ヤンチョビ博士に会いました
やさしい色合い。フワンとしたカタチ。半透明でマットな素材。六甲枝垂れの前に設置された岩城典子さんの『ヤンチョビ博士』が素晴らしい。「ヤンチョビ」って何だろう? 意味はわからなくても、どこかヤンチョビな感じ。石垣に腰かけて、物思いにふけっているのか、大阪湾を眺めているのか。物語を感じる背中です。
シュールだけれど、ほのぼのしてる。ベルギーのジャン=ミシェル・フォロンを彷彿とさせる世界。ヤンチョビの住人たちはみんな頭にプロペラを載せているらしい。空を飛ぶのだろうか。犬までプロペラをつけている。ということは空が住処かも。雲の中に住まいがあって、学校もあって、街が広がっていて。妄想も広がっていく。
そして心臓(?)がボーっと光る。明るくなったり、暗くなったり。オブジェのふりをしているけれど、生きているに違いない。人々が寝静まったらもぞもぞ動き出すのかも。はるか遠くの宇宙人のような、すぐ近くの住人のような不思議なキャラクター。きっと穏やかな思索の人=ヤンチョビ。お友達になってもいいと思いました。
もう一点ご紹介しましょう。子どもたちがガラス箱の中を覗き込んでいます。何だと思いますか。これは前田真治さんが作った新しい概念の立体アート作品。競馬や競艇の外れ券を大量に集めて積み上げたもの。しかも展示した場所の土地の価値と同額の外れ券だという。なるほど!と合点しました。しかし、これがアートと言えるのかと思われる方もいるかもしれません。
ここに表現されているのは、人間の情熱、欲望、時間、労力、希望、失望、喜び、悲しみ、怒り、後悔などなど。ありとあらゆる感情とたくさんの夢と挫折。あるいは血と汗と涙の人生。アーティストは「思い通りにいかないのが人生、だからおもしろいんだよ」と言っているのかもしれない。ま、鑑賞者にこんな想像を起こさせることこそアートの力。作品名が『cashless』というのも意味深です。
六甲ミーツ・アート
芸術散歩 2019
2019年9月13日(金)~11月24日(日)
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