至極のピカソがズラリ
ベルリンのベルクグリューン美術館から厳選された97点がやってきた。そこに日本の国立美術館の所蔵・寄託作品11点を加えた108点で構成される『ピカソとその時代」展が大阪で開催中です。中心となるのがピカソ。「青の時代」から最晩年まで、次々と変遷を遂げてきた各時代の主要46点(内 35点が日本初公開)に出会えます。
青の時代の肖像画は、少年時代から続く超絶描写力で勝負している。古典派的な基準ではメチャクチャ上手い、色彩はもうポストモダンですが。そこからジョルジュ・ブラックとともにキュビズムの表現へ。ギターやヴァイオリン、洋梨やリンゴなどをモチーフにした静物画。さまざまに女性を描いた人物像が彼の熱気を今に伝える。
この時代のピカソ作品をこんなにまとめて観るのは初めてです。スタイルを変え続けた彼が、最もエネルギーにあふれていたころ。描くたびに美術史が大きく展開していった、そんな印象。もちろんこれは百年近く後からだから言えること。先見性のある一部の人を除き、同時代にどこまで受け入れられたかは、はなはだ疑問です。
逆に、だからこそ、この展覧会の基を築いたコレクター・ベルクグリューンはこれだけの作品を収集することができたとも言えます。ナチスがパリを占領していた1942年の大作『大きな横たわる裸婦』。捻じ曲げられた身体や、固く握りしめられた手からは、眠りの中でさえ解放されない、激しい苦悩や絶望が伝わってきます。
最高傑作『ゲルニカ』に出てくる馬や牡牛のイメージが、その時代の作品には反映されているのですね。ゲルニカ館に展示してあるたくさんの下書きとは別の、独立した作品。戦時下の感情、暴力への怒り。あらためて思う。時代に影響を受けないアートはない。アーティストこそ世の中の動向に人一倍敏感な人種なのだから。
2度の世界大戦とそれによって破壊された人間の尊厳と個人の自由。これを回復し進化させることが20世紀後半の世界に課せられた大きなテーマでした。そしてアートもまた、その文脈で解釈され評価される。だからこそ従来の価値観を破壊し新しい美を創造したピカソは、20世紀を代表するアーティストになり得たのです。
ピカソとその時代
ベルリン国立ベルクグリューン美術館展
2023年2月4日(土)~5月21日(日)
国立国際美術館
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