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2022年2月

2022年2月26日 (土)

幕末のマラソン大会

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 監督:バーナード・ローズ。音楽:フィリップ・グラス。衣装デザイン:ワダエミ。『サムライマラソン』は外国人が作った不思議な感覚の時代劇です。西部劇や黒澤明の『七人の侍』を思わせる乾いた感性とリアルな描写。これがグローバルスタンダードかもしれませんが、伝統的な様式美を見慣れた目には戸惑いもありました。

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 『超高速!参勤交代』の原作・脚本の土橋章宏が、日本のマラソン発祥と言われる史実「安中遠足」を題材に書いた小説「幕末まらそん侍」(ハルキ文庫)を映画化。遠足は「えんそく」ではなく「とおあし」だ。トレランのように険しい山道を走る遠足の開催が幕府への反逆と誤解された安中藩。公儀隠密との激しい戦いが始まった。

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 事実に基づいた創作、とクレジットが入るが、かなり自由にお話を作り上げた印象だ。盛りだくさんのエピソードはそれぞれ興味深い。じつは隠密だった主人公。開明的な考えの姫。父が早死にして貧困に苦しむ武家の子ども。ペリー総督が贈ったコルトレボルバー。ただ欲張りすぎて、少し散漫になったのは残念ですが。

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 アクションとサスペンスとサバイバルを繰り広げる佐藤健、森山未來、小松菜奈、染谷将太、長谷川博巳、豊川悦司ほかの豪華キャスト。気持ちのいい自然の中を走りに走って、血を流し、首が飛ぶ。ペリー総督率いる黒船がやって来て開港を迫る幕末に、こんな出来事があったとは。おもしろい歴史の襞に気づいたものだ。

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 いい味を出していた竹中直人と男の子のコンビはC-3POとR2-D2をリスペクトしたものに違いない。さらにそれは黒澤明への愛に行きつく。しかし日本人俳優が日本語で演技しているのに、トム・クルーズ主演の『ラストサムライ』より日本の時代劇らしくない。はたしてどこをマーケットにしているのか。ホントに奇妙な面白さでした。

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2022年2月22日 (火)

愛は悲劇を超えられるか

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 シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷きにした『ウエスト・サイド・ストーリー』。敵対するコミュニティに属する男女の禁断の恋、周りから決して許されない愛に一途に突き進む2人。その純粋さが大きな悲劇を招く。果たして絶望の中に希望を見いだせるのか。憎しみと暴力の連鎖を断ち切ることはできるのか。

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 事態が悪い方へ悪い方へと転んでいく。すべてのベクトルは最後の悲劇に向かって突き進む。恋の成就を確信したマリアが「I feel pretty」を明るく歌うとき、じつはすでに悲劇は始まっていたのだ。幸せの絶頂と、裏で進む破滅。不条理な悲惨さをより強調するドラマチックな演出は見事です。さすが、巨匠スピルバーグ。

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 There's a place for us, Somewhere a place for us.  There's a time for us, Some day a time for us. いつか、どこかで。悲しくて醜いことばかりが続いても、私たちが安らげる居場所がきっとある。この感動的な楽曲で、愛は悲劇を超越できる! だから絶対にあきらめないで! とメッセージを送る。差別、分断、暴力の克服。

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 アーサー・ローレンツ原作。レナード・バーンスタイン音楽。スティーブン・ソンドハイム作詞。ジェローム・ロビンス振付。これら骨格が特別素晴らしいこの作品。オリジナルスタッフ(多くは遺族)から再映画化の了解を取り付ける苦労も大変だったでしょう。結果、彼らへのリスペクトと愛が随所に詰まった最高の作品になりました。

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 60年前、アニータを演じてアカデミー助演女優賞を獲得したリタ・モレノが出演しているのも泣かせます。しかも両グループが一目置く重要な役、ワイズ版と最新版を絶妙に橋渡しする賢人として。またNYフィルが音楽を演奏するなど、スピルバーグ監督の深い思いとこだわりが伝わってくる。新たな名作の誕生です。

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2022年2月18日 (金)

現代にも通じる物語


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 1950年代後半、マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドでは古い建物群を取り壊して、総合芸術施設をつくる整備事業が行われていた。METオペラやNYフィルの本拠地、豪華なリンカーンセンターの建設です。その陰で居場所をなくす移民たち。自由を求め成功を夢見てやってきたのに、偏見と差別に苦しむ彼ら。

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 社会への不満を抱えた若者たちは仲間と集団を形成し、他のアイデンティティを持つグループと激しい抗争を続けていた。プエルトリコ移民の「シャークス」と、貧しい白人グループ「ジェッツ」。敵対する2つの集団は、それぞれ受け継がれたコミュニティの物語がある。米国は移民で成り立つ国。多様性の尊重が国の根幹のはず。

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 スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』。ブロードウェイで1957年初演の名作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』を、1961年のロバート・ワイズ監督に続く再映画化。映画館で衝撃を受けた中学生が、すっかり老人になるほど時間がたったのに。「分断、不信、暴力の克服」という物語のテーマが古びないのが残念です。

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 ロバート・ワイズ版の『ウエストサイド物語』と比べると、より映画的になっている。実写ならではのリアルな街。彼らの日常のようなコスチューム。ドキュメンタリーのようなカメラワーク。若々しい躍動感と不穏な空気の対比。さすがスピルバーグ監督です。予想をはるかに超える感動作でした。純粋な愛については、次回に。

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2022年2月14日 (月)

青い光の幻想

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 深い海底にいるかのような、高い天空にいるかのような、静寂に満たされたブルーの世界。そこでは安らかで崇高な、不思議な感覚が沸き起こってくる。初めて感じるのに懐かしい。うまく表現できないけれど、これは何か大切なもの、もしかしたら宇宙の起源や生命の根幹に触れたという感覚なのかもしれない。

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 いま神戸ファッション美術館で開催されている『ゆるかわふうの世界』展。〈光の芸術家 ― 宇宙の記憶〉というサブタイトルがついた幻想的なアート体験です。透過光のブルーでしか表せない深遠な宇宙。うたた寝するネコも、親子のクジラも、物思う少女も、ブルーの陰影で浮かび上がると哲学的な様相を帯びてくる。

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 イヴ・クラインのインターナショナル・クライン・ブルーを想起させる高貴なブルー。この青い光は、ゆるかわふうの発見・発明だ。知性も情熱も神秘も、すべてを包み込む青。タテ1.8m×ヨコ約5mの大作がずらりと並ぶ展示空間は、はるか宇宙のかなたの見知らぬ惑星に不時着したかのような驚きと感動に満ちている。

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 展示会場で「ゆるかわブルー」の種明かしをしてくれている。作品を創る素材は建築の断熱材として使われるスタイロフォーム。裏から白色LED照明を当てると青く光るそうだ。厚みがあると青が濃く、薄いと白っぽく。こうして彼は電動金ブラシやコテで削って凹凸でカタチを描き、青の濃淡のみで表現する独自の技法に行きついた。

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 発泡スチロールを硬くしたような建築資材にLED照明。芸術とは縁遠く思われる工業製品を使った、平面と立体と映像を融合した新しいアート表現の誕生です。「光彫り作家」と自称するゆるかわふう。この技法を拡張させ、進化させ、どこまで到達できるのか。これからの活躍がとても楽しみなアーティストです。

光の芸術家 ー宇宙の記憶
ゆるかわふうの世界
2022年1月29日(土)~3月27日(日)

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2022年2月 6日 (日)

少年チームに凄腕コーチ

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 スーパーボウルも制覇したNFLの現役ヘッドコーチが、弱小少年チームをコーチする! ウソのような、夢のような、映画『ホーム・チーム』はニューオーリンズ・セインツのヘッドコーチを長年務めるショーン・ペイトンの実話に基づくストーリー。観終わったあと思わず拍手を送りたくなる、爽やかで心温まるスポーツコメディです。

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 相手選手にけがを負わせると報奨金を受け取れる、というチーム内の悪しき慣習が明らかになり、ペイトンは責任を取らされて1年間の停職処分。仕事ができなくなった彼は、離婚して疎遠になっていた息子が所属するチームの試合を見に行くことに。それが勝ったことがないどころか得点を挙げたこともない最弱チーム。

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 食べ物のことしか考えてない。当たるのがコワイ。カノジョのことで頭がいっぱい。個性的だけれどやる気のないメンバーばかり。こんなトンデモチームのコーチを頼まれた彼は、息子との絆を取り戻すために依頼をOK。いかにやる気を引き出すか。どのようにして複雑な戦術を覚えさせるか、昼も夜も懸命に奮闘する。

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 嚙み合わない選手に、加熱する保護者たち。みんなを奮い立たせ、戦略を駆使し、ついに地区大会の決勝へ。ちょっと『がんばれベアーズ』を思い出す。挑戦する勇気。小さな達成感。変わらぬ友情。プロとは違う少年スポーツの魅力を子どもたちから教えられ、ペイトン自身も成長する。アメリカらしい良き価値観が満載です。

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