日常のユルい可笑しみ
シュールな展開と乾いた笑い。抒情的な涙と至上の愛。散漫なようでいて、最後ほんわか幸福感に包まれる。よくわからないけど、惹きつけられる世界観。『ゾッキ』は、竹中直人、山田孝之、齊藤工が監督3人体制で、大橋裕之の漫画を実写映画化した脱力ヒューマンコメディです。ストーリーも不思議なら、作り方もユニーク。
約30本の短編が収録された作品集『ゾッキA』と『ゾッキB』から、いくつかのエピソードを織り交ぜて構成。監督3人がそれぞれのパートを担当して作ったそうだ。といってもオムニバスじゃない。ゆるーくだけど繋がった一本の映画。観客は次の展開が予想できず、宙ぶらりんの不安な気分。それがまた新しい映画体験です。
ニュースになるほどの事柄もない市井のフツーの人たち。彼らが織りなす人間模様を描いただけなのに、なんか可笑しい。フツーの人と言っても、よく見れば一人一人は特別な存在。誰にでも他人に言えない秘密はある。説明できない衝動もある。マトモだと思っても、傍から見たら奇妙な行動をする。人間ってヘンな生き物!
日々繰り返される生活。取るに足らない日常。そこに潜む些細な可笑しみをすくい上げる大橋裕之は、冷徹な哲学者か、それとも心優しい伴走者か。出演者も多士済々、芸達者がそろっとぃます。松田龍平、鈴木福、吉岡里帆、森優作、九条ジョー、竹原ピストル、國村隼、木竜麻生、石坂浩二、倖田來未など。豪華でしょ。
ところで「ゾッキ」とは? ゾッキ本って聞いたことありませんか。見切り特価で売る雑多な本のことを言います。(私たちがこの言葉を聞いた最後の世代かも) ゾッキとは、ひとくくり、ひとまとめの意味。でもなぜゾッキなのか、語源については諸説あり、よくわからないそうだ。まぁあまり高級なものではないのは確かなようです。
ちょっと横道にそれましたが、『ゾッキ』はゆるネタをひとまとめにした素晴らしい作品でした。愛と憎しみ。喜びと悲しみ。嘘と真実。生と死。それぞれの間であっちに揺れ、こっちに動く。毎日はその繰り返し。そんな日々でも、ときにささやかな奇跡が訪れる。大小や強弱や貴賤では語れない価値観。どこかホッとする世界でした。
最近のコメント