2015年8月21日、パリ行き
クリント・イーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』。2015年、アムステルダム発パリ行きの高速列車「タリス」社内で、イスラム過激派の男による無差別テロ事件が起こった。たまたま乗り合わせた3人の米国人青年が犯人を取り押さえ、554人の乗客の命を救った実際にあった出来事。これを題材にした、いわば再現ドラマです。
カリフォルニア州サクラメントで育った3人組。彼らは小学校からの親友です。みんな学校ではいじめられっ子で落ちこぼれ。毎日サバイバルゲームで遊ぶだけ。しょっちゅう親が校長に呼び出されていた問題児でした。そもそも叱られる校長室で知り合い、親友になったのだから。ではなぜそんな彼らがテロ現場に居合わせたのか?
「みんなでヨーロッパ旅行しようぜ!」的な軽いノリで、イタリア、ドイツ、オランダ、フランスを観光旅行。名所を巡り、現地で出会った女性と食事をし、クラブでバカ騒ぎをし、挙句の果ては二日酔いに苦しむ。何百人もの命を救う英雄的な行為につながる要素はみじんもないお気楽な若者たち。ほんとにテロ映画?と不安になる。
空軍兵になったスペンサーの半生を中心に描かれている。が、なかなか事件は起こらない。「タリス」にも乗らない。イーストウッド監督は「現代は運転しているときも、道を歩いているときも、突然事件に巻き込まれる可能性が十分ある。こんな狂った時代に素晴らしい結末を迎えた事件だから、伝える価値があると思った」と言う。
「人生を左右するような行動をとった人々の動機に興味がある。それが英雄的な行為でも、愚かな行為でも」と、インタビューで語っている。偶然か、運命か、フツーの若者がその銃撃場面に居合わせ、勇敢にも、あるいは無謀にも犯人に立ち向かい、大惨事に至るのを未然に防いだ物語。無名の人が秘めるパワーと可能性。
オランド仏大統領からレジオン・ドヌール勲章を受章し、オバマ米大統領からはホワイトハウスに招待された3人組。この事件が記憶にないのは、幸い死者がゼロで遠く離れた日本では大きく報道されなかったから。イスラム過激派による悲惨な事件が頻発していたこの時代。紙一重の差で防がれた悲劇がいくつもあったのでしょう。
観終わった後で知ったのだけれど、主演の3人は実際に犯人を取り押さえた若者たち。家族や主な乗客などもできるだけ呼び集めて撮影されたという。本当に走るタリス車内で、自然光で。ストーリーもフィクションのように都合よくは展開しない。ほぼドキュメンタリーに近い方法論が生み出す、究極のリアリティが魅力です。
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