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2021年9月

2021年9月19日 (日)

フレディは永遠に

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 5年ぶりに『ボヘミアン・ラプソディ』を観ました。なんど観ても新鮮で、そのつど感動を覚える。伝説のバンド「クイーン」のリード・ヴォーカル、フレディ・マーキュリー。歴史に残る偉大なロックシンガーの自分に正直な生きざまを描いた、歴史に残る傑作だと思います。監督はブライアン・シンガーとデクスター・フレッチャー。

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 「自分が何者かは、自分が決める」という強い意志で、さまざまな逆境を生き抜いた男。フレディ・マーキュリーとは何者か? 両親はアフリカ東海岸、インド洋上の島ザンジバル出身のペルシャ系移民で、厳格なゾロアスター教徒。ヴォーカリスト&ピアニストの彼は、ゲイであることを告白し、1991年エイズのため45歳で死去。

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 クイーンの音楽の特徴は、音を何重にも重ねた分厚いサウンド。そしてフレディの幅広い音域のヴォーカルと、演劇的なステージパフォーマンス。ブライアン・メイ(ギター)、ロジャー・テイラー(ドラムス)、ジョン・ディーコン(ベース)と組むバンドは、「同じことはやりたくない」という強い向上心とチャレンジ精神にあふれていた。

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 この映画のクライマックスが、ウエンブリー・スタジアムでのライブステージ。1985年7月13日、アフリカ難民救済を目的とした20世紀最大のチャリティコンサート「ライブ・エイド」が開かれ、84ヵ国に衛星同時中継された。国とジャンルを超えて、世界のスーパースターたちが参集し、それぞれ素晴らしいステージを展開したのです。

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 なかでも他を圧倒するパフォーマンスで観客を熱狂させたのがクイーン。「ボヘミアン・ラプソディ」「ラジオ・ガ・ガ」「ハンマー・トゥ・フォール」「ウイ・ウイル・ロック・ユー」「愛という名の欲望」、ラストは「伝説のチャンピオン」。72,000人の観客と一体になった奇跡の21分間。そして彼らは伝説になったのです。

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2021年9月14日 (火)

東影智裕の生命観

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 ラクダやシカやウサギやウシの頭部。皮膚や体毛や毛穴まで超リアルに表現した立体作品の展覧会が、兵庫県立美術館で開催されている。『東影智裕展 触知の森』。恒例の小企画「美術の中のかたち - 手で見る造形」展の31回目として、12点の作品が展示されている。タイトルにある通り、手で触ることができる展覧会です。

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 会場に用意されたゴム手袋をはめて、展示作品に触れながら鑑賞できる。毛皮そのものに見える精緻な毛並み、どこか哀しみ湛えた黒い瞳。手で触ってみて、その硬さに作りものだと改めて確認できる。作者は「いくらリアルに見えようとも、現実に存在する個々の動物の姿を再現したものではなく、さまざまな記憶から抽出したイメージを集積させた、擬人的存在です」と語っています。

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 エポキシパテという素材を主に使い、流木や倒木なども組み合わせて作る動物たち。病気やケガのせいか、生と死のはざまを魂が漂っているような儚い印象だ。しかしそれが逆に生命力を思い起こさせるから不思議。長い淘汰の過程を生き延び、さまざまな厳しい生存条件をかいくぐって、今ここに存在している奇跡。

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 頭部から下は身体はなく、表皮だけがビロ~ンと木に張り付いている。また皮膚の一部が蝕まれていたり、ガラスの瞳が半眼に閉じられていたり。どこまでも生命の揺らぎを感じさせる表現だ。生き物をモチーフにした立体作品は、リアルであればあるほど不気味なコワサを感じるものだ。ここにある哲学は健康で幸せな生命を賛美すれば済む、と考えるヤワな生命観ではない。

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 一部屋に12点が展示されているのみの小規模な展覧会なのに、数百点規模の大展覧会を超える存在感がある。生と死の本質を強く喚起させる静謐な空間には、生命の気が充満している。厳しいけれど、見捨ててはいない。冷徹だけど温かい。唯一無二の作品を作り続ける東影智裕に出会えるユニークな触れる展覧会でした。

東影智裕 展 触知の森
美術の中のかたち ― 手で見る造形
2021年7月17日(土)~9月26日(日)
兵庫県立美術館 常設展示室4

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2021年9月10日 (金)

シネマ草創期を学びましょ

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 雪が舞うパリの夜景を上空からゆっくり眺めていたカメラは、グウーッと地表に近づき、モンパルナス駅に飛び込み、構内の雑踏をかき分けて時計台のバックヤードへ進む。静から動へのスピードの変化。圧倒的に美しい映像。『ヒューゴの不思議な発明』は1930年代を舞台に孤児のヒューゴが活躍する冒険ファンタジー。

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 駅舎の屋根裏部屋で、大時計のネジ巻きをしながら人知れず暮らすヒューゴ。父が残した機械仕掛けの人形を、一つずつ部品を集めて修理するのが亡き父との絆を探す道だと信じて。ある日、構内のオモチャ屋から部品を盗もうとして見つかる。物語はそこから動き始める。多くの人が働き、さまざまな人が行きかう駅。

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 修理の手引きになる父のノートを取り戻そうとするヒューゴ。そんな時、駅での偶然の出会いが、運命の出会いとなる。そして修理が終わった機械人形が描いた絵は、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』のワンシーンだった。ネジ、歯車、ゼンマイで機械は完結する古き良き時代。デジタル全盛の今より、ずっとロマンがあります。

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 映画の主人公は少年ヒューゴなのだが、じつは彼は狂言回しの役割。この物語の中心になる人物が別にいた。それがジョルジュ・メリエス。ドラマとしての映画の元祖、世界初の職業映画監督、SFXの創始者・・・さまざまな言葉で称えられる偉大な創造者だが、ブームが去った後は忘れ去られ、失意のうちに暮らしていた。

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 リュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」をはじめ、ダグラス・フェアバンクス、チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドなどの名場面がうまく使われている。マーティン・スコセッシ監督が、偉大な先人へのリスペクトと映画に対する愛を注ぎ込んだこの作品。楽しく映画史をお勉強するのにもピッタリです。

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2021年9月 6日 (月)

ダウン症のプロレスラー?

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 悪役プロレスラーを夢見るダウン症の青年は、レスラー養成学校へ入るため施設を脱走する。他人の獲物を盗むならず者の漁師は追手から逃げている。ザックとタイラー、偶然出会った孤独な2人。お金はない、移動手段はない。やがて心を許し、奇妙な旅を続けることになる。アメリカ南部を舞台にした傑作ロードムービーです。

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 タイラー・二ルソンとマイケル・シュワルツが共同で監督・脚本を努めた2019年の『ザ ピーナツバター ファルコン』は、とても爽やかで希望に満ちた映画です。そして、いろいろ考えさせられる極めて奥が深い作品でもある。ウソのない演技で感動を与えるザック・ゴッツァーゲンと、シャイア・ラブーフの繊細な名演も見応え十分。

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 ダウン症をはじめ障がいがある人を施設に入れて守るという思想。それは劣る人や弱い人は一人では生きられない、という偏見から生まれている。危険や悪意から遠ざけ、安全に生活させるために保護し管理する。それが社会的正義だという常識。しかし世の中の悪から「守る」という善意は、別の意味での差別かもしれない。
 
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 ザックのように夢を追いかけたい人もいる。自立したい人もいるだろう。それを無理だと頭から否定するのは。檻に閉じ込め自由を奪っていることにならないか。もう一人の重要な登場人物、施設でザックの介護をするエレノアがその難問に苦悩する役を好演する。脱走したザックを探しに来て、人間の可能性に目覚める役。

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 タイトルの『THE PEANUT BUTTER FALCON』はザックが名乗るリングネーム。自由に羽ばたくハヤブサが、どこまでもピュア―で前向きなザックを象徴している。リスクをとってでも前進する勇気が、周りを変えていく爽快感。今の時代、引きこもって何もしないより、まず何か行動を起こすことが大切だと教えてくれる。

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 ザック、タイラー、エレノア。家族に恵まれない孤独な3人が、衝突しながらも強い絆で結ばれていく。「友だちは自分で選べる家族なんだ」という言葉が素晴らしい。わずか1時間40分ほどの短い映画なのに、じんわりと幸せがあふれ出てきて、長い余韻に浸ることができました。アメリカらしい名作の誕生です。 

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2021年9月 3日 (金)

関ヶ原はチョー難しい


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 学校で習って誰もが知っている関ヶ原の合戦。豊臣から徳川へ、戦国時代から江戸時代へ。その後250年の平和をもたらした天下分け目の戦い。しかし実態はよく知らない人が多いのではないでしょうか。そんな歴史の分岐点を描いた原田眞人監督の『関ヶ原』。司馬遼太郎の原作に真っ向から取り組んだ2時間半の大作です。

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 成果が上がらない朝鮮出兵。武闘派と文治派の主導権争い。北政所派と淀君派。まだ幼い秀頼を残して秀吉が死亡したのをきっかけに、派閥争いは表面化する。それが関ヶ原へと向かう背景です。思惑が入り乱れる武将たちを懐柔しながら、自らの勢力を伸ばしていく家康。主君の意志を守り秀頼を盛り立てる石田三成。

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 この作品は、徳川の世では家康の敵として悪者扱いされてきた三成の視点で描かれている。子どものころ秀吉に才能を認められ、取り立てられた恩義から豊臣家に終生の忠義を捧げる。融通が利かない潔癖な性格で、煙たがられることも多かったが、自分の信じる生き方を曲げることなく貫いた「義」の人だった。

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 三成の旗印がおもしろい。「大一 大万 大吉」(だいいち だいまん だいきち)とユニークな文字だけのもの。一人が万人のために 万人は一人のために尽くせば 天下の人々は幸福(吉)になれる という意味。石田三成らしいじゃないですか。関ヶ原は真っすぐな理想家が老獪な現実主義者にしてやられた合戦でもあったのだ。

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 三成の西軍と家康の東軍。1600年9月15日、実際の戦闘はわずか6時間で決着がついたという。戦国の世では珍しくない寝返りや裏切りがここでも起こり、なし崩し的に勝敗は決する。司馬遼太郎らしく、とても多くの登場人物と複雑に入り組んだ人間関係。ストーリー展開についていくのさえ難しい。1作の映画では限界かも。

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 ただし俳優陣の演技力で最後までおもしろく鑑賞できました。三成の義を熱演した岡田准一、家康の野望を表現した役所広司、優柔不断な小早川秀秋を演じた東出昌大などなど、これ以上は考えられないベストなキャスティング。420年前の出来事の知られざる一面を学ぶには、ちょうどいい映画かなと思います。

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