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2020年6月26日 (金)

障害、イジメ、赦し

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 小学校時代に耳が聞こえない転校生へのイジメがもとで孤立した元ガキ大将。高校生になったいまも、自分には存在する価値がないと思い詰め、死を考えている。山田尚子監督の『映画 聲の形』。罪の意識や人間関係のむずかしさを、かつてクラスのいじめっ子だった少年の視点で描いているのが新しい。障害者の問題、イジメの問題、教育現場の問題・・・これらを細やかに丁寧に描く。
 
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 原作は大今良時の『聲の形』(講談社コミックス刊)。昨年7月、放火殺人事件で多数の犠牲者を出した京都アニメーションが、2016年に製作した名作です。聴覚障害者とイジメという、興行的に期待できない地味なテーマに真剣に取り組んだ良心と意欲。こんな日本が誇るいい会社がなぜ狙われたのか。残念でたまりません。

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 障害者や外国人など異質な人たちとの付き合い方はむずかしい。キッカケが作れない。戸惑いもある。まして人生経験の少ない子どもたちだ。思ったことをそのまま言うこともある。思ってもいないのに言ってしまう場合もある。陰口や無視という最悪の対応も。そんな態度を「無意識のうちに」とってしまうから問題の根は深い。

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 この映画は困難なテーマに真正面から逃げずに取り組んでいる。イジメた当人だけではなく、まわりの人たちも抱く深い悔悟の念。助けられなかった。見てないふりをしてしまった。逃げてしまった。「差別はダメだ」「イジメは悪だ」とリクツで理解するだけでは問題は永遠に解決しない。イジメにかかわる全員の哀しみと苦悩を心の底から感じなければ。こんな言葉も無責任なキレイごとか。

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 イジメられる立場からの気持ちも語られる。相手とつながりたい、コミュニケーションをとりたい、と思っても出来ない不自由さ。そこからくる怒りと悲しみ。さらに自分がもとで周りにイヤな思いをさせている罪悪感と自己嫌悪。そのぶん他者と交流できた喜びは大きい。いやー、人間は複雑で奥深い。善と偽善。悪と無関心。もうイジメや差別について軽々しく語ることはできません。

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 脚本の吉田玲子さんがインタビューで話しています。「自分で自分のダメなところを、他人の嫌な部分を、すこしでも許せるようになって、すこし好きになってもらえたらなぁと思っています」。思いやり。相手はもちろん自分に対しても思いやりを。価値のない人間なんていないんだから。これは自己肯定へと至る成長の物語なのだ。

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