権威に逆らうプロジェクト
声高に平和を訴えるのではない。戦争のバカバカしさをユーモアで包み、観客に武力の無力を思い至らせる。そしてあぶりだされるのは政治や宗教の権威主義に隠された不都合な真実。それがバンクシーの流儀。爆弾を抱く少女も、ピンクのリボンをつけた戦闘ヘリも、強くアピールするのは可愛さと不気味さが同居しているから。
パレスチナのベツレヘムはヨルダン川西岸にあり、キリストの生誕地でもある。いまは町の周りを高い壁が囲っている。イスラエル人の入植地とパレスチナ人の居住地域を分断する壁。2017年3月20日、この壁の真ん前にザ・ウォールド・オフ・ホテルが開業した。2005年ごろからこの前の遮断壁に風刺画を描いていたバンクシーも出資、協力する、泊まれるアートプロジェクト。
客室からは遮断壁しか見えないので、「世界でいちばん眺めが悪いホテル」。内部には彼の作品がたくさん飾られている。あるベッドルームの壁面には、羽毛を飛ばしながら枕を武器に戦うイスラエル兵とパレスチナゲリラ。この部屋と電飾看板が、展示会場に再現されている。パレスチナの歴史や地元アーティストの作品が見られるギャラリー&ミュージアムもホテルに併設されているそうだ。
ストリートアートや版画から発展し、映像作品やインスタレーションやイベントまで活動の幅を広げるバンクシー。しかも世界各地の街角に神出鬼没に表れてその作品を残す。そんな多面的な彼の足跡、多才な痕跡をマルチスクリーンで見せてくれる映像展示も面白い。アートの最前線を走って美術家だ、と再認識しました。
バンクシー展 天才か反逆者か
2020年10月9日(金)~2021年1月17日(日)
大阪南港ATC Gallery(ITM棟2F)
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