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2023年4月

2023年4月29日 (土)

えっ、みんな背番号42?

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 WBC優勝で大盛り上がりに盛り上がった野球。その後メジャーリーグのニュースが特に増えたと思いませんか。先日も大谷をはじめ吉田やヌートバー、鈴木や菊池や藤浪の活躍ぶりを見ていたら・・・。 「あれ、あの選手の背番号、42だったっけ」 えっ、ありゃ、ピッチャーもバッターも守っている野手も、みんな背番号42!

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 その日はジャッキー・ロビンソン・デーだったのです。1947年4月15日、彼はブルックリン・ドジャースの開幕戦で黒人初のメジャーリーガーとしてデビュー。これが人種差別を否定する野球界の新しい流れの第一歩となった。彼の偉業をたたえるため、いま4月15日は全チームの全選手が背番号42のユニフォームでプレイします。

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 ブライアン・ヘルゲランド監督の『42 世界を変えた男』は、ジャッキー・ロビンソンの伝記映画です。「野球は白人のスポーツだ」という信念は、選手も観客も球団関係者もマスコミも、みんなの常識だった。特に南部ではジム・クロー法や人種隔離政策で、黒人はスポーツすること自体が難しい時代。考えればついこの前のことです。

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 ニグロ・リーグで細々と野球をやっていたジャッキーは、ドジャースのGMのブランチ・リッキーから誘われる。差別行為に対し、すぐ怒りを表す短気な彼は、差別の殿堂のようなメジャーリーグに入るべきかどうか大いに悩む。リッキーの強引な説得に覚悟を決めたジャッキー。しかし差別は想像をはるかに超えていた。

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 衣、食、住、生活のすべてで。実力の世界のはずのグラウンドでも。相手チームはもちろんチームメイトまで。負の歴史と悪しき慣習に染まった人々に差別=悪という意識はまったくない。ジャッキーが活躍すれば、黒人選手がどんどん後に続いて野球界が発展すると考えていたのは、GMのリッキーぐらい。彼も戦っていたのだ。

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 いくら誹謗中傷を浴びせられても、自制心を貫き通し、勝利に向かってプレイに徹するジャッキー・ロビンソン。この姿勢が次第に周りの人々の心をつかんでいく。最初にGMのリッキーと約束した、人種差別に打ち克つ勝利の方法はこれだった。野球はアメリカの民主主義の象徴だ、と言いながら平気で差別していた社会に。

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 いま黒人をはじめ日本人や中南米人など、多くの非白人メジャーリーガーが活躍している。実力ある人に広く門戸を開放しているからこそ世界トップを保ち、ビジネスとしても成功している。この映画はその開拓者の物語。ちなみに背番号42は、いまメジャー全球団で永久欠番になっている。もちろんこんな例は他にない。

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2023年4月26日 (水)

2015年8月21日、パリ行き

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 クリント・イーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』。2015年、アムステルダム発パリ行きの高速列車「タリス」社内で、イスラム過激派の男による無差別テロ事件が起こった。たまたま乗り合わせた3人の米国人青年が犯人を取り押さえ、554人の乗客の命を救った実際にあった出来事。これを題材にした、いわば再現ドラマです。

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 カリフォルニア州サクラメントで育った3人組。彼らは小学校からの親友です。みんな学校ではいじめられっ子で落ちこぼれ。毎日サバイバルゲームで遊ぶだけ。しょっちゅう親が校長に呼び出されていた問題児でした。そもそも叱られる校長室で知り合い、親友になったのだから。ではなぜそんな彼らがテロ現場に居合わせたのか?

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 「みんなでヨーロッパ旅行しようぜ!」的な軽いノリで、イタリア、ドイツ、オランダ、フランスを観光旅行。名所を巡り、現地で出会った女性と食事をし、クラブでバカ騒ぎをし、挙句の果ては二日酔いに苦しむ。何百人もの命を救う英雄的な行為につながる要素はみじんもないお気楽な若者たち。ほんとにテロ映画?と不安になる。

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 空軍兵になったスペンサーの半生を中心に描かれている。が、なかなか事件は起こらない。「タリス」にも乗らない。イーストウッド監督は「現代は運転しているときも、道を歩いているときも、突然事件に巻き込まれる可能性が十分ある。こんな狂った時代に素晴らしい結末を迎えた事件だから、伝える価値があると思った」と言う。

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 「人生を左右するような行動をとった人々の動機に興味がある。それが英雄的な行為でも、愚かな行為でも」と、インタビューで語っている。偶然か、運命か、フツーの若者がその銃撃場面に居合わせ、勇敢にも、あるいは無謀にも犯人に立ち向かい、大惨事に至るのを未然に防いだ物語。無名の人が秘めるパワーと可能性。

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 オランド仏大統領からレジオン・ドヌール勲章を受章し、オバマ米大統領からはホワイトハウスに招待された3人組。この事件が記憶にないのは、幸い死者がゼロで遠く離れた日本では大きく報道されなかったから。イスラム過激派による悲惨な事件が頻発していたこの時代。紙一重の差で防がれた悲劇がいくつもあったのでしょう。

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 観終わった後で知ったのだけれど、主演の3人は実際に犯人を取り押さえた若者たち。家族や主な乗客などもできるだけ呼び集めて撮影されたという。本当に走るタリス車内で、自然光で。ストーリーもフィクションのように都合よくは展開しない。ほぼドキュメンタリーに近い方法論が生み出す、究極のリアリティが魅力です。

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2023年4月23日 (日)

クレー、マティス、ジャコメッティ

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 国立国際美術館で開催中の『ピカソとその時代』展。ベルリン国立ベルクグリューン美術館が所蔵するコレクションから厳選した97点に、日本の国立美術館が所蔵・寄託作品11点を加えた濃い内容の展覧会です。ピカソを中心に、関係の深いクレー、マティス、ジャコメッティという20世紀を代表するアーティストの作品で構成。

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 ベルクグリューンはベルリンで生まれ、アメリカで美術館勤務や評論、第二次大戦後パリで画廊を経営し世界的な画商となる。彼は敬愛する少数のアーティストの作品収集に打ち込み、美術史的にも価値の高い個性豊かなコレクションを作り上げました。それを基盤とする美術館が主要作品を初めて国外で展示する展覧会です。

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 涼やかな色彩や理知的な構図で、日本にもファンが多いパウル・クレーの絵画が34点。さすがバウハウスの教授をやっていた彼らしい。作品タイトルも「夢の都市」「塔の理念」「小さな城」など、建築的な興味が強くうかがえる。このクレー、画風は違うけれどピカソの挑戦に同時代でもっとも理解の深いアーティストだったそうです。

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 ピカソと並ぶ20世紀の巨匠、アンリ・マティス。「窓は内部と外部をつなぐ重要なモティーフ」と彼自身が語っているように、窓から外の風景が見える室内画を繰り返し手がけている。静と動。安息と活力。対照的な性質を入れ込みながら、対立させず上手にバランスをとり深化させる、触媒のような働きが窓だったのかもしれない。

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 手びねりで作ったような極端に細長い人体像は、一目でジャコメッティとわかりますね。すっくと立つ、悠然と歩く、特徴的な彼の彫刻。まるで一人で世界に立ち向かうかのような強い気概を感じます。この展覧会では「広場 Ⅱ」という群像作品も展示されていた。彼の別の一面を表していて面白い。充実の展覧会でした。

ピカソとその時代
ベルリン国立ベルクグリューン美術館展
2023年2月4日(土)~5月21日(日)
国立国際美術館

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2023年4月20日 (木)

至極のピカソがズラリ

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 ベルリンのベルクグリューン美術館から厳選された97点がやってきた。そこに日本の国立美術館の所蔵・寄託作品11点を加えた108点で構成される『ピカソとその時代」展が大阪で開催中です。中心となるのがピカソ。「青の時代」から最晩年まで、次々と変遷を遂げてきた各時代の主要46点(内 35点が日本初公開)に出会えます。

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 青の時代の肖像画は、少年時代から続く超絶描写力で勝負している。古典派的な基準ではメチャクチャ上手い、色彩はもうポストモダンですが。そこからジョルジュ・ブラックとともにキュビズムの表現へ。ギターやヴァイオリン、洋梨やリンゴなどをモチーフにした静物画。さまざまに女性を描いた人物像が彼の熱気を今に伝える。

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 この時代のピカソ作品をこんなにまとめて観るのは初めてです。スタイルを変え続けた彼が、最もエネルギーにあふれていたころ。描くたびに美術史が大きく展開していった、そんな印象。もちろんこれは百年近く後からだから言えること。先見性のある一部の人を除き、同時代にどこまで受け入れられたかは、はなはだ疑問です。

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 逆に、だからこそ、この展覧会の基を築いたコレクター・ベルクグリューンはこれだけの作品を収集することができたとも言えます。ナチスがパリを占領していた1942年の大作『大きな横たわる裸婦』。捻じ曲げられた身体や、固く握りしめられた手からは、眠りの中でさえ解放されない、激しい苦悩や絶望が伝わってきます。 

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 最高傑作『ゲルニカ』に出てくる馬や牡牛のイメージが、その時代の作品には反映されているのですね。ゲルニカ館に展示してあるたくさんの下書きとは別の、独立した作品。戦時下の感情、暴力への怒り。あらためて思う。時代に影響を受けないアートはない。アーティストこそ世の中の動向に人一倍敏感な人種なのだから。

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 2度の世界大戦とそれによって破壊された人間の尊厳と個人の自由。これを回復し進化させることが20世紀後半の世界に課せられた大きなテーマでした。そしてアートもまた、その文脈で解釈され評価される。だからこそ従来の価値観を破壊し新しい美を創造したピカソは、20世紀を代表するアーティストになり得たのです。

ピカソとその時代
ベルリン国立ベルクグリューン美術館展
2023年2月4日(土)~5月21日(日)
国立国際美術館

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2023年4月17日 (月)

聖なる少女を巡る物語

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 物語の舞台は1862年、イングランドに支配されるアイルランド。ジャガイモの疫病による大飢饉で150万人の餓死者を出し、アメリカをはじめ新世界への移民を目指した結果、人口が半分にまで減少。人々は貧困と不安の中で生きていた。セバスティアン・レリオ監督の『聖なる証 (THE WONDER)』は、そんな暗い時代を描く。

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 荒野にぽつんと立つ家に、何も食べず4カ月も生き続ける少女アナがいた。それが神の恩寵と評判を呼び、近隣から11歳のアナを拝みに訪れる人々も現れる。はたして奇跡か?いかさまか? 主人公リズはイングランドから派遣され、本当に何も食べていないか調べるよう依頼を受けた看護師。修道女と交代で24時間の監視。

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 人間は食べなくても生きていけるのか。いやあり得ない、きっと裏にからくりがあるはずだ。リズは真相を突き止めようとする一方で、看護師として健康状態が急激に悪化する少女を救おうとする。観察を続けるうちに、彼女はある秘密に気づいていたのだ。しかし依頼人である村の有力者たちに訴え出ても、聞く耳を持たない。

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 両親や神父や医者に洗脳されてしまって自ら考えることができないアナは、頑なに祈りの言葉を述べるのみ。暗い空。不毛の大地。厳しい自然の中で繰り広げられる過酷な生活。重苦しいテーマに押しつぶされそうになって観ていると、ストーリーは意外な展開に。ある日ついにリズは思い切った行動に打って出たのだ。

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 ロンドンから取材に来ていた新聞記者のトムに協力をあおぎ、生命を見殺しにする旧弊から少女を救い出す。それは犯罪には違いないけれど、アナを救う唯一の道。正義と信念に基づいた勇気ある行動だった。そして迎えるハッピーエンドの結末。見事な展開に大拍手です。観終わったあと、ほっとして心温まりました。

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 重厚な美しい映像で描かれる歴史の一幕。宗教や迷信がはびこって、個人の自由や人権にたいする意識がまだ醸成されていない時代。合理的な判断はきっとできなかったのでしょう。でもこれは、わずか160年前のこと。世界は急速に変わったんですねぇ。もちろんいい方向に。まだまだ不満はいろいろあるでしょうが。

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2023年4月12日 (水)

聖人か、偽善者か

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 こんな善意にあふれた人が、世の中にいるのだろうか。何事にも怒らない、。誰に対しても真摯に向き合う。優しく思いやりのあるふるまい。子ども向け長寿TV番組の人気司会者、フレッド・ロジャース。彼を取材に行った雑誌記者ロイド・ボーゲルとの交流を描く、実話に基づいたマリエル・ヘラー監督のヒューマンドラマです。

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 国民的名司会者をトム・ハンクス、有能だけれど性格的に問題ありの記者ロイドをマシュー・リスが演じる『幸せへのまわり道』。あまりいい邦題とは言えませんが、オリジナルは『A Beautiful Day in the Neighborhood』。雑誌「エスクァイア」に寄稿するために、番組収録中のスタジオを訪れたロイドが観たもの。彼は生きる聖人か?

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 ふてくされた子どもに、相手の身になって辛抱強く話し続ける姿。自分の全存在をかけた対応が、子どもの心を開かせる。奇跡が起こったのだ。しかもフレッドは、それを見ていたロイドの苦悩を初対面で見抜いたのだ。カリスマ的な魅力を持つフレッド。単なる取材対象者を超えて、もっと人間として知りたいと思うようになった。

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 ロイドは長く会っていない父を憎んでいた。いや自分と母を捨てた父に、怒りを持ち続ける自分に苦しんでいたのかもしれない。フレッドは「愛する者ほど許すのは難しい」と言う。「許すことは決断することだ」とも言う。彼と交流するうちに、ロイドは徐々に自分自身に向き合っていく。そして過去と和解し、苦悩から解放される。

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 フレッドについてロイドが書いた原稿は、依頼された400語の簡潔な紹介記事ではなかった。どうしても書きたかった記事、それは1万語にも及ぶ長さ。しかし編集長はこれを「エスクァイア」の巻頭特集に即採用。そのおかげでこの映画もできたわけだ。30年以上この番組を続けたフレッド・ドジャース。本当に聖人だったのか?

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 ラストシーンは感動的でした。いつもの番組の収録が終わった後、ひとりピアノに向かうフレッド。両手の指で低音部をババーンとかき鳴らす。彼は決して聖人ではなく、もちろん偽善者でもない。怒りを抑えるために心のトレーニングを欠かさない努力の人なのだ。負の感情をコントロールする大切さを教えてくれました。 

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2023年4月 7日 (金)

AIと共存するか戦うか

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 コンピュータは人間を超えられるか? 将棋ソフトがプロ棋士と対戦する「電王戦」が大きな話題になったことがある。「人工知能」の爆発的な進歩と、その結果として訪れるかもしれない恐ろしい未来。2015年に開催されたイベントを中心に、登場人物や人間関係をフィクションにした映画が山田篤宏監督の『AWAKE アウェイク』。

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 今をときめく藤井聡太六冠が将棋ソフトを研究に使って強くなった、という話が有名になる直前のこと。コンピュータソフトがAIを駆使して進化し、ついに人間を超えるかという時代です。AWAKEという最強のソフトを作った若者・清田英一が主人公。挫折した青年が新たな生きがいを見つけ、熱気あふれる挑戦に打ち込む姿を描く。

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 彼は将棋連盟の奨励会に入る。そこは神童、天才が集まるプロ棋士養成機関。厳しい修行を続けても、晴れてプロになれるのは1割にも満たない。一途に将棋に打ち込んだのに退会の憂き目にあった清田。人生の目的を見失い、なんとなく大学に入学する。そこで出会ったのがAI研究会。どん底で最高の悦びを見つけたのだ。

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 それは定石にとらわれない独創的な手を打つプログラムの開発。必死にプログラミングの勉強に打ち込み、ついに開発に成功。将棋ソフトのコンテストにも優勝し、いよいよプロ棋士との対決へ。相手となるのは少年時代からのライバル、若手実力者の浅川だった。浅川にとっても機械には負けられないリスクを抱えた一戦。

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 テレビ局が主催する「電王戦」はとても奇妙な風景だった。人間とロボットアームが将棋盤を挟んで対決する姿がシンボリックです。コンピュータと人類。AIと未来社会。静かな画面ながら緊張感あふれる展開でした。また主演・吉沢亮の存在感が素晴らしい。根暗でオタクの清田を演じたダークな魅力。一見の価値があります。

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2023年4月 2日 (日)

春風のようなちひろさん

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 海辺の町の弁当屋さんで働く元風俗嬢を、有村架純が好演した『ちひろさん』。安田弘之の漫画を原作に、今泉力哉監督が映画化しました。傷ついた人を引き寄せ、厳しく優しく癒してくれる不思議な天使。フツーの日常を飄々と生きるどこか得体のしれないキャラクターを、有村ならではの自然体の演技で生み出しました。

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 風俗嬢だったことを隠すこともなく、まわりの目など超越して明るく穏やかにふるまうちひろさん。淡々と生きているだけなのに人が寄ってくる。好奇の目の男たちも、悪戯を仕掛けるクソガキも、殻に閉じこもったホームレスも、街で見かける野良猫も、窮屈な家庭に悩む女子高生も。みんな彼女との触れ合いで救われている。

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 苦しみ多き現代に降臨した聖母マリアさまのようですが、決してそうではない。どうも心にダークな傷を持っているみたい。「人は人間という箱にいろんな星の魂が入っている存在で、同じ星の魂の人にはまず出会わない。たとえ肉親であっても」。かつて聞いた言葉に深く納得した彼女は、人間関係に深入りしない。ただ寄り添うだけ。

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 他人に期待せず、孤独に生きる居心地の良さをかみしめているちひろさん。そんな春風のような態度だからこそ、魅かれて寄ってきた相手は自分自身を見つめ、自分で考え、自分で歩き出す。それが癒される、ということかもしれません。やはり、天使かマリアさま。なんだか評判のいい占い師の話をしているようですね。

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 子どものことを思って。貧しい人のために。そんな思いやりのつもりの言動が、かえって相手に負担をかけ苦しませることもあると思い知らされました。ここに出てくる人たちは、特別な存在ではない。どこにでもいる隣人たちの、どこにでもある生活。そんな日常の小さな喜びやささいな苦しみをネタにした、深い深い映画でした。

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 豊嶋花、嶋田鉄矢、van、鈴木慶一、リリー・フランキー、平田満、風吹ジュンほか、共演陣も達者な役者さんが揃っています。しかも全員サラッとした演技。暑苦しくなくて素晴らしい。主人公ちひろさんを触媒に、心温まる化学反応を引き起こされる様を演じています。舞台となった漁港のある町も抜群のロケーションです。

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