言葉とアートの競演
アート作品や偉人から発せられるフレーズが木立のように配置された展示会場は、横尾忠則の小説『原郷の森』(文藝春秋刊)をイメージしたもの。おしゃれな光の演出は、木洩れ日が降り注ぐ様を照明器具で表現。魂の古里である森「Forest in Soul」を、ゆっくりと思索しながら逍遥する。絵だけでは得られない面白い体験です。
宇宙霊人からは「今日のYへのメッセージは等伯になれ、ということだ。そして、デュシャン、ピカソになれということ。」 デュシャンは「芸術というのは存在を作ることである。存在感ではないよ。存在だよ。」と言う。また「Yさん、意識的に描いたらフィクションになってしまいますよ」とも。芸術や人生について、いろんな意見が飛び交う。
三島由紀夫は「Yの中にあるズレ、画家としてのズレもある。それを修正するのではない。そのズレをズレとして考える。そのズレと戯れる前に認める、それが芸術だ。」と、難しいことを語る。ダ・ビンチは「今の画家は蝶の標本と同じで、発表の場が美術館で、それが画家の力を弱めた大きい理由です。」と真面目に述べる。
稲垣足穂は「大人子供で生きていかなきゃ だめだ」と言うし、キリコは「Y、視点という技術だよ。私も君と同じように少年の視点だよ」
と。江戸川乱歩の「知らない人は謎が解けるけど、知っている人は謎が解けない」という言葉も、これに近いのでしょうか。何事にも好奇心を持って、まっさらな気持ちで対峙する。それが重要ですね。
「Yさん、私は恐怖症と天界性のコマオトシだと思いますがいかがでしょうか」とチャップリン。「要するにYさんはゲテモンなんです」と谷崎潤一郎。山の神は「といいながら、こいつの芸術は便器だ」。澁澤龍彦は「ヨコスカ線タダノリ」。「あんた利口だと思っているの?」はキャサリン(誰?) うーん、ひどい言葉も並びます。
論客は芸術家に限らない。ブッダまで参加して「画家の中に文学が繁殖すると、カビのようなものになる」とのたまうのだ。この世であってこの世ではない場所。時間も空間も超えて、なんでも起こりうる原郷。幸いにして横尾さんには、小説で書いた芸術観や人生観を、具体的に見せるアート作品がある。だからこの展示は面白い。
横尾忠則 原郷の森
2023年5月27日(土)~8月27日(日)
横尾忠則現代美術館
Y+T MOCA
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