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2022年11月

2022年11月29日 (火)

大災害を閉じ込めろ

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 いま大ヒット中の『すずめの戸締まり』。新海誠監督の『君の名は。』、『天気の子』に続く新たな傑作が誕生しました。東北の大震災で親を亡くし、今は宮崎県の叔母のもとで暮らす女子高生「すずめ」が主人公です。本名は岩戸鈴芽。彼女が一目ぼれした青年が宗像草太。災いの元となる扉を閉じてまわる「閉じ師」の家柄だ。

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 物語は海を臨む宮崎県の坂道からスタートする。自転車で通学途中に出会ったイケメン草太から、「このあたりにある廃墟を知らないか?」と尋ねられたすずめ。行きがかり上、愛媛、神戸、東京、東北へ、「扉」を求めて日本各地をめぐることになる。震災の被害を受けた神戸では、二宮商店街や新神戸駅が舞台になっていました。

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 3本足の椅子にされてしまった草太と一緒に、災いを防ぐための冒険の旅に出る。それは、すずめの成長と心の解放をもたらす旅でもありました。行くべき道を指し示すのは、ミステリアスな白い猫「ダイジン」。敵か味方かわからないけれど、追いかけるしかない。今まさに日本中を覆いつくしそうになっている大災害を防ぐため。

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 災害は人間にはどうにもならない巨大な力。そしてそれ自体には悪意も善意もない。しかし暮らしや生命が脅かされ、人間関係や社会は大きなダメージを受ける。特別な能力を持ったすずめや草太が続ける、その巨大な何者かとの激しい戦い。しかし彼らの努力が一般の人には何も見えていない、というのが象徴的だ。

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 新海監督の作品はファンタジーなのに、深いリアリティを感じる要素の一つが方言にある。九州や四国の方言の細かいニュアンスはわからないけれど、神戸弁には笑わされた。ふんふん、神戸っ子はいっつも、そう言うとおで。きっとほかの方言もそんな受け取られ方でしょう。作り事じゃない、ホンネの話に感じてもらえる魅力。

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 RADWIMPSの主題歌もいつも通り素晴らしい。元祖『ムー』世代あるいは『不思議大好き』世代として今回うれしかったのは、ユーミンや井上陽水や松田聖子の歌が挿入歌として使用されていること。ますます幅広い年代にファンを広げ、ロングランを続けて興行成績の記録を更新していくのでしょうね。新海監督、絶好調!

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2022年11月24日 (木)

アズレージョを知った

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 海を思わせる深く鮮やかなブルーが美しいアズレージョは、ポルトガルの伝統的な装飾タイル。500年ほど前にイスラム世界から伝わり、時代を重ね表現も技法も多彩に発展したそうです。ポルトガルではアズレージョで飾られた美しい建築や街が、風景、文化、暮らしに溶け込んで、国中いたるところで目に入るという。

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 青の美に惚れ込んだアーティスト石井春さんは、この20数年というもの毎年現地の工房に通い続けて技術を習得。伝統に根ざしながら、新たな表現を追求している。いま竹中大工道具館で開催中の『石井春 アズレージョと空間』展。建築のパーツだった装飾タイルを、空間を彩る現代アートに昇華した作品群が楽しめます。

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 タイルで茶室を作ることを思いついた石井さん。千利休が考えた最も小さい茶室形式『一畳台目』を仕上げました。炉も切ってある。その周りに蹲踞(つくばい)や打ち水など「水の庭」を巡らせたという。日本人ならではの美意識とポルトガルの伝統が見事に合体。ユーラシアの西端と東端がつながった壮大な作品です。

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 茶室から眺めるのは『しずく』。壁一面に「しとしと降る雨のしずく」を小さく丸いタイルで表現した作品。静かで穏やかな気持ちになる、禅の雰囲気を醸し出すインスタレーションです。中庭には青磁のキューブタイルを並べた『海風の道』。室内外のそこかしこに竹中大工道具館という建築物をうまく活用した展示が続く。

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 タイルには実に様々な色、カタチ、質感がある。そこに石井春という日本人の感性と造形作家としてのアイデアが加わって、いままではなかった独創的な作品が生まれました。その作品が置かれることによって変容する空間。屋外ならばなおさら、季節や天気や時間帯によって、同じ表情は二度と見ることができない。一期一会。

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 アズレージョを再構築して創造された石井春のアート作品。20世紀を形成する禁欲的なモダンズム建築に、潤いと色気を補う貴重なファクターになるのではないでしょうか。西洋と東洋の文化が影響を与え合って誕生した21世紀の文化。ちょっと注目です。

石井春
アズレージョと空間
2022年10月1日(土)から12月4日(日)
竹中大工道具館 

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2022年11月20日 (日)

色が氾濫するパレット

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 横尾忠則現代美術館は、横尾さんの作品しか展示しない。個人名を冠した美術館ならトーゼンと思われるかもしれませんが、必ずしもそうと決まっているわけではない。たとえば丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。所蔵作品も建築もとてもいい美術館ですが、他の現代作家のエッジが利いた企画展もしばしば開催される。

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 一作家でこれだけの企画展を次々と展開できるのは、圧倒的な量の作品を所蔵している Y+T MOCA ならでは。とはいえ、毎回毎回新しい切り口で展覧会を企画しないといけない学芸員の方々は、毎回毎回アタマを悩ませておられることでしょう。だんだんタネが尽きてくるし、だんだんだんだんアイデアの泉も枯れてくる。

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 開館10周年記念の今回は、横尾作品の特徴である鮮やかな「色」に着目した『横尾さんのパレット』という展覧会です。制作年代も、テーマも、表現技法も、一回すべて忘れて色彩で分類してみる。そして展示室を色が氾濫するパレットに見立てて、ヨコオワールドを再構築したという。なるほど!その手があったか! 

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 2Fの展示室は、赤の部屋、緑の部屋、黄色の部屋、そして青の部屋へと続く。同じモチーフが繰り返し現れるのは、横尾さんの特徴の一つ。それぞれの人やモノが、色が変わるたびに印象が変わる。この企画で初めて体感しました。しかも展示空間そのものが圧倒的な「色彩」のパワーにあふれている。迫ってくるのだ。

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 3Fには黒の部屋と白の部屋。こうやって並ぶと、黒も、白も色なんですねぇ。しかも赤緑黄青黒白、どの色にもキャラクターがある。どんな性格を感じるかは人それぞれでしょうが。告白すれば、8月に始まっていたこの展覧会、もうひとつ気が乗らなかったのです。でも、来てみたら思いがけない新鮮な驚きと発見がありました。

開館10周年記念展
横尾さんのパレット
2022年8月6日(土)~12月25日(日)
横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA 

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2022年11月16日 (水)

ムッソリーニのお宝を奪え

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 史実に基づいた、ほぼ真実の物語。そんなキャプションで始まるレナート・デ・マリア監督の『ムッソリーニの財宝を狙え』。1945年4月、第二次世界大戦末期のミラノを舞台にした歴史アクション・アドベンチャーです。独裁者ムッソリーニが集めた財宝を狙う、とんでもない命知らずの泥棒たち。期限は7日間、さて首尾はいかに。

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 いきなりナイトクラブのステージで、ローリング・ストーンズの「ペイント・イット・ブラック」を歌う歌姫イボンヌから始まるのには、ぶったまげました。もちろんイタリア語ですが時代がまったく違う。「ほぼ真実の物語」というキャプションもジョークだろうなと思って、以後気楽に見ました。あまり知らなかった当時のイタリアも興味深い。

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 闇で武器弾薬を手に入れ、レジスタンスに売って稼いでいた主人公のピエトロ。あるとき軍の暗号文を入手する。解読するとムッソリーニが財宝を持ってスイスへ亡命するらしい。そこで爆弾のプロ、射撃の専門家、カーレースのヒーローなどを寄せ集め、警備厳重な独裁者の本拠に潜り込んで、逃亡前にお宝を強奪しようと計画。

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 それぞれの特技を生かして、不可能と思われるミッションに挑戦するおもしろさ。無謀、大胆、ハラハラドキドキ。お決まりの展開とはいえ、よくできたお話でした。映像全体は時代を感じさせるレトロなトーン。そこにコミック表現のシーンを挿入してスパイスを効かせる。才気あふれるデ・マリア監督の演出は小気味いい。

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 ピエトロの恋人イボンヌがファシスト党幹部の愛人だという設定もイタリア映画らしい。1965年の傑作『黄金の七人』ほどではないけれど、クライム・コメディの醍醐味を十分味わえます。虚実入り混じった歴史フィクション。第二次大戦中のイタリアで、ファシストやレジスタンスがどんな活動をしていたのか、少しお勉強もできますよ。

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2022年11月14日 (月)

屋島と高松港と

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 昭和な土産物屋が並ぶ道を抜けると、パッと目に入るのが宇宙ステーションのような、周防貴之による『やしまーる』。約200mあるガラス張りの回廊。地形に沿って蛇行するゆるやかなスロープ。屋根は特産の庵治石で葺かれている。保科豊巳のパノラマアート作品『屋島での夜の夢』の展示やカフェがあり、気軽にくつろげます。

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 ここ屋島は高松の市街地と瀬戸内海の多島美を望む絶景の地。源平の合戦でも有名ですね。瀬戸芸で来ることはなかったけれど、『やしまーる』を目的に来てみました。いつも船から見上げていた独特なテーブル状の山上から、逆に島々を見晴らすのは新鮮な感覚。この後は島めぐりの拠点・高松港のアートを紹介します。

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 8mの高さでそびえ立つ2本のカラフルな柱。いまや高松港のシンボルになった大巻伸嗣の『 Liminal Air -core-』です。一部は鏡面になっていて、港の賑わいや時間の移ろいを映し出す。フェリーに乗るたびに目にするこの作品は、光の具合によって表情を変え、朝は芸術祭に向かう気分を高め、夕方は優しく迎えてくれる。

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 高速バスターミナルの待合所。外壁につい見逃しそうな作品がある。本間純の『待つ人 / 内海さん』です。さまざまな石で組んだ壁の前に、その石垣と同じ模様をアルミ板に転写した「見えない彫刻」を設置。誰かを待つ人や馬を連れた人など、島の暮らしを思い起させる姿に気分もほっこり。バスを待つ時間もイライラしません。

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 玉藻公園に沿ってジュリアン・オピーの彫刻作品『銀行家、看護師、探偵、弁護士』が、道行く人と一緒に歩くように並ぶ。素材も白大理石や庵治石、黒御影、石灰岩と4種類。石の産地に敬意を表している。コロナ禍で開催された今回の瀬戸芸。春・夏会期はまだ自粛気分でしたが、なんとか秋会期は参加できて幸せでした。

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2022年11月12日 (土)

素直にアートと対峙する

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 カラフルで奇怪なオブジェ。よくよく見ると、塗装されたクルマの車体やドアの一部、フェンダーなど廃車のパーツのようだ。前身はキャデラックだったかフォードだったか。大量消費社会を考えさせるこの作品は、アメリカ人の作家ジョン・チェンバレンによる『クロモ・ドーモ』。彼はジャンクアートの彫刻家として人気を博しました。

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 ジェニファー・バートットの『黄色と黒のボート』もおもしろい。壁にかけた絵画作品の手前に、絵の中のモティーフである2隻のボートが置かれている。平面作品の中と、リアルな現物が同居して響き合う不思議な世界。さらに、同じ黄色と黒のボートはこの先の海岸にも配置されていると言う。絵の中と、この場と、あの場と。

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 平面作品ではデイヴィッド・ホックニーの『ホテル・アカトラン 中庭の回遊』も魅力的だ。視点を変えてシーンを切り分けた彼独特の手法で描いた、舞台美術のような作品。何かファンタジックなドラマが始まりそうです。ゲルハルト・リヒターの『ベティ』も、小品ながらさすがと思わせる。振り返った向こうに何があるのか、誰がいるのか。

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 平面コラージュで新たなイメージを創出してきたロバート・ラウシェンバーグ。これは立体の『エコ・エコー Ⅲ』。見学したときは動いていなかったけれど、風が吹くと風車が回って発電し、エコーのように音を発するのかもしれません。ここで紹介している作品は、すべてベネッセハウス ミュージアムの所蔵。素晴らしいです。

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2022年11月10日 (木)

さまざまな円がある

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 円満、穏やか、繋がり、完全。いろんなイメージが想起される円は、最も基本的なカタチのひとつ。アート作品を作るとき、その意味を突き詰めなくても無意識のうちに現れるカタチだ。イタリア白大理石で作られた安田侃の『天秘』。白く柔らかな曲線の石に座り、あるいは寝転ぶと、はるか上からの天空の秘密が聴こえるだろうか。

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 リチャード・ロングが直島の海岸で拾い集めた流木は、床に並べられて『瀬戸内海の流木の円』という作品になりました。後ろの壁にかかるのは『瀬戸内海でのエイヴォン川の泥の環』。シェイクスピアの故郷も流れる英国の川の泥を持参して、こちらで作られた作品。きっと円と縁に思い入れが強いアーティストなのでしょう。

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 ヤニス・クネリスの『無題』は、彼が2週間直島に滞在して作られた。実際に使われていた陶器、島民が着古した着物、役目を終えた和紙、漂ってきた流木。こんなさまざまな生活の痕跡が鉛の板で巻きこまれている。島の人たちが使い、その後価値を失ったモノの遺跡か、時間の遺産か。封印されているのは大切な記憶。

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 柳幸典の『バンザイ・コーナー 96』も円形の作品。ウルトラマンのフィギュアがいっぱいでメチャ面白い。でも撮影不可なので、文章だけでご紹介。鏡を直角に立てたコーナーに、ウルトラマンやセブンやエースが両腕をあげ、まさにバンザイのポーズで放射状に並ぶ。なので、見た目は赤と銀色のきれいな円。そんな作品です。 

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2022年11月 8日 (火)

人間に興味、の作品

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 天窓から光が差し込む場所に鎮座している派手なネオン管の作品は、ブルース・ナウマンの『100生きて死ね』。三階分の吹き抜け空間はこの作品専用の場。じつはこんな満艦飾に見える時間は少ない。一つずつランダムに点滅しているのが二つになり、三つに増え、徐々に派手さを増してくる。「ひっそり」から、「にぎやか」へ。

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 CRY AND DIE   CRY AND LIVE     RUN AND DIE   RUN AND LIVE  などなど。人が生きるうえでの基本的な行動や感情を示すワードに、「生きろ」と「死ね」を対比して組み合わせた100のフレーズ。点滅するこれらを次々と目で追っていく間に、あなたは何を思うだろうか。言葉によるイメージ喚起。その考え方は「詩」に近い。

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 チャッ、チャッ、チャッ... ガァ、ガァ、ガァ... と美術館らしからぬ騒音が聞こえる方へ向かうと、ジョナサン・ボロフスキーの『三人のおしゃべりする人』がある。何語でもない、でもたしかに人がしゃべっている音。3体が口を動かしながら絶え間なくしゃべり続ける姿は、キモかわいい。人間はコミュニケーションが命の動物だねぇ。

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 街角で友人に出会って「よっ!」と声をかけた瞬間? ジョエル・シャピロの2013年作『無題』は、新たにコレクションに加わった作品のようだ。長方形というかシンプルな直方体を組み合わせただけで、こんなに生き生きとした姿を造形する作家の力に驚きました。『無題』ですが、晴れやかで快活な気分まで伝わってきます。

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2022年11月 6日 (日)

現代アートの島の中心

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 自然・建築・アートの共生をコンセプトに、1992年に開館したベネッセハウス ミュージアム。直島南部の高台に、安藤忠雄が設計した美術館とホテルを兼ねる施設です。アーティストたちがこの場所のために制作した作品と、コレクション作品を展示。豊かな瀬戸内の自然のなかで現代アートと触れ合う。サイコーの体験です。

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 現代アートの聖地として世界中からファンを迎える直島。ここがその発端となった施設です。美術鑑賞は屋内とは限らない。そこかしこで作品に出会えるように、中庭や、階段や、スロープや、テラスが複雑に入り組んだ構造。そして然るべき場所に、然るべき作品が。宝探しのように巡る喜びを体感できる、さすが安藤建築です。

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 ここで紹介している作品は、セザールが金属製ポットを潰して集めた『モナコを讃えて MC12』、杉本博司の名作『海景』の瀬戸内版『タイム・エクスポーズド』、リチャード・ロングが直島に滞在して作った『十五夜の石の円』、大竹伸朗が宇和島の造船所で見つけた型枠から作った『シップヤード・ワークス 船底と穴』。

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 本当に素晴らしい作品を展示しているベネッセハウス ミュージアム。ですが、不満な点があります。それはホテルの予約が全然取れないこと。あまり先の予定をたてず、天気予報を眺めながら「そうだ、明後日から行こう!」的な行動パターンでは、永遠にムリ。でも早く予約して当日天気が悪いとイヤですよね。こりぁ難題です。

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2022年11月 4日 (金)

始まりは家プロジェクト

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 直島の本村地区。空き家になっていた家屋や寺社を改修し、名だたるアーティストが空間そのものを作品化する『家プロジェクト』。20数年前に始まった当時、画期的な発想に驚いたものです。路地から路地へ集落を巡り、作品を観てまわる。この仕組みが、その後の瀬戸内国際芸術祭へと発展する重要な要素になったと思います。

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 プロジェクトの記念すべき第一号が『角屋』。宮島達男の《Sea of Time '98》という作品のための空間だ。築200年以上の空き家の内部は、プールのように水が満たされている。そこに125個のLEDデジタルカウンターが配置され、猛烈なスピードで明滅を繰り返し、変わっていく数字。よく見ると一つずつ微妙にスピードが違うのだ。

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 写真ではわからないけれど、00から60までの数字を瞬速で刻んでいる。表しているのは流れている時間。だけど時間の感覚は人によってみんな違う。だからデジタル数字の進み方がバラバラなのだ。島の歴史や、個人のなかに流れる時間。長いのか、短いのか。もしかしたら絶対的な時間の尺度なんてないのかもしれない。

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 小高い山の上に建つ『護王神社』。江戸時代から続く神社を、杉本博司がアート作品として再建しました。白い石が敷き詰められ、なんど来ても神聖な気分になるスポットです。こじんまりした祠に、神事を行う舞台。でもどこがアートなのか、はて?という感じ。で、拝殿に近づくと、階段がガラスの塊で出来ているじゃないですか。

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 それだけ? じゃありません。丘を横に回り込むと、古墳のように社殿の下へ潜る横穴が開いている。懐中電灯で足元を照らして奥まで入ると、暗闇に光り輝く階段が。あのガラスの階段が地底まで続いているのです。光を透過して、まるで地底から天へ昇って神に会いに行くための道筋を指し示すかのように。納得、感動!

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 『南寺』はジェームス・タレルの作品。10数年前には残念ながら見えなかったので、リベンジです。しかし今回も不発。私の視覚に問題があるのかも知れません。あとは千住博、須田悦弘、大竹伸朗の作品が、改修した建物と一体になって展開されている本村地区の『家プロジェクト』。共通チケットで観てまわれます。

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2022年11月 2日 (水)

三分一博志の直島プラン

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 2015年に完成した、檜葺きの大屋根が美しい『直島ホール』。島でよく見られる入母屋造りの屋根形状をデザインした、三分一博志の設計です。町民が多目的に利用する大きな公共建築だけどエアコンがない。風向きを考え抜いて開けた風穴で、空気循環を促すから必要ないのだ。こんな哲学で彼が進めるのが直島プラン。

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  The Naoshima Plan / 直島プランは、徹底的な調査から始まった。各集落の地形、風の流れ、水路の向き、太陽の動き。そして自然と共生する暮らしから生まれた文化と歴史。「調査から見えてきたのは、直島はまさに風と水と太陽の島である」ということだと彼は言う。これを建築を手段として後世に伝えるのが現代の役割だと。

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 本村地区、築200年の旧家の改修は Plan「水」。豊富な井戸水を活用した水盤を設置して、家も庭も、浮かんだように水とともにある。その上を南北に通り抜ける風は肌に心地よい。しかも土塀は竹で編んだ骨組みだけ。風も光も景観も、独り占めするのではなく、隣に受け渡す。伝統的に受け継がれてきたこの島の思想です。

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 宮ノ浦地区には Plan 「住」。これは島に移住する人たちのための住まい。限られた資源やエネルギーをいかに有効に生かすか。この地域でいかに「知的」に住まうか、を考えた古民家再生プロジェクト。風の流れ、水の役割、古い要素と新しい素材の調和。数百年先の直島にサステイナブルで質の高い「住」を受け渡す計画です。

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 古い建物と新しい長屋風の居室の間、中庭に当たる空間には水路が設けられている。居室は一切ムダがない簡素でミニマルな美しさ。使える材料は活用し、そこに新風を注ぎ込む。瀬戸内ならではの光、空気、水という基本要素を盛り込んだ住環境。三分一博志は直島を舞台に住まうことの意味を問い直しているのです。 

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