2017年11月15日 (水)

軽井沢の光を浴びる美術館

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 西沢立衛による建築が見どころの軽井沢千住博美術館。敷地の自然な勾配や高低差を生かしてそのまま床面にした、西沢さんらしい建築です。豊島美術館やローザンヌ連邦工科大学ラーニングセンターなどでもおなじみの手法だ。土地の起伏そのままにゆるやかに傾斜した白いコンクリートの空間。美しい曲線を描くガラスで囲まれた光の中庭。そこに植えられた樹々が季節の表情を映し出す。

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 人工的な建築物なのに、まるで有機体の体内に入ったような不思議なやすらぎが感じられる。風のまにまに、光のまにまに、自然のまにまに。床も屋根もガラスの壁も、フリーハンドで描いたような自由な曲線。生命体ってこういうものなんだ、と感じられる。敷地内の植栽はカラーリーフガーデンと呼ばれている。建物の周囲には色とりどりの葉を持つ木々や多年草が植えられ、ガラス壁の内部に植えられた木々と呼応。外と内の境界がぼやけてまる森の中にいるようだ。

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 個人美術館なのにアーティストの話が後回しになって、千住さんには大変失礼いたしました。「千住博さんと言えば、ウォーターフォール」という形容詞で語られる、滝をモチーフにした作品シリーズが世界的に有名だ。絵画を突き詰めて哲学的な高みにまで到達した世界が展開されている。館内すべてがワンルームというか区切りがない空間に、高低差や光の中庭などでゆるやかにスペースが分かれ、作品群がかたまりごとにゆったりと配置されている。

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 見ものはこの美術館の、この時期の企画展のために制作された映像作品「四季」。最初から動くことを前提としたアニメーションとは異なり、静止画である絵画を最新の映像技術によって動かそうとしたもの。静謐な滝を見ているうちに、ふと気付くと止まっていたはずの水が動き出し、水煙を上げて落下している。やがて桜や紅葉や雪景色が重なり、宇宙空間にまで変貌。それもやがて元の静止した滝に戻る。言葉にならない深い深い感動をおぼえました。

軽井沢千住博美術館

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2017年11月 9日 (木)

両国の北斎美術館へ

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 すみだ北斎美術館。江戸の絵師の美術館、とフツウに予想するイメージを大きく覆す未来的な建物。このアルミパネルとガラスでできた外観の建築は妹島和世さんの設計です。金沢21世紀美術館やルーブル美術館の別館であるルーブル・ランスなど世界の最先端を走る建築家が、世界のアーティストを魅了した北斎の故郷に建てる美術館。

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 北斎が生まれ暮らした墨田区に誕生した美術館。富嶽百景などの浮世絵は小さいので展示映えしない。信州小布施にあるような大きい肉筆作品は持ってこれないから、建築と展示方法に工夫を凝らしている。タッチパネルをたくさん並べて、観たいものを自由に見て解説を読むことができる。他の人を気にする必要がない。

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 そして北斎と娘の応為が画業に励む様子をリアルに伝える蝋人形でアトリエ(?)を再現。じーっと見ていると、あ、応為の筆が動いた! リアルに作れば作るほど不気味さも漂う蝋人形ですね。父娘そろって掃除などするヒマが合ったら絵を描いていたい人。部屋が汚れ紙くずがたまって生活しにくくなると引っ越しをする。狭いエリアで、なんと90回以上も転居したそうだ。

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 ちょうど開館1周年記念で企画展「妹島和世 SANAA×北斎」をやっていました。20分の1や10分の1の模型がたくさん展示されており、完成に至るまでの試行錯誤の跡がたどれておもしろかった。建築専攻の学生たちもたくさん来ていて、熱心にメモを取りながら回っていた。新しいモノを終生追求した北斎のこと、きっと最先端の試みを喜んでいることでしょう。

すみだ北斎美術館

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2017年5月18日 (木)

岡山県の奈義町現代美術館

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 荒川修作+マドリン・ギンズ、岡崎和郎、宮脇愛子の3組のアーティストが建築家・磯崎新と共同で創り上げた空間作品を観に、岡山県まで行ってきました。1995年に開館した奈義町現代美術館 Nagi MOCA。作品に合わせた建築、あるいは建物空間全体が作品になっている。だから現地に行かなければ見ることはできない。

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 この、わざわざそこへ行かないと観られないアート、というのは感動の深さが違う。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はミラノ、マティスの「ロザリオ礼拝堂」はヴァンス、ミケランジェロの最後の晩餐はヴァチカンへ行くしかない。奈義町よりずっと最近だが、西沢立衛と内藤礼による豊島美術館もこの考え方で創られた美の極致だ。古代ギリシャ・ローマやビザンチンのモザイク美術、中世からルネサンスの教会芸術を別にすれば、Nagi MOCAは世界でも新しい発想の美術館ではないでしょうか。

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 玄関から入って、まず宮脇愛子の展示室「大地」に作品《うつろひ》、次に岡崎和郎の展示室「月」に《HISASHIー補遺するもの》、そして荒川修作+マドリン・ギンズの展示室「太陽」に《偏在の場・奈義の龍安寺・建築する身体》。季節や時間や天気や周辺の音によって千変万化する空気を、全身の感覚で体験する。オーバーな言い方だが、自分自身が作品と一体化し作品世界の一部になったかのよう。

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 視覚、聴覚だけではなく触覚や平衡感覚まで総動員して味わう空間的作品と作品的空間。なんとも不思議でつかみどころがない、しかし世界に2つとない素晴らしいアートです。わざわざ観に行く価値のある、日本で数少ないミュージアムのひとつでしょう。

奈義町現代美術館
岡山県勝田郡奈義町豊沢441
9:30~17:00 月曜休館
 

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2017年3月30日 (木)

絹谷幸二、創造の喜びと楽しさ

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 大阪の街や海や山を見晴らす、絶景!梅田スカイビルのタワーウエスト27階に、絹谷幸二 天空美術館がオープンした。「美の力、芸術力によって、人類を元気にする新たなる芸術文化発信の拠点を目指します」とうたわれている。観客はまずシンボルゾーンの3D映像で度肝を抜かれ、展示ゾーン「青」と展示ゾーン「赤」の作品群を観てまわる。

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 カラフルで、曼荼羅的で、キッチュで、生命力にあふれた絹谷ワールド。数十点の平面作品と、とてもユニークな発泡スチロールを使った立体作品が迫力で迫ってくる。ヨーロッパの教会壁画で使われるフレスコ技法で描かれているので、色鮮やかでありながらマット調。油彩画のようなテカリはなく、独特の質感を出しているのがおもしろい。

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 富士山や風神雷神など日本的なモチーフから、古代ギリシャやルネサンス美術をリスペクトした西洋の彫像や天使からキュビズム風の人物像まで、時間と空間を自由自在に飛び越えてイメージの翼を広げている。いやぁパワフルなアーティストです。でないと「人類を元気に!」なんて言えないでしょう。1943年奈良県生まれ、まだまだ現役バリバリ! 創造を心から楽しんでいるようです。

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絹谷幸二 天空美術館
梅田スカイビル タワーウエスト27F
10時~18時 火曜休館
(金・土は10時~20時)

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2016年5月16日 (月)

街に根付いた21世紀美術館

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 開館してからもうすぐ12年。金沢21世紀美術館は、すっかり街になじんでいます。暮らしの中に溶け込んでいます。誰でもいつでも気軽に立ち寄ることができ、さまざまな出会いや体験の場となるような美術館。そんな妹島和世さんと西沢立衛さんが目指した『まちに開かれた公園のような美術館』は、10年をかけて市民のみなさんに愛され育てられてきたんだと思う。とても素晴らしい。

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 この美術館は円型のガラス壁で囲まれ、内と外の関係があいまいになっている。そして東西南北に出入り口があり、有料の展覧会スペース以外は自由に通り抜けができる。市民ギャラリーや情報ラウンジ、ミュージアムショップ、カフェなど、パブリックな空間がかなり多い。加賀友禅をモチーフにしたマイケル・リンの壁画作品の前に並べられたロッキングチェアには、仕事中にちょっこし休憩しているサラリーマンや歩き疲れた観光客がリラックスしている。いい風景じゃないですか。

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 ついこの前にフィレンツェのシニョーリア広場で見たヤン・ファーブル(先日のブログでジャン・ファーブルと書きましたが21世紀美術館の資料に発音を合わせます)の作品「雲を測る男」もありました。エルリッヒの「スイミング・プール」やジェームズ・タレル、アニッシュ・カプーアの作品など、世界の現在(いま)を体感できるアートも通りすがりで観ることができる。なんて幸せなんだろう。見方を変えれば、みんなに愛され、なんて幸せな美術館なんだろう、と思います。

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2015年12月 1日 (火)

雲に乗った菩薩たち

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 平等院鳳凰堂の大修理の完成とともに新しく開館したミュージアム、『鳳翔館』が素晴らしい。平安時代の建造物が並ぶ境内に、すっきりしたモダンな建物がまわりの景観をジャマせず控えめに建っている。貴重な文化財を収蔵するための最新の機能を備えるためには、やはり木造ではなくコンクリートの構造体が必要だったのでしょう。最近の美術館は建築家の作品性が収蔵する作品より勝っている場合が多々見受けられるが、この建物はヘンに主張せず、しかしその端正なたたずまいはとても好感が持てる。

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 ここに展示されているのはどれも平等院の宝物だが、特に素晴らしいのが『雲中供養菩薩』と呼ばれる52体の仏像。いずれも雲に乗って笛や太鼓、琴や手風琴などの楽器を演奏したり、軽やかにステップを踏み羽衣をあやつりダンスを踊ったり、みんな喜びにあふれじつに楽しげだ。そんな菩薩像が本尊の阿弥陀如来座像を囲むように長押の上の壁面に飾られているのだ。

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 もともとは色鮮やかに彩色され、金箔も貼られた絢爛たる姿だったらしい。それが長い年月の間に剥落していき、生地の木目が見えたりするようになっている。まるで後世の詫び寂びの世界のようだが、決してそんなものではない。当時の華やかさは想像するしかないが、その生き生きした表情や躍動する肉体の美しさは、まるで近代彫刻のようだ。

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 この鳳翔館には本堂の内部壁面が原寸で復元された展示室もある。赤、青、緑・・・まさに極楽浄土とはこんなところだ、と当時の人々が考えたであろう姿で花や幾何学的なパターンが描かれている。そこに安置された金色に輝く阿弥陀如来座像とそれを取り巻く雲中供養菩薩。生きているうちに功徳を積んで、ぜひ浄土へ行きたいと藤原頼通ならずとも考えたに違いない。

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 大仏師定朝と彼の工房の仏師たちの作。西洋美術で言うルネサンス以降の人間主義を先取りしたような見事な出来栄え。作者の自由な感性とそれぞれの菩薩に対する親密な愛情まで感じられるじゃないですか。ギベルティやドナテッロに先行し、1,000年近く前にこんな名品が日本で生まれたことを誇りに思います。

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2015年7月26日 (日)

自然と生きる、呼吸するアート

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 「自然と共生するアート」などというと、すごく陳腐でひと昔前に地方の博覧会や町おこしイベントで飛び回っていた軽薄なプロデューサーのフレーズのようですね。でも新宮晋さんの作品は、本来の意味でこの言葉がぴったりくる。というのは、自然界の風や水がなかったら存在できない芸術だから。地球の営みから生まれるパワーをもらって動く、回る、表情を変える作品。自然の中で呼吸しているアートなのです。

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 新宮さんの作品は大きいけれどかわいい。そしていろんなイメージを呼び起こす。水辺で遊ぶ水鳥、子供を抱き上げて遊ぶ父親、アメリカを指さすコロンブス像・・・。いや、これは私個人のイメージであって、作家はまったく違う意図で創っているのだろう。でも作家は自分の考えを押し付けはしない。見た人ひとりひとりが感じたものこそが大切で、それこそが作品に接する正しい態度だから。

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 ひとつひとつの作品を部分的に見ていくと、思い浮かぶのが、幾何学、流体力学、材料工学、構造計算、そんな理系の言葉。でも全体から受ける印象は、ファンタジー、ヒューマン、ユーモラス、メルヘンなど、優しさにあふれた文系の言葉たち。この二面性、奥行きの深さが新宮芸術の神髄で、感動の源ではないでしょうか。機会がありましたら、ぜひ三田までお出かけください。入場は無料です。

新宮晋 風のミュージアム
兵庫県三田市 県立有馬富士自然公園

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2015年7月23日 (木)

新宮晋、風のミュージアム

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 あっちへゆらり、こっちへゆらり・・・金属でできた羽根のような造形物が、微妙かつ複雑な動きで揺れている。かと思えば、止まっていた円盤が急にスピードを速めて回転を始める。ここ『風のミュージアム』では、あるかないかほとんど感じない風から、ほほに心地よい風、帽子が飛ばされそうな強い風まで、目に見えない風を見える化した新宮晋さんのアートが鑑賞できる。いわば地球の息吹が聞こえる彫刻。1994
 みなさんも関西国際空港の出発ロビーで新宮作品をご覧になっていると思います。天井からぶら下がったブルーと黄色の大きな羽根のようなオブジェ。長さ15m、17基の作品がエアコンの風の流れでゆったり揺れている、あの作品です。

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 三田市の有馬富士県立自然公園の中に、新宮晋さんが兵庫県に寄贈した12点の作品が設置されている『風のミュージアム』。もちろん野外だから、関空よりもっと直截的に自然を感じられる。ピカピカのステンレスや腐食させて赤黒くなった鉄、あるいは樹脂や合金など、最先端科学の産物である素材を使いながら、環境に不思議にフィットした作品群。広大な芝生広場と池にそれらは散在している。
 自然の中を散策しながらひとつひとつ観てまわるのは、なかなか楽しい体験です。しかも健康的。梅雨明けの空の下、野外アート鑑賞会というのもよろしいかと思いますが。ただし熱中症にはお気をつけください。

新宮晋 風のミュージアム

兵庫県三田市 県立有馬富士自然公園

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2014年1月19日 (日)

未発表のターナー

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 ターナー展の展示作品の中には、生前に発表されなかったものがいくつもある。それがどれもいいのだ。今回の展覧会で「いいな」と思った作品のうち、半分以上が未発表ないしは研究者によると未完とされているものだ。
 この「湖に沈む夕陽」を含め、それらは200年近く後の私の目から見ると、とても素晴らしい。もちろんターナーは作品が(同時代に)評価され売れることを願って制作活動をしていた。だから、未発表作品は後から何か描きくわえて完成させようとしたのか、描いたものの時代の好みや芸術観からかけ離れ(進みすぎ?)ていて、自分の名声を傷つけることを恐れて発表しなかったのか。現代のように作家が自由に作品作りをできる時代の我々が、あれこれ言うのは間違いでしょう。でも、制作過程でどの時点を完成とするかは、今も変わらぬ難問です。

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 当時ロンドンは発展を続けるヨーロッパ最大の都市だった。工場が林立し大気汚染も進んでいた。蒸気機関車が走る風景も描いたターナーは、産業革命後の新技術や新しい景観も好きだったようだ。つまり科学と技術の進歩による人類や世界の明るい未来を信じていた。それにしてはこの煤煙でどんよりした「ウォータールー橋上流のテムズ川」という油彩画はどうでしょう。ここで描かれているのは決して明るい未来ではない。まさか彼が環境保護に目覚めたなんてことは時代的にもありえない。芸術家の直観でもって、あるいは新しい美意識で描いたけれど、これではとても売り物にはならないと思って、発表を控えたのでしょうか。今ではそれも謎です。

神戸市立博物館
ターナー展 ー英国最高の巨匠ー
2014年1月11日(土)~4月6日(日)

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2014年1月16日 (木)

ターナーの先進

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 神戸市立博物館で「ターナー展」がスタートしました。19世紀前半に活躍した英国の巨匠ターナーの油彩、水彩、スケッチなどロンドンのテート・ギャラリーが所蔵する113点を展示する展覧会。初期から晩年まで、幅広く網羅して見ごたえ十分です。
 なかでもおもしろかったのは「カラー・ビギニング(色彩のはじまり)」と呼ばれる、水彩で描かれた習作群。それらは展覧会に出品するつもりも人に見せるつもりもなく、ターナー自身が興味の赴くままに光や空気を表現するための実験(あるいは試行錯誤)の産物だ。
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 ディテールを描き込むよりも、眺望や大気の現象を一瞬でとらえるスピード感を重視したその制作態度は、きわめてモダンだ。本質を大きくつかむ大切さを教えてくれます。これは絵画は何を伝えられるか、という現代まで通じるアートの大きな命題を示している。若くしてロイヤルアカデミーの正会員となったターナーは、いわば伝統的権威の象徴です。そんな彼が後世の印象派やさらには抽象絵画を先取りしたような革新的な作品を数多く残したのは、ほんとうにすごいことだと思います。
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 でも注意したいのは、彼の作品は決して抽象画ではない、ということ。あいまいな輪郭で何が描かれたかわからない、と当時の評論家からもボロクソに批判されたけれど、それは彼が時代より数歩先へ進んでいただけ。でも美術界に抽象という概念はまだ生まれていなかったし、なにより彼は望んでいなかった。ここにお見せした作品も、上から「にわか雨」、「バス・ロック島」、「城」と、彼がつけたタイトルではないにせよ名付けられている。目に見える事象を極限まで単純化して、色彩と形態の構成で表現するとこうなったのでしょう。いまその後の美術の歴史を知る私たちから見れば、それこそターナーの先進性にほかならないとわかるのですが。

神戸市立博物館
ターナー展 ー英国最高の巨匠ー
2014年1月11日(土)~4月6日(日)

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