医者とは人生に寄り添う者
2011年、深川栄洋監督による感動作『神様のカルテ』。本屋大賞2位に輝いた夏川草介さんの同名小説(小学館)を映画化した作品です。主演は櫻井翔。夏目漱石を敬愛するあまり、ちょっと古風な話し方をする物静かな内科医を好演。地域医療の一端を担う総合病院を舞台にした若き勤務医・栗原一止の成長物語です。
病院では少し変人と思われながらも、先輩や同僚医師、多くの看護師たちに囲まれて忙しい日々を送る栗原。「24時間365日」救急外来を受け入れるこの病院。夜間は診察を待つ患者であふれかえる。疲労困憊する彼を癒してくれるのは、宮﨑あおい演じる愛妻で写真家の榛名。二人は互いにイチさん、ハルと呼び合っている。
最先端医療を担う大学病院の医局から熱心な誘いを受けるイチ。移るべきか、残るべきか。揺れ動く心。こんなとき、余命半年の末期ガン患者に出会う。手術も無理、治療法もない彼女は、大学病院からは受け入れを拒否される。最後にたどり着いたのがイチのところ。加賀まりこ演じる老女がこの物語のキーになる。
最後の最後に、こんな幸せな時間が待っていたなんて・・・ 老女が書き残した手紙を読んで、地方病院に残る決心をするイチ。病院では、生も死も日常なのだ。過酷な労働環境、人手不足、地域医療が抱える厳しい状況のなかで、真実の喜びを見出していく。原作者は現役の医師だけあって、ディテールまで説得力がスゴイ。
医者の仕事って何だろう。病気やけがを「治す」。新しい医療技術を「研究する」。最期を「看取る」。いろいろあるでしょうが、いちばん大切なのは個々の患者の人生に「寄り添う」ことではないか。この映画からそう教えられました。病や死を身近に感じる年齢になったいま、イチのようなドクターに出会える幸運への期待は切実です。
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