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2023年1月

2023年1月29日 (日)

日常のユルい可笑しみ

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 シュールな展開と乾いた笑い。抒情的な涙と至上の愛。散漫なようでいて、最後ほんわか幸福感に包まれる。よくわからないけど、惹きつけられる世界観。『ゾッキ』は、竹中直人、山田孝之、齊藤工が監督3人体制で、大橋裕之の漫画を実写映画化した脱力ヒューマンコメディです。ストーリーも不思議なら、作り方もユニーク。

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 約30本の短編が収録された作品集『ゾッキA』と『ゾッキB』から、いくつかのエピソードを織り交ぜて構成。監督3人がそれぞれのパートを担当して作ったそうだ。といってもオムニバスじゃない。ゆるーくだけど繋がった一本の映画。観客は次の展開が予想できず、宙ぶらりんの不安な気分。それがまた新しい映画体験です。

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 ニュースになるほどの事柄もない市井のフツーの人たち。彼らが織りなす人間模様を描いただけなのに、なんか可笑しい。フツーの人と言っても、よく見れば一人一人は特別な存在。誰にでも他人に言えない秘密はある。説明できない衝動もある。マトモだと思っても、傍から見たら奇妙な行動をする。人間ってヘンな生き物!

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 日々繰り返される生活。取るに足らない日常。そこに潜む些細な可笑しみをすくい上げる大橋裕之は、冷徹な哲学者か、それとも心優しい伴走者か。出演者も多士済々、芸達者がそろっとぃます。松田龍平、鈴木福、吉岡里帆、森優作、九条ジョー、竹原ピストル、國村隼、木竜麻生、石坂浩二、倖田來未など。豪華でしょ。

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 ところで「ゾッキ」とは? ゾッキ本って聞いたことありませんか。見切り特価で売る雑多な本のことを言います。(私たちがこの言葉を聞いた最後の世代かも) ゾッキとは、ひとくくり、ひとまとめの意味。でもなぜゾッキなのか、語源については諸説あり、よくわからないそうだ。まぁあまり高級なものではないのは確かなようです。

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 ちょっと横道にそれましたが、『ゾッキ』はゆるネタをひとまとめにした素晴らしい作品でした。愛と憎しみ。喜びと悲しみ。嘘と真実。生と死。それぞれの間であっちに揺れ、こっちに動く。毎日はその繰り返し。そんな日々でも、ときにささやかな奇跡が訪れる。大小や強弱や貴賤では語れない価値観。どこかホッとする世界でした。

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2023年1月25日 (水)

アニメ業界の熱き闘い

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 思っていた以上におもしろくて、感動的なストーリーでした。地方公務員から転身した新人アニメ監督が、熱い思いで創作に打ち込み、人間的にも成長していく姿を描く『ハケンアニメ!』。辻村深月の同名小説を吉野耕平監督が映画化しました。主演は吉岡里帆。ライバルの、再起を図る天才を中村倫也が好演している。

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 「ハケン」は派遣ではなく覇権。各クールで最も成功したTVアニメに与えられる称号なのだ。クリエイターとして自分の夢と信念を貫いて作品を生み出す頑固さと、ディレクターとして誇り高きギョーカイ人たちをまとめ上げるリーダーシップ。新人も天才も、強い意志と折れない心で苦境に立ち向かい、「ハケン」を目指して奮闘する。

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 制作においていちばん大切なのは監督のイメージの実現。ただ現実には、締め切り時間や予算の制約や宣伝活動に押されて、ついつい妥協してしまいがち。もし我を通せば周りのスタッフに大迷惑を強いることになる。アニメは独りでは作れない。しかし、神は細部に宿る。その困難な状況を突破しなければ最高は生まれない。

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 作画、美術、効果、音響、声優、プロデューサーなどなど、普段はあまり表舞台には出てこない制作現場のスタッフにも目配り。それぞれのキャラクターが丁寧に描かれ、反目していたメンバーが一丸となってハケンアニメ作りに邁進するに至る様子が気持ちいい。TV局やスポンサーなど、ギョーカイを取り巻く関係者も興味深い。

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 劇中で使われる二本のアニメ作品も素晴らしい。さすが、第一線で活躍する大塚隆史や谷東が本気で作ったクオリティ。共演陣も柄本祐、尾野真千子をはじめ芸達者が揃う。挫折を経験しながら、夢をあきらめず努力する先にある希望。元気をくれる映画でした。「フィクションにはリアルを変える力がある」というセリフが深い。

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2023年1月21日 (土)

北欧の悲しき巨人

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 ノルウェーの山岳地帯から、伝承の怪物がよみがえる。ローアル・ユートハウグ監督のファンタジー・アドベンチャー『トロール』は、ちょっとかわいそうな怪物の物語。あまり見た記憶がないノルウェー映画。でも、だからこその深い真相が隠されていて、とても勉強になりました。ストーリーもよくできていて、気軽に楽しめます。

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 トンネル工事で山を爆破しているときに起こった謎の大惨事。原因究明のため政府はいろんな分野の専門家を集めて対策会議を開く。古生物学者ノラもその一人。彼女は狂人扱いされている父の助けを借り、謎の解明に取り組む。よみがえった伝説のトロール。首都へ向かって進むモンスター。大砲もミサイルも効き目がない。

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 トロールは北欧に伝わる妖精で、醜く毛深い性悪な巨人とされる。この絵はノルウェーの著名な画家テオドール・キッテルセンが1906年に描いた『森のトロール』。歴史書は勝者の視点で記述されますが、おとぎ話や言い伝えには征服された先住民族の記憶や真実の痕跡が残っている。歴史の見方を考えさせられました。

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2023年1月17日 (火)

静謐、ミニマル、豊穣 ②

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 石の作品を中心に見てきましたが、李禹煥の魅力は立体だけではありません。平面の絵画もミニマルで、コンセプチュアルで、深い感動がある。たとえば岩絵の具で描かれた『線より』シリーズ。ワンストロークで引かれた線は、下へ行くほど絵の具がかすれ、色は薄れていく。そこからは時間や緊張感や息遣いが立ち現れてくる。

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 『点より』のシリーズも同様。見た目の美しさもさることながら、集中力を持続する精神に感嘆する。機械的な反復のようでいて、一点一点すべて違う。描くときの、呼吸、リズム、体調。その瞬間に込められた膨大なエネルギー。彼の絵画は限りなく肉体的で、身体性の高い表現なのだ。シンプルだけど饒舌。だから鑑賞が楽しい。

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 最新の『応答』と題された絵画シリーズは、余白の美の追求だ。ぼってり濃厚に塗られたカタチに対して、不自然なほど大きく贅沢に残された余白。じつはこの連作では、描かれていないところこそが主役。そして彼は作品が置かれた空間や、まわりの空気まで一体となって響きあう、そんなゴールを目指しているのかもしれない。

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 ここで李禹煥の初期の平面作品を見てみるのもおもしろい。『風景 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ』というピンクの蛍光塗料で描いた作品。会場では最初に展示されている。ああ、スタートから彼の志向は変わっていないのだ。それが時と共に、要素をそぎ落とし、静かに深く思索して現在に至る。作家の軌跡がわかる見応えのある展覧会でした。

李禹煥 Lee Ufan
2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
兵庫県立美術館

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2023年1月13日 (金)

静謐、ミニマル、豊穣 ①

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 今年の幕開けは、兵庫県立美術館で開催中の『李禹煥』。重量級の現代アート作家による、ミニマルな展覧会です。重量級(巨匠という意味で使ったので悪しからず)と言っても、並ぶ作品は「余白」の美を生かした軽やかさ。空間の「空」を意識させる濃密な「無」。強烈な質感を発しながら重量を超越した存在。最高です!

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 李禹煥と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「石」。たとえば「関係項―星の影」という作品。ごろんと置かれた大きな2つの石を、吊り下げられた電球が照らしている。影が逆方向に伸びているのは、なんか奇妙な感じがする。なぜならフツー見る影は同方向だから。そうだ、電球が太陽で、石が地球や月だったらありうる関係なのか。

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 たちまち展示会場の一室が、宇宙的なスケールで拡がっていく。静謐なたたずまいでありながら
ダイナミックなエネルギーが沸き上がる。さすが李禹煥。これぞ現代アートの魅力です。石と鉄。石とカンヴァス。石とステンレス。石とゴム。石とガラス。石が異素材と出会うことで、新しい関係性が生まれ、それが哲学的な思索へ誘う。

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 フランスの修道院で行われたインスタレーションを、吹き抜け空間で再現した作品も面白い。ヨーロッパでよく見る薄くて黒いスレート。これを床にランダムに敷き、ガラス壁に立てかけ、一部を積み上げた展示。ドアを開けて足を踏み入れる。ガタガタ、ミシミシ、壊さないかとヒヤヒヤもの。でも壊れてもOKなんだよね、きっと。

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 「一瞬の出会い 余白の響き 無限の広がり」 会場に掲示されていた李禹煥 さんの言葉です。まさにそんな作品世界でした。美術館の空間に収まらないもっと大きな作品は、2022年10月29日の当ブログ『少ない要素、深い思索』を読んでください。直島の李禹煥美術館について書いています。ご興味のある方は、ぜひどうぞ。

李禹煥 Lee Ufan
2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)
兵庫県立美術館

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2023年1月 9日 (月)

時間を跳び、未来を正す

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 1956年に発表されたSF小説の古典的名作、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」(ハヤカワ文庫)。これを原作に、三木孝浩監督がいまの日本の観客に合うよう再構築し映画化したのが『夏への扉ーキミのいる未来へ』。タイムトラベルや人型ロボットなど、SFの主要要素がうまくちりばめられたナットクのおもしろさです。

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 もしタイムマシンがあって過去に戻れたら? あの時の自分に知らせたいことがある。教えたいことがある。こんな夢を抱いた人は多いのではないでしょうか。不可能だとわかっていても悪魔的な魅力がありますよね。タラレバの話って否定的に言われることが多いけど、その隠れた願望を実現してくれる仕組みがSFやファンタジー。

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 主人公は最先端のロボットや画期的な蓄電池を開発する天才科学者・宗一郎。共同経営者と婚約者の裏切りで冷凍冬眠をさせられる。30年後に目覚めると、財産はすべて失い、いちばん大切な人・璃子は亡くなっていた。自分が思い描いていた未来へ、彼は歴史を修正するためタイムマシンで30年前に戻ることを決意。

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 1995年と2025年。時間を行き来しながら不都合なところをやり直さなければならない。しかし、残された時間はごくわずか。観客も伏線となった出会いや出来事を謎解きのように楽しみながら、ストーリー展開に没入。はらはら、ドキドキ。悪者がやっつけられる爽快感やハッピーエンドは、良きアメリカの作家らしい価値観です。

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 明るく楽しい夏へ通じる扉を探し続ける愛猫のピート。ここから導かれたタイトル『夏への扉』もオシャレです。30年後に出会ったロボットのピートも魅力的。「諦めなければ失敗じゃない」という前向きなメッセージが腑に落ちる。出演者の山崎賢人、清原果耶、藤井直人、夏菜、田口トモロヲ、原田泰造らの演技も素晴らしかった。

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2023年1月 1日 (日)

2023年の始まりに

    寄せては返すコロナの波。 

    プーチンの邪悪な戦争。

    激しさを増す自然災害。

    日本も、世界も、

    我慢を強いられる2022年でした。

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    新たにスタートした今年こそ、

    喜びと楽しさを解き放てる年になりますように。

    そして、心も体も健康で長生きできるよう

    長寿の動物に願いを込めました。

    鶴は千年。亀は万年。

    今年もよろしくお願いいたします。    

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