東影智裕の生命観
ラクダやシカやウサギやウシの頭部。皮膚や体毛や毛穴まで超リアルに表現した立体作品の展覧会が、兵庫県立美術館で開催されている。『東影智裕展 触知の森』。恒例の小企画「美術の中のかたち - 手で見る造形」展の31回目として、12点の作品が展示されている。タイトルにある通り、手で触ることができる展覧会です。
会場に用意されたゴム手袋をはめて、展示作品に触れながら鑑賞できる。毛皮そのものに見える精緻な毛並み、どこか哀しみ湛えた黒い瞳。手で触ってみて、その硬さに作りものだと改めて確認できる。作者は「いくらリアルに見えようとも、現実に存在する個々の動物の姿を再現したものではなく、さまざまな記憶から抽出したイメージを集積させた、擬人的存在です」と語っています。
エポキシパテという素材を主に使い、流木や倒木なども組み合わせて作る動物たち。病気やケガのせいか、生と死のはざまを魂が漂っているような儚い印象だ。しかしそれが逆に生命力を思い起こさせるから不思議。長い淘汰の過程を生き延び、さまざまな厳しい生存条件をかいくぐって、今ここに存在している奇跡。
頭部から下は身体はなく、表皮だけがビロ~ンと木に張り付いている。また皮膚の一部が蝕まれていたり、ガラスの瞳が半眼に閉じられていたり。どこまでも生命の揺らぎを感じさせる表現だ。生き物をモチーフにした立体作品は、リアルであればあるほど不気味なコワサを感じるものだ。ここにある哲学は健康で幸せな生命を賛美すれば済む、と考えるヤワな生命観ではない。
一部屋に12点が展示されているのみの小規模な展覧会なのに、数百点規模の大展覧会を超える存在感がある。生と死の本質を強く喚起させる静謐な空間には、生命の気が充満している。厳しいけれど、見捨ててはいない。冷徹だけど温かい。唯一無二の作品を作り続ける東影智裕に出会えるユニークな触れる展覧会でした。
東影智裕 展 触知の森
美術の中のかたち ― 手で見る造形
2021年7月17日(土)~9月26日(日)
兵庫県立美術館 常設展示室4
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