愛は悲劇を超えられるか
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷きにした『ウエスト・サイド・ストーリー』。敵対するコミュニティに属する男女の禁断の恋、周りから決して許されない愛に一途に突き進む2人。その純粋さが大きな悲劇を招く。果たして絶望の中に希望を見いだせるのか。憎しみと暴力の連鎖を断ち切ることはできるのか。
事態が悪い方へ悪い方へと転んでいく。すべてのベクトルは最後の悲劇に向かって突き進む。恋の成就を確信したマリアが「I feel pretty」を明るく歌うとき、じつはすでに悲劇は始まっていたのだ。幸せの絶頂と、裏で進む破滅。不条理な悲惨さをより強調するドラマチックな演出は見事です。さすが、巨匠スピルバーグ。
There's a place for us, Somewhere a place for us. There's a time for us, Some day a time for us. いつか、どこかで。悲しくて醜いことばかりが続いても、私たちが安らげる居場所がきっとある。この感動的な楽曲で、愛は悲劇を超越できる! だから絶対にあきらめないで! とメッセージを送る。差別、分断、暴力の克服。
アーサー・ローレンツ原作。レナード・バーンスタイン音楽。スティーブン・ソンドハイム作詞。ジェローム・ロビンス振付。これら骨格が特別素晴らしいこの作品。オリジナルスタッフ(多くは遺族)から再映画化の了解を取り付ける苦労も大変だったでしょう。結果、彼らへのリスペクトと愛が随所に詰まった最高の作品になりました。
60年前、アニータを演じてアカデミー助演女優賞を獲得したリタ・モレノが出演しているのも泣かせます。しかも両グループが一目置く重要な役、ワイズ版と最新版を絶妙に橋渡しする賢人として。またNYフィルが音楽を演奏するなど、スピルバーグ監督の深い思いとこだわりが伝わってくる。新たな名作の誕生です。
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