上田優紀、登らないと撮れない
地球で一番高い場所からの風景。それは標高8848mのエベレストへ、自分の足で登らないと見ることはできません。当たり前です。とはいえ薄い空気や厳しい寒さや高山病と闘いながら、そこまでたどり着くには途方もない体力と強い精神力が必要でしょう。
「未知の景色を届け、人の心を豊かにしたい」と、写真家・上田優紀は世界の極地や僻地を撮影してまわっている。憧れの場所に自分で行くのが不可能な人のために、行って、見て、感じて、記録するのが写真家の仕事。行先のひとつが世界最高峰のエベレスト。
頂上へ至る道中で目にしたもの、体験したことを、撮影した作品の数々。この世のものとは思えない荘厳な美しさが伝わってきます。それとともにこんな極限の地(だからこそか)にも、挑戦する人がたくさんいることの現実。人間の欲望の深さも感じます。
高い山。深い海。熱い砂漠。凍り付く極地。命を懸けてでも行きたくなるのは「世界一」の場所。やはり「二番」じゃダメなんだ。フツーは見ることができない究極の場所やモノを記録して見せてくれる。これは写真や映像が担う最大の役割であり、最高の魅力。
展示方法というか鑑賞法もユニークです。片手ではめくれないほどの大きさの、写真集の体裁をとっている。観客が自分でページをヨイショとめくりながら、超大判の写真を手元で仔細に眺める。たしかにエベレストをじっくり感じるには最良の方法かもしれません。
登らないと撮れない、宇宙にいちばん近い景色。めくらないと現れない極限の世界。大日本印刷のDNPメディアアートならではの技術が生かされた展覧会です。写真のパワーの源泉は、シャッターを切るに至る行為にこそあるのだ、と改めて思い知らされました。
エベレスト
~宇宙にいちばん近い景色~
2023年3月17日(金)~7月14日(金)
DNPプラザ(東京・市谷)
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