シリア難民の五輪スイマー
2016年リオデジャネイロ五輪では、初の難民選手団ROTが参加した。内戦や政情不安などで他国へ逃れたアスリートにも、夢の舞台へ出場する機会を与えようと、IOCが結成しました。そのメンバーの一人として100mバタフライと100m自由形に出場したユスラ・マルディ二。世界中に勇気を与えた彼女の、実話に基づいた物語。
姉と従兄弟とともに戦乱のシリアを脱出したユスラ。まずトルコへ。そしていろんな国から逃れてきた難民たちと密航業者のゴムボートに詰め込まれ、ギリシャのレスボス島へ。国境警備隊の目を盗みながら、悪徳業者に金をだまし取られながら、徒歩で、自動車で、ブルガリア、ハンガリーへと進む。陸路も海路も命懸けの旅。
2015年当時、何百万という難民がヨーロッパを目指して押し寄せている、というニュースを目にしていたけれど、どこか遠くの他人事のように感じていました。浜辺に捨てられた無数の救命胴衣。延々と続く鉄条網の壁。警備隊と警察犬。なんとかベルリンの難民センターへたどり着けた人は、よほど幸運に恵まれたのだと思い知る。
思わず「人生は不公平だ」と、姉妹が言いたくなるほど苦難に満ちた経験。それでも水泳をあきらめないウスラに、ついに幸運がやってくる。いい人に出会ったのだ。それが敏腕コーチのスヴェン。しかもIOCが難民選手団というカタチで五輪への道を開いてくれる。そのあたりの事情をサリー・エル・ホサイ二監督がテンポよく描く。
しかし水泳に打ち込む妹と身が入らない姉の間に、次第にミゾが出来てくる。シリアに残る家族の心配や難民申請の停滞。すんなりとは進まない。姉のサラは水泳をあきらめ、レスボス島で難民救済のボランティアにつく決断をする。それぞれの道を歩み始めた二人。戦争、社会、スポーツ、家族。多様な現代が描かれる。
そして晴れの舞台、リオ五輪。オリンピック出場が叶わなかった父親やコーチ。戦禍で苦しむシリアの人々や共に逃避行を続けた避難民たち。そんなすべての思いを背負って泳ぐ覚悟を決めたウスラ。レースシーンでは素直に応援していました。『スイマーズ:希望を託して』は、前向きに生きる勇気をもらえる良い映画です。
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