抽象絵画の現在と作家たち
およそ100年ほど前に生まれた抽象絵画。絵画の到達点のひとつとして、20世紀後半の美術界を主導することになりました。しかし、これ一色というわけじゃない。表現方法はいろいろあっていい。作る側にも観る側にも、アートには最大限の自由が保障されるべきだ。そんな中で『抽象』が大きく勢力を伸ばしたのは、なぜだろう。
理由は単純。抽象芸術への理解が進んだから。つまりオモシロがる人や好きな人が増えたから。特定の誰かが評価や価値を決めるのではなく、不特定多数の意志が集まった結果なのです。「何だこりゃ」と不審に思う人。「こんなのアートじゃない」と怒る人。「難解でわからない」と毛嫌いする人。そんな人々が改宗したのです。
以前は子ども向けと思われていた漫画やアニメ、ストリートのグラフィティやデザインも、アート表現の大事な領域だという認識が高まったのと軌を一にしている。より自由に、より柔軟に、より民主的に、より大衆的に。アートの世界は拡張し、進化し、発展を続けているのだ。本当に楽しい時代になってきた。ワクワクします。
この展覧会は最後のセクション⑫で「現代の作家たち」を集めている。色、カタチ、質感・・・。追求の道はさまざま。ジャンルも国籍もばらばら。いろんな素材、いろんな手法で自身の内から湧き出る美的価値を表現している。リタ・アッカーマン、津上みゆき、柴田敏雄、Lou Zhenggang、鍵岡リグレ アンヌ、高畠依子、横溝美由紀。
絵の具のチョー厚塗りあり、インフラの写真あり、カンヴァスに漆喰あり、人工物のインスタレーションあり、書画の融合あり。まさに百花繚乱。『抽象絵画』にルールはない。できるだけたくさん観て、オモシロ味を感じ、新たな美を発見する。これに尽きます。暗闇でじっと目を凝らしていると、おぼろげに何かが見えてくる。あの感じ。
要するにたくさん見ると目が慣れてくる。アタマが『抽象』に反応しだすのだ。込められた意味など考えなくていい。逆に何らかのメッセージを感じるのも自由。作家も今までなかった独創の美を追求しているのだから、過去の基準は参考外。それこそ言葉にならない感動が沸き上がる。そんな作品が後世に残っていくのでしょう。
点、線、面、色彩、素材・・・絵の要素それ自体が持つ表現力を追求する具象的じゃない抽象絵画。まぁいくら言葉で説明しても、まさに抽象的でわかりづらい。それでもミニマルなモノから豊潤なモノまで、精緻なスタイルから奔放なスタイルまで。現代のアーティストは抽象絵画という大きな土俵の上で懸命に奮闘中です。
ABSTRACTION
抽象絵画の覚醒と展開
2023年6月3日(土)~8月20日(日)
アーティゾン美術館
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