石内都は皮膚を撮る
人間の皮膚の傷跡を撮った「Scars」と「INNOCENCE」のシリーズ。病気や事故、暴力や自損など理由はさまざまだろうけれど、肌に残る傷にはその人の人生が刻み込まれている。たとえ大きな傷でなくても、しわもカサブタもシミもその人が生きてきた履歴書のようなもの。生きた証。意味のない痕跡はないのだ。
自分の母が残した衣服や被爆者の遺品を撮影して、その人たちの生前の記憶や息づかいを表現してきた石内都。彼女にとって、皮膚は衣服と同じなのか。人間の本質である精神や心を覆う表面にあるモノが、使い古されたあるいは焼け焦げた衣服、と考えれば合点がいく。この考えをもっと研ぎ澄ませれば皮膚に行きつく。
「Scars」などと同じ部屋にランダムに展示されている「sa-bo-ten」シリーズ。種々のサボテンを思い切ったアングルでとらえた作品です。人間とはまったく似て非なるものである多肉植物の表面が、アップにすると傷ついた皮膚と実によく似ているのだ。しおれたバラの花びらに毛細血管が浮かんだような「Naked Rose」も同じ感覚。
メキシコ現代絵画を代表する画家、フリーダ・カーロが遺した衣服や民芸品コレクションなどの遺品が、彼女の壮絶な人生を象徴していて興味深い。なかでも義足や医療器具、左右でまったくサイズが違う靴など、小児マヒや交通事故の後遺症に苦しめられたフリーダが直接身に着けていたものに強いインパクトがある。
それらはフリーダ・カーロ記念館の依頼を受けた石内が撮影したシリーズです。身体性と精神性が染みついたモノの本質を発見する能力。過去の時間をよみがえらせる技法。ヒトの皮膚やモノの表面に残された傷や汚れから、生々しい情念まで拾い上げる石内都の制作意欲が、どこへ向かうのか楽しみです。
石内都典
見える見えない、写真のゆくえ
2021年4月3日(土)~7月25日(日)
西宮市大谷記念美術館
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