サポーターか暴徒か
イタリアでは熱狂的なサッカーファンのことをティフォージ(Tifosi)と呼ぶ。もともとチフス患者の意味で、熱病にかかったような応援ぶりからこう呼ばれるようになった。その中でもゴール裏に陣取り、フラッグやバナーを掲げ、応援のチャントを歌い、ときには相手チームのサポーターと暴力沙汰を起こす過激なグループがウルトラスだ。この映画は彼らの人生の情熱と悲哀を描いた秀作です。
「この物語はフィクションで、描いているのは架空のチームです。したがって応援グッズは販売されておりません」 冒頭にこんなクレジットが入るイタリア映画『ウルトラス』。場所はナポリ。ディエゴ・マラドーナが始球式に出てきてボールを蹴るシーンがTVで流れていたので、時は2000年前後でしょうか。体中にタトゥを入れた連中しか出てこない、サッカーにまつわる映画です。
日本では英国のフーリガンが暴力沙汰で有名でしたが、イタリアも相当ひどかった。スタジアムでは禁止されているはずの発煙筒や爆竹が焚かれ、モノが投げ込まれる戦場のような雰囲気。ミラノでもフィレンツェでも観戦に行くときはシートの位置や服装に注意して身構えていたものです。アウェイのサポーターは安全のため狭い場所に閉じ込められているが、応援にやって来るだけでも命がけ。
スタジアムに熱気をもたらし選手に活力を注入する、チーム愛。この本来の目的が勢い余って、「暴力」を核にした集団に。徒党を組んで対戦相手のウルトラや警察と戦う。徹底的に仲間との絆を大切にする。それが彼らのアイデンティティー。主要メンバーがスタジアム出入り禁止処分を受けている状態で、組織の運営をめぐって内輪もめがおこり、やがてセリエA最終節の悲劇へと向かう。
結婚式で始まり、葬式で終わる。フランチェスコ・レッティエリ監督の見事な構成が感動を呼ぶ。どちらの場面でも歌われるグループのチャントが、前と後ではガラッと印象が変わりました。中年になったリーダーの誇りと悩みを演じたアニエッロ・アレーナ。高倉健さんのような男の哀愁を感じさせる名演技でした。サッカーシーンはまったくないけれど、これもサッカーの一面を深く描いた作品です。
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