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2022年5月23日 (月)

戦場の臨場感がスゴイ

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 1940年ドイツ軍の電撃作戦で、ドーバー海峡に面したダンケルクに追い詰められた英仏軍40万人の兵士たち。彼らを生きて英国に戻すために、史上最大の退却作戦が始まった。クリストファー・ノーラン監督が有名な史実を描いた『ダンケルク』。その圧倒的な戦場のリアリティは、戦争映画に新風を巻き起こしました。

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 戦争映画で大きな作戦をテーマに取り上げる場合、全体像がわかるように「神」の目線で描く場合が多い。そこまででなくても「国のリーダー」や「司令官」の視点で。しかし現実の戦場では兵士たちは見える情報と経験だけで戦っている。ここに着目したノーラン監督は陸、海、空、自分の持ち場で戦う「個人」の主観で描いたのだ。

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 個人の目で描くと、観客も同じく瞬間瞬間の情報しか得られない。その結果、まるでその場に放り込まれたような緊迫感。もうひとつスゴイのは陸、海、空の局面に少しずつ時間のズレを作っていること。その結果それぞれの戦場の繋がりが徐々にわかってくる仕掛け。とはいえ最低限の歴史知識があったほうがより楽しめる。

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 この作品は、作戦全体の説明がない。派手な戦闘シーンがない。敵が見えない。などの理由で、従来の戦争映画に慣れている人には不評かも。しかしよくわからず戦っていた、というのがリアルな戦場だろう。自分自身が生き残るのが精いっぱいの。現代のようにスマホやPCがあるわけでもない時代。それが限界だった。

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 マクロの視点で俯瞰するか。ミクロの事実を集積するか。戦争など大きな出来事を語る場合、二つのアプローチが考えられる。ヒーローを中心に据えて語ることも、名もない個人の行動から描くことも。ノーラン監督はリアリティを最重視して後者を選択。そして現在進行形の演出が緊迫感を最大化するのに成功している。

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 4年後のノルマンディー上陸作戦と違って、ダンケルクは追い詰められての退却作戦。なのになぜ大成功と記憶されるのか? それは装備の大半を失っても40万の人的資源を保全したから。連合国が戦意を失わず戦い続ける転機になったから。ここに英雄はいない。兵士たちの生き延びる気力が、人々に勇気を与えたのだ。

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