覚悟の「新聞記者」に拍手
今年3月6日に授賞式があった第43回日本アカデミー賞。最優秀作品賞、主演男優賞、主演女優賞に輝いたのは、藤井道人監督の『新聞記者』でした。政権の暗部に迫る若き新聞記者とエリート官僚。その対峙と葛藤を描く社会派サスペンスです。原案は東京新聞の望月衣塑子さんの同名ベストセラー。あの菅官房長官の「天敵」と呼ばれた骨のある記者です。
大学の新設計画、担当官僚の自殺、メディアへの圧力。フィクションと断っていますが、現実に見聞きしてきた事件と符合するところが多くて心底怖くなります。自粛や忖度や自主規制。この数年で目立って増えてきた行政やメディアの姿勢。これも表に出たものだけで、見えない部分は如何ばかりかと思われる。
それぞれの正義を貫くより、自分の保身や組織の安泰のために口をつぐむ。あるいは口をふさがれる。まわりも面倒に巻き込まれたくないし、波風を立ててほしくない。それが日本の現状。主演のふたり、松坂桃李とシム・ウンギョは権力の闇と戦う覚悟と、家族や仲間に降りかかる困難を想う複雑な心理を静かに強く演じている。
何かスキャンダルが露見すると、記事を書いた記者の人格攻撃や反対ヘイトがすぐにSNSにあふれる。これも内閣情報室のコントロールか。政権に不都合なニュースを誤報だとする情報を息のかかった新聞社にリークし、国家規模のSNS捏造で当事者をつぶす。国の安定のためという活動の不気味さに、鳥肌が立つ思い。よくこれを映画にしたなと、関係者の皆さんの勇気に拍手を送ります。
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