1棟だけ、ポツンと大海原
『ペンギン・ハイウェイ』に続く、石田祐康監督の長編2作目が『雨を告げる漂流団地』です。小学6年生の夏休み。幼なじみの航祐と夏芽がクラスメイト達と不可解な事件=現象に巻き込まれ、サバイバル生活を余儀なくされる。小学生たちの冒険と成長のファンタジー物語。子どもが主人公ですが、決してお子さま向けではない。
姉弟のように仲良く育った夏芽と航祐。でもある事をきっかけに気まずい関係になっている。秘密を隠す女の子と、素直になれない男の子。二人が暮らした思い出の団地は、築60年を超えて取り壊しを待っている。この誰も近づかない「おばけ団地」に幽霊が出るというウワサがたち、クラスの仲間とコワゴワ探検に行くことになる。
恐る恐る中を見て回っていた時、大雨が襲ってくる。雨が止むと、そこはなんと大海原。団地の一棟まるごと海に流されてしまったのだ。周りの街並みはすべてなくなり、ポツンと浮かぶ建物。信じられない事態。いったい何がどうなったのか。不安は極限に達するし、おなかはすくし。パニックに陥るが泣いてばかりはいられない。
ここからサバイバルが始まる。水はあるか? 食糧の確保はどうする? 汗だくだからお風呂にも入りたい。人は切羽詰まったら成長する。必死に考えるからだ。使えるものは何でも活用する。食糧も浪費せず、管理して計画的に。いつ元の世界に戻れるかわからない。自然に役割分担が生まれ、協力して危機に立ち向かう。
次々と襲い掛かる予期せぬ事態。知恵を出し合い、犠牲的精神を発揮し、共に乗り切ることによって深まる友情。あの名作『スタンド・バイ・ミー』も、ひと夏の成長物語でした。フツーの日常ではダメなのでしょうね。それぞれが問題を抱えているクラスの仲間たち。みんなのキャラクターも丁寧に描かれていました。
誰しも忘れられない記憶がある。その記憶を呼び覚ますキッカケも人さまざまだ。アルバムの写真、いつも一緒だったぬいぐるみ、宝物の石ころ・・・。意識の深いところに沈潜していた音や匂いが、記憶再生のスイッチになることもある。この作品がユニークなのは、建物に対する思いが堆積されて精霊に昇華してしまうところ。
思い出の世界。いや、もしかしたら死後の世界。この世とあの世。この世界は単一じゃないと知った少年少女たちは、ひとつ大人に近づけたかな。きっといい人間に成長してくれるでしょう。また団地は歴史文化遺産なのだと強く思わせる作品でした。画一的で効率化の象徴のような負のイメージで捉えていたので、とても新鮮です。
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