ダウン症のプロレスラー?
悪役プロレスラーを夢見るダウン症の青年は、レスラー養成学校へ入るため施設を脱走する。他人の獲物を盗むならず者の漁師は追手から逃げている。ザックとタイラー、偶然出会った孤独な2人。お金はない、移動手段はない。やがて心を許し、奇妙な旅を続けることになる。アメリカ南部を舞台にした傑作ロードムービーです。
タイラー・二ルソンとマイケル・シュワルツが共同で監督・脚本を努めた2019年の『ザ ピーナツバター ファルコン』は、とても爽やかで希望に満ちた映画です。そして、いろいろ考えさせられる極めて奥が深い作品でもある。ウソのない演技で感動を与えるザック・ゴッツァーゲンと、シャイア・ラブーフの繊細な名演も見応え十分。
ダウン症をはじめ障がいがある人を施設に入れて守るという思想。それは劣る人や弱い人は一人では生きられない、という偏見から生まれている。危険や悪意から遠ざけ、安全に生活させるために保護し管理する。それが社会的正義だという常識。しかし世の中の悪から「守る」という善意は、別の意味での差別かもしれない。
ザックのように夢を追いかけたい人もいる。自立したい人もいるだろう。それを無理だと頭から否定するのは。檻に閉じ込め自由を奪っていることにならないか。もう一人の重要な登場人物、施設でザックの介護をするエレノアがその難問に苦悩する役を好演する。脱走したザックを探しに来て、人間の可能性に目覚める役。
タイトルの『THE PEANUT BUTTER FALCON』はザックが名乗るリングネーム。自由に羽ばたくハヤブサが、どこまでもピュア―で前向きなザックを象徴している。リスクをとってでも前進する勇気が、周りを変えていく爽快感。今の時代、引きこもって何もしないより、まず何か行動を起こすことが大切だと教えてくれる。
ザック、タイラー、エレノア。家族に恵まれない孤独な3人が、衝突しながらも強い絆で結ばれていく。「友だちは自分で選べる家族なんだ」という言葉が素晴らしい。わずか1時間40分ほどの短い映画なのに、じんわりと幸せがあふれ出てきて、長い余韻に浸ることができました。アメリカらしい名作の誕生です。
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