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2022年12月

2022年12月29日 (木)

親子のカタチ、親子の絆

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 地球人の侵略に苦しむ惑星パンドラ。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、地球から派遣された元海兵隊員ながら、現地の先住民になる道を選んだジェイク・サリーと彼の家族の物語です。聖なる森から海の民のもとへ逃れた一家。海の部族に受け入れられ、海洋生物とも心通わせるようになる。だが平穏な日々は続かない。

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 再び侵略者と戦うことになるジェイク。この第2作では、成長した子どもたちも活躍する。「まだ子どもだ」と制止する親。「一人前に扱ってもらいたい」と背伸びする息子や娘。どちらも家族を思い、部族を思う気持ちに変わりはない。親の価値観の押し付けと、子どもの自立。成長とそれに伴う葛藤も、この映画の大きなテーマです。

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 それぞれの個性や能力がうまくかみ合い、ワンチームとなって戦う一家。知的な巨大海洋生物も助けにやってきて、一緒に侵略者と戦うアクションシーンは斬新です。一つの生態系を構成する生物たちとの親密な交流。これもキャメロン監督からの大事なメッセージだ。捕鯨反対キャンペーンの「クサさ」が少し鼻につきましたが。

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 さまざまな親子の関係がストーリーに奥行きを与えている。休眠中のグレース・オーガスティン博士のアバターから生まれた養女キリ。そのせいか物思いにふけったり、思いがけない能力を発揮したり、個性が際立っている。不思議な生い立ちの彼女だけに、シリーズの残り3作でもっと重要な役割が与えられるのではないか。

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 スパイダーと呼ばれる見た目もサイズも地球人の少年は、前作で戦いに敗れた人類が地球へ撤退するとき、赤ん坊の彼に宇宙の旅は不可能なので、パンドラに残された戦災孤児。サリー家の一員のように仲良くしているが、この星ではマスクがないと生きられない。こんな違いがあるキャラクターだからこそできる何かがあるはず。

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 もともとジェイクは地球人からナヴィになった。その子どもたちは混血だ。キリやスパイダーと同じく差別されるマイノリティなのだ。『アバター』ではいろんな「違い」が描かれる。地球人とナヴィ。森の民と海の民。ヒトと動物。大人と子ども。でもその違いを乗り越えて「絆」は生まれる。サリー家の物語、さて次の舞台は2年後に。

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2022年12月25日 (日)

地球人の侵略、第2幕

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 13年ぶりの第2作の舞台は海。ジェームズ・キャメロン監督の『アバター AVATAR  The Way of Water』を、IMAXで体感してきました。前作のころ、IMAXは関西で3スクリーンしかなく、一番近い箕面まで観に行った記憶がある。いまは三宮でも、HATでも、ハーバーでも、神戸の上映館もかなり増えました。10年ひと昔です。

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 地球の人類が新たな棲み処を求めて、はるか宇宙のかなたにある神秘の星パンドラを侵略する。しかし激しい戦いの末に、パンドラの先住民ナヴィが人類を追っ払う話が第1作。主人公はこの星に派遣された海兵隊の兵士ジェイク。彼は先住民や動物を虐殺するミッションに疑問を抱き、ナヴィになって戦うことを決意する。

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 なんとか地球人類を追い払ってから、10数年後のパンドラ。それが第2作の時代。ジェイクはパンドラの一員となり、ナヴィの女性と結ばれ、家庭を築き、子どもたちと平和に暮らしていた。そこへ再び人類が襲ってくる。裏切り者の自分が標的だと悟ったジェイクは、家族とともに避難し、遠く離れた海の部族のもとへ身を寄せる。

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 住み慣れた森から、未知の海辺へ。知らないことだらけで、学ぶことがいっぱいの家族。でも少しずつ海の生物と打ち解け、水の美しさにも魅了されていく。クジラのような巨大生物、クラゲのような可愛い生きもの。森の生命層に劣らない豊かな海で、子どもたちはすくすくと成長していく。水上、水中の映像が本当に素晴らしい。

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 しかしその穏やかな楽園にも、魔の手は迫ってくる。またもや美しい自然と仲間を守るため、地球からの侵略者・開拓者と戦うことに。人類がヨーロッパ列強、先住民が植民地化されるアジア、アフリカ、中南米という構図です。環境破壊。種の絶滅。差別と支配。大航海時代から続く西洋中心の歴史観にNOを突き付けています。

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2022年12月13日 (火)

中辻悦子さん、健在です

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 中辻悦子さんは人に興味を持ち続ける。特に眼に。阪神百貨店の広告デザイナーとしての仕事から、現在進行形の作品まで。絵画、デザイン、版画、オブジェ、コラージュ、絵本、立体、インスタレーション、舞台美術・・・彼女の半世紀以上にわたる活動の多彩さがわかる、『中辻悦子 起・承・転・転』展が開催されている。

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 夫の元永定正さんを通して「具体」の創作精神に触れ、自分だけの表現を追求してきた中辻さん。アーティストの妻として、3人の子の母として、制作の時間や場所の制約が多いなか、その時その時に可能な方法や素材を発見し活用して、おもしろい作品を作ってきた。それは才能か?センスか?努力か? その全部でしょう。

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 それは、しっかり見る目と活かすアイデアさえあれば、創作のネタは身近にいっぱい転がっているということを示している。「家族のシリーズ」、「ポコ・ピン」の連作、「合図ーeyes」シリーズなどを見ても、素材を変えたり色を変えたり、いろいろ楽しんでるなぁと思わせる。自分自身が一番おもしろがっているんだろうなぁ。

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 おもしろくて、ケッタイで、一人ひとりみんな違う。そんな人間が好きでたまらない気持ちを、研ぎ澄まされたシンプルさとユーモア感覚でカタチにする。ヒトを表現する喜び。ヒトとして生きる喜び。これまでも、これからも、中辻悦子はヒトという生き物を見つめ続けることでしょう。起・承・転・転。「結」はまだまだ訪れそうにない。

中辻悦子 起・承・転・転
2022年11月1日(火)~2023年1月22日(日)
BBプラザ美術館

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2022年12月 9日 (金)

名字が4回変わった?

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 父親が3人。母親が2人。これ、フツーじゃないですよね。2019年 本屋大賞を受賞した瀬尾まいこのベストセラー『そして、バトンは渡された』(文春文庫 刊)を、前田哲監督が映画化したヒューマンドラマ。血のつながらない親の間をリレーされて育つという、フツーじゃないとても複雑な成長物語。でも悲劇じゃない感動作です。

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 主役の優子を演じるのは永野芽郁。子ども時代を稲垣来泉。2人目の母親、身勝手でサイテーな梨花さんを石原さとみ。クソ真面目で料理上手な3人目の父親・森宮さんを田中圭が演じる。みんな素晴らしい演技力でキャラクターを際立たせています。そして1人目の父・水戸さんは大森南朋、2人目の父・泉ケ原さんは市村正親。

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 将来の進路や友人関係で悩み多き日々を送っている優子。でも高校を卒業したらまず自立。バイトをしながら独り暮らしで料理人を目指す。そのうち親たちの真相を知ることになる。何度も夫を変え、挙句の果ては自分を置いて出て行った梨花さん。男手ひとつで自分を育ててくれた森宮さん。彼らの深い思いを知ることに。

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 やがて高校の同級生・早瀬さんと結婚することになった優子。結婚式には父親が3人出席。そして、バトンは早瀬さんに渡される。「笑顔でいると幸運がやってくる」という母・梨花さんの教え。これを守って前向きに生きる優子は、見事に幸せをつかみました。観た人全員を温かい気持ちにしてくれる、幸せにしてくれる作品です。

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2022年12月 4日 (日)

川崎美術館とは何か

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 改修工事でしばらく休館していた神戸市立博物館で『よみがえる川崎美術館』展が開催されています。ドリス式の円柱が並ぶ新古典様式の重厚な建物。これは昭和10年(1935)に竣工した旧 横浜正金銀行(現 三菱UFJ銀行)神戸支店を博物館に転用したもの。神戸港が世界からの玄関口だった頃の栄華がしのばれます。

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 川崎美術館は明治23年(1890)に開館した日本初の私設美術館。川崎重工や神戸新聞社などを創業した実業家・川崎正蔵が、今のJR新神戸駅がある布引に開設したという。明治維新により文明開化や廃仏毀釈が叫ばれ、価値を失った日本や東洋の美術品。それらが海外へ流出する危機を憂い、彼は収集を始めた。

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 川崎の偉いところは、集めたコレクションを秘蔵せず広く公開を目指したところ。その後、昭和の金融恐慌をきっかけに収蔵品は散逸。今回の展覧会で、約100年ぶりに「川崎正蔵が守り伝えた美」が神戸に集う。国宝や重要文化財を含む多くの作品や貴重な資料が、当時の展示に基づいて再現されているのも興味深い。

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 狩野孝信「牧馬図屏風」や狩野探幽「桐鳳凰図屏風」など、桃山から江戸時代の名品は特に素晴らしい。また円山応挙の8面「月夜浮舟図・江頭月夜図」、12面「海辺老松図」、8面「江岸楊柳図」、4面「雪景山水図」の襖は圧巻だ。13ー14世紀、元や南宋からの到来した作品、足利将軍家が所蔵していた品など多彩です。

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 ほか作家名だけ並べると、土佐光起、狩野永徳、狩野山楽、勝川春草、葛飾北斎、雪舟、与謝蕪村などなど。そして明治から大正時代にかけて七宝焼きの名工、梶佐太郎が作った花瓶や香炉が10数点並ぶ。造船業を中心に神戸で財を成し、神戸で花開いた川崎正蔵の文化事業。再び神戸で夢の美術館がよみがえりました。

神戸市立博物館 開館40周年記念特別展
よみがえる川崎美術館
2022年10月15日(土)~12月4日(日)
神戸市立博物館

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