戦場以外のキャパ
「世界最高のアート作品は?」と聞かれたら、迷わず「南仏ヴァンスにあるロザリオ礼拝堂」と答えます。壁画やステンドグラスを始め、建物外観から屋根の十字架や燭台、司祭の服までデザインしたのが、最晩年のマティス。体が不自由になり、長い棒の先に木炭をつけて壁画の下絵を描いている彼の写真は超有名です。
しかし、これを撮ったのがロバート・キャパだったとは知らなかった。巨匠ピカソが若い愛人に日傘をさしかけている、この作品もそう。もはや戦場カメラマンとは呼べないでしょ? ヘミングウェイやイングリッド・バーグマン、ジョン・ヒューストンなど、その人の本質にグッと迫る人物写真に、キャパの「もうひとつの顔」が見える。
ツール・ド・フランスの観戦写真もおもしろい。疾走する自転車は写さず、見物客が一斉に迎え一斉に見送る姿で瞬間のスピードと臨場感を伝えている。しかもユーモアのセンスでくるんで。これ以降、同じアイデアの表現が氾濫するのもうなずけます。カーニバルや競馬場やリゾート地を撮っても、彼流のスパイスを効かせて。
天性の戦場カメラマン。稀有の報道写真家。20年ほどの短い活動期間。謎に包まれた冒険家的生涯。世界中を飛び回って多様な傑作を撮り続けたキャパは、ファインダーから何を見ていたのでしょう。人間の愚かさ。人間のおかしみ。人間の素晴らしさ。喜怒哀楽をいやでも増幅させる戦争の時代を、彼は宿命的に生きたのだ。
ロバート・キャパ セレクト展
もうひとつの顔
2022年9月10日(土)~11月6日(日)
神戸ファッション美術館
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