モダニズムのその先は?
前々回にご紹介した藤森先生の「人類の建築の歴史はアメ玉だ」理論。最初のねじれは、自然の石・土・木を使って建築を生み出した時代。そして20世紀のねじれは、工業製品の鉄とガラスとコンクリートを使って生み出したモダニズム建築。「人類は2度、新しい建築を『ゼロ』からつくったんです」と説明する先生。ナットクです。
アール・ヌーヴォーをきっかけに、生命の相、鉱物の相、数学の相へと抽象的な深みに向かって掘り下げてきたモダニズム建築。でもこの先はあるのか? 厚い壁より薄い壁。太い柱より細い柱。より軽く、より透明な空間を。これを目指す主要な素材はガラスだ。ガラスは透明ゆえに物体性が弱く、とても抽象性が強い建材。
さまざまな建築家がガラスを使ってアイデアとデザインを尽くし、限りなく物体性をゼロに近づける努力をしてきた。しかし完全なゼロにはできない。人間が身体から離脱して精神だけになれないように、建築も物体性から離れることはできないのだ。もしかしたら20世紀モダニズムで、建築の歴史は終わってしまったのか。
生命→鉱物→数学と、内なる造形感覚を掘り下げてきた人類。幾何学に基づく抽象的な造形世界のさらに先へ進むためには、物質の限界を離れてより抽象性を高めなければならないのか。果たしてそんなことが可能なのか。21世紀の現在、こんな行き止まり的状況に反逆する建築家も現れてきた。ごくごく少数派ながら。
物としての手触りを大切にする。昔の技術を再構築する。あえて歴史を後戻りする。などなど。建築の面白さを追い求めて、バラバラに活動する反逆者たち。もしかしたら人類が経験したことがない未知の建築世界は、こんな周辺の異端者から生まれるのかもしれません。モダニズムのその先。長生きして見てみたいものです。
人類の建築の起源から現代建築までを、一つの軸で見通す壮大な物語。写真より理解が早い宮沢洋さんの建築イラスト117点がいい仕事をして、藤森照信さんのユニークな理論をわかりやすく簡潔に伝えてくれる。彰国社の『画文でわかる モダニズム建築とは何か』。これを読めば、わずか30分であなたも立派な建築通。
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