« サンローランの光と影 | トップページ | お殿さまに金を貸す? »

2021年6月10日 (木)

トム・フォードの美学

   Photo_20210607143902
 『イヴ・サンローラン』と、トム・フォードの監督第一作『シングルマン』を立て続けに見た感想は、モードの世界はやっぱりゲイばかりなのか、ということ。ひとつは伝記映画。もうひとつは大学教授を主人公にした監督デビュー作。どちらもゲイのお話で、超一流ファッションデザイナーならではの格別な美意識に貫かれている。

Photo_20210607145901

 クリストファー・イシャーウッドの同名小説を原作にした映画の舞台は1962年のLA。16年間同棲していた恋人を交通事故で失った大学教授は、深い喪失感から立ち直れず、絶望の時間の中にいた。ふとした瞬間に記憶の断片がフラッシュバックし、哀しみは募るばかり。儚さ、切なさに耐えきれず、ついに自殺を決意する。

Photo_20210607143904

 コスチュームはもちろん、乗っているクルマ、部屋のインテリア、食器や雑貨類の趣味にいたるまで、トム・フォードの美学があふれている。端正で、繊細で、ディテールに対するこだわり。滅びの美学。主人公の意識の流れのままに脈絡もなく進んでいくストーリー。しかし彼は死へ向かって確実に突き進んでいる。

Photo_20210607143903

 主演のコリン・ファースがさすがの名演です。着こなし、表情、立ち居振る舞いが、めちゃくちゃカッコいいのだ。そして涙を流さず、泣き叫ぶこともなく、感情を抑えた静かな演技が悲しみをより深く浮かび上がらせる。彼の姿そのものが、まさにトム・フォードの美学。バックで流れる「ノルマ」のアリアもドラマチックで素晴らしい。

Photo_20210607143901

 この映画は意外なカタチの結末が待ち受けている。新たな生きる希望を見出したところへ、突然お迎えが来るという皮肉が。でもこれで良かったと思うのだ。純愛物語の終わり方としては、また滅びの美学の締めくくりとしては。登場人物も、セリフも、時代設定も、映像表現も、すべてがトム・フォードの世界でした。

|

« サンローランの光と影 | トップページ | お殿さまに金を貸す? »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« サンローランの光と影 | トップページ | お殿さまに金を貸す? »