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2022年3月19日 (土)

反逆か、正義か

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 国家が間違ったことをした時。その機密を知ってしまった時。しかもそれが人類に対する重大な犯罪だとしたら、それを公に発表することは国家反逆罪なのか。ロシアのウクライナ侵略に関する話ではありません。黒沢清監督の『スパイの妻』。1940年、日本が軍国主義へと突き進んでいた頃の、神戸を舞台にした映画です。

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 ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した話題作で、『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督も脚本で参加しています。太平洋戦争前夜の不穏な空気が漂い、自由な言論が封殺される暗い時代。ノンフィクションだそうですが、歴史的事実をうまく織り込んで、実話かなと思わせるリアリティがある。

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 貿易会社を営む福原優作は、満州へ視察旅行に出かける。そこで関東軍が細菌兵器の開発のため、密かに人体実験を行っていることを知る。もちろんこれは国家機密。しかし強い正義感から、非人道的な行為を海外で告発しようと決意する。国家機密を漏らす、これはスパイにほかならない。彼を愛する妻 聡子は?

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 裕福な生活。国際的な視野。リベラルな思想。こんな普通に幸せを求める姿が、この時代では普通じゃなかった。しかし暗い時代の夫婦の愛の物語かと思っていたら、がぜん謎とサスペンスに満ちあふれたミステリーへと転じる。憲兵隊との騙し合い。夫婦での騙し合い。何が本当なのか。誰も信じられなくなってくる。

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 自分をコスモポリタンだと言い放つ優作を演じる高橋一生。聡子役の蒼井優が夫に裏切られたと知った クライマックスでの熱演。爬虫類的なコワサを感じる憲兵隊長役の東出昌大。レトロなファッションと相まって、みんなピタリとはまっている。塩屋の旧グッゲンハイム邸や神戸税関など、ロケ地も良い味を出していました。

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 1945年3月、神戸大空襲。そして8月、日本が敗戦を迎える。自分だけ助かればいいのか、とヒドイ仕打ちをしたように見えた優作。精神病院に入れられた聡子。さて、その後は? じつはお見事な結末が用意されていたのです。正直に白状すると、私も観客としてすっかりだまされていました。黒沢監督の見事な手際に脱帽です。

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