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2021年10月

2021年10月17日 (日)

2.5次元の金魚が泳ぐ

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 一合枡で泳ぐ金魚。朱塗りのお椀で揺らめく金魚。寿司桶や文机の引き出しに群れる金魚。ビニール袋や番傘にもいるじゃないですか。いまにも動き出しそうな驚きのリアリティ。でも逆に生物標本のような、生と死のはざまにある神秘的な美しさをたたえてもいる。なんとも不思議な、金魚絵師・深堀隆介の芸術です。

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 まるで生きているような金魚たち。これは平面である絵画と立体である彫刻の境界に存在する、いわば2.5次元の独創的な表現です。当然のことながら、この作品制作の技法も革命的。器の中に透明な樹脂を流し込み2日をかけて固める。固まった表面にアクリル絵具でヒレだけを描く。その上からまた樹脂を流し込む。

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 固まると体の部分を少しずつ描く。さらに樹脂を流し、固まったら次の層を描く。何層も何層もこの作業を繰り返し、ウロコの一枚一枚も細密に描いていくと、本物のようなリアルな金魚が出来上がる。透明なエポキシ樹脂とアクリル絵具。使用する画材の相性の良さを発見したところから、創作が始まった。

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 いまでは深堀はその表現の幅をさまざまに広げて、充実した活動を展開している。平面の板に絵を描いて、その一部が透明な樹脂を使った立体の金魚絵になった作品や、すべてを平面絵画にした金魚アップの屏風画などなど。展示の最後の部屋には、縁日の金魚すくいのインスタレーションも。驚きのアートでした。

金魚絵師 深堀隆介展
金魚鉢、地球鉢
2021年9月11日(土)~11月7日(日)
神戸ファッション美術館

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2021年10月13日 (水)

嘘八百コンビ、再び

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 焼き物を扱う骨董商と贋作陶芸家。口八丁の則夫(中井貴一)とスゴ腕の佐輔(佐々木蔵之介)。冴えない中年コンビが堺の街で大活躍する痛快コメディ『嘘八百』。同じ武正明監督による第2弾が2020年の『嘘八百 京町ロワイヤル』です。こんどは京都が舞台で、だます相手は老舗骨董店の二代目店主と大物鑑定家。

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 広末涼子演じる謎の京美人・志野が登場。老齢の母がだまし取られた古田織部の幻の茶碗「はたかけ」を取り戻してほしいと泣きつかれる。美人に弱い紀夫は安請け合いするが・・・。かつて堺でコンビを組んで悪徳業者をやっつけたスゴ腕に頼み込む。いまは贋作づくりから完全に足を洗い、作家として創作活動に励む佐輔。

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 しぶしぶ了承するが、さすが織部の名品だけあって贋作を作るのも苦労の連続。思うようにはできなくて、失敗を繰り返す日々。そして巻き込むのは、いつも居酒屋でうだうだしているええ加減なオッサンたち。じつは彼らが筆跡模写の天才、和紙のプロ、化粧箱つくりの達人。それぞれの道では並ぶものがない隠れた名人たちだ。

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 やっと出来た幻の「はたかけ」を使って大勝負に出る。テレビ番組「お宝一期一会」をでっち上げ、生放送で悪事を暴くアイデア。悪い奴らをだまして懲らしめる。決して殺しはしない。血が流れるシーンも皆無。いわば庶民の味方の義賊のような、愛と正義の行いです。安心して観ていられるこういう構図は、日本人には懐かしい。

Tv

 『コンフィデンスマン』シリーズが大掛かりなハリウッド的おもしろさとするなら、『噓八百』シリーズは「寅さん」的な身の丈サイズの親しみやすさ。二人の主人公の際立つキャラクターや、親子や夫婦や詐欺仲間たちの憎めない個性。みなさんの素晴らしい演技力が見ものです。長く楽しめるシリーズに育ってほしいものですね。

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2021年10月 9日 (土)

確かに存在する何か

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 アクリルフィルムにシルクスクリーンでプリントされた8点の人物作品が並べられた壁面。一癖も二癖もありそうな男女がこちらを静かに見ている。それぞれの作品の前には燭台が立てられている。これは「葬列」と題された展示。べつに死んだ人の肖像じゃないけれど、薄暗い空間にロウソク、確かに遺影のように見えてくる。

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 死や幽霊。霊魂やテレパシー。目に見えないもの。科学で説明できないこと。そんな超常現象に横尾忠則は幼少期より一貫して関心を持ってきたという。自身も透視や予知などの霊能力に優れていることを自覚。オーソドックスな科学が調査対象にしない現象にも、同じスタンスで対等に取り上げ、作品に生かしてきた。

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 フェリーニ監督をリスペクトしたアニタ・エグバーグ像。顔のないビートルズ。土壁の骨組みにあらわれるかぐや姫の顔。いずれの作品からも、あの世とこの世の境界が曖昧なことを理屈を超えて伝わってくる。人間が思った強い未練や、消すことのできない怨念。目に見えなくてもそれらは確かに存在する、という感覚。

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 しかしこれで終わらない。横尾さんの興味は人間の思念にとどまらず、無機質なモノにも向けられる。展示室Bで見られるインスタレーションは、美術館の過去の備品や展示に使った不要物などの残骸。しかしそれらは誰かの思いが宿ったモノ。無機的に見えてもすべて固有の魂を持つ存在だ。作品と同列の扱いがおもしろい。

Yokoo Tadanori's Haunted Museum
横尾忠則の恐怖の館
2021年9月18日(土)~2022年2月27日(日)
横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA

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2021年10月 5日 (火)

怖~い、横尾忠則


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 いま「芸術」と「恐怖」との関係性について考察する、という展覧会が開催されている。『Yokoo Tadanori's Haunted Museum 横尾忠則の恐怖の館』。なんか難しそうに聞こえますが、ま、簡単に言ってしまえば横尾作品を使ったホラーハウス、お化け屋敷ですね。10月とはいえ暑い日が続くので、納涼に行くにはピッタリかもしれません。

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 入館して2F展示室に向かうエレベーターに乗ると、もう始まっていました。庫内の壁にもボタンパネルにも血しぶきがかかっている。青い壁と赤い血。まるで惨劇の後のようなありさまで、鮮烈な色の対比がショッキングだ。トイレに向かう薄暗い廊下に、幽霊が描かれた昔の少年マガジンの表紙。前にロウソクが灯っている。

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 チケットのチェックを受けたら、まず真っ暗な部屋に案内される。暗闇の中から不気味な機械音や人間の悲鳴が聞こえてくる。生来の怖がりなので、ドキドキでオソルオソル中へ。少しずつ目が慣れてくると、そこは江戸川乱歩の世界。「白昼夢」、「屋根裏の散歩者」、「闇に蠢く」、「幽鬼の塔」、「黒蜥蜴」、「地獄の道化師」・・・。

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 暗く血なまぐさい展示室にいると、幼児の泣き叫ぶ声が近づいてくる。するとベビーカーを押した若夫婦。連れてくる場所を間違えたか、恐縮しきりで追い越していく。絵も怖いけど、音もまた怖い展示空間。年齢制限はかかっていないとは言え、小さな子にはちょっと可哀想かな。トラウマにならないよう祈っています。

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 暗闇に浮かび上がるこれらの作品は、江戸川乱歩全集(講談社)の挿絵をインクジェットで拡大プリントしたもの。おどろおどろしい中に独特のユーモアを漂わせた世界。それが乱歩にインスパイアされた横尾ワールドです。挿絵が原作に従属するサブの役割から、主役を張る独自のアートへ。そこに大きな飛躍があります。

Yokoo Tadanori’s Haunted Museum
横尾忠則の恐怖の館
2021年9月18日(土)~2022年2月27日(日)
横尾忠則現代美術館  Y+T MOCA

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2021年10月 1日 (金)

ウォール街の変わり者

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 日本でリーマン・ショックと呼ばれる、2008 Finanncial Crisis。この未曾有の金融危機で莫大な利益を上げた男たちがいた。「マネーボール」の原作者、マイケル・ルイスによるノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻にかけた男たち」を、アダム・マッケイ監督が映画化した作品が『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。

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 タイトルにあるショート(SHORT)とは、株や債券が高いときに売りに出し、価値が下がったら買い戻して利益を得る手法「空売り」です。当時、ハイリスクなサブプライム住宅ローンを複雑に組み合わせてリスクを見えなくした高利回りの金融商品、MBS(モーゲージ債)やCDO(債務担保証券)で投資銀行はぼろ儲けをしていた。

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 2005年、実体が伴わないマネーゲームのリスクに気付いた異端児がいた。好景気に浮かれるウォール街では、彼の主張など誰も聞いてくれない。そこで彼は株や債券が暴落した際の保険であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を大量に買う勝負に出る。その情報に接して、金融業界の破綻を信じる変人もあらわれる。

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 開発の現場を調べれば、まさにバブル。いつ弾けても不思議じゃない。でも未だに周囲は鼻で笑うだけ。CDSの保険料の支払いもかさむ。さて破綻まで持ちこたえられるか。身の破滅か、一攫千金か。スリリングな展開です。最後は金融危機が起こって成功を収めるのだが、観ていて爽快感はない。後味が悪いのだ。

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 なぜならいちばん不幸になるのは強欲な金融マンではなく、住宅ローンを払えなくなる庶民だから。マネーゲームに振り回されたあげく切り捨てられる。格付け会社も加わった詐欺まがいの手法。マーク・トウェインの「厄介なのは知らないことじゃない。知らないのに知っていると思い込むことだ」という言葉も印象的でした。

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 クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピットなどの豪華キャストが、一癖も二癖もある個性的な男たちを見事に演じている。実在の彼らの後日談もおもしろかった。折りしも中国で不動産バブルの崩壊が懸念される今、世界経済に悪影響が広がらぬよう願います。結局苦しむのは庶民だから。

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