカ」)、清らかな女神よ(ベッリーニ「ノルマ」)、私のお父さん(プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」)、さようなら、過ぎ去った日々よ(ヴェルディ「椿姫」)、恋は野の鳥(ビゼー「カルメン」)・・・。歴史的な魂の歌声がライブ映像で楽しめるのは、この上ない幸せでした。

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2019年1月 4日 (金)

最新の、スター誕生

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 監督&主演:ブラッドリー・クーパー。そして主演:レディー・ガガ。過去にジュディ・ガーランドやバーブラ・ストレイザンドが主演した名画『 A Star Is Born 』の、最新リメイク版「アリー/スター誕生」です。大まかなストーリー展開を知っているのに、これだけ感動するなんて思いがけない喜びでした。

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 まず驚いたのは、レディー・ガガの演技力。歌が素晴らしいだろうというのは、映画を観る前からわかりきっていたこと。でもこの難しい役どころを見事に演じ切った。主演女優賞モノの名演技です。ウエイトレスからスターダムを駆け上がっていくにしたがって、顔つきも変わってくる。

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 もちろんブラッドリー・クーパーの演技も素晴らしい。彼にとって初監督作品だそうだが、とても初めてとは思えない堂々とした演出で、深い感動を与えてくれた。ガガが I'll Never Love Again を歌うシーンには涙が止まりませんでした。ラストシーンでこれを持ってくるなんてズルい!いや上手い! 前に進む勇気をもらいました。ありがとう。
 

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2018年12月20日 (木)

ダンボールの新たな価値を創造

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 「不要なものから、大切なものへ」。これをコンセプトに2009年から路上や店先で放置されている段ボールから財布を作る活動「Carton 」を続けている島津冬樹。いま世界が注目するダンボール・アーティストだ。(ゴメンナサイ、知らなかった)彼のアート活動を追いかけたドキュメンタリーが、岡島龍介/監督・撮影・編集による『旅するダンボール』。

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 1987年生まれの島津は、8年もの間世界30ヵ国を巡りって捨てられたダンボールを拾い、それを材料にデザインと機能を兼ね備えた財布を作っている。作品は国内外で展示し、ワークショップを開催して、捨てられるしかなかったダンボールに新たな価値を産み出している。リサイクルや再利用といった概念のさらに先を行く、「アップサイクル」の可能性を開く活動。

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 ただし島津のおもしろさはこんな社会的な反響とは無関係に、ひたすらダンボールが好きという純粋さにある。日本、ヨーロッパ、北米、アジアをまわり、現地のダンボールやそれを扱う人々と触れ合いを持つ。ワークショップに参加した人は国籍や年齢にかかわらず、ダンボールを見る目が変わったと感動する。そしてすごく楽しそうなのが印象的だ。

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 島津冬樹のドキュメンタリーなので、彼が主人公なのは間違いない。でも陰の主役ともいうべき存在が、徳之島Freshポテトのダンボール箱。島津のダンボール愛から生まれた心温まるストーリー展開の核になるのだ。写真のダンボールを入場時にプレゼントされました。その意味が分かったのは観終わった後ですが。

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 世界が注目するアーティスト、リサイクルや再利用を超えた概念。なんて聞くと、堅苦しくてお説教じみた感じを持ちがちですが、そんな心配はまったくありません。彼の飾り気のないキャラクター、岡島監督の押しつけがない軽妙なタッチの演出・編集、そして吉田大致の肩の力が抜けた音楽。それらがかえって説得力を高めている。さぁ希望を拾いに街に出ましょう。

 

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2018年12月 6日 (木)

ガンジス河の「解脱の家」

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 死期を悟り、安らかな死を求める。でも、そんなことが可能なのか? ガンジス河の畔、聖地バラナシにある施設「解脱の家」。幸せな最期を迎えるために、人々が静かにおだやかに暮らす場所です。映画『ガンジスに還る』、オリジナルタイトルは『HOTEL SALVATION』。直訳すれば、救いのホテルあるいはホテル救済。それを解脱の家とはうまい訳だ。

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 インドは家長=父親の権力が絶大だと聞いたことがある。そしてヒンドゥーの教えによる独特な死生観。私たちにはよく理解できない価値観の中で物語は始まる。その父親が死期を悟り、家を出てこの解脱の家へ行くと言い出す。仕事人間の息子も仕方なく付き添うことになる。頑固な父親と合理主義者の息子。初めは衝突ばかりしているが、次第にわだかまりがほぐれていく。
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 旅立つ者、見送る者。どちらにもそれぞれの思いがあり生活がある。その感情の機微を繊細に丁寧に描写して、家族の強い絆を浮き彫りにする手腕は見事だ。父、息子、その妻、孫娘、そして施設で暮らす人々。淡々と、泰然と、死と向かい合う。そして体の機能が止まり、魂が抜け出すのを解脱というのでしょうか。キリスト教徒の欧米人よりは、分かる気がする。看取る側もたいへんだと思いましたが、最後を共に生きることは共に死ぬことでもあるのでしょう。

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 温かさと優しさが満ち溢れたこの感動作の監督・脚本はシュバシシュ・ブティアニ。なんとまだ27歳の新鋭だそうだ。「死」という重いテーマを、ユーモアを交えながら小津安二郎が描いたような人情味あふれる物語に仕上げている。まるで老練なベテラン監督のようだ。
 聖地バラナシはインド国内外から多くの信者、巡礼者が訪れるヒンドゥー教の一大聖地。インドの人々にとってこの地で人生の最後を迎えることは、最大の喜びと言われているそうです。

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2018年11月18日 (日)

伝説のバンド「クイーン」の物語

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 最初に告白しておきます。「クイーン」のこと、名前ぐらいしか知らなかったのです。ファンの皆さん、スミマセン。世代的にすこし後から出てきたグループなので。でもブライアン・シンガー監督の『ボヘミアン ラプソディ』を観ていると、アレッ聞いたことがある!アレッさわりを歌える!そんな曲がたくさんあることを発見しました。音楽に興味を失っていた時期だけど、知らないうちに耳に残っていたんだ。こういうのを名曲と呼ぶのだろう。

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 この作品はクイーンのリードヴォーカル、フレディ・マーキュリーの波乱の人生を描いた伝記映画だ。移民、宗教、容姿、そしてゲイ。差別と偏見、無理解と疎外感。古い価値観に反発し、自分が自分であるために闘い続ける。
 誰もやっていない音楽を目指す強烈な思い。自らが作り上げ成功したスタイルさえも、破壊しさらに前へ進んでいく。周りの反発や軋轢を生みながら。

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 そして1985年7月13日、アフリカ難民救済のために開催された「ライヴ・エイド」。バンド崩壊の危機にあったクイーンが参加し、ウエンブリー・スタジアムで圧巻のパフォーマンスを繰り広げる。この20世紀最大のチャリティ音楽イベントは、英米2会場にそうそうたるアーティストが集結。合計12時間、世界84ヵ国で衛星生中継された。

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 Bohemian Rhapsody,  Radio Ga Ga,  Hammer To Fall,  We Are the Champion と続く感動のステージ。10万人の観客と一体になった熱狂の21分は、これが演技だということも忘れてしまうほど凄みがありました。魂を震わせるラストシーン。
 その後1991年に、フレディ・マーキュリーはエイズのため45歳で死去。「俺が何者かは俺が決める」。強烈に生きた彼の言葉です。

 

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2018年10月31日 (水)

チリー・ゴンザレスってこんな人?

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 チリー・ゴンザレスのSolo PianoⅡというアルバムが気に入ってよく聴いていた。とくにクルマの中で。6~7年前に家族が買ってきたCD。静謐な中に才気ほとばしる新しいフレーズや音に、すごいアーティストが現れたなぁと感心していた。そのチリー・ゴンザレスの半生を描くドキュメンタリーが、フィリップ・ジェディック監督の『黙ってピアノを弾いてくれ』Shut Up and Play the Pianoなのだ。

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 映画を見て驚いた。イメージしていた人とはまったく違うのだ。挑発的で狂乱のライブ!破天荒な奇人?天才? 繊細で感動的なピアノ音楽しか知らなかったものだから、型にはまらない音楽性に強烈なキャラクターや過激な言動が加わって、あっけにとられる事ばかり。穏やかな哲学者のような人、と勝手に思い込んでいただけにショックでした。

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 だけど、ヒップホップやラップからクラシックまで、ジャンルにとらわれない創造的な活動は観ていて気持ちいい。伝統や常識を破壊するパワーと、言いたい放題が許される人間的魅力。作曲家、ピアニスト、ラッパーとしてさまざまな超一流アーティストから熱狂的に支持される理由がわかる気がする。

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 ウイーン放送交響楽団や弦楽四重奏と共演しても、ハチャメチャぶりは変わらない。しかもしっかり自分の世界に引き込んで、新しいスリリングな音楽を紡ぎだす。ああ、この人にはウソがない。天才はこんなにも強いんだ。しみじみそう思ったところで、ふとグレン・グールドを思い出した。カナダは時々こんなとんでもない天才を生む国なのでしょうか。

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2018年10月28日 (日)

もし宝くじが当たったら?

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 誰もが夢見る宝くじの当選。でもホントに当たってしまったら? 親族の借金の返済に追われ、妻や娘に見放され、と不運続きの冴えない男にある日幸運が訪れる。でも3億円の当選は、ほんとうに望んでいた幸せをもたらせてくれるのだろうか。佐藤健、高橋一生、黒木華など芸達者がお金の正体を求めて冒険を始める。

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 この作品は「モテキ」や「君の名は。」などヒット映画のプロデューサーであり、「世界から猫が消えたなら」などのベストセラー作家でもある川村元気の原作『億男』を大友啓史監督が映画化したもの。ギャンブル、バブルパーティ、マネーセミナーなど世相も反映させ、古典落語の『芝浜』も効果的に使ってまとめている。

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 貨幣と神は人類の最大の発明だ。そして近代以降は圧倒的に貨幣の影響力が増したと思う。「カミよりカネ」だ。何事もお金に換算され、世の中にお金で買えないものはないという時代。その裏では格差社会が広がっている。アメリカも、日本も、世界も、ますますその方向に進んでいるように思う。

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 貨幣は大きさも重さも同じ。価値も同じ、ハズなんだけどじつは違う。同じ一万円札も使う人によってみんなその指し示す意味は違う。当たり前だけど、人は自分自身でお金=価値をしっかりわきまえて有効に使うことによってお金は生きる。そうじゃなきゃ単なる紙切れだ。まぁ一度くらいは、紙切れに一喜一憂してみたいけれど。

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2018年10月 5日 (金)

草間彌生のブレない人生

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 松本貴子監督のアートドキュメンタリー映画『≒草間彌生 わたし大好き』。10年前に作られた映画だ。ちょうど「わが永遠の魂」という作品シリーズを制作していた時期の1年半を密着取材。日本では2012年1月、国立国際美術館で開催された「草間彌生 永遠の永遠の永遠」展や、2017年3月、国立新美術館の「草間彌生 わが永遠の魂」展で目にする作品シリーズの最初の50作が誕生する瞬間にスクリーンを通してだけど立ち会えるのだ。

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 少女時代より繰り返し襲う幻覚や幻聴から逃れるために、それら幻覚や幻聴を絵に描きとめはじめる。そして1957年に渡米。当時ハプニングと呼ばれたパフォーマンスを中心にNYで大活躍。60年代は「前衛の女王」と呼ばれた彼女は、日本に帰ってからは90年代以降「水玉の女王」として美術ファン以外からもアイドル的人気を博すようになる。

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 草間彌生のスゴイところは、いっさいウラオモテがないこと。いっさいウソや誇張がないこと。「これ、スゴイじゃない!」、「わたしって天才だわ」と、作品が出来上がるたびに感動する。100%マジで言っているのがわかる。若いころからそれは一貫して変わらず、まったくブレがない。自分が天才で世界最高の芸術家だと心底信じて疑わない。純粋無垢なのだ。だから嫌味がない。

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 彼女の才能は美術だけにとどまらない。詩を作っても独創的な視点と言葉遣いがファンを惹きつけるし、小説を書けば文学賞を取ってしまう。ドキュメンタリー撮影のときも精神病院で寝泊まりし、アトリエに通う。彼女の創作の現場と日常生活の人間味あふれる姿は、まさにアートだ。「生」と「死」と「愛」が氾濫する草間ワールドは、永遠に生き続けることでしょう。
 

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2018年9月23日 (日)

縄文ってどんな時代?

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 人類としてはまったく同じ性能を持つ21世紀の私たちと縄文人が、これほど違った文化を作り上げ、それぞれがそれぞれに成立しているのであれば、私たちにも縄文人にも想像できないような、まったく違う世界を作り上げるポテンシャルが人間にはあるのだ、という深い希望を感じます。
 これはドキュメンタリー映画『縄文にハマる人々』を監督した山岡信貴さんの言葉です。

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 岡本太郎が絶賛した火炎型土器や土偶を残した縄文文化。世界に類を見ない創造性と生命力を秘めている。狩猟採集を生業として一万年以上続いた縄文時代は、農耕を始めた弥生時代から後の約 2,500年に比べて何倍も長く日本列島各地で栄えてきた。そして最近の考古学的研究で、その高度な文化、社会の一端が明らかになってきた。とは言え、肝心なところは何もわからず、謎は深まるばかりだ。

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 このドキュメンタリーは、そんな縄文の魅力に憑りつかれた人々の好き勝手な解釈や奇想天外な意見を、いっぱい紹介してくれる。小学校で習う『縄文時代』がただの大昔ではなかったのだ。もっともっと精神的に豊かで、抽象的な思考にも優れた時代だったに違いない。そして山岡監督の言うように、私たち現代人にも弥生以降、産業革命以降とはまったく違う社会を創り上げるポテンシャルがあるのだ、と勇気づけられました。

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2018年9月20日 (木)

絶対に、カメラを止めるな!

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 映画愛、現場愛にあふれた傑作です。 今年いちばんかも。上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』。とんでももない発想を見事にまとめた構成の妙、手持ちカメラのブレを活かした撮影、緊張とユーモアのバランス。こんなに面白い映画を観たのは何年ぶりでしょうか。

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 血まみれホラー+ドタバタコメディ+業界のパロディ+家族の情愛劇。ネタバレになるので詳しくは述べませんが、いろんなエッセンスがぎっしり詰まった想像を絶するエンターテインメントです。あっという間に時間は経って、身体的にも、感覚的にも、理性的にもリフレッシュされる。

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 ポスターに書かれたキャッチフレーズが、この作品のキモをうまく表現している。「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」 ま、その意味は見た後でないとわかりませんが。こんなチャレンジングな映画がよく製作できたな、と感心するとともに、監督・脚本の上田慎一郎さんに大拍手です。

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