« 2021年9月 | トップページ | 2021年11月 »

2021年10月

2021年10月29日 (金)

小さくなって人類を救う

   Photo_20211024194901
 人口過剰問題。食糧危機。地球温暖化。このままでは人類は滅亡する。ノルウェイの研究所が発明したダウンサイジングの技術が、人類を救う救世主となるのか。アレクサンダー・ペイン監督の近未来SF映画『ダウンサイズ』。主演のマット・デイモンがヒーローではなく、どこにでもいるごく普通のダメ男を好演している。

Photo_20211025163201

 180cmの身長を13cmに! 世紀の発明から10年。縮小を選んだ人は全人口の3%になり、各地にコロニーが作られていた。ミクロになったぶん衣服も食品も家もクルマもすべて小さく、材料も少量で済むから省資源でローコスト。手持ちのお金や資産で大富豪の暮らしが楽しめる!とPRする企業も商売繁盛、躍進を遂げていた。

Photo_20211025163203

 頭髪も眉毛もスネ毛も、身体中の毛はすべて剃る。入れ歯や差し歯はすべて抜く。胃や腸の中は空っぽに。なぜなら生きた体の細胞は等しく縮小されるが、それ以外のサイズは変わらない。ごくまれに抜き忘れた金歯でアタマが破裂して、死ぬこともあるけれど。ダイジョーブ、近代的なメディカル工場で安心の施術。

Photo_20211025163401

 ダウンサイズした人が住むコロニーは、全体が透明ドームで覆われている。中には高層ビルも邸宅街も、美しい湖まである清潔な都市。ドームで囲うのはリッチライフを謳歌する住民を、相対的に巨大な昆虫や動物から守るため。安全安心、働かなくても生きていける豊かな暮らし。でも、それでいいのか、竜宮城の浦島太郎⁉

Photo_20211025163301

 人生楽しまなきゃ損と言うヨーロッパ人や、人生は戦いだと考える勤勉なアジア人。いろんな友人と交流するうちに、ダウンサイズのユートピアならではの、負の側面も見えてくる。さて、この先お話はどう展開していくのでしょうか。あの世とこの世がゆるやかに並列したマルチワールド。主人公が見つけた幸せの意味とは?

| | コメント (0)

2021年10月25日 (月)

ミロコマチコの生きもの

   Photo_20211016112201

 クマもトナカイもコウモリもウサギも、ミロコマチコが描くとみんな生命力があふれ出てくる。それはパワフルを通り越し、猛々しさや恐ろしさを感じるレベルだ。そこには彼女の動物観、自然観が強烈に反映されているのでしょう。人間に飼いならされない。人間にこびない。それこそが生きものの本質。自然のままの自然。

Photo_20211018185501

 動物を可愛く描くアーティスト。あるいは擬人化して描く作家。彼らは生きもの、つまり自然は人間がコントロールできると信じているのだと思う。ヒトは科学技術の進歩を活用して、自然を切り開き、野生を支配下に置いてきた。文明の発展。人間は万物の霊長。でもその考えは間違いだ、と彼女の作品は気付かせてくれる。

   Photo_20211018190901

 六甲アイランドで開催中の展覧会『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』では、人間中心主義で描かれた生きものはいない。ヒトをその辺の虫や石ころと並列でしか見ていない動物や鳥。親しみを感じるでもなく、敵対するでもなく。どう描くかは、どう見るかで決まる。描き出された姿は、鏡に映った作家自身の哲学。

Photo_20211018191701

 奄美大島に移住して以降、ミロコマチコが描くモチーフは現実の生きものにとどまらない。見えないけれど確かに存在する何か。夜になると徘徊する魔物や精霊。風の主や森のもののけ。彼女にとってはヘビやウサギと同じ存在感があるのでしょう。野生も魔性も、本質を見る才能に恵まれたアーティストにはリアルに見えている。

   Photo_20211018185503

 絵本作家、画家、装幀家、アートディレクターとして、今もっとも勢いがあるアーティスト。この展覧会は、絵本の原画や立体作品、ブックデザインや広告のアートディレクション、ミュージシャンとコラボしたライブペインティングなど200点以上を展示。ジャンルを超越して活躍するミロコマチコの魅力を紹介する、必見の展覧会です。

ミロコマチコ
いきものたちはわたしのかがみ
2021年10月2日(土)~12月19日(日)
神戸ゆかりの美術館

| | コメント (0)

2021年10月21日 (木)

ダイアナ妃がミュージカルに

 Photo_20211017132301
  
 世界中で愛されたダイアナ妃の愛と苦悩の人生を描いた『ダイアナ:ザ・ミュージカル』。2020年3月、ブロードウェイのロングエーカー劇場で始まったプレビュー公演が、コロナで中断。この11月2日からプレビュー再開、そして11月17日から公式オープニングを迎える作品の、クリストファー・アシュレイ監督による映像版です。

Photo_20211017145001

 撮影はコロナ禍で行われたという。舞台の開幕前に配信されるのは異例で、ブロードウェイ初の試みだそうだ。製作者とNetflixの間でビジネス上の合意に至った結果、この作品をいま鑑賞できる幸運を喜びましょう。1961年生まれ。1981年ロイヤルウエディング。1997年パリで事故死。波乱の人生を送った女性の真実です。

Photo_20211017145901

 ダイアナは19歳でチャールズ皇太子と婚約し、一夜にしてチョー有名人に。パパラッチとゴシップジャーナリストに追いかけられる日々は、文字通り死ぬ瞬間まで続く。それは国民的人気が高ければ高いほど逃れられない宿命かもしれないが、若い女性には厳しい。ストレスからくる過食症に悩まされ、自傷行為にまで至る。

Photo_20211017132401

 このお話の主な登場人物は、ダイアナ、チャールズ、エリザベス女王、チャールズの永年の愛人・カミラ夫人。王室の伝統としきたりでがんじがらめにされ、監獄に入れられたような自由のない生活。しかも「この結婚生活には3人の人間がいたのです。少し窮屈すぎますね」と、後に彼女がV番組で述べたような家庭環境でした。

Photo_20211017144901

 家庭では得られない愛を、他者への愛で埋めようとしたのか。彼女はさまざまな慈善活動に情熱を注いだ。エイズ撲滅運動。ハンセン病支援活動。地雷除去活動などなど。財政支援だけではなく、エイズ患者を抱きしめたり、アンゴラの地雷原を歩いたり、自ら実践することで世間の関心を集め、偏見をなくし、活動を支えた。

Photo_20211017161601

 控えめな優しい笑顔が広く愛されたダイアナ。ファッションセンスと行動力で、永遠に記憶に残り続けるプリンセス。この作品では、彼女のいい面も悪い面も描いて、愛と自由を求めた女性の真実に迫ろうとしている。それにしても英国の王族も日本の皇族も、不自由そう。庶民の素直な感想です。主演はジーナ・デ・ヴァール。

| | コメント (0)

2021年10月17日 (日)

2.5次元の金魚が泳ぐ

   Photo_20211015193901

 一合枡で泳ぐ金魚。朱塗りのお椀で揺らめく金魚。寿司桶や文机の引き出しに群れる金魚。ビニール袋や番傘にもいるじゃないですか。いまにも動き出しそうな驚きのリアリティ。でも逆に生物標本のような、生と死のはざまにある神秘的な美しさをたたえてもいる。なんとも不思議な、金魚絵師・深堀隆介の芸術です。

Photo_20211015202301   

 まるで生きているような金魚たち。これは平面である絵画と立体である彫刻の境界に存在する、いわば2.5次元の独創的な表現です。当然のことながら、この作品制作の技法も革命的。器の中に透明な樹脂を流し込み2日をかけて固める。固まった表面にアクリル絵具でヒレだけを描く。その上からまた樹脂を流し込む。

   Photo_20211015194601

 固まると体の部分を少しずつ描く。さらに樹脂を流し、固まったら次の層を描く。何層も何層もこの作業を繰り返し、ウロコの一枚一枚も細密に描いていくと、本物のようなリアルな金魚が出来上がる。透明なエポキシ樹脂とアクリル絵具。使用する画材の相性の良さを発見したところから、創作が始まった。

Photo_20211015203801

 いまでは深堀はその表現の幅をさまざまに広げて、充実した活動を展開している。平面の板に絵を描いて、その一部が透明な樹脂を使った立体の金魚絵になった作品や、すべてを平面絵画にした金魚アップの屏風画などなど。展示の最後の部屋には、縁日の金魚すくいのインスタレーションも。驚きのアートでした。

金魚絵師 深堀隆介展
金魚鉢、地球鉢
2021年9月11日(土)~11月7日(日)
神戸ファッション美術館

| | コメント (0)

2021年10月13日 (水)

嘘八百コンビ、再び

   Photo_20211012120301

 焼き物を扱う骨董商と贋作陶芸家。口八丁の則夫(中井貴一)とスゴ腕の佐輔(佐々木蔵之介)。冴えない中年コンビが堺の街で大活躍する痛快コメディ『嘘八百』。同じ武正明監督による第2弾が2020年の『嘘八百 京町ロワイヤル』です。こんどは京都が舞台で、だます相手は老舗骨董店の二代目店主と大物鑑定家。

Photo_20211012120501

 広末涼子演じる謎の京美人・志野が登場。老齢の母がだまし取られた古田織部の幻の茶碗「はたかけ」を取り戻してほしいと泣きつかれる。美人に弱い紀夫は安請け合いするが・・・。かつて堺でコンビを組んで悪徳業者をやっつけたスゴ腕に頼み込む。いまは贋作づくりから完全に足を洗い、作家として創作活動に励む佐輔。

Photo_20211012120403

 しぶしぶ了承するが、さすが織部の名品だけあって贋作を作るのも苦労の連続。思うようにはできなくて、失敗を繰り返す日々。そして巻き込むのは、いつも居酒屋でうだうだしているええ加減なオッサンたち。じつは彼らが筆跡模写の天才、和紙のプロ、化粧箱つくりの達人。それぞれの道では並ぶものがない隠れた名人たちだ。

Photo_20211012120402

 やっと出来た幻の「はたかけ」を使って大勝負に出る。テレビ番組「お宝一期一会」をでっち上げ、生放送で悪事を暴くアイデア。悪い奴らをだまして懲らしめる。決して殺しはしない。血が流れるシーンも皆無。いわば庶民の味方の義賊のような、愛と正義の行いです。安心して観ていられるこういう構図は、日本人には懐かしい。

Tv

 『コンフィデンスマン』シリーズが大掛かりなハリウッド的おもしろさとするなら、『噓八百』シリーズは「寅さん」的な身の丈サイズの親しみやすさ。二人の主人公の際立つキャラクターや、親子や夫婦や詐欺仲間たちの憎めない個性。みなさんの素晴らしい演技力が見ものです。長く楽しめるシリーズに育ってほしいものですね。

| | コメント (0)

2021年10月 9日 (土)

確かに存在する何か

Photo_20211007095201

 アクリルフィルムにシルクスクリーンでプリントされた8点の人物作品が並べられた壁面。一癖も二癖もありそうな男女がこちらを静かに見ている。それぞれの作品の前には燭台が立てられている。これは「葬列」と題された展示。べつに死んだ人の肖像じゃないけれど、薄暗い空間にロウソク、確かに遺影のように見えてくる。

Photo_20211007152801

 死や幽霊。霊魂やテレパシー。目に見えないもの。科学で説明できないこと。そんな超常現象に横尾忠則は幼少期より一貫して関心を持ってきたという。自身も透視や予知などの霊能力に優れていることを自覚。オーソドックスな科学が調査対象にしない現象にも、同じスタンスで対等に取り上げ、作品に生かしてきた。

Photo_20211007152803

 フェリーニ監督をリスペクトしたアニタ・エグバーグ像。顔のないビートルズ。土壁の骨組みにあらわれるかぐや姫の顔。いずれの作品からも、あの世とこの世の境界が曖昧なことを理屈を超えて伝わってくる。人間が思った強い未練や、消すことのできない怨念。目に見えなくてもそれらは確かに存在する、という感覚。

Photo_20211007152802
   
 しかしこれで終わらない。横尾さんの興味は人間の思念にとどまらず、無機質なモノにも向けられる。展示室Bで見られるインスタレーションは、美術館の過去の備品や展示に使った不要物などの残骸。しかしそれらは誰かの思いが宿ったモノ。無機的に見えてもすべて固有の魂を持つ存在だ。作品と同列の扱いがおもしろい。

Yokoo Tadanori's Haunted Museum
横尾忠則の恐怖の館
2021年9月18日(土)~2022年2月27日(日)
横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA

| | コメント (0)

2021年10月 5日 (火)

怖~い、横尾忠則


   Photo_20211003200901

 いま「芸術」と「恐怖」との関係性について考察する、という展覧会が開催されている。『Yokoo Tadanori's Haunted Museum 横尾忠則の恐怖の館』。なんか難しそうに聞こえますが、ま、簡単に言ってしまえば横尾作品を使ったホラーハウス、お化け屋敷ですね。10月とはいえ暑い日が続くので、納涼に行くにはピッタリかもしれません。

   Photo_20211003201101
   
 入館して2F展示室に向かうエレベーターに乗ると、もう始まっていました。庫内の壁にもボタンパネルにも血しぶきがかかっている。青い壁と赤い血。まるで惨劇の後のようなありさまで、鮮烈な色の対比がショッキングだ。トイレに向かう薄暗い廊下に、幽霊が描かれた昔の少年マガジンの表紙。前にロウソクが灯っている。

Photo_20211004111401

 チケットのチェックを受けたら、まず真っ暗な部屋に案内される。暗闇の中から不気味な機械音や人間の悲鳴が聞こえてくる。生来の怖がりなので、ドキドキでオソルオソル中へ。少しずつ目が慣れてくると、そこは江戸川乱歩の世界。「白昼夢」、「屋根裏の散歩者」、「闇に蠢く」、「幽鬼の塔」、「黒蜥蜴」、「地獄の道化師」・・・。

Photo_20211003201202

 暗く血なまぐさい展示室にいると、幼児の泣き叫ぶ声が近づいてくる。するとベビーカーを押した若夫婦。連れてくる場所を間違えたか、恐縮しきりで追い越していく。絵も怖いけど、音もまた怖い展示空間。年齢制限はかかっていないとは言え、小さな子にはちょっと可哀想かな。トラウマにならないよう祈っています。

   Photo_20211004112001

 暗闇に浮かび上がるこれらの作品は、江戸川乱歩全集(講談社)の挿絵をインクジェットで拡大プリントしたもの。おどろおどろしい中に独特のユーモアを漂わせた世界。それが乱歩にインスパイアされた横尾ワールドです。挿絵が原作に従属するサブの役割から、主役を張る独自のアートへ。そこに大きな飛躍があります。

Yokoo Tadanori’s Haunted Museum
横尾忠則の恐怖の館
2021年9月18日(土)~2022年2月27日(日)
横尾忠則現代美術館  Y+T MOCA

| | コメント (0)

2021年10月 1日 (金)

ウォール街の変わり者

   Photo_20210929152201

 日本でリーマン・ショックと呼ばれる、2008 Finanncial Crisis。この未曾有の金融危機で莫大な利益を上げた男たちがいた。「マネーボール」の原作者、マイケル・ルイスによるノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻にかけた男たち」を、アダム・マッケイ監督が映画化した作品が『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。

Photo_20210929152202

 タイトルにあるショート(SHORT)とは、株や債券が高いときに売りに出し、価値が下がったら買い戻して利益を得る手法「空売り」です。当時、ハイリスクなサブプライム住宅ローンを複雑に組み合わせてリスクを見えなくした高利回りの金融商品、MBS(モーゲージ債)やCDO(債務担保証券)で投資銀行はぼろ儲けをしていた。

Photo_20210929152203

 2005年、実体が伴わないマネーゲームのリスクに気付いた異端児がいた。好景気に浮かれるウォール街では、彼の主張など誰も聞いてくれない。そこで彼は株や債券が暴落した際の保険であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を大量に買う勝負に出る。その情報に接して、金融業界の破綻を信じる変人もあらわれる。

Photo_20210929152302

 開発の現場を調べれば、まさにバブル。いつ弾けても不思議じゃない。でも未だに周囲は鼻で笑うだけ。CDSの保険料の支払いもかさむ。さて破綻まで持ちこたえられるか。身の破滅か、一攫千金か。スリリングな展開です。最後は金融危機が起こって成功を収めるのだが、観ていて爽快感はない。後味が悪いのだ。

Photo_20210929152303
 
 なぜならいちばん不幸になるのは強欲な金融マンではなく、住宅ローンを払えなくなる庶民だから。マネーゲームに振り回されたあげく切り捨てられる。格付け会社も加わった詐欺まがいの手法。マーク・トウェインの「厄介なのは知らないことじゃない。知らないのに知っていると思い込むことだ」という言葉も印象的でした。

Photo_20210929152301

 クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピットなどの豪華キャストが、一癖も二癖もある個性的な男たちを見事に演じている。実在の彼らの後日談もおもしろかった。折りしも中国で不動産バブルの崩壊が懸念される今、世界経済に悪影響が広がらぬよう願います。結局苦しむのは庶民だから。

| | コメント (0)

« 2021年9月 | トップページ | 2021年11月 »