« 2021年12月 | トップページ

2022年1月

2022年1月24日 (月)

秘密のチョコレート工場へ

   Photo_20220123154701

 色彩、造形、毒舌、ユーモア、優しさ、そして過去の名作へのオマージュ。ティム・バートン監督の美学と世界観がすべて詰まった2005年の名作ファンタジーが『チャーリーとチョコレート工場』。原作は大好きな「あなたに似た人」を書いた才人ドアルド・ダールの児童文学「チョコレート工場の秘密」(田村隆一訳 評論社)です。

Photo_20220123154702

 有名チョコレート会社が秘密の工場に子どもたちを招待するキャンペーンを始めた。包装内に隠されたゴールドチケットをめぐって大騒動が勃発。当たり券は世界でたった5枚。バートン作品には不可欠のジョニー・デップが天才ショコラティエで工場主のウィリー・ウォンカ役。素直な少年チャーリーをフレディ・ハイモアが演じる。

Photo_20220123154803

 招待された工場の内部は想像を絶するものばかり。スイーツ好きにはたまらないお菓子の森にチョコレートの池。謎の小人や勤勉に働くリス。超ハイテク機械や瞬間移動エレベーター。ワクワクするけどヘンテコな、ちょっぴりホラーなワンダーランドを楽しむ見学ツアーです。工場主のウィリーは驚くみんなを見て上機嫌。

Photo_20220123154703

 この招待では1人だけに特別賞が与えられることになっている。大食いの子、自信過剰の子、わがままな子、傲慢な子、みんな次々に脱落していく。最後に残ったのは貧しい家庭で健気に生きるチャーリー。5人の中でいちばん存在感の薄い内気な少年だったのに。自己主張が強くないから逆に良かったのかもしれないね。

Photo_20220123154802

 金持ちだけど厳格過ぎる父に育てられた工場主ウィリーは、愛に飢えた孤独な心を持て余している。おじいちゃんおばあちゃんとも一緒に暮らすチャーリーは、自分のことよりも家族を思って重大な決断を下す。さて、特別賞の賞品とは何だったのか? 幸せとは。人生とは。おとぎ話だけれど、いろんなことを考えさせられます。

Photo_20220123170401

 ミュージカルの要素もたっぷり効かせて、軽快に話は進む。こんなスピーディな独特のテンポもティム・バートンの魅力です。パロディのシーンや元の映像へのリスペクトも笑えて、極上のエンターテインメントに仕上がっている。子どものころの夢を忘れずに!と教えられた作品でした。古いけれど一見の価値ありです。

| | コメント (0)

2022年1月20日 (木)

ネパールの名誉を賭けて

   14peaks    

 標高8,000mを超える高峰は世界に14座。ネパール、パキスタン、チベットにまたがるヒマラヤ山脈とカラコルム山脈にある。そのすべてを7ヵ月で登頂する計画を立てた男がいた。ネパール人の ニルマル ”ニムス” プルジャの挑戦を追ったのがトークィル・ジョーンズ監督の『ニルマル・プルジャ 不可能を可能にした登山家』。

8000m

 史上初めて14座を制覇したのは伝説の登山家ラインホルト・メスナーで、16年をかけて達成した。それを、わずか7ヵ月で! 8,000mを超えると酸素濃度が地上の3分の1と薄く、人間が生存できないデスゾーンと呼ばれる。実現不可能と言われたチャレンジを淡々と描くドキュメンタリー。それがかえってスゴさを際立たせる。

Photo_20220120000302

 アンナプルナ4月23日。ダウラギリ5月12日。カンチェンジュンガ5月15日。エベレスト5月22日。ローチェ5月23日。マカルー5月24日。ナンガパルバット7月3日。ガッシャ―ブルムⅠ峰7月15日。ガッシャ―ブルムⅡ峰7月18日。K2 7月24日。ブロードピーク7月25日。チョ・オユー9月23日。マナスル9月27日。シシャパンマ10月29日。

Photo_20220120000301

 天候不順や事故など、さまざまな危機や予期せぬ障害を克服しながら、6ヵ月と6日で達成したネパール人だけのプロジェクト・ポッシブル。ニムスは見事なリーダーシップを発揮して計画を成功に導く。しかも自分たちも過酷な状況に置かれているのに、ほかのパーティの遭難を聞くと救出活動に奔走。人間としても素晴らしい。

Photo_20220120000402

 直後のインタビューで「これが欧米人だったら世界中の大ニュースになるんだけれどね。でもネパールとネパール人登山家の名誉のために役立ったらうれしい」と語った。これまで欧米人の登頂者はちゃんと名前が出るのに、ガイドして一緒に登ってもシェルパとしか記録に残らない現状を変えたいとも言っている。

Photo_20220120015901

 クラウドファンディングで資金を集めたり、エベレスト直下の渋滞の写真をニューヨークタイムズに提供したり、単なる登山家を超えて、事業家やプロデューサーとしての資質も発揮。広い視野で考え、冷静に判断し、強い意志で決断するニムスの魅力があふれたドキュメンタリー。過酷なデスゾーンのリアリティに感動しました。 

| | コメント (0)

2022年1月16日 (日)

まわり全員みんな殺し屋

   Photo_20220115234701

 蜷川実花の美意識全開の美術と映像が、カラフルに、パワフルに、狂気の世界を創り出した。2019年の監督作品『Diner ダイナー』。平山夢明の小説(ポプラ社、ポプラ文庫)を実写映画化した作品だそうです。原作は読んでいませんが、蜷川色に染まってより芸術性の高いものになったのではないでしょうか。

Photo_20220115234802

 凶悪な殺し屋たちに元殺し屋の天才シェフ・ボンベロが極上の料理をふるまう特別なダイナー。そこで新人ウェイトレスとして働くことになったオオバカナコは、恐怖と緊張の日々。不器用でどうしようもなかった彼女も、死と隣り合わせの毎日を生き延びるうちに、したたかに成長していく。こんな二人を藤原竜也と玉城ティナが好演。

Photo_20220115234803

 キッチュ、ゴージャス、グロテスク。クセの強い殺し屋しかいない見世物小屋。あるいはハチャメチャで悪趣味でカッコイイ世界。異色サスペンスで耽美的な殺しのファンタジー。映像美に圧倒されて、ストーリーのぶっ飛び具合も気になりません。本当にあっという間の1時間57分。理解しようなどと思わず、何かを感じればいい。 

Photo_20220116003502

 特別ダイナーの店内に飾られた横尾忠則のポスター。キーになる小道具として名和晃平の立体アート。特殊メイクとチョー個性的なコスチューム。さすが、アーティスト蜷川実花ならではのチョイスが光る。出演者の豪華さにも驚かされます。主演級の俳優がいっぱいで、しかもチョイ役の殺し屋をみんな楽し気に演じている。

Photo_20220116003501

 窪田正孝、本郷奏多、武田真治、斎藤工、小栗旬、土屋アンナ、真矢ミキ、木村佳乃、奥田瑛二、佐藤江梨子、板野友美。お父さまの蜷川幸雄さんが亡くなった大ボス役を「遺影で出演」、というのには笑わせられました。いっぱい血が流れ、いっぱい人は死ぬけれど、凄惨なイメージはありません。むしろ爽やかさを感じました。

| | コメント (0)

2022年1月13日 (木)

THE METの運営のヒミツ

   Photo_20220108223101   

 フェルメールの『信仰の寓意』〈Allegory of the Catholic Faith〉には、The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 
とキャプションがついている。一方、レンブラントの『フローラ』〈Flora〉には、Gift of Archer M.Huntington, in memory of his father, Collis Potter Huntington, 1926 と。それが何か?でしょ。

  Photo_20220108223102

 実業家や資産家、芸術家などの市民によって1870年に創立されたメトロポリタン美術館。じつはこの人たちから寄贈された作品で成り立っているのです。上記フェルメールの作品はBequest(遺贈)、レンブラントはGift(贈与)。つまり死後に贈られたものと、生前に贈られたもの。展示する場合は必ず表記する取り決めなのでしょう。

Photo_20220108223201

 でも驚くのは外国での展覧会まで徹底されていること。さすが契約の国アメリカ、キチッとしています。セザンヌの『リンゴと洋ナシのある静物』〈Still Life with Apples and Pears〉は1960年のBequestだし、モネの『睡蓮』〈Water Lilies〉は1983年のGiftです。150年以上の歴史でこのように増え続けた所蔵作品は150万点。へぇー、でしょ。

Photo_20220108223202

 THE METはお金も意識も豊かさの象徴、みんなでつくるオラが美術館なのだ。相続税や贈与税など税制の違いと、寄付文化の成熟度は羨ましい。作品を寄贈できない一般市民もサポート会員になって盛り立てる。会員募集も入口の一番目立つところで大々的に。初めてのとき「えっ、またお金取られるの?」。 お恥ずかしい。

メトロポリタン美術館展
 ー西洋絵画の500年ー
~2022年1月16日(日)まで
大阪市立美術館

| | コメント (0)

2022年1月10日 (月)

西洋絵画、500年の歴史

   Met

 初期ルネサンスからポスト印象派まで、THE METが所蔵する巨匠たちの名画65点がやってきました。ヨーロッパ絵画部門の展示館が現在改修工事で閉鎖中のために実現した、またとない企画。NYではコレクションが膨大だから目星をつけた作品を駆け足で観ることになる。それでも目指す作品を見損なうほど広い。

   Photo_20220108135901

 今回は2500点以上からMETが選んでくれたおすすめ展覧会。西洋絵画の歴史を概観するのにこれ以上ない機会です。展示は、Ⅰ「信仰とルネサンス」、Ⅱ「絶対主義と啓蒙主義の時代」、Ⅲ「革命と人々のための芸術」の3部構成。美術は誰のものか?という本質が、バロックや印象派などの専門用語よりわかりやすい。

Photo_20220108234501

 第1部ではフラ・アンジェリコ、ギルランダイオ、ラファエロ、フィリッポ・リッピ。クラーナハ、エル・グレコ、ティツィアーノなどの作品が。美術が教会と神様から人間のものへと向かう過程が見て取れる。第2部はルーベンス、ベラスケス、ムリーリョ、カラヴァッジョ、ラ・トゥール、フェルメール、レンブラントなど、強い王権の時代。

   Photo_20220108162101

 そして第3部は、革命と市民の時代へ。ターナー、クールベ、カミーユ・コロー、ゴヤ、マネ、ルノワール、ドガ。シスレー。そしてモネ、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌ。名前を挙げただけでアタマががくらくら顔ぶれです。この後、現代までは大衆の時代。美術館の所蔵や研究の役割もメトロポリタンからMoMAへと変わることになります。

メトロポリタン美術館展
 ―西洋絵画の500年ー
~2022年1月16日(日)まで
大阪市立美術館

| | コメント (0)

2022年1月 7日 (金)

バカヤロー、コノヤロー

   Photo_20220106154801

 いかにしてビートたけしは生まれたか? 劇団ひとりが脚本・監督をつとめた『浅草キッド』がメチャおもしろい。浅草フランス座を舞台に師匠の深見千三郎と過ごした濃密な日々。舞台演芸からテレビへの過渡期の時代。昭和な芸人の世界を描いた、同じタイトルの自伝的小説(太田出版、新潮文庫)を映画化した作品です。

Photo_20220106155101

 座長で伝説の浅草芸人、深見千三郎。ホントは優しい人情家なんだけれど、そう思われるのが恥ずかしい。照れ隠しもあって口が悪く、うれしいときは怒るし、悲しいときはおどける不器用な人。弟子と食事に行っても、「バカヤロー、コノヤロー、何食うんだ」。何かにつけて「バカヤロー」や「コノヤロー」を使うのが口癖だ。

Photo_20220106154802

 シャイで、粋で、毒舌、早口、アドリブ。深見は芸人としてのプライドと独自の美意識を持っていた。「芸人は良い服を着ろ。腹は減っていても見えないが、着ている服は見える。特に足元を見られないように靴には気を遣え」。「笑われるんじゃない、笑わせろ。舞台から降りたら格好いいと言われるようにしろ」と、厳しく叩き込まれる。

Photo_20220106154903

 彼が弟子入りした昭和40年代、すでに浅草の劇場からは客足が遠のき、経営は難しくなっていた。羽振りよく見える深見も、おんぼろのアパート暮らし。エレベーターボーイのたけしを柳楽優弥。深見千三郎を大泉洋が演じる。笑いと切なさ。若さの勢いと衰退に向かう寂しさ。頭角を現していく弟子と落ち目の師匠の微妙な関係。

Photo_20220106155001

 独特のカリスマ性と気っぷの良さで、芸人はもちろん浅草の街の人たちからも慕われていた深見。鈴木保奈美、門脇麦、土屋伸之、風間杜夫など共演陣が、それぞれの立場で彼を愛し支えていた様子を好演。たけし破門からの再会と和解、そして悲しい最期。単なる成功物語に終わらず、感動的なヒューマンドラマになりました。

Photo_20220106154904

 そうそうたるお笑い芸人に大きな影響を与えた深見千三郎だが、テレビの笑いを頑固に認めなかった。だから彼のコントやタップダンスのスゴさは映像で残っていない。最後の弟子たけしは師匠が邪道とみなした漫才で、ツービートとしてのし上がっていく。別の道を選んだだけれど、この偉大な師匠あってのたけしなんだなぁ。

| | コメント (0)

2022年1月 4日 (火)

ハッピーエンドじゃないけれど

   Dont-look-up

 レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリーブ、ケイト・ブランシェット、ロブ・モーガン、ティモシー・シャラメ、ジョナ・ヒル、マーク・ライランス、アリアナ・グランデ・・・ こんな豪華キャストが揃った映画は「きっとつまらないだろう」と早合点せず、ぜひ観てください。ハッピーエンドじゃないけれど大いに笑えます。

Photo_20211231111002

 アダム・マッケイが監督・共同脚本の『ドント・ルック・アップ』。ある日冴えない天文学者ミンディ博士と教え子の大学院生ケイトが、地球衝突のコースで近づく巨大彗星を発見する。しかもそれは6ヶ月後! さぁ大変、早く世界中の人々に知らせなきゃ。派手なSFサスペンスが始まる、と思いきやブラックなコメディに変わっていく。

Photo_20211231111101

 大統領に直接訴える機会を得るが、迫りくる地球滅亡よりも彼女(大統領は女性なのです)の関心事は中間選挙情勢、話を早く済ませてと笑い飛ばすだけ。人気のTVショーに出て説明しても、司会者は心配しないどころかジョークのネタにされる始末。みんな危機感ゼロ。誰もまともに聞いてくれないのだ。ああ、時間はない。

Tv_20211231115901

 テレビで大声で叫んだケイトはSNSで誹謗中傷の嵐。環境運動家のグレタ・トゥーンベリさんのように。女性版トランプのような大統領と、スティーブ・ジョブズかザッカーバーグを思わせるIT業界のカリスマも登場。地球壊滅より支持率。命の危機より金儲け。政治、経済、メディア。たっぷり風刺が効いた極上エンターテインメントです。

Photo_20220102204401

 タイトルの『Don't look up』(上を見るな)は、科学的事実から支持者の眼を背けさせ国民の分断を助長するために大統領が始めたキャンペーン。フェイクニュースに熱狂する大衆の危うさと、SNSのもろさも考えさせられます。ラストシーンもヒエロニスム・ボスの「快楽の園」を思い出す。怖くて、笑える、145分でした。

| | コメント (0)

2022年1月 1日 (土)

トラ焼きは変異種である

     ドラ焼きにシマ模様がつけばトラ焼き。
     猫もシマ柄ならトラネコだし
     トラTigreと呼ばれるフィレンツェの蚊もシマシマだ。
     そうか、シマが変異のキーなのか。
     じゃあ シマウマも・・・  ん? トラウマ?

Photo_20211224214701

     2022 寅年
     変異に惑わされず、お健やかにお過ごしください。

| | コメント (0)

« 2021年12月 | トップページ