すべてを超えた鉛筆画
1950年に山口県に生まれ、そのほとんどを山口県で活動し、2013年に死亡した吉村芳生。いま神戸ファッション美術館で『吉村芳生 ー超絶技巧を超えてー』が開催中です。1970年代後半から2013年までの代表作62点を展示した驚きと感動の展覧会。こんな現代アーティストがいたなんて。恥ずかしながら知らなかった。
サブタイトルに「超絶技巧を超えて」とあり、鉛筆や色鉛筆で超リアルに描くアーティストという説明を読む。ふんふんと勝手に分かったつもりになって観に行くと、これがとてつもない展覧会でした。ただ描くだけのハイパーリアリズムじゃない。その手法が独創的なのだ。解説を読めば、なるほど現代アートだと合点がいく。
例えば97.0cm×1686.7cmの壁一面に続く「ドローイング 金網」。紙の上に金網を置いてプレス機にかけ、その筆圧の部分を鉛筆でなぞって約17mもの長さの作品にした。無為な営み? いや決して徒労ではない。歩きながら観ていくと不思議な感動が湧き上がってくるのだ。人間の意志の力、画家の執念を感じる。
新聞紙に描いた自画像。ん!サイズがデカい? はい、3倍近い大きさなのです。じつは拡大コピーを見ながら、記事も広告も文字や写真をすべて忠実に描いたもの。そこに自画像を描いていく。描かれた記事の内容に自画像の表情がシンクロしておもしろい。新聞紙面に直接描いた作品もある。自画像の合計は1.000点あまり。
2000年以降に描かれたカラフルな花のシリーズ。ポピーは葉や茎のウブ毛まで克明に表現されている。これが色鉛筆ですよ。ポスターにも採用された「無数の輝く生命に捧ぐ」は、東日本大震災の被災者の魂をあらわす1万数千のフジの花が描かれた202×714cmの大作。そこに費やされた膨大な時間と集中力はいかばかりか。
吉村芳生の作品は、精緻だけれど写生ではない。写真を撮ってプリントし、そこから足したり引いたり加工したりして、自分の内なるイメージを結晶させる。そのとき鉛筆や色鉛筆で描く線に神が宿るのだ。人間離れしたスゴミ。うまい下手のレベルを超越したスゴミに、観る者は圧倒され感動を与えられる。
吉村芳生
ー超絶技法を超えてー
2021年4月10日(土)~6月13日(日)
神戸ファッション美術館
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