2023年2月 9日 (木)

スーパースターの真実

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 ポップアートの一般的なイメージは、明るく活気にあふれた、でもちょっと薄っぺらなアートという感じでしょうか。日本で使う「ポップな」という言葉も、本格的じゃない、軽い、そんな意味が込められている。それは「芸術」が何か深い真実を伝える高邁な営みだ、そうあらねばならぬ、という古典的な価値観がまだ生きているセイだ。

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 ウォーホルは社会や人生が抱える問題には無関心を貫く。しかも機械的な手法でアメリカの豊かさを表現。そしてファッションから言動、生活スタイル、そのすべてを自分自身でプロデュース。結果、20世紀アート界のスーパースターになりました。もしかしたら彼の最高傑作は『アンディ・ウォーホル』だったのかもしれません。

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 では、真実の彼はどこにいたのか。『頭蓋骨のある自画像』をご覧ください。頭の上にドクロが描かれている。『頭蓋骨』や『ギャングの葬式』シリーズ、『小さな電気椅子』シリーズや『十字架』。「ぼくは死を信じていない。起こった時にはいないから、わからないんだ」と言いながら、死にまつわるイメージの作品がことのほか多い。

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 ポップアーティストだけれど、軽快で明るいだけじゃない。創造のためのモチーフとして「死」を扱う。「エロス」や「ホラー」も同じ。そして彼独自の美的フィルターを通した絵画や映像が、生身の人間よりリアルで存在感がある。ウォーホルは自分をさらけ出すのがイヤだったのかもしれない。「ありのまま」は彼の美学に反するのだ。

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 その意味で『カモフラージュ』はシンボリック。迷彩の陰に本当の自分を隠す。真実はどうでもいいから作り出したイメージを見ろ。「表層だけを見ればいい、裏には何もないから」と語った彼は、半世紀先を見ていたのでしょうか。マスメディアやネットからの情報が氾濫する現代。フェイクも吞み込んだ、こんな見方がポップです。

アンディ・ウォーホル・キョウト
2023年2月12日(日)まで
京都市京セラ美術館

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2023年2月 6日 (月)

ポップアートの旗手

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 1970年代80年代のアメリカでは、アンディ・ウォーホルに肖像画を発注するのがセレブのステイタスになっていた。シルクスクリーンの同じ版を、ズラしたり色を変えたりして刷り、魔法のように多様な作品を生み出したウォーホルのアトリエ。映像作品の制作やロックバンドのプロデュースまで、文化シーンに大きな影響を与えました。

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 彼が作品の対象としたのはアメリカ社会に流布するポピュラーなイメージ、大衆的なアイコン。キャンベルスープ缶やコカコーラやドル紙幣、モンローやミッキーマウスをはじめ、ジャクリーン・ケネディやメディアを騒がせた悲惨な事件まで。当時の人々に人気のある、悪く言えば軽薄な、あらゆる分野のシンボルにおよんだ。

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 彼の作品を大量消費社会やマスメディアに対する批判と考える評論家もいる。しかし本人は、「ウォーホルのすべてを知りたいなら、私の絵と映画と私の表面だけを見てくれれば、そこに私はいます。裏には何もありません」と言う。表層を重視、内容は軽視するというこの言葉。彼が社会と時代を映す鏡に徹したことの証でしょう。

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 今回の展示でうれしかったのは、葛飾北斎をオマージュした『波』を見つけたこと。ほかにもダヴィンチに対してのオマージュ作品もある。彼にとっては過去の名作も、映画スターやロックスターと同じくアイドルなのでしょう。多くの人々に流布するポピュラーなイメージ。これをリアルに表現するのが彼のスタイル。では次回に続きます。

アンディ・ウォーホル・キョウト
2023年2月12日(日)まで
京都市京セラ美術館 

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2023年2月 3日 (金)

ウォーホルが出来上がる

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 ポップアートを牽引したアンディ・ウォーホルの展覧会。日本初公開作品100点以上を含む約200点がやってきました。昨年9月から始まっていたのですが、延び延びになってやっと終了間際に鑑賞。すると、なんとなんと図録が売り切れ。京都のみの展覧会なので増刷はしないとのこと。これはホント残念、ちょっと後悔です。

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 会場の京都市京セラ美術館は、1933年に開館した和洋折衷のクラシックな建物。それを青木淳と西澤徹夫がリノベーションし、2020年にリニューアルオープンしました。古典的な本体をできるだけ生かし、明るくモダンなガラス張りの部分を付加。新たな息吹を吹き込まれたミュージアムに、ポップなウォーホルはよく似合う。

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 この展覧会が面白いのは、ポップアートの寵児になる前の商業デザイナー時代の作品も多数展示されていること。たとえば金箔をうまく使った『翼のある妖精』や『孔雀』、『生け花』のシリーズなど。すでに後のポップアートの作品群につながる描写力やデザイン性が現れていて興味深い。そんな若き日に京都を訪れていたという。

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 1963年、マンハッタンに新しいスタジオを構える。その名も「ファクトリー」。多くのスタッフを雇い、シルクスクリーンの技法を駆使して工場のように制作し、スープ缶、コーラ、洗剤など大量生産されたモノを大量消費する時代を表現。そしてモンローやプレスリーなどの大スターも、同じく大量消費されるイメージと捉えていた。

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 ここにポップ・アーティストとしてのアンディ・ウォーホルが誕生する。1960年代半ばから70年代80年代を駆け抜けたウォーホル。銀髪のカツラ、ストライプのシャツ、ジーンズ、ブーツというスタイルで、自分自身も消費財としてふるまったその生きざまそのものが、優れたポップアートだった。続きは次回アップしますので、ヨロシク!

アンディ・ウォーホル・キョウト
2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)
京都市京セラ美術館

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2023年1月17日 (火)

静謐、ミニマル、豊穣 ②

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 石の作品を中心に見てきましたが、李禹煥の魅力は立体だけではありません。平面の絵画もミニマルで、コンセプチュアルで、深い感動がある。たとえば岩絵の具で描かれた『線より』シリーズ。ワンストロークで引かれた線は、下へ行くほど絵の具がかすれ、色は薄れていく。そこからは時間や緊張感や息遣いが立ち現れてくる。

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 『点より』のシリーズも同様。見た目の美しさもさることながら、集中力を持続する精神に感嘆する。機械的な反復のようでいて、一点一点すべて違う。描くときの、呼吸、リズム、体調。その瞬間に込められた膨大なエネルギー。彼の絵画は限りなく肉体的で、身体性の高い表現なのだ。シンプルだけど饒舌。だから鑑賞が楽しい。

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 最新の『応答』と題された絵画シリーズは、余白の美の追求だ。ぼってり濃厚に塗られたカタチに対して、不自然なほど大きく贅沢に残された余白。じつはこの連作では、描かれていないところこそが主役。そして彼は作品が置かれた空間や、まわりの空気まで一体となって響きあう、そんなゴールを目指しているのかもしれない。

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 ここで李禹煥の初期の平面作品を見てみるのもおもしろい。『風景 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ』というピンクの蛍光塗料で描いた作品。会場では最初に展示されている。ああ、スタートから彼の志向は変わっていないのだ。それが時と共に、要素をそぎ落とし、静かに深く思索して現在に至る。作家の軌跡がわかる見応えのある展覧会でした。

李禹煥 Lee Ufan
2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
兵庫県立美術館

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2023年1月13日 (金)

静謐、ミニマル、豊穣 ①

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 今年の幕開けは、兵庫県立美術館で開催中の『李禹煥』。重量級の現代アート作家による、ミニマルな展覧会です。重量級(巨匠という意味で使ったので悪しからず)と言っても、並ぶ作品は「余白」の美を生かした軽やかさ。空間の「空」を意識させる濃密な「無」。強烈な質感を発しながら重量を超越した存在。最高です!

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 李禹煥と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「石」。たとえば「関係項―星の影」という作品。ごろんと置かれた大きな2つの石を、吊り下げられた電球が照らしている。影が逆方向に伸びているのは、なんか奇妙な感じがする。なぜならフツー見る影は同方向だから。そうだ、電球が太陽で、石が地球や月だったらありうる関係なのか。

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 たちまち展示会場の一室が、宇宙的なスケールで拡がっていく。静謐なたたずまいでありながら
ダイナミックなエネルギーが沸き上がる。さすが李禹煥。これぞ現代アートの魅力です。石と鉄。石とカンヴァス。石とステンレス。石とゴム。石とガラス。石が異素材と出会うことで、新しい関係性が生まれ、それが哲学的な思索へ誘う。

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 フランスの修道院で行われたインスタレーションを、吹き抜け空間で再現した作品も面白い。ヨーロッパでよく見る薄くて黒いスレート。これを床にランダムに敷き、ガラス壁に立てかけ、一部を積み上げた展示。ドアを開けて足を踏み入れる。ガタガタ、ミシミシ、壊さないかとヒヤヒヤもの。でも壊れてもOKなんだよね、きっと。

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 「一瞬の出会い 余白の響き 無限の広がり」 会場に掲示されていた李禹煥 さんの言葉です。まさにそんな作品世界でした。美術館の空間に収まらないもっと大きな作品は、2022年10月29日の当ブログ『少ない要素、深い思索』を読んでください。直島の李禹煥美術館について書いています。ご興味のある方は、ぜひどうぞ。

李禹煥 Lee Ufan
2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
兵庫県立美術館

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