« 2023年10月 | トップページ

2023年11月

2023年11月30日 (木)

安藤建築の昔と今

Photo_20231127110801

 前回に続き、神戸モダン建築祭の報告です。1977年にできた北野のローズガーデン。打ちっぱなしコンクリートが代名詞の安藤忠雄さんの作品ですが、これはレンガとコンクリート。でも吹き抜けの中庭をめぐる階段の空間処理などに、安藤建築の魅力が満開。2Fのアメリカンダイナーは空室になっていた。今後どうなるのでしょう。

Photo_20231127110901

 印象的なベンガラ色の壁と黒い梁。アメリカンなテーブルにシート、カウンターとスツール。ジュークボックスやピンボールも、とりあえずと言う感じでそのまま残されている。いいモノなんだけど、、、モダン建築の保存については難問山積だ。イベントの趣旨からすると異色なのが、東遊園地にできたばかりの『こども 本の森 神戸』。

Photo_20231127112001

 安藤さんが建物を作り、中に収める書物も選び、そっくり神戸市に寄贈した図書館だ。最新の安藤建築が、過去の名建築に肩を並べてモダン建築祭で見学できるのはうれしい限り。「モダン建築」と言う言葉からは、第二次世界大戦以前の、少なくとも20世紀の、というイメージがある。でも自由に柔軟に解釈してもいいと思います。

Photo_20231127112101

 さてこの図書館、本の表紙が全て見えるように並べられた設計が素晴らしい。しかも蔵書の選択が最高。こども図書館と思って入ったのに驚きました。『こども 本の森』という名前ですが、大人でもウナル興味深い本がズラリ。もし可能なら、毎日ここに通いたい。昔こんな図書館があったら人生が変わっただろうな、本当に。

| | コメント (0)

2023年11月27日 (月)

モダン建築祭で北野へ

Photo_20231125201901

 11月24日(金)、25日(土)、26日(日)の3日間、神戸でもモダン建築祭が開催されました。港町神戸の記憶を受け継ぐモダン建築が特別に公開されるイベントです。大阪や京都では開かれていましたが、神戸では初。普段は一般公開されていない建物・部屋を見学するため、パスポート片手に北野の異人館街へ向かいました。

   Photo_20231125204801

 北野メディウム邸(旧スタデニック邸)やシュウエケ邸はテラスが広いコロニアル様式に、屋根にはシャチホコが載っていたり、明治時代に日本に来て住んだ西洋人の趣味嗜好がうかがえて面白い。庭も芝生にソテツと松がバランスよく折衷された美意識。中華民國留日神戸華僑總會には、部屋の中に蒋介石の肖像画がある。

Photo_20231125204601

 サンルームにはゆったりくつろげるソファが並ぶ。壁やサイドテーブルには錦絵や象牙の細工物が飾られている。テーブルセッティングも再現されていて、ヴェネツィアングラスが並ぶ。カーペットもたぶんペルシャの高級品なのでしょう。港町なので貿易で財を成す外国人が多かった。異人館はそんな人たちのお屋敷なのです。

Photo_20231125205601

 異人館でフツーに見かける、手の込んだ細工の階段の手すりやドアノブ。今ではもう作れる職人さんがいない。アルミサッシの窓をはじめ、なんでも工場での大量生産になってしまった現代。わずか百数十年で、建築工法からディテールの技までこの変わりよう。建物を残すのはもちろんだけど、補修技術を残すのも大切ですね。

Photo_20231125224001

 法隆寺や姫路城など国宝級の建築物は誰も保存に異存はない。しかし近代のモダン建築となるとそうはいかない。誰かが意識的に保存を考えないと無くなってしまう。すべて経済性だ。個人に押し付けるのは無理があるし、税金を使うのも難しい。このイベントがそんな問題を考えるキッカケになればいいなと願っています。

| | コメント (0)

2023年11月24日 (金)

堀尾貞治の千点絵画

   Photo_20231121141101

 神戸のBBプラザ美術館で、いま『堀尾貞治 あたりまえのこと 千点絵画』展が開催中です。ギャラリーPAXREXにも毎週のように来ていただいていた堀尾さん。もう亡くなって5年になるんですね。あの「具体」のメンバーで、亡くなる前日まで毎朝欠かさず続けていたというドローイング鍛錬。生きることすべてがアートな方でした。

Bb

 2016年に大和郡山で延べ6日間にわたり千点の絵画を描いたプロジェクト(実際には1,028点制作)から、276点を展示。形状や色、サイズや画材、質感も技法も実にさまざまな作品が、壁にも床にもあふれている。作品リストによれば多い日は67点も制作。スピードと量を重視する創作哲学とはいえ、凄まじい集中力と瞬発力だ。

Photo_20231121144801

       あたりまえのことをしていけば   
       あたりまえでなくなり    
       やがて 力となる
                Sadaharu Horio

Photo_20231121150701

 「あたりまえのこと」を表現し、その場に沿った「空気」を可視化するためのいろんな美術表現に挑み続けた堀尾貞治。そして、ついにたどり着いた「表現を捨てることが自己の表現」という境地から、呼吸するように生み出された作品群は、長年の創作鍛錬の賜物です。この精力的な活動が、77歳のときだったとは驚きです。

Photo_20231121150702

 なお、この展覧会は NHK-Eテレの「日曜美術館 アートシーン」で放映されることが決定したそうです。ぜひテレビで観てください。ぜひ会場へ足を運んでください。人生の中心に美術を据え、生涯をかけてアートを追求した堀尾さんの熱い想いが伝わると思います。

堀尾貞治
あたりまえのこと
千点絵画
2023年10月17日(火)~12月24日(日)
BBプラザ美術館

| | コメント (0)

2023年11月21日 (火)

白い祈りの壁

Photo_20231120165501

 目の前に広がる白い壁。エルサレムの嘆きの壁のような荘厳な佇まい。『吉本直子 いのちをうたう  衣服、痕跡、その祈り』展の会場に足を踏み入れると、あきらかに空気が変わる。ミニマルで、静謐で、空間そのものが息をつめたような、そんな感じ。これはすごいアーティストの、とんでもない作品に出会ったぞと思いました。

Photo_20231120172701

 この壁は 高さ6.8m 横幅10.9m、『鼓動の庭』 A Garden Echoing with Heartbeats という作品。人が着用した白い古着を圧縮したブロックを大量に作り、日干しレンガのように積み上げた立体作品です。近づいてみれば、襟や縫い目や袖のボタンも見える。それら一つ一つが着ていた人の過ごした時間や記憶を宿す生の履歴。

Photo_20231120200401

 無名の個人が生きた履歴といえども膨大な量が集まれば、時代の大きなうねりを表す象徴的なモニュメントになりうる。また床に置かれた『地の残像』や『白の棺』は、古着のブロックから袖などを引っ張り出して造形。まるで天変地異による大地の割れ目や、白骨になった生命体の遺骸。静かに生と死のイメージを発する。

Photo_20231120204001

 作家の言葉です。「着用者の生きた時間、記憶、歴史を目には明らかではない痕跡としてとどめた衣服。それを素材として制作した立体は、耳には聞こえない叫び、願い、祈りを放っているように思えます。今を生きる無数の人々の生に思いを馳せ、個々の祈りが共生の祈りとなって響く空間を制作したいと思っています。」

吉本直子 いのちをうたう
衣服、痕跡、その祈り
2023年10月28日(土)~11月26日(日)
兵庫県立美術館

| | コメント (0)

2023年11月 8日 (水)

鏡の国の横尾忠則

Photo_20231104103201

 Yokoo in Wonderland 展の3F会場は、鏡の国。壁一面が少し凹凸があるアルミ箔のような素材で覆われている。照明も観客も、反対側の壁面に展示されている作品も、すべてが映り込む。床はもともとツルツルの白大理石なので、これもミラーのようによく映る。つまり実像も虚像も同じ平面上に同列に見える仕掛けになった空間。

Photo_20231104105401

 展示されている作品も、鏡の断片を貼り付けたり、教会の祭壇画のような折りたためる構造にしたり。たとえば『Greco's Madonna』ではエル・グレコの聖母マリアとマン・レイに横尾自身が同居する。時空を超えたイメージを思いのままにコラージュさせる発想そのものが、現実も非現実も、実像も虚像も超越しているのだ。

   Photo_20231105133901

 そして作品の中に割れた鏡の断片が貼り付けられている。キャンヴァスに絵の具で描かれたリアルな要素と、ミラーに映る画像が二重三重に呼応。しかも観客が動けば映り込む像は常に変化する。そこで生まれる思わぬギャップ。偶然の取り合わせによる新たなイメージの生成。ああ、観客も静かに参加しているのですね。

   Photo_20231105135301

 4F会場は夢の国。横尾忠則にしては小さめの『夢枕』シリーズ、計43点が並ぶ。B3ぐらいの紙に水彩で描かれた、眠る人と見ている夢の世界。悪夢も、甘美な夢も、幻想も、いわば夢日記を絵で記録する、画家ならでは私的な試みです。夢も欲望も恐れも、自らをさらけ出してアートを紡ぐ横尾さんの方法論が垣間見えました。

   Photo_20231105142101
Yokoo in Wonderland
横尾忠則の不思議の国
2023年9月16日(土)~12月24日(日)
Y+T MOCA
横尾忠則現代美術館

| | コメント (0)

2023年11月 4日 (土)

横尾忠則ワンダーランド

Photo_20231103143101

 ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』になぞらえた、横尾さんの展覧会『Yokoo in Wonderland 横尾忠則の不思議の国』が開催されています。アリスがウサギ穴から落ちて冒険が始まるように、会場の入り口に掲げられた作品の穴から入り込む。そこには洞窟があり、地底王国があり、海中や宇宙まで不思議ワールドが広がる。

Photo_20231103144001

 横尾さんが少年時代に胸ときめかせた異空間。まだ「少年サンデー」や「少年マガジン」が発行される前、「少年画報」などの月刊漫画誌が全盛時代のイメージが会場にあふれる。ターザンやUFO、深海の魚や怪人、死体や裸体。古代神話や異国の聖人、流れる血、ドキドキするエロス。イケないもの見たさが発露している。

1_20231103145501

 いまよりもっと情報が少ない時代。しかももっと子どもの目に触れさせない社会。そんな時代に育った横尾少年は、こっそり見る。隠れて見る。どこか犯罪者的な意識を抱えながらも、我慢するにはあまりにも魅力的な背徳の世界。そんな遠い日々の思考や妄想をみずみずしい感覚で描く、私小説的な絵画世界は妖しく美しい。

Swanlake

 キャンヴァスに何十本もの骨が貼り付けられた『Swan Lake』をはじめ、『黄色い死者』や「死者の誕生』。繰り返し現れる三島由紀夫や首吊りのモチーフなど、死の幻影と死後のイメージがあふれる。精神世界への傾倒、宗教への関心。ヨコオワールドの根底には生と死が織りなす不思議があると思いますが、いかがでしょうか。

Photo_20231103161301

 静止した絵画世界に動画の要素を取り入れたテクナメーションという技法・装置を使った12点の連作が、暗く照明を落とした一部屋を占めている。テクノロジー+アニメーションの造語で、裏から光を当てて透過光で作品を観る仕掛け。その絵の中で、例えば滝はとめどなく流れ落ちる。好奇心旺盛な横尾さんらしい取り組みだ。

Yokoo in Wonderland
横尾忠則の不思議の国
2023年9月16日(日)~12月24日(日)
Y+T MOCA
横尾忠則現代美術館

| | コメント (0)

« 2023年10月 | トップページ