2022年12月13日 (火)

中辻悦子さん、健在です

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 中辻悦子さんは人に興味を持ち続ける。特に眼に。阪神百貨店の広告デザイナーとしての仕事から、現在進行形の作品まで。絵画、デザイン、版画、オブジェ、コラージュ、絵本、立体、インスタレーション、舞台美術・・・彼女の半世紀以上にわたる活動の多彩さがわかる、『中辻悦子 起・承・転・転』展が開催されている。

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 夫の元永定正さんを通して「具体」の創作精神に触れ、自分だけの表現を追求してきた中辻さん。アーティストの妻として、3人の子の母として、制作の時間や場所の制約が多いなか、その時その時に可能な方法や素材を発見し活用して、おもしろい作品を作ってきた。それは才能か?センスか?努力か? その全部でしょう。

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 それは、しっかり見る目と活かすアイデアさえあれば、創作のネタは身近にいっぱい転がっているということを示している。「家族のシリーズ」、「ポコ・ピン」の連作、「合図ーeyes」シリーズなどを見ても、素材を変えたり色を変えたり、いろいろ楽しんでるなぁと思わせる。自分自身が一番おもしろがっているんだろうなぁ。

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 おもしろくて、ケッタイで、一人ひとりみんな違う。そんな人間が好きでたまらない気持ちを、研ぎ澄まされたシンプルさとユーモア感覚でカタチにする。ヒトを表現する喜び。ヒトとして生きる喜び。これまでも、これからも、中辻悦子はヒトという生き物を見つめ続けることでしょう。起・承・転・転。「結」はまだまだ訪れそうにない。

中辻悦子 起・承・転・転
2022年11月1日(火)~2023年1月22日(日)
BBプラザ美術館

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2022年12月 4日 (日)

川崎美術館とは何か

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 改修工事でしばらく休館していた神戸市立博物館で『よみがえる川崎美術館』展が開催されています。ドリス式の円柱が並ぶ新古典様式の重厚な建物。これは昭和10年(1935)に竣工した旧 横浜正金銀行(現 三菱UFJ銀行)神戸支店を博物館に転用したもの。神戸港が世界からの玄関口だった頃の栄華がしのばれます。

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 川崎美術館は明治23年(1890)に開館した日本初の私設美術館。川崎重工や神戸新聞社などを創業した実業家・川崎正蔵が、今のJR新神戸駅がある布引に開設したという。明治維新により文明開化や廃仏毀釈が叫ばれ、価値を失った日本や東洋の美術品。それらが海外へ流出する危機を憂い、彼は収集を始めた。

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 川崎の偉いところは、集めたコレクションを秘蔵せず広く公開を目指したところ。その後、昭和の金融恐慌をきっかけに収蔵品は散逸。今回の展覧会で、約100年ぶりに「川崎正蔵が守り伝えた美」が神戸に集う。国宝や重要文化財を含む多くの作品や貴重な資料が、当時の展示に基づいて再現されているのも興味深い。

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 狩野孝信「牧馬図屏風」や狩野探幽「桐鳳凰図屏風」など、桃山から江戸時代の名品は特に素晴らしい。また円山応挙の8面「月夜浮舟図・江頭月夜図」、12面「海辺老松図」、8面「江岸楊柳図」、4面「雪景山水図」の襖は圧巻だ。13ー14世紀、元や南宋からの到来した作品、足利将軍家が所蔵していた品など多彩です。

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 ほか作家名だけ並べると、土佐光起、狩野永徳、狩野山楽、勝川春草、葛飾北斎、雪舟、与謝蕪村などなど。そして明治から大正時代にかけて七宝焼きの名工、梶佐太郎が作った花瓶や香炉が10数点並ぶ。造船業を中心に神戸で財を成し、神戸で花開いた川崎正蔵の文化事業。再び神戸で夢の美術館がよみがえりました。

神戸市立博物館 開館40周年記念特別展
よみがえる川崎美術館
2022年10月15日(土)~12月4日(日)
神戸市立博物館

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2022年11月24日 (木)

アズレージョを知った

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 海を思わせる深く鮮やかなブルーが美しいアズレージョは、ポルトガルの伝統的な装飾タイル。500年ほど前にイスラム世界から伝わり、時代を重ね表現も技法も多彩に発展したそうです。ポルトガルではアズレージョで飾られた美しい建築や街が、風景、文化、暮らしに溶け込んで、国中いたるところで目に入るという。

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 青の美に惚れ込んだアーティスト石井春さんは、この20数年というもの毎年現地の工房に通い続けて技術を習得。伝統に根ざしながら、新たな表現を追求している。いま竹中大工道具館で開催中の『石井春 アズレージョと空間』展。建築のパーツだった装飾タイルを、空間を彩る現代アートに昇華した作品群が楽しめます。

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 タイルで茶室を作ることを思いついた石井さん。千利休が考えた最も小さい茶室形式『一畳台目』を仕上げました。炉も切ってある。その周りに蹲踞(つくばい)や打ち水など「水の庭」を巡らせたという。日本人ならではの美意識とポルトガルの伝統が見事に合体。ユーラシアの西端と東端がつながった壮大な作品です。

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 茶室から眺めるのは『しずく』。壁一面に「しとしと降る雨のしずく」を小さく丸いタイルで表現した作品。静かで穏やかな気持ちになる、禅の雰囲気を醸し出すインスタレーションです。中庭には青磁のキューブタイルを並べた『海風の道』。室内外のそこかしこに竹中大工道具館という建築物をうまく活用した展示が続く。

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 タイルには実に様々な色、カタチ、質感がある。そこに石井春という日本人の感性と造形作家としてのアイデアが加わって、いままではなかった独創的な作品が生まれました。その作品が置かれることによって変容する空間。屋外ならばなおさら、季節や天気や時間帯によって、同じ表情は二度と見ることができない。一期一会。

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 アズレージョを再構築して創造された石井春のアート作品。20世紀を形成する禁欲的なモダンズム建築に、潤いと色気を補う貴重なファクターになるのではないでしょうか。西洋と東洋の文化が影響を与え合って誕生した21世紀の文化。ちょっと注目です。

石井春
アズレージョと空間
2022年10月1日(土)から12月4日(日)
竹中大工道具館 

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2022年11月20日 (日)

色が氾濫するパレット

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 横尾忠則現代美術館は、横尾さんの作品しか展示しない。個人名を冠した美術館ならトーゼンと思われるかもしれませんが、必ずしもそうと決まっているわけではない。たとえば丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。所蔵作品も建築もとてもいい美術館ですが、他の現代作家のエッジが利いた企画展もしばしば開催される。

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 一作家でこれだけの企画展を次々と展開できるのは、圧倒的な量の作品を所蔵している Y+T MOCA ならでは。とはいえ、毎回毎回新しい切り口で展覧会を企画しないといけない学芸員の方々は、毎回毎回アタマを悩ませておられることでしょう。だんだんタネが尽きてくるし、だんだんだんだんアイデアの泉も枯れてくる。

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 開館10周年記念の今回は、横尾作品の特徴である鮮やかな「色」に着目した『横尾さんのパレット』という展覧会です。制作年代も、テーマも、表現技法も、一回すべて忘れて色彩で分類してみる。そして展示室を色が氾濫するパレットに見立てて、ヨコオワールドを再構築したという。なるほど!その手があったか! 

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 2Fの展示室は、赤の部屋、緑の部屋、黄色の部屋、そして青の部屋へと続く。同じモチーフが繰り返し現れるのは、横尾さんの特徴の一つ。それぞれの人やモノが、色が変わるたびに印象が変わる。この企画で初めて体感しました。しかも展示空間そのものが圧倒的な「色彩」のパワーにあふれている。迫ってくるのだ。

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 3Fには黒の部屋と白の部屋。こうやって並ぶと、黒も、白も色なんですねぇ。しかも赤緑黄青黒白、どの色にもキャラクターがある。どんな性格を感じるかは人それぞれでしょうが。告白すれば、8月に始まっていたこの展覧会、もうひとつ気が乗らなかったのです。でも、来てみたら思いがけない新鮮な驚きと発見がありました。

開館10周年記念展
横尾さんのパレット
2022年8月6日(土)~12月25日(日)
横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA 

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2022年9月22日 (木)

戦場以外のキャパ

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 「世界最高のアート作品は?」と聞かれたら、迷わず「南仏ヴァンスにあるロザリオ礼拝堂」と答えます。壁画やステンドグラスを始め、建物外観から屋根の十字架や燭台、司祭の服までデザインしたのが、最晩年のマティス。体が不自由になり、長い棒の先に木炭をつけて壁画の下絵を描いている彼の写真は超有名です。

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 しかし、これを撮ったのがロバート・キャパだったとは知らなかった。巨匠ピカソが若い愛人に日傘をさしかけている、この作品もそう。もはや戦場カメラマンとは呼べないでしょ? ヘミングウェイやイングリッド・バーグマン、ジョン・ヒューストンなど、その人の本質にグッと迫る人物写真に、キャパの「もうひとつの顔」が見える。

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 ツール・ド・フランスの観戦写真もおもしろい。疾走する自転車は写さず、見物客が一斉に迎え一斉に見送る姿で瞬間のスピードと臨場感を伝えている。しかもユーモアのセンスでくるんで。これ以降、同じアイデアの表現が氾濫するのもうなずけます。カーニバルや競馬場やリゾート地を撮っても、彼流のスパイスを効かせて。

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 天性の戦場カメラマン。稀有の報道写真家。20年ほどの短い活動期間。謎に包まれた冒険家的生涯。世界中を飛び回って多様な傑作を撮り続けたキャパは、ファインダーから何を見ていたのでしょう。人間の愚かさ。人間のおかしみ。人間の素晴らしさ。喜怒哀楽をいやでも増幅させる戦争の時代を、彼は宿命的に生きたのだ。

ロバート・キャパ セレクト展
もうひとつの顔
2022年9月10日(土)~11月6日(日)
神戸ファッション美術館


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2022年9月19日 (月)

伝説の戦場カメラマン

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 世界で最も有名な写真が、ロバート・キャパの「共和国派民兵の死(崩れ落ちる兵士)」。スペイン内戦の最前線で撮影した歴史に残る名作です。この作品はまた、謎多きことでも有名だ。沢木耕太郎さんがこの作品について克明に取材し、『キャパの十字架』(文藝春秋)という上質のミステリーのような本を書いているほど。

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 1913年ハンガリーのブダペストに生まれ、1954年インドシナ戦争で地雷を踏み、40歳の若さで没。数々の戦場から命がけで撮影した写真を新聞や雑誌に送り、世界の人々に衝撃を与え続けたキャパは、20世紀を代表する伝説の報道カメラマンです。本名アンドレ・フリードマン。ロバート・キャパはペンネームのようなもの。

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 ノルマンディー上陸作戦の第一陣に同行。最前線で銃弾、砲弾に身をさらしながら撮影した「D-デイ」シリーズは圧巻です。本人の手記『ちょっとピンぼけ』(文春文庫)でも詳しく書いている。戦争の残虐と非道を憎み続け、写し続けたキャパですが、この著書では恋についても、死についても、人間味あふれる一面も見せている。
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 いま神戸ファッション美術館で開催中の、『ロバート・キャパ セレクト展 もうひとつの顔』とタイトルがつけられた展覧会。悲惨な戦場だけではなく、不安な戦時下を生きる市民の姿もたくさんカメラに収められている。戦争という得体のしれない事象より、それにかかわる人間という存在に、もっと興味を抱いていたのでしょうか。

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 展示されている作品は、八王子にある東京富士美術館が所蔵するロバート・キャパ・コレクションからだそうだ。その中から選ばれた約100点の写真や、書籍、資料を展示。とても見ごたえがあります。次回のブログでは、戦場カメラマン以外の「もうひとつの顔」、あまり知られていなかったキャパをご紹介したいと思います。

ロバート・キャパ セレクト展
もうひとつの顔
2022年9月10日(土)~11月6日(日)
神戸ファッション美術館

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2022年9月 1日 (木)

3年ぶりのボローニャ

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 世界で唯一の子どもの本専門の国際見本市「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」。コロナのために2020年、2021年とオンラインで開催されていたこのブックフェアが、3年ぶりにボローニャ現地で開催されました。フェアに合わせて絵本原画のコンクールも行われ、世界各地から多くのアーティストが5点1組の作品で参加。

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 過去最多の92カ国3,873組の応募があったそうだ。そのうち日本人4人を含む29カ国78人のアーティストが入選。1978年から西宮市大谷記念美術館で続けてきた『ボローニャ国際絵本原画展』では、今回もそのすべての入選作を展示している。ウクライナも、ロシアも。台湾も、中国も。すべて同列に、公平に審査される。

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 やっぱり国が違えば、表現も変わるんだなぁ。文化の背景が違うと発想も違う。絵のトーンや色使いも変わる。フランス、イラン、コロンビア、韓国、スロヴァキア、イタリア、メキシコ・・・。世界は広い。地球は多様性にあふれている。素晴らしいことだと思います。参加するアーティストも良い刺激を受け合っていることでしょう。

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 表現手法は時代の流れか、絵本原画だけにデジタルメディアが多い。ただしデジタル化する前段階はアクリル、グアッシュ、鉛筆、パステル、墨、マーカー、水彩、ペン、版画など多種多様な画材を制限なく使っている。なかには切り絵や刺繡、異素材のコラージュも。アーティスト個人の特色が出ていて、とてもおもしろい。

2022 イタリア ボローニャ
国際絵本原画展
2022年8月13日(土)~9月25日(日)
西宮市大谷記念美術館

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2022年8月26日 (金)

武相荘の暮らしから

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 日本でいちばんカッコいい夫婦、白洲次郎と白洲正子の展覧会へ行ってきました。六甲アイランドの神戸ゆかりの美術館で開催されている、白洲次郎 生誕120周年記念特別展。彼らが暮らした東京郊外の古い農家は、武蔵と相模の国境に位置したことから『武相荘』と名付けられた。もちろん「無愛想」と掛けられている。

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 ケンブリッジに学び、英国流の教養と洗練されたマナーを身に付けた白洲次郎。第二次世界大戦後に吉田茂に請われてGHQとの折衝にあたる責任者となり、日本の復興に尽力する。プリンシプル(原則?)を生涯の信条とし、占領軍から「従順ならざる唯一の日本人」と煙たがられるも、強い信念で国と国民のために働く。

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 サンフランシスコ講和条約締結にも貢献するが、政治家にはならず、東北電力の会長や軽井沢ゴルフ倶楽部の理事長などを歴任。観たかった愛車1924年製ベントレーの展示は、残念ながら8月14日で終わっていましたが。「葬式無用 戒名不用」と書かれた、正子と子供たちにあてた遺言書。これも彼の信条のあらわれか。

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 正子はのほうが一般的には有名だ。小さいころから能を習い、アメリカにも留学。「美に東西はないように、好い趣味というのは世界共通なもの」。中年を過ぎてから『能面』、『かくれ里』、『西行』など多くの名著を世に出す。骨董愛好家、着物愛好家、随筆家、そして稀代の目利きとして好きなモノだけに囲まれて生きた彼女。

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 平安時代の壺も、明朝の器も、田舎で見つけた名もない鉢も、さらには北大路魯山人や富本健吉の作品も、彼女にとっては並列の価値。道具も使わなければ、美しくならない。きものも着なければ、身につかない。飾って眺めるものではなく、使ってこそ価値があると考える彼女の美学と哲学。清々しい潔さを感じます。

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 一目惚れで結婚した、と公言する次郎と正子。恵まれたハイソな育ちで、しかも自分独自の世界を極めてトップの活躍をした二人。この時代では稀有なスーパーカップルです。次郎によると「夫婦円満の秘訣は、一緒にいないこと」。それぞれ自由に飛び回りながら、互いに尊重し信頼で結ばれた、対等のパートナーだったのだ。

白洲次郎・白洲正子
武相荘 折々のくらし
2022年7月16日(土)~9月25日(日)
神戸ゆかりの美術館

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2022年8月12日 (金)

己全体を賭けた NON

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 旧態依然とした日本社会や美術界の変革を目指した岡本太郎。抽象と具象、愛と憎、美と醜など、対立する要素が生み出す軋轢のエネルギーを提示する「対極主義」を掲げた芸術運動を開始。生涯をかけて闘ったのは、伝統、因習、常識、固定観念。特に古くから続く借り物の美意識には、全身全霊でNONを突きつけた。

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  今日の芸術は、うまくあってはいけない。
  きれいであってはならない。
  ここちよくあってはならない。
                        『今日の芸術』(光文社 1954年)より
 うまい、きれい、ここちよい。こんな美学や評価は強烈に否定する。何も考えず、惰性で作品を作るのは芸術ではない。

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 また彼はこんな風にも言っている。
   ゴッホは美しい。しかしきれいではない。
   ピカソは美しい。しかし、けっしてきれいではない。
昔からある「きれい」ではなく、自分自身の目と頭で捉えた現代の「美しい」を求めているのだ。ほかの芸術家にも、自身にも厳しく。

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 今回の展覧会では、あまり知られていなかった晩年の油彩画がたくさん展示されている。『太陽の塔』以後、さらにパワーアップしたTAROが、世界に対して社会に対して孤独に闘い続けていたのだ。人間の根源的な力と豊かさを信じた岡本太郎。日本が生んだ破天荒な巨人を再発見する、あっぱれな展覧会でした。

展覧会 岡本太郎
2022年7月23日(土)~10月2日(日)
大阪中之島美術館

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2022年8月 7日 (日)

太陽の塔、だけじゃない

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 TARO作品で一番ポピュラーなのが1970年大阪万博の『太陽の塔』。万博のテーマである「人類の進歩と調和」に反発した太郎は「べらぼうなものを作ってやる」と言って、高さ60mの広場の屋根を突き破る70mの塔を企画。でもテーマ展示プロデューサーを辞めさせられるどころか、無理やり実現できた大らかな時代でした。

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 手法もカンヴァスに油彩という従来の平面作品から、立体になり、工業製品になり、素材も驚くほど自由に多彩になった。FRP、陶、木、ひも、ガラス、ブロンズ・・・彼の手にかかれば何でも唯一無二なTARO作品になるのはさすがです。「全生命が瞬間に開ききること。それが爆発だ」と言う彼の圧倒的なエネルギーを感じます。

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 大衆の中の芸術を標榜し、照明器具や椅子、掛け時計やチョコレート缶、ネクタイ、スカーフやアロハシャツまで、コラボグッズを数多く手掛けた。古い体質の美術界から、商業主義だと批判されても一切気にかけない。芸術の垣根を取っ払った幅広い表現活動は、後に続くアーティストに大きな勇気を与えてくれました。

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 美術あるいは日本という小さな枠にとらわれず、「猛烈に生きる人間」として多岐にわたって活躍。偉ぶることなくTV-CMやバラエティ番組にも出演し、豊かなタレント性を発揮した太郎。子どもでも知っている時代の寵児になりました。「芸術」を特権階級だけのモノではなく、みんなが身近に楽しみ批判できるモノに変えたのです。

展覧会 岡本太郎
2022年7月23日(土)~10月2日(日)
大阪中之島美術館 

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