ウインクチェアで知りました
日本人がデザインした椅子がMOMAに永久保存になった!と言うニュースに驚いた記憶がある。《WINK (ウインクチェア)》。その日本人が、イタリアと日本を拠点に活躍するプロダクトデザイナー、喜多俊之さんだった。1980年代、エットーレ・ソットサスが主宰し世界を席巻した「メンフィス」と、軌を一にする斬新なデザインでした。
《WINK》は背もたれや足置きやヘッドレストの向きや角度を、自由に動かせるソファ。カバーもパーツごとに着せ替えられる。このソファはオーナーの体形や好みに自在に寄り添うことができるのだ。これほど機能的な、これほど人間的な椅子はかつてなかったでしょう。デザインの本場イタリアで世界を相手に活躍するKITAとは?
バウハウス以来のシンプルで無機的な機能主義、近代モダニズムが行き詰まりを見せていたときに、突然あらわれたアンチテーゼ。カラフルで有機的で、複雑で人間的なユーモアを内包したポストモダン。禁欲的 vs. 享楽的。無駄をそぎ落とした機能こそが美である。vs. 人生には遊びも必要だ。引くか、足すか。難しいですね、
2001年、SHARPの液晶テレビ《AQUOS アクオス》のデザインも衝撃でした。AV機器は直線的で色も黒か白、が当時の常識。それがアルミ地金のような鈍く光るシルバーで、オッパイのような曲線のデザイン。このようなステキな人生を楽しむためのイタリア的なデザイン商品群が、喜多さんの活動の大きな柱です。
もうひとつ仕事の柱になるのは、日本の伝統的な匠の技をワールドワイドなデザイン力で世界に知らしめること。1971年、福井の和紙を使った照明器具《TAKO》《KYO》を世に出して以来、秋田の杉を活用した家具や、輪島塗、飛騨春慶塗、津軽塗に現代の生命を与え、エネルギッシュに世界に発信し続けている。
各地の伝統工芸に触れるうち、日本の伝統文化には持続可能な社会を実現するための優れたヒントが内在していることに気づく。島根の竹を板状にする技術を用いた《FLAT BAMBOO CHAIR》。竹を将来プラスチックに代わる新たな資源にするというプロジェクトです。たしかに、成長が早く強くてしなやかな竹はいいかも。
イタリアと日本のエッセンスを吸収し、デザインの力で西洋と東洋の懸け橋に。イタリア語で「丸太」の意味《TRONCO》と名付けられたベンチ。床柱に使われる北山杉にリサイクルに適したアルミニウムの脚を付けた、美しい長椅子です。伝統文化と近代テクノロジーの融合で未来を開く。彼の哲学がうまく表現された作品です。
喜多俊之展
DESIGN TIMELESS FUTURE
2021年10月9日(土)~12月5日(日)
西宮市大谷記念美術館
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