静謐、ミニマル、豊穣 ②
石の作品を中心に見てきましたが、李禹煥の魅力は立体だけではありません。平面の絵画もミニマルで、コンセプチュアルで、深い感動がある。たとえば岩絵の具で描かれた『線より』シリーズ。ワンストロークで引かれた線は、下へ行くほど絵の具がかすれ、色は薄れていく。そこからは時間や緊張感や息遣いが立ち現れてくる。
『点より』のシリーズも同様。見た目の美しさもさることながら、集中力を持続する精神に感嘆する。機械的な反復のようでいて、一点一点すべて違う。描くときの、呼吸、リズム、体調。その瞬間に込められた膨大なエネルギー。彼の絵画は限りなく肉体的で、身体性の高い表現なのだ。シンプルだけど饒舌。だから鑑賞が楽しい。
最新の『応答』と題された絵画シリーズは、余白の美の追求だ。ぼってり濃厚に塗られたカタチに対して、不自然なほど大きく贅沢に残された余白。じつはこの連作では、描かれていないところこそが主役。そして彼は作品が置かれた空間や、まわりの空気まで一体となって響きあう、そんなゴールを目指しているのかもしれない。
ここで李禹煥の初期の平面作品を見てみるのもおもしろい。『風景 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ』というピンクの蛍光塗料で描いた作品。会場では最初に展示されている。ああ、スタートから彼の志向は変わっていないのだ。それが時と共に、要素をそぎ落とし、静かに深く思索して現在に至る。作家の軌跡がわかる見応えのある展覧会でした。
李禹煥 Lee Ufan
2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
兵庫県立美術館
| 固定リンク
「展覧会情報[2023]」カテゴリの記事
- 堀尾貞治の千点絵画(2023.11.24)
- 白い祈りの壁(2023.11.21)
- 鏡の国の横尾忠則(2023.11.08)
- 横尾忠則ワンダーランド(2023.11.04)
- ひびのこづえ、夢の世界(2023.09.28)
コメント