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2022年10月

2022年10月31日 (月)

大竹伸朗と横尾忠則

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 豊島の家浦で、二つのアートスポットをまわる。ひとつは瀬戸芸ではおなじみの、大竹伸朗の作品『針工場』です。宇和島の造船所に30年間も放置されていた漁船を作るための木型と、ここ家浦で打ち捨てられる寸前だった旧針工場が奇跡の出会い。過剰なほど装飾を凝らす大竹伸朗にしては、見た目とてもシンプルな異色作です。

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 船型なんて見たこともなかったが、予想外に大きくて驚いた。そして無駄のない合理的な造形は、博物館で見る恐竜の骨格標本のよう。展示されている工場跡も、壁や窓は取っ払われて、屋根と柱の骨格だけ。幾何学的な影も美しい。よく晴れた日に来られてラッキーでした。それぞれに込められた豊潤な時間は饒舌です。 

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 もう一つは、建築家・永山祐子が古い民家を改修して出現した豊島横尾館。黒い焼き杉板と赤い色ガラスを使って、「生と死」をテーマとする横尾忠則ワンダーランドをこの世に具現化しました。円形の塔の内部に入ると、無数の滝の絵に包まれる。じつは床(と、たぶん天井)が鏡でできている。上下周囲、滝の無限ループ。

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 山水の庭。配置された岩は真っ赤に塗られている。鶴と亀のオブジェは金色だ。表の庭から床下を通り抜ける池泉には錦鯉が泳ぐ。床はガラス張り。歩くのがちょっと怖い。これが横尾さんの極楽のイメージ? お寺も教会も、極楽浄土や天国を大衆に見せるのが目的の施設。これが建築やアートの出発点のひとつなのだ。

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2022年10月29日 (土)

少ない要素、深い思索

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天上の神と交信するためか。ただ単に美のためか。シンプルを極めた高さ18.5mの高い柱。直島の谷あいから海辺に向かう地形に、李禹煥(リウファン)美術館はある。安藤忠雄の建築とのコラボでできたこの美術館。屋外の大きな作品と、屋内の比較的小さい作品とで内外が一体となったアート空間を構成している。

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 この「柱の広場」からゆるやかに海へ下っていくと、これまた巨大なアーチがある。橋なら渡りたくなるし、門ならくぐりたくなる。
どちらも異世界との境界だから。知らない世界を見たい、新しいモノに会いたい、というのは人間の本性。アーチ=門の先は海からあの世へ続いているのかも知れない、と無意識に感じて歩いていく。

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 くぐりぬけて振り返ると、ずっと向こうに柱が見える。あれ、柱が神の依り代だとしたら、アーチの山側があの世で、海側のこちらが現世か。だだっ広い芝生の空間に、あるのはコンクリートと鉄と自然石。カタチも直線や放物線。最小の要素で作られた無機的なモノだから、逆に思索にふけるのかもしれない。人間って不思議。

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 芝生の広場には、こんな作品もありました。なぜか人間が微笑んでいるように見えてくる。そんな自分に苦笑い。周りには誰もいないのに、ちょっと恥ずかしくてうつむいてしまう。動物や、草花や、自然の風景までも、擬人化して理解しようとする。これは長年沁みついた悪しき習慣。もっと無心になって、「あるがまま」を見なきゃ。

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2022年10月27日 (木)

女木島を駆け足めぐり

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 フェリーを降りて岸壁沿いを歩くと、4本マストが見えてくる。帆が立っているのは青銅製のグランドピアノ。ピアノから流れる音楽と波の音が呼応する、禿鷹墳上の『20世紀の回想』という作品。

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 レアンドロ・エルリッヒの『ランドリー』。ここはコインランドリーか、と思ったら丸い窓から見える洗濯物は映像でした。フェイクです。でも部屋の反対側には本物の洗濯機が。虚構と現実が同居する。

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 原倫太郎+の作品は『ピンポン・シー』。ここはだれでも自由にプレイできる海の上の卓球テーマパーク。みんなで様々な向きで打ち合える巨大卓球台や、アイデアあふれたオリジナル台で楽しもう。

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 廃棄された不要品や島に持ち込まれたモノを、照明器具に生まれ変わらせる、岩沢兄弟の『鬼ヶ島ピカピカセンター』。ここ女木島には鬼ヶ島伝説があるのだ。展示、販売、加工サービスも。

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 今回の女木島は夕方に、ホント駆け足で港の近くだけを巡りました。見送ってくれるのは防波堤に並ぶ300羽のカモメたち。風が吹くといっせいに向きを変える、木村崇人の『カモメの駐車場』でした。

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2022年10月25日 (火)

ザ・カラフルが並びます

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 ベネッセハウス パークの前、海に向かって広がる芝生広場のあちこちに、色鮮やかでユーモラスな立体作品が点在している。ニキ・ド・サンファールの立体作品です。例えば『会話』。二人掛けの、ただし前と後ろの逆方向に向いて座るベンチ。何匹かの蛇が踊るように巻きついています。さて会話は弾むのでしょうか。

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 『象』、『猫』、『らくだ』など、ユニークな色カタチ、とぼけた表情の動物作品が見られる。それぞれベンチや植木鉢になっていて実用性があるのもおもしろい。こんなパブリックスペースに設置するのに、ただ鑑賞するだけじゃつまらない、と思ったのかもしれません。作品世界に鑑賞者も参加できるアート。これも一つの方法です。

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 こちらは『腰掛』。ベンチで新聞を読むおじさんの足元には、かわいいワンちゃんが。隣は空いてますよ、良かったらどうぞお掛けください、という感じ。1930年パリ生まれの彼女は、ファッションモデルとして活躍していたけれど、神経衰弱に陥りアートセラピーとして絵を描き始めたそうだ。芸術表現が自己を開放する手段となったのだ。

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 この広場にある、もう一つのザ・カラフル。1921年オランダ生まれ、カレル・アペルの『かえると猫』です。よく見ると逆さまのカエルの上に、ニャロメのような顔をしたネコが乗っかっている。このポップな作品はなんと高さ4mもあるのです。現代アートはどこまでも自由で、何でも許されるので楽しい。そう思いませんか。

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2022年10月23日 (日)

光と風と水の宇宙

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 建築家:西沢立衛とアーティスト:内藤礼、そして瀬戸内海の眺望と美しい棚田が一体となって産みだした豊島美術館。個人的には、世界で3本の指に入る素晴らしいミュージアムだと思っております。魅力 その① 立地。坂を下ってきた人々は、歩きの人も、自転車の人も、クルマの人も、ぱっと開けた絶景に一様に歓声を上げる。

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 魅力 その② 建築。美術館の建物と呼ぶには、あまりにも既成のイメージから外れている。いまにも宙に浮かび上がりそうな姿カタチ。これが厚さ25cmもある鉄筋コンクリートでできているとは信じがたい。アートスペース、ショップ、チケットセンターの3棟で構成され、建築面積は2,155㎡。林の中、外周をぐるりと歩いてアプローチ。

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 UFOの内部のような柱一本ない広~いスペースに、靴を脱いで入る。静けさに包まれた空間。足音を立てないように、そろりそろりと歩く。どこでも気に入った場所で、座っても、寝転んでもいい。天上に円形の穴が二つ。ガラスも何もないので、光も風も雨も虫も、かすかな音も、すべて入ってくる。内も外も一体なのだ。

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 魅力 その③ 作品。こんなアートは見たことがない。とんでもなく説明が難しいミニマリズムの極致。が、あえて書きます。床のあちこちから密かに水が染み出し、水滴となり、小さな流れとなり、集まって泉になる。ゆっくりと音もなく。その様を眺め、何かを感じる瞑想の場。季節や時間で変わる、光や音などの自然と融合する場。

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 何じゃ、それ。でしょ? 早い話、すべてが過去のジョウシキでは測れないのだ。生命体としての自分が、宇宙と一体になる感覚。もう現場で体験していただくしかない。中は撮影禁止。もし写真撮影を許したら、シャッター音の反響で大変なことになるでしょう。なので、内部空間の二枚はショップで買ったポストカードからです。

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2022年10月21日 (金)

ス-パーばあちゃん出現

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 えっ、物干し竿におばあちゃんが! 民家の軒下に吊るされているのは、豊島の唐櫃岡で開催されている西本喜美子写真展『ひとりじゃなかよ』の作品です。「コロナも日干しにしたら死滅するかな~」だと。1928年ブラジル生まれの彼女は、8歳で帰国。美容師、A級女子競輪選手などを経て、72歳のとき初めてカメラに触れる。

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 以来、ユーモアあふれる自撮り写真で世界中を驚嘆させている、スーパー写真家なのです。現在94歳。大笑いする写真と熊本弁の詩で、心温まる作品世界を創造。ファンタジックでパワフルな作品を生み出すエネルギーは、ぜひあやかりたいものです。

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   今、カメラを手にして思うこと。
   こんな身近に、残りの人生を楽しんでいける素晴らしい道具が
   あったのだと。

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   何事にも「うまい」「へた」はある。
   だけど「良い」「悪い」はない。
   先生でもある息子の言葉で、安心して続けられた。

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   写真を覚えてよかった。
   写真を続けてよかった。

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   すべてに感謝です。
   主人に、息子に。
   そして写真塾で出会った素晴らしい仲間たちに。

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 旺盛な好奇心。ゆたかな構想力。たくましい生き方そのものが表れた作品に出会えて、感謝です。今回の瀬戸内国際芸術祭でいちばんの発見かも知れません。写真集『ひとりじゃなかよ』(飛鳥新社)も発行されているので、興味のある方はぜひご覧ください。

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2022年10月19日 (水)

この水玉はステンレス

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 新たに出現した草間彌生のトレードマークの水玉は、ステンレス製ミラーボール。池を埋め尽くす銀色の球が、風が吹くと水面をゆらゆらと浮遊する。カサコソと球が触れ合う密かな音。この音が鳥の鳴き声や虫の音と溶け込んで、周りの自然と一体になっている。

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 銀色の球は草むらにもびっしりと。空の青も森の緑も、鑑賞者の姿まで、すべてを映し込むミラーボール。草間彌生が1966年のヴェネツィア・ビエンナーレに出品し、世界的注目を集めた記念すべき『ナルシスの庭』。それをいま、この場所の作品に再構成。

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 直島のヴァレーギャラリーは安藤忠雄の設計。美術館は建築物だと決めつけず、周りの森や谷や池もすべて取り込んで作られている。『ナルシスの庭』という作品のために、内と外に連続したアート空間の創造。これは新たなる草間ワールドの誕生でもあります。

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 作品を観ながら池を巡り、坂を上り、建物に入る。屋内外で反復する水玉に無限に広がる世界を思う。周辺のすべてを映す銀色の球に、映り込む自分も世界の一部に入り込んだような感覚。しかも映っている世界は一つ一つ違うのだ。スゴイと思いませんか。

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 このギャラリー、じつはもう一つ作品が展示されている。坂の途中に設置された小沢剛の『スラグブッダ 88』。豊島の産業廃棄物を処理した後のスラグで作られた88体の仏像です。草間作品と響き合い、生命や、自然や、宇宙を、静かに考えさせてくれる。

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2022年10月17日 (月)

黄かぼちゃ、赤かぼちゃ

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 瀬戸内国際芸術祭2022、秋会期へ行ってきました。瀬戸芸を語るには、やはり代表的なアイコンの草間彌生さん作「かぼちゃ」から。去年の台風で予想をはるかに超える大波にさらわれて損傷した、というニュースに心痛めたアートファンも多かったことと思います。

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 その『南瓜』(通称・黄かぼちゃ)は、ちゃんと修復されて元の場所にありました。直島のつつじ荘そばの浜辺。小さな防波堤の突端、よほどしっかり設置しとかないと危険だわ、と思える場所にそれはある。人気アイドルなんだから、大事にしてもらわなきゃね。

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 高松から直島に入る玄関口、宮之浦港にもう一つのかぼちゃがあります。同じく草間彌生の『赤かぼちゃ』。SANAAが設計した『道の駅 なおしま』を通り抜けた先、芝生広場の端に赤と黒の作品が見えてくる。近づくにつれて思いのほか大きいのが分かる。

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 近寄ったり、離れたり。ぐるりと回って中にも入ってみる。あっ、暗い中に光の水玉が! 太陽の高さによって色や見え方が変わるだけじゃなく、内部の光の水玉も時間経過で位置やカタチを変える。黒く見えるところのいくつかは穴。窓や明り取りになっているのだ。

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 子どもたちにも大人気のかぼちゃは、ミュージアムグッズでも大スター。親子お揃いのTシャツ姿も見かけましたよ。うん、可愛いしセンスもいい。ミニチュアのオブジェ、ステーショナリー、アクセサリー、バッジなどなど。キャワな魅力を振りまいています。

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 フェリー会社も人気に便乗して赤い水玉模様。でも中途半端でちょっと残念。どうせなら正式にご本人に依頼して、本物の草間ワールドにデザインを一新してもらったらよかったのにね。瀬戸芸、直島の人気を背負うスーパースター「かぼちゃ様」のお話でした。

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2022年10月13日 (木)

不可思議な iPone

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 スティーブン・キング原作の短編を映画化。こう聞いただけで胸がドキドキしませんか。ジョン・リー・ハンコック監督の『ハリガン氏の電話』は、気の利いたショートショートのような味わい。老人と少年のスマホを通した奇妙な絆を描いた物語です。ホラー感は少なめだけど、それらしい雰囲気ある田舎を舞台に、静かに話は進む。

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 2003年メイン州の小さな町。お城のような豪邸で、独り暮らす謎の老人ハリガン氏。母を亡くした少年クレイグは、このお屋敷へ本を読み聞かせるバイトに通うようになる。時給5ドル、週3回。老人が天寿を全うするまでの5年間。本と読書を愛する2人の間には、いつしか友情が芽生えてくる。異質な者同士が心を通わす時間。

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 あるときクレイグはハリガン氏にiPoneをプレゼントする。テクノロジーの進歩に対して怒りを抱く老人。ところが使い方を教えるうちに、中毒になるほど没頭する。「人がモノを所有するのではなく、モノが人を所有するのだ」とうそぶき、テレビもラジオも持たない頑固者だが、ユーザー名を「海賊王」と登録する茶目っ気もあるのだ。

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 老人の葬式のあと、クレイグは遺体のスーツの内ポケットに密かにiPhoneを入れて埋葬する。傷つけられた時、怒りに震えた時、何気なくハリガン氏のスマホに電話して語り掛けるクレイグ。すると老人からショートメッセージが届く。死後も2人をつなぐiPhone? ありえない! しかも彼を苦しめる人間が次々と不審死を遂げる。

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 疑念。不安。恐怖。老人が遺してくれた信託財産のおかげで大学へ行っているクレイグ。人生を孤独に闘ってきたハリガン氏のことを知るうちに、母の死への後悔や喪失感を克服して自分の足で立って生きていく決意を固める。では、いわくのあるiPhoneはどうする? 少年から大人へ、心の成長を描くヒューマンドラマでした。

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2022年10月10日 (月)

神様のカルテ、続編です

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 素晴らしい感動作の続編。予想を上回る出来栄えでした。美しい信州松本の風景。キリッと空気が引き締まった雪の季節はさらに清々しく、ヒューマンドラマを盛り上げる。地方病院を舞台にした『神様のカルテ 2』。評価の高い作品の続編は、期待が大きいだけに難しい。深川栄洋監督は視点を少し変えて成功に導きました。

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 恒常的な人手不足と過重労働で疲弊する地域医療の現場。「24時間、365日対応」を掲げる病院で、ひとりひとりの患者と真摯に向き合い寄り添う、若き医師がいた。経営側からは「医療はビジネスだ」と、いつも責められている。そんなとき、大学の同級生だったエリート医師が、東京から赴任してくる。なぜ? 彼は何も語らない。

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 ある日、先輩の内科部長が末期の血液ガンだと判明。できるだけの治療を施すが、相手は専門家。すべてわかっている。後はどう穏やかに死を迎えさせられるか。病院の医療スタッフたちは、患者の部長に思いもよらないサプライズをプレゼントする。感動的なストーリーの陰には、家庭を顧みなかった仕事人間の姿も見える。

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 仕事か?家庭か? 自分のための時間がない厳しい環境に苦悩している医師たち。主役の櫻井翔と宮﨑あおい。先輩の柄本明と市毛良枝。同級生だった藤原竜也と吹石一惠。この3組の夫婦が、春に新たな生活のスタートを切る。出産で家族が増える。独りでの新生活へ。離れていた家族がまた一緒になる。道は三者三様。

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 医師はどう患者に向き合うべきか、をテーマにした前作に対して、家庭との両立に悩む医師たちにフォーカスした続編。医師の使命感と医療法人としてのビジネス面との確執。人間らしい家族への思い。地域医療を支える現場の悩みと喜びを、出演陣の抑えた演技が見事に表現している。サラ・ブライトマンの主題歌も良かった。

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2022年10月 7日 (金)

イーストウッドの女性版?

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 辺境の島。荒れ狂う嵐の夜。連れ去られた娘を取り戻すために、森の奥へ向かう母親。アンナ・フォスター監督のアクション&サスペンス映画『LOU / ルー』がおもしろい。数か月前に死んだはずの夫が、幼い娘を誘拐した? 裏に隠された家族の事情が少しずつ明かされながら、謎解きとハラハラで、話に引き込まれていく。

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 不愛想な隣人ルー・アデルは、得体のしれない初老の女性。人と交わらず愛犬とひっそり暮らす彼女は、元CIAの工作員だった。極秘情報を抱えたまま、静かに死んでいこうと決めた矢先のこと。誘拐された娘の捜索に巻き込まれてしまう。特殊スキルを活かして追跡するルーには、なぜかただならぬ気配が感じられるのだ。

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 狩猟のシーン、嵐のシーン、森のシーン、海岸のシーン、ダークなトーンの映像が素晴らしい。印象的なシーンの裏で、少しずつあらわになってくる各人の秘密。動機に隠された、40年にわたる憎しみや怒り。さまざまな思いが交錯するなかから、意外な事実が明らかになってくる。執拗に続くサバイバルゲームのような追跡劇。

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 主演のアリソン・ジャネイがカッコいい。演じるルーの生きざまも、立ち居振る舞いも、アクションシーンも、まるでクリント・イーストウッドの女性版。イラン革命のころからの因縁。母と息子の宿命。CIAつまり国家に汚れ役をやらされ、秘密保持のために消される悲しい定め。ここが、よくあるこの手の物語と一線を画すところだ。

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2022年10月 4日 (火)

あの頃を、もう一度


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 20年前、一世を風靡したアイドルグループ「ステレオドリーム」のスター。いまは誰からも相手にされない落ちぶれたミュージシャン。こんなヴィンスが路上ライブをしていた時に、才能ある若きドラマーに出会う。『あの頃 輝いていたけれど』(I USED TO BE FAMOUS)は、2度目のチャンスを狙う男と、自閉症の少年との熱い物語。

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 生活にも困窮し、孤独と絶望のなかで日々を送るヴィンス。それでも音楽から離れられず、再起をめざして奮闘する。プライドも捨て、あらゆることにトライするがうまくいかない。そんな時、リズム感抜群の少年スティーヴィーに出会い、路上で即興ジャムセッションに及んだ。その模様がたまたまSNSに投稿され評判になる。

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 再び音楽への情熱を掻き立てられたヴィンス。一緒にバンドを組もうと思ってスティーヴィーを探しまわる。やっと見つけたのは、教会で開かれていた音楽セラピー教室。そこではいろんな人たちが心から音楽を楽しみ、音楽に救われていた。教室に通ううちに二人の友情が深まっていく。そしてライブハウスに出演することに。

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 過保護すぎる母親と、自立しようともがく少年。両方の気持ちがわかるヴィンスは、自分の絶頂期に亡くなった弟のことを思い出していた。ソロ活動で成功をおさめた昔の仲間との確執と和解。音楽ビジネス業界の相変わらずの非情な姿。エディ・スターンバーグ監督は、多様な要素を手際よくコンパクトにまとめ、成功に導いている。

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 素直に感動できて、温かい気持ちになれる。大作ではないけれど、イギリス映画らしい好感が持てる佳作。出演者のエド・スクライン、レオ・ロング、エレノア・マツウラ、オーエン・マッケンなどの演技もとても良かった。欲を言えば、二人のこの後についても少し触れてほしかったかな。でも、それって蛇足かもしれませんね。

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2022年10月 1日 (土)

時は10191年、砂の惑星

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 またまた新しい宇宙神話が始まった。壮大な構想、鮮烈な映像、斬新な音響。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE / デューン 砂の惑星』は、フランク・ハーバート原作の『デューン』シリーズ第1作「砂の惑星」(1965年 ハヤカワ文庫)を実写映画化した作品。ジョージ・ルーカスにも影響を与えたと言われる世界観は、圧倒的です。

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 これまでも何度か実写映画化にトライされたけれど、うまくいかなかった伝説のSF小説。映像技術の進歩や表現力の向上、そしてなによりもヴィルヌーヴ監督の作家性により、新世代のスペクタクル・アドベンチャーとして大成功をおさめることができた。しかし、これは広大な宇宙空間を舞台にした物語の、ほんの序章に過ぎない。

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 アラキスはデューン(砂丘)の名で知られる砂の惑星。昼間は危険な巨大砂虫が支配している。ただこの星ではメランジと呼ばれる抗老化作用のあるスパイス(麻薬)が、宇宙で唯一産出されるのだ。また超能力の引き金となって、超光速輸送のナビゲートや特異な心身能力を発揮するメランジ。常用すると眼球が青く染まる。

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 このメランジが富と権力の源泉で、皇帝や有力貴族の争いの素となる。陰謀に巻き込まれて殺害されたアトレイデス公爵。跡取り息子ポールは全宇宙から命を狙われる羽目に陥る。なんとか逃げ延びた彼と母親は、原住民フレメンの中に身を隠す。メランジの効果で「未来を視る」能力を覚醒させたポール。はたして彼は・・・。 

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 自らの宿命を知り、運命を切り開く道を選んだポール・アトレイデス。帝国に対して革命を決意する彼は、みんなが待ち望んだ救世主なのか。ひとりの青年に託された未来。続編、続々編と、どこまで続くのか楽しみです。ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ他の出演者も、シリーズと共に成長してほしい。 

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