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2022年4月20日 (水)

朦朧体と呼ぶスタイル

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 自由にうねる線。輪郭の揺らぎ。軽やかな色使い。『横尾忠則 寒山拾得への道』展に出品された最新のシリーズは、横尾さん自身が「朦朧体」と呼ぶ新しいスタイルで描かれている。アプローチはまったく異なるが、見た目は後期印象派に近く感じる。テーマの捉え方やモチーフの混合はシュールレアリスムに近いのだが。

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 もともと横尾さんはあらゆる手法や様式を自在に取り入れ、しかもそれらに縛られることがない。変化を恐れず常に前進。新しいスタイルを生み出した、と思ったらもう次の地平を目指している。この朦朧体も、近年患っている難聴と腱鞘炎がもたらした身体的な感覚の変化から出現した描画スタイル。ケガの功名、と言えば失礼か。

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 同じモチーフが何度もしつこくあらわれるのも横尾ワールドの特徴の一つ。「Forward to the Past (過去への前進)」とサブタイトルにあるように、過去にも出てきたモチーフを現在の眼でどう新作に表現したか。3階会場にはこんな視点で選ばれた過去の作品も20点ほど展示されているので、見比べると興味深い。

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 たとえ身体が思うように動かなくなっても、限られた条件で表現できる道を模索する。創造への尽きることのない情熱に突き動かされた、どこまでも続く格闘。鬼気迫る執念。それがアーティストの宿命。芸術家の人生とは終わりのない旅なのでしょう。ふとマチスの晩年や、左手だけのピアニストを思い浮かべました。

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 でも、こんな感傷的な考えを吹き飛ばすのが、会場に流れるBGM『夕陽のガンマン』。常識的なモノの見方や、凡人の浅知恵など、クソくらえ! 人間や世界の本質からはほど遠いヒトやコト、本来の意味を見失った社会慣習や儀式。横尾忠則はアートの自由を妨げるすべてに、決闘を挑む気概で前進し続けているのだ。

Forward to the Past
横尾忠則 寒山拾得への道
2022年4月9日(土)~7月18日(月・祝)
Y+T MOCA
横尾忠則現代美術館

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