ピーター・シスの原点
1949年、共産党統治下のチェコスロバキアで生まれ育ったピーター・シス。ロサンジェルス五輪の仕事を機に、アメリカに亡命。アニメーション作家として、絵本作家として多くの人々を魅了し、国際アンデルセン賞やコールデコット・オナー賞など数々の栄誉に輝いた。その作品は自らが歩んできた人生を濃密に反映している。
厳しい監視や検閲で自由のない学校や社会。逆に自由に夢や希望を話せる家庭。家の内と外では全く違う環境だったという。それは仕事で海外を訪れることが多かった映像作家の父とアーティストの母がひそかに与えてくれた家庭教育環境。「かべ ― 鉄のカーテンのむこうに育って」や「リトル・シンガー」に、その想いが凝縮。
また「星の使者 ー ガリレオ・ガリレイ」や「生命の樹 ー チャールズ・ダーウィンの生涯」など、社会の偏見や抑圧に屈することなく、自ら信じた道を貫いた偉人たちを描いた伝記絵本のシリーズ。自由の意味と未知との遭遇を求める冒険の大切さ、真実を探求する勇気を子どもたちに伝えたい、と願う彼の哲学が描かれている。
彼が絵の中によく描く鳥や飛行機。それらは「かべ」を越えて外の世界へ飛び立つ自由を、シンボリックに表現するモティーフだ。情報が統制された冷戦下の共産党統治。「かべ」の中で育ったからこそ培われた、憧れ、愛、真実を希求する強い。展覧会の観客や絵本の読者に感動を与える所以は、そこにあるのでしょう。
自由を当たり前に享受している我々には、そのありがたみは分からない。表現の自由、人権、多様性の尊重。いまも日本や世界を取り巻くさまざまな課題について、アンテナを鋭敏にしなければいけない。そして日々学習を続けなければいけない。『ピーター・シスの闇と夢』展は、そのことをあらためて気づかせてくれました。
この展覧会でもう一つ印象的だったのは、映画『アマデウス』のポスターも若き日のピーター・シスが作ったと知ったこと。映像作家だった父ウラジミールの友人、ミロス・フォアマン監督の依頼だという。当時は彼のことをまったく知らなかったけれど、ペンで微細に描く彼の特徴がよく現れた故郷プラハの街並み。ナルホド!と納得です。
ピーター・シスの闇と夢
2023年4月14日(金)~6月11日(日)
I'M 市立伊丹ミュージアム
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