« 2021年7月 | トップページ | 2021年9月 »

2021年8月

2021年8月30日 (月)

ビートルズが存在しない?

   Photo_20210827115301

 12秒間の大停電で、世界は変わってしまった! 英国の片田舎、売れないミュージシャンのジャックは世界中が停電したとき、たまたま交通事故にあう。そして昏睡から目覚めたら、世界は変わっていた。友人も、家族も、故郷の街も、すべてそのままなのに、ビートルズの存在だけが消滅していたのだ。あの数々の名曲と共に。

Photo_20210827195601

 2019年のイギリス映画 『イエスタデイ』は、「もしあの時・・・」や「もしあの人が・・・」といった誰もが抱く思いをテーマに、大きなスケールでユーモアたっぷりに描く傑作だ。夢や妄想や後悔から「もし」を考えると思うのだけど、ビートルズを持ってきたところが上手い。さすが「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督。

Photo_20210827195701

 パラレルワールドを描いたこの映画、こちらの世界とあちらの世界のギャップが笑いを誘う。誰も知らないビートルズ・ナンバーを自身が作詞作曲したオリジナルとして歌うジャック。あっという間にミュージックシーンの寵児に上り詰める。しかしL.A.まで連れて行かれ、エゲツない現代音楽ビジネスに振り回される日々に。

Photo_20210827202601

 世界を舞台にした偽りの名声と富。故郷に置いてきた真実の愛と幸せ。ジャックが歌うビートルズの曲とストーリー展開がうまくシンクロして、快調にユーモラスに物語は進む。歌詞が思い出せない。不正がバレるのではないか。自分の時間が取れない。募る不安と不満。エド・シーランが本人役で出演しているのも面白い。

Photo_20210827203201

 存在が消えていたのはビートルズだけではなかった。コークも、シガレットも、ハリーポッターも。しかしビートルズは消滅しているのにジョン・レノンは今も海辺の村で幸せに暮らしている。おかしいでしょ。ずうーっと船乗りをしていたそうだけど、哲学者のようでした。ビートルズ愛にあふれたこのコメディ、サービス精神満載です。

Photo_20210827202701

 ウエンブリーの大観衆の前で真実を告白したジャック。肩の重荷を下ろし、本来の自分に戻っていく。エピローグでは子ども二人に「オブラディオブラダ」を歌っている幸せな姿が。そこには大きく「TODAY」のタイトルが表示される。始まりは「YESTERDAY」で、終わりは「TODAY」。どこまでも監督のセンスが感じられますね。

| | コメント (0)

2021年8月27日 (金)

今年こそ!ボローニャ絵本展

Photo_20210825101301

 西宮の大谷記念美術館で、今年は『イタリア・ボローニャ国際絵本原画展』が開催されている。昨年はコロナの影響により、残念ながら中止。いまだコロナの感染が収まらない今年も、ボローニャの事務局はオンラインでコンクールの審査。見本市もオンラインで開催されたそうです。だから原画を生で見られるのは世界初。

  Photo_20210825133402

 68ヵ国 3,235組の応募のうち、日本人8名を含む23ヵ国 76作家が入選。台湾やイラン、ロシアやアルゼンチン。国が違えば発想も違う。絵の色使いも違う。そんな新鮮な驚きと、多様性あふれる絵本文化の精髄。イタリアではかなわなかった入選作品「5点1組」の展示を、日本で鑑賞できることはとても幸運だと思います。

Photo_20210825133404

 子どもに向けた本と言っても、明るくハッピーな作品ばかりとは限りません。怖ーいお話やシュールな設定も多く、難民の「避難」をテーマにした作品まであったのには驚きです。テロ、暴力、人権抑圧・・・つい最近のアフガニスタンのみならず、世界にはまだまだ平和とは程遠い地域があることに気づかされる。

Photo_20210825133401

 鉛筆やペンなどのローテクからコンピューターを駆使したハイテクまで、さすが世界から集まった作品だけに技法もさまざま。特に印象に残ったのは、従来の画材にプラスして粘土や糸なども使った作品群。「混合技法」あるいは「ミクストメディア」と表示されるこれらの作品は、デジタル技術の急速な進歩により可能になりました。

   Photo_20210825133403

 来年こそはコロナが収束して、ボローニャで絵本見本市が盛大に開催されますように。世界中からイラストレーターや絵本作家、編集者や出版人が集まって交流し、お互い刺激しあい向上しあえますように。そして世界の子どもたちへ分け隔てなく、夢と希望を与える美しく豊かな絵本を届けられますように。

2021 イタリア ボローニャ
国際絵本原画展
2021年8月21日(土)~9月26日(日)
西宮市大谷記念美術館

| | コメント (0)

2021年8月24日 (火)

空港から出られない運命

   Photo_20210823121101

 NYのJFK空港を舞台にした、2004年の『ターミナル』が素晴らしい。スピルバーグ監督の性善説と主演トム・ハンクスの演技力で、心温まる感動作になっています。もし自分にこんな災難が降りかかったらどうしよう?と考えさせられる映画でもある。もちろんアメリカではありえないけど、中東や中央アジアなどで・・・。

Photo_20210823121105

 飛行機でNYに到着したら、パスポートもビザも無効になっていた。東ヨーロッパの祖国からの飛行中、国でクーデターが起きていたのだ。入国も帰国も出来ない男。入管当局からはトランジットエリアで待つように言われる。法的にはどこの国にも属さない中立地帯に、無国籍になってしまって独り残される困惑と不安。

Photo_20210823121104

 トム・ハンクスが演じるビクター・ナボルスキーは英語もわからないけれど、どこまでも前向きでアイデア豊富。なんとか生き延びる工夫をしながら、空港暮らしに徐々になじんでいく。その過程がとてもユーモラス。それにしても巨大空港には誰も気に留めないデッドスペースがあるものなんだなぁ、と妙なところで感心しました。

Photo_20210823121102

 何日も暮らすうち、英語も独学で学び、空港で働くいろんな人たちとも交流を深めていく。悪意がなく純真な彼は周りの人を幸せにする才能があり、いつしかみんなに愛されるようになる。しかし管理当局は彼を厄介者として、あの手この手で排除を画策。法的根拠がない存在を認めることなどできないのだ。専制国家ならすぐに逮捕や死刑にしそうだが、さすが人権を尊重するアメリカは違います。

Photo_20210823121201

 仲間の協力もあって事態は解決に向かうが、彼にはどうしてもNYで果たさなければいけない誓いがあった。ジャズが大好きな亡き父にまつわるこのエピソードは、ベニー・ゴルソン本人の出演でリアリティを添える。人々の純粋な善意と、映画は善きものを伝えるべきだ、という信念に基づいたこの作品。とても気持ちが良かった。

| | コメント (0)

2021年8月21日 (土)

絶望のクリスマス

   Photo_20210819171201

 それはTV局に突然かかってきた爆破予告電話から始まった。クリスマス・イブに東京で起きる連続爆破テロ事件を描く波多野貴文監督の『サイレント・トーキョー』。原作は秦建日子。季節外れの話題ではありますが、おもしろいサスペンスなのでご紹介。ちなみに昨年のクリスマス・シーズンに劇場公開された作品です。

Photo_20210819171401

 予告通り、正午に恵比寿のショッピングモールで爆発。ガセネタだと思いつつ、しぶしぶ取材にやってきたTV撮影のクルー。買い物に来ていた主婦。ちょっと外れた警視庁の刑事。さまざまな人たちが事件に巻き込まれ、それぞれの視点で物語は進む。つぎの爆破予告は午後6時、場所は浮かれた群衆で混雑する渋谷ハチ公前。

Photo_20210819171402

 「犯人は誰なのか?」 「目的は何なのか?」  西島秀俊、中村倫也、井之脇海、石田ゆり子、広瀬アリスなどが、好むと好まざるにかかわらずそれぞれの領分で事件に絡んでいく。いろんな人生を抱えた個性的な人たち。スピード感も、スケール感も、ハリウッドのクライムサスペンス大作なみの演出と映像で、見ごたえ十分。

Photo_20210819171303

 「これは戦争だ」という犯人からのメッセージ。総理大臣とNET上での対談を要求、応じなければ夜10時、東京タワーを爆破する、と。いくら奔走しても、事件の全貌は見えてこない。あせる捜査陣。じつは、東京を震撼させた事件の裏には、平和ボケした日本人に警鐘を鳴らすためという目的と、隠されたドラマがあったのだ。

Photo_20210819171301

  ♪ A very Merry Christmas   And happy new year 
         Let's hope it's a good one   Without any fear ♪   
年齢も、貧富も、人種も超えて、みんなで楽しいクリスマスと、幸せな新年を迎えよう、と歌うジョン・レノンの「Happy Xmas (War is over)」が印象深く流れるこの作品。この歌の真のメッセージが映画のテーマにダブります。 ♪ War is over   If you want it ♪    

| | コメント (0)

2021年8月18日 (水)

下品な娘をレディに

   Photo_20210817211701    

 高校生のころ、体育祭の準備をさぼって映画館へ駆けつけた思い出があります。オードリー・ヘプバーンとレックス・ハリスンが主演した『マイ・フェア・レディ』。1964年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、撮影賞、編曲賞など8部門でオスカーを獲得した名作ミュージカル映画を、50数年ぶりにNetflixで観ました。

Photo_20210817211802

 原作はジョージ・バーナード・ショー、アイルランド出身のノーベル文学賞を受賞した文学者、劇作家です。ロンドン下町で育った粗野な花売り娘が言語学の教授に言葉遣いや礼儀作法のレッスンを受けて、美しいレディに成長して社交界に華々しくデビューする、というお話。と聞けばよくあるシンデレラ・ストーリーのようですが・・・。

Photo_20210817211803

 しかしさすがはバーナード・ショー。階級社会への皮肉、女性蔑視の男社会、分かり合えない男女の意識、金持ちが幸せとは限らない現実、などなど。現在とはずいぶん違うけれど、ビクトリア朝の社会課題を下敷きに奥深い物語になっていたのだ。格差の固定化が進む現代にも通じる、新たな魅力の発見です。

Photo_20210817214001

 発音や言葉遣いだけで、どこの出身でどんな生活をしているかすべてわかる、とうそぶく高慢な教授。教育によって人生は変えられることを証明しようと、花売り娘を実験材料に厳しい言語学的トレーニングを強いる。その試みは成功するが、女性は男に従属するものではなく独立した人格であることを思い知らされる。

Photo_20210817211902

 観たのは半世紀以上も前なのに、ディテールまで良く覚えているのには驚いた。ついさっきのことも忘れる現在との落差、トホホ。もちろん音楽は名曲ぞろい。その後いろんなアレンジで繰り返し演奏され続けている。そうそう、ハリスンは主演男優賞を取ったのに、なぜヘプバーンは取れないんだ、と憤ったことを思い出しました。

| | コメント (0)

2021年8月12日 (木)

小さな夜が愛おしい

   Photo_20210811194201    

 不器用だけど、引っ込み思案だけど。でも愛すべきフツーの人々の出会いの連鎖を10年にわたって描く、今泉力哉監督の『アイネクライネナハトムジーク』。ケータイで話していた人たちが、スマホを見ている。そうなのだ、10年は短いようで長い。原作は伊坂幸太郎。ストーリーを指し示すキーになる主題歌は斉藤和義。

Photo_20210811194301

 運命の「出会い」か偶然の「出会い」か。仙台を舞台に繰り広げられるいくつかの出会いの物語。主演は三浦春馬と多部未華子。矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、成田瑛基、貫地谷しほり、原田泰造ほかの出演者たちが織りなすさまざまな恋愛模様が、絡みあい重なりあいながら、時を越えて繋がっていく。

Photo_20210811194303

 あの頃小っちゃかった子はもう高校生だというのに。なんで私たち一緒にいるんだっけ?と分からなくなったり。奥さんは出ていったきり帰らなくて。心優しいボクサーがチャンピオンに返り咲いたり。バラバラのストーリーが微妙に関係しあって、ハッピーエンドへ向かっていく。爽やかな、まさにモーツァルト的気持ちよさ。

Photo_20210811194304

 いろんなエピソードが伏線となり、それらを手際よく回収していくミステリーのような快感。内にこもってウジウジ悩まず、ポジティブに生きる勇気がもらえる。いろいろと難しい時代だけれど、だからこそ肩の力を抜いて生きようよ、というメッセージでしょうか。やさしい登場人物、やさしい物語。心がほっこりしっとりしてきます。

Photo_20210811194401

 この映画では大きな野心も、高い望みも描かれていない。どこにでもいる人の、珍しくもない日常。友人や仕事、出会いや恋愛、悲しみや喜び。 ♪どこにでもあるような ちっぽけなこの夜♪ 「あの時、あの場所で、出会ったのが君で 本当に良かった」という普遍の幸福に向かって、すべてのベクトルを収れんさせていく。

Photo_20210811194302

   ♪ 小さな夜 数えきれないほど 抱えきれないほど
     積み重ねた 小さな夜
     劇的じゃないけれど キミのとなりなら
    それも”悪くない”よ
    それが”悪くない”んだよ ♪

| | コメント (0)

« 2021年7月 | トップページ | 2021年9月 »