2022年11月14日 (月)

屋島と高松港と

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 昭和な土産物屋が並ぶ道を抜けると、パッと目に入るのが宇宙ステーションのような、周防貴之による『やしまーる』。約200mあるガラス張りの回廊。地形に沿って蛇行するゆるやかなスロープ。屋根は特産の庵治石で葺かれている。保科豊巳のパノラマアート作品『屋島での夜の夢』の展示やカフェがあり、気軽にくつろげます。

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 ここ屋島は高松の市街地と瀬戸内海の多島美を望む絶景の地。源平の合戦でも有名ですね。瀬戸芸で来ることはなかったけれど、『やしまーる』を目的に来てみました。いつも船から見上げていた独特なテーブル状の山上から、逆に島々を見晴らすのは新鮮な感覚。この後は島めぐりの拠点・高松港のアートを紹介します。

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 8mの高さでそびえ立つ2本のカラフルな柱。いまや高松港のシンボルになった大巻伸嗣の『 Liminal Air -core-』です。一部は鏡面になっていて、港の賑わいや時間の移ろいを映し出す。フェリーに乗るたびに目にするこの作品は、光の具合によって表情を変え、朝は芸術祭に向かう気分を高め、夕方は優しく迎えてくれる。

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 高速バスターミナルの待合所。外壁につい見逃しそうな作品がある。本間純の『待つ人 / 内海さん』です。さまざまな石で組んだ壁の前に、その石垣と同じ模様をアルミ板に転写した「見えない彫刻」を設置。誰かを待つ人や馬を連れた人など、島の暮らしを思い起させる姿に気分もほっこり。バスを待つ時間もイライラしません。

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 玉藻公園に沿ってジュリアン・オピーの彫刻作品『銀行家、看護師、探偵、弁護士』が、道行く人と一緒に歩くように並ぶ。素材も白大理石や庵治石、黒御影、石灰岩と4種類。石の産地に敬意を表している。コロナ禍で開催された今回の瀬戸芸。春・夏会期はまだ自粛気分でしたが、なんとか秋会期は参加できて幸せでした。

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2022年11月12日 (土)

素直にアートと対峙する

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 カラフルで奇怪なオブジェ。よくよく見ると、塗装されたクルマの車体やドアの一部、フェンダーなど廃車のパーツのようだ。前身はキャデラックだったかフォードだったか。大量消費社会を考えさせるこの作品は、アメリカ人の作家ジョン・チェンバレンによる『クロモ・ドーモ』。彼はジャンクアートの彫刻家として人気を博しました。

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 ジェニファー・バートットの『黄色と黒のボート』もおもしろい。壁にかけた絵画作品の手前に、絵の中のモティーフである2隻のボートが置かれている。平面作品の中と、リアルな現物が同居して響き合う不思議な世界。さらに、同じ黄色と黒のボートはこの先の海岸にも配置されていると言う。絵の中と、この場と、あの場と。

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 平面作品ではデイヴィッド・ホックニーの『ホテル・アカトラン 中庭の回遊』も魅力的だ。視点を変えてシーンを切り分けた彼独特の手法で描いた、舞台美術のような作品。何かファンタジックなドラマが始まりそうです。ゲルハルト・リヒターの『ベティ』も、小品ながらさすがと思わせる。振り返った向こうに何があるのか、誰がいるのか。

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 平面コラージュで新たなイメージを創出してきたロバート・ラウシェンバーグ。これは立体の『エコ・エコー Ⅲ』。見学したときは動いていなかったけれど、風が吹くと風車が回って発電し、エコーのように音を発するのかもしれません。ここで紹介している作品は、すべてベネッセハウス ミュージアムの所蔵。素晴らしいです。

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2022年11月10日 (木)

さまざまな円がある

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 円満、穏やか、繋がり、完全。いろんなイメージが想起される円は、最も基本的なカタチのひとつ。アート作品を作るとき、その意味を突き詰めなくても無意識のうちに現れるカタチだ。イタリア白大理石で作られた安田侃の『天秘』。白く柔らかな曲線の石に座り、あるいは寝転ぶと、はるか上からの天空の秘密が聴こえるだろうか。

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 リチャード・ロングが直島の海岸で拾い集めた流木は、床に並べられて『瀬戸内海の流木の円』という作品になりました。後ろの壁にかかるのは『瀬戸内海でのエイヴォン川の泥の環』。シェイクスピアの故郷も流れる英国の川の泥を持参して、こちらで作られた作品。きっと円と縁に思い入れが強いアーティストなのでしょう。

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 ヤニス・クネリスの『無題』は、彼が2週間直島に滞在して作られた。実際に使われていた陶器、島民が着古した着物、役目を終えた和紙、漂ってきた流木。こんなさまざまな生活の痕跡が鉛の板で巻きこまれている。島の人たちが使い、その後価値を失ったモノの遺跡か、時間の遺産か。封印されているのは大切な記憶。

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 柳幸典の『バンザイ・コーナー 96』も円形の作品。ウルトラマンのフィギュアがいっぱいでメチャ面白い。でも撮影不可なので、文章だけでご紹介。鏡を直角に立てたコーナーに、ウルトラマンやセブンやエースが両腕をあげ、まさにバンザイのポーズで放射状に並ぶ。なので、見た目は赤と銀色のきれいな円。そんな作品です。 

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2022年11月 8日 (火)

人間に興味、の作品

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 天窓から光が差し込む場所に鎮座している派手なネオン管の作品は、ブルース・ナウマンの『100生きて死ね』。三階分の吹き抜け空間はこの作品専用の場。じつはこんな満艦飾に見える時間は少ない。一つずつランダムに点滅しているのが二つになり、三つに増え、徐々に派手さを増してくる。「ひっそり」から、「にぎやか」へ。

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 CRY AND DIE   CRY AND LIVE     RUN AND DIE   RUN AND LIVE  などなど。人が生きるうえでの基本的な行動や感情を示すワードに、「生きろ」と「死ね」を対比して組み合わせた100のフレーズ。点滅するこれらを次々と目で追っていく間に、あなたは何を思うだろうか。言葉によるイメージ喚起。その考え方は「詩」に近い。

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 チャッ、チャッ、チャッ... ガァ、ガァ、ガァ... と美術館らしからぬ騒音が聞こえる方へ向かうと、ジョナサン・ボロフスキーの『三人のおしゃべりする人』がある。何語でもない、でもたしかに人がしゃべっている音。3体が口を動かしながら絶え間なくしゃべり続ける姿は、キモかわいい。人間はコミュニケーションが命の動物だねぇ。

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 街角で友人に出会って「よっ!」と声をかけた瞬間? ジョエル・シャピロの2013年作『無題』は、新たにコレクションに加わった作品のようだ。長方形というかシンプルな直方体を組み合わせただけで、こんなに生き生きとした姿を造形する作家の力に驚きました。『無題』ですが、晴れやかで快活な気分まで伝わってきます。

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2022年11月 6日 (日)

現代アートの島の中心

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 自然・建築・アートの共生をコンセプトに、1992年に開館したベネッセハウス ミュージアム。直島南部の高台に、安藤忠雄が設計した美術館とホテルを兼ねる施設です。アーティストたちがこの場所のために制作した作品と、コレクション作品を展示。豊かな瀬戸内の自然のなかで現代アートと触れ合う。サイコーの体験です。

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 現代アートの聖地として世界中からファンを迎える直島。ここがその発端となった施設です。美術鑑賞は屋内とは限らない。そこかしこで作品に出会えるように、中庭や、階段や、スロープや、テラスが複雑に入り組んだ構造。そして然るべき場所に、然るべき作品が。宝探しのように巡る喜びを体感できる、さすが安藤建築です。

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 ここで紹介している作品は、セザールが金属製ポットを潰して集めた『モナコを讃えて MC12』、杉本博司の名作『海景』の瀬戸内版『タイム・エクスポーズド』、リチャード・ロングが直島に滞在して作った『十五夜の石の円』、大竹伸朗が宇和島の造船所で見つけた型枠から作った『シップヤード・ワークス 船底と穴』。

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 本当に素晴らしい作品を展示しているベネッセハウス ミュージアム。ですが、不満な点があります。それはホテルの予約が全然取れないこと。あまり先の予定をたてず、天気予報を眺めながら「そうだ、明後日から行こう!」的な行動パターンでは、永遠にムリ。でも早く予約して当日天気が悪いとイヤですよね。こりぁ難題です。

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2022年11月 4日 (金)

始まりは家プロジェクト

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 直島の本村地区。空き家になっていた家屋や寺社を改修し、名だたるアーティストが空間そのものを作品化する『家プロジェクト』。20数年前に始まった当時、画期的な発想に驚いたものです。路地から路地へ集落を巡り、作品を観てまわる。この仕組みが、その後の瀬戸内国際芸術祭へと発展する重要な要素になったと思います。

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 プロジェクトの記念すべき第一号が『角屋』。宮島達男の《Sea of Time '98》という作品のための空間だ。築200年以上の空き家の内部は、プールのように水が満たされている。そこに125個のLEDデジタルカウンターが配置され、猛烈なスピードで明滅を繰り返し、変わっていく数字。よく見ると一つずつ微妙にスピードが違うのだ。

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 写真ではわからないけれど、00から60までの数字を瞬速で刻んでいる。表しているのは流れている時間。だけど時間の感覚は人によってみんな違う。だからデジタル数字の進み方がバラバラなのだ。島の歴史や、個人のなかに流れる時間。長いのか、短いのか。もしかしたら絶対的な時間の尺度なんてないのかもしれない。

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 小高い山の上に建つ『護王神社』。江戸時代から続く神社を、杉本博司がアート作品として再建しました。白い石が敷き詰められ、なんど来ても神聖な気分になるスポットです。こじんまりした祠に、神事を行う舞台。でもどこがアートなのか、はて?という感じ。で、拝殿に近づくと、階段がガラスの塊で出来ているじゃないですか。

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 それだけ? じゃありません。丘を横に回り込むと、古墳のように社殿の下へ潜る横穴が開いている。懐中電灯で足元を照らして奥まで入ると、暗闇に光り輝く階段が。あのガラスの階段が地底まで続いているのです。光を透過して、まるで地底から天へ昇って神に会いに行くための道筋を指し示すかのように。納得、感動!

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 『南寺』はジェームス・タレルの作品。10数年前には残念ながら見えなかったので、リベンジです。しかし今回も不発。私の視覚に問題があるのかも知れません。あとは千住博、須田悦弘、大竹伸朗の作品が、改修した建物と一体になって展開されている本村地区の『家プロジェクト』。共通チケットで観てまわれます。

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2022年11月 2日 (水)

三分一博志の直島プラン

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 2015年に完成した、檜葺きの大屋根が美しい『直島ホール』。島でよく見られる入母屋造りの屋根形状をデザインした、三分一博志の設計です。町民が多目的に利用する大きな公共建築だけどエアコンがない。風向きを考え抜いて開けた風穴で、空気循環を促すから必要ないのだ。こんな哲学で彼が進めるのが直島プラン。

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  The Naoshima Plan / 直島プランは、徹底的な調査から始まった。各集落の地形、風の流れ、水路の向き、太陽の動き。そして自然と共生する暮らしから生まれた文化と歴史。「調査から見えてきたのは、直島はまさに風と水と太陽の島である」ということだと彼は言う。これを建築を手段として後世に伝えるのが現代の役割だと。

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 本村地区、築200年の旧家の改修は Plan「水」。豊富な井戸水を活用した水盤を設置して、家も庭も、浮かんだように水とともにある。その上を南北に通り抜ける風は肌に心地よい。しかも土塀は竹で編んだ骨組みだけ。風も光も景観も、独り占めするのではなく、隣に受け渡す。伝統的に受け継がれてきたこの島の思想です。

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 宮ノ浦地区には Plan 「住」。これは島に移住する人たちのための住まい。限られた資源やエネルギーをいかに有効に生かすか。この地域でいかに「知的」に住まうか、を考えた古民家再生プロジェクト。風の流れ、水の役割、古い要素と新しい素材の調和。数百年先の直島にサステイナブルで質の高い「住」を受け渡す計画です。

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 古い建物と新しい長屋風の居室の間、中庭に当たる空間には水路が設けられている。居室は一切ムダがない簡素でミニマルな美しさ。使える材料は活用し、そこに新風を注ぎ込む。瀬戸内ならではの光、空気、水という基本要素を盛り込んだ住環境。三分一博志は直島を舞台に住まうことの意味を問い直しているのです。 

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2022年10月31日 (月)

大竹伸朗と横尾忠則

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 豊島の家浦で、二つのアートスポットをまわる。ひとつは瀬戸芸ではおなじみの、大竹伸朗の作品『針工場』です。宇和島の造船所に30年間も放置されていた漁船を作るための木型と、ここ家浦で打ち捨てられる寸前だった旧針工場が奇跡の出会い。過剰なほど装飾を凝らす大竹伸朗にしては、見た目とてもシンプルな異色作です。

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 船型なんて見たこともなかったが、予想外に大きくて驚いた。そして無駄のない合理的な造形は、博物館で見る恐竜の骨格標本のよう。展示されている工場跡も、壁や窓は取っ払われて、屋根と柱の骨格だけ。幾何学的な影も美しい。よく晴れた日に来られてラッキーでした。それぞれに込められた豊潤な時間は饒舌です。 

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 もう一つは、建築家・永山祐子が古い民家を改修して出現した豊島横尾館。黒い焼き杉板と赤い色ガラスを使って、「生と死」をテーマとする横尾忠則ワンダーランドをこの世に具現化しました。円形の塔の内部に入ると、無数の滝の絵に包まれる。じつは床(と、たぶん天井)が鏡でできている。上下周囲、滝の無限ループ。

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 山水の庭。配置された岩は真っ赤に塗られている。鶴と亀のオブジェは金色だ。表の庭から床下を通り抜ける池泉には錦鯉が泳ぐ。床はガラス張り。歩くのがちょっと怖い。これが横尾さんの極楽のイメージ? お寺も教会も、極楽浄土や天国を大衆に見せるのが目的の施設。これが建築やアートの出発点のひとつなのだ。

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2022年10月29日 (土)

少ない要素、深い思索

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天上の神と交信するためか。ただ単に美のためか。シンプルを極めた高さ18.5mの高い柱。直島の谷あいから海辺に向かう地形に、李禹煥(リウファン)美術館はある。安藤忠雄の建築とのコラボでできたこの美術館。屋外の大きな作品と、屋内の比較的小さい作品とで内外が一体となったアート空間を構成している。

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 この「柱の広場」からゆるやかに海へ下っていくと、これまた巨大なアーチがある。橋なら渡りたくなるし、門ならくぐりたくなる。
どちらも異世界との境界だから。知らない世界を見たい、新しいモノに会いたい、というのは人間の本性。アーチ=門の先は海からあの世へ続いているのかも知れない、と無意識に感じて歩いていく。

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 くぐりぬけて振り返ると、ずっと向こうに柱が見える。あれ、柱が神の依り代だとしたら、アーチの山側があの世で、海側のこちらが現世か。だだっ広い芝生の空間に、あるのはコンクリートと鉄と自然石。カタチも直線や放物線。最小の要素で作られた無機的なモノだから、逆に思索にふけるのかもしれない。人間って不思議。

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 芝生の広場には、こんな作品もありました。なぜか人間が微笑んでいるように見えてくる。そんな自分に苦笑い。周りには誰もいないのに、ちょっと恥ずかしくてうつむいてしまう。動物や、草花や、自然の風景までも、擬人化して理解しようとする。これは長年沁みついた悪しき習慣。もっと無心になって、「あるがまま」を見なきゃ。

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2022年10月27日 (木)

女木島を駆け足めぐり

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 フェリーを降りて岸壁沿いを歩くと、4本マストが見えてくる。帆が立っているのは青銅製のグランドピアノ。ピアノから流れる音楽と波の音が呼応する、禿鷹墳上の『20世紀の回想』という作品。

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 レアンドロ・エルリッヒの『ランドリー』。ここはコインランドリーか、と思ったら丸い窓から見える洗濯物は映像でした。フェイクです。でも部屋の反対側には本物の洗濯機が。虚構と現実が同居する。

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 原倫太郎+の作品は『ピンポン・シー』。ここはだれでも自由にプレイできる海の上の卓球テーマパーク。みんなで様々な向きで打ち合える巨大卓球台や、アイデアあふれたオリジナル台で楽しもう。

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 廃棄された不要品や島に持ち込まれたモノを、照明器具に生まれ変わらせる、岩沢兄弟の『鬼ヶ島ピカピカセンター』。ここ女木島には鬼ヶ島伝説があるのだ。展示、販売、加工サービスも。

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 今回の女木島は夕方に、ホント駆け足で港の近くだけを巡りました。見送ってくれるのは防波堤に並ぶ300羽のカモメたち。風が吹くといっせいに向きを変える、木村崇人の『カモメの駐車場』でした。

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