国家ぐるみのドーピング
ドーピングで本当に能力がアップするのか? 検査で見つからないように実行できるのか? 自転車のランス・アームストロング、MLBのマグワイアやカンセコといったスーパースターたちの薬物問題への疑問。アマチュア自転車選手で映像作家のブライアン・フォーゲルが、自分の身体を使って禁断のドーピング実験に挑戦するところから始まる。Netflixオリジナルの『イカロス』だ。
第90回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞に輝いたこの映画。ドーピングで強くなれるか、しかもバレずに。観客としてもハラハラだ。しかし途中からドキュメンタリーなのかフィクションなのかわからなくなってくる。気が付けば、プーチン大統領やIOCバッハ会長なども登場する壮大なスケールの話になっているじゃないですか。事実は小説より奇なり。監督&脚本&主演のフォーゲル、お見事です。
彼がドーピングの指導(?)を仰ぐのが、ロシアのアンチ・ドーピングの権威グレゴリー・ロドチェンコ。ブライアンはその出会いをきっかけとして、国家ぐるみの違法行為を隠滅する陰謀に巻き込まれることになる。そのあたりの経緯を詳細に記録しているの映像は、中身の濃いスパイ小説を読んでいるようなおもしろさです。ステロイドや尿サンプル、そしてWADA。KGBやFBIまで登場。
スポーツやオリンピックの名誉を汚すドーピング。取り締まるための検査と摘発。検査をすり抜ける新薬の開発と方法の高度化。これらはイタチごっこで進んできた。ロシアではアスリートが個人的に違法を働くのではなかったのだ。国家事業として組織的に数十年間も行われれてきたとは。驚きを超えて衝撃だ。金メダルをたくさん獲ることが、国威を発揚し政治家の支持率向上につながるからか。
ロシアが国家ぐるみでドーピングをしていた事実を明らかにし、協力者だったグレゴリーは告発者に変わる。ギリシャ神話の『イカロス』はロウで固めた翼で自由に飛べるようになるが、太陽に近づきすぎてロウが溶け墜落死する。人間の傲慢さやテクノロジーへの過信に対する批判、と解釈されることが多い。でも、勇気の象徴とする解釈もある。グレゴリーはアメリカ政府の保護の下、暗殺を免れ今もどこかで生きているそうだ。
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