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2022年3月13日 (日)

絶望と再生のドライブ

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 『ドライブ・マイ・カー』が世界中で話題です。村上春樹の短編集「女のいない男たち」(文藝春秋)の中から「ドライブ・マイ・カー」を原作に、濱口竜介監督が映画化。舞台俳優で演出家の主人公(西島秀俊)は妻の急死から立ち直れず、喪失感を抱えながら生きていた。2年後、演劇祭で演出を担当することになり広島へ向かう。

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 出し物はチェーホフの『ワーニャ伯父さん』。オーディションに始まり、本読み、稽古が毎日続く。彼が取り組んでいるのは実験的な「多言語演劇」。日本、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、ドイツなど多様な国の出演者が、それぞれ自国語でセリフをしゃべる。なかでも圧巻の存在感を放っていたのが韓国手話で話す女優さん。

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 現地で出会った専属ドライバー(三浦透子)と愛車SAABで宿舎と稽古場を往復する主人公。じつは寡黙な彼女も心に大きな傷を持ちながら生きていた。喪失に苦しむ。絶望に耐える。そして目を背けていた真実に気づき、自らの心のうちと対話する。舞台劇『ワーニャ伯父さん』のストーリーと微妙にリンクしながら進む物語。

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 陽光輝く瀬戸内の海辺。雪が積もる北海道の原野。日本の風景の中を駆け抜ける赤いSAABがもう一人の主人公。走る車内でテープに録音された芝居のセリフを聞く。言葉少ない運転手との貴重な会話。原作では黄色いSAABだったものを風景に埋もれないために赤に変えたと監督は言う。再生への象徴的としての赤いクルマ。

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 どんなに親しい夫婦や親子でも、お互いの心のうちは分からない。他者と自己。それは愛情とか。理解というレベルの話ではない。自分自身のことすらよくわからない、人間の限界かもしれない。だからこそ大切なのは、そばに寄り添うこと。たとえ会話はなくても感じることはある。そこから再生が始まる。希望が生まれる。

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 内省的で静かだけれどスリリングな展開。この映画は村上春樹ワールドを尊重しつつ、見事に濱口竜介の世界を作り上げている。映画のストーリーと舞台劇それぞれのシンクロ具合の巧みさは、濱口監督ならでは。谷口吉生が設計した広島のゴミ焼却場も素晴らしい効果を上げている。世界で賞を取りまくるのも納得です。

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