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2020年3月

2020年3月29日 (日)

ローマ教皇も人間なんだ

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 こんな面白い映画なら、昨年末に公開されたときすぐに見ておけば良かった。フェルナンド・メイレレス監督の『2人のローマ教皇』、最近多くなったNETFLIXオリジナルです。ベネディクト16世が退位する前年にアルゼンチンからベルゴリオ枢機卿をローマに呼んで、二人で数日にわたり対話をする。これがストーリーの核。カトリックの総本山ヴァチカンの舞台裏に迫る人間ドラマです。

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 教皇庁No.2の官房長官のような役職を長年務めたドイツ人の教皇。厳しい保守派の代表で、演じるのはアンソニー・ホプキンス。片やジョナサン・プライス演じる慣習にとらわれないアルゼンチン人の枢機卿は、ピッツァとサッカーを愛する庶民的な改革派。考え方も経歴も正反対の二人がお互いの違いを踏まえながら理解を深めていく。その後ベネディクト16世の退位により、ベルゴリオがフランシスコ教皇となる。実話を基にしているだけにリアルだ。

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 宗教界のトップに上り詰めても「人間だから完璧じゃない。罪も犯す」と言えるスゴさ。いろんなスキャンダルで揺れるカトリックの起死回生PR映画、かと思いきやとても見ごたえがある感動作です。二人の運命が交わる2005年ヨハネ・パウロ二世の死によるコンクラーヴェ、2013年ベネディクト16世の引退によるコンクラーヴェ。同時代の歴史を作ったローマ郊外の夏の離宮やシスティーナ礼拝堂のロケが印象的です。そして2018年ブラジルW杯決勝(ドイツ vs アルゼンチン)をTV観戦する二人が人間らしくて好感が持てました。

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2020年3月26日 (木)

あらためて、最強のふたり

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 事故で首から下が動かなくなった大富豪の紳士フィリップと、介護人に雇われたスラム街育ちで前科持ちの黒人青年ドリス。身分も育ちも教養も正反対の2人が繰り広げる日々のギャップが笑えるコメディです。エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが脚本・監督した『最強のふたり』。2011年第24回東京国際映画祭でグランプリを受賞したフランス映画です。主演のふたりも最優秀男優賞を受賞。

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 障がい者を障がい者と思わないドリス。遠慮もないし憐れみも感じない。障がいも一つの個性だとしか思っていない。雇われている身なのに主人と対等に付き合う。この手のお話でありがちなお涙頂戴にはなっていない。さらっとした人間関係ながら、さりげない優しさがとても気持ちがいい。そこから生まれる真の友情。「彼は私に同情していない」というフィリップの言葉が真理を突いている。

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 障がい者の問題。格差の問題。人種の問題。さまざまな社会問題をうまく取り込んでリアリティある映画になっている。実話をもとに作られたこのストーリー。まったく違う人生を歩んできたふたりが築き上げていく絆の深さに感動します。幸福感に包まれました。新型コロナによるイベントなどの自粛のためNETFLIXで映画鑑賞。2012年の公開では見逃したけれど、見ることができてとても満足です。

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 ハリウッドのリメイク版も制作されましたが、こちらはオリジナル。最後に『最強のふたり』の名前と写真が出て、この物語の後日談というか現在のふたりそれぞれの幸せな生活ぶりが記述されている。それによると今も親しい交流が続いているという。「親友」を超えた「真友」を見つけた歓び。実話ならではの強さが伝わってきて、心いやされる思いでした。涙はなくても感動はとても深い。

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2020年3月23日 (月)

古代の謎? 石の宝殿

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 これは何なのか? いつ、誰が、何のために作ったのか? 圧倒的な重量感に圧し潰されそうになる。ここは兵庫県高砂市にある生石(おうしこ)神社。本殿を抜けると三方を岸壁に囲まれた、巨大な石の建造物「石の宝殿」がある。縦が約4.7m、横が約6,4m、高さ約5,5mの直方体。重さは推定500トン。下は水がたまった小さな池になっていて、水に浮いているように見えることから別名「浮石」とも呼ばれる。でも水に浮くはずはなく、岩盤につながった状態だ。

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 神社の略記には、「大穴牟遅(おおあなむち)と少毘古那(すくなひこな)の二神が天津神の命を受け国土経営のため出雲の国より此の地に座し給ひし時 二神相謀り国土を鎮めるに相応しい石の宮殿を造営せんとして一夜の内に工事を進めらるるも・・・」と所以が記されている。『播磨の国風土記』や『万葉集』にも書かれているので、かなり古くからあったのは間違いないだろう。

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 小高い岩山をくりぬいて作られた「石の宝殿」。裏の山に登っていく階段も一枚岩を切り込んで作ってある。つまりこの山そのものがひとつの巨大な岩盤なのだ。このあたりには大阪や奈良の大王や有力豪族の古墳の石棺にも使われた「竜山石」の採石場が多い。石の宝殿も巨大古墳の中心に据える石郭を作ろうとしたが未完成に終わったという説が有力だ。しかしこんな重いものを運び出す手段があったのか、謎は解けないままだ。

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 石の宝殿を形作る竜山石は7000万年前(白亜紀後期)の火山活動によってできた岩で、地質学的には「成層ハイアロクラスタイト」というそうだ。均質で粘りがあり加工しやすいのが特徴。そのため古代より現代まで1700年もの間採石されている歴史ある石材で、古墳時代から中世の神社仏閣や城の造営、そして現在も国会議事堂や倉敷の大原美術館などに使われている。こんな巨大な岩や巨木には神が宿る、と古来より日本人は考えてきましたが、石の宝殿を見るとナルホドと思う。今やここは有名なパワースポットです。

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2020年3月20日 (金)

長くつ下のピッピ、誕生75年

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 スウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』が1945年に出版されてから75年。それを記念して神戸ファッション美術館で開催されている展覧会が、新型コロナウイルスによる臨時休館をはさんで3月17日から再開されました。オリジナル・タイプ原稿や挿し絵の原画、94歳まで長生きした作者ゆかりの品々を集めた心温まる展覧会です。

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 風邪で寝込んでいた愛娘を喜ばせようと、元気いっぱいの女の子が活躍するお話を即興で語って聞かせていたのがきっかけで、ピッピは生まれたそうだ。9歳のやんちゃなピッピとゆかいな仲間たちがが繰り広げる奇想天外な物語は、70言語以上で翻訳され世界中で読み継がれている。子どもたちの生命力、大人顔負けの意志の強さ、子どもならではの自由な発想力が、私たちに元気をくれる。

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 世界一つよい女の子は多くの人々に愛され、リタ・ラーソンの『馬を持ち上げるピッピ』などさまざまなアーティストによるコラボ作品も数多い。ピッピ以外にも『ロッタちゃん』や『やかまし村の子どもたち』シリーズなど、天真爛漫な子どもたちが自由奔放に生きる作品を生み出したリンドグレーン。体罰に反対し、子どもの人権を守る運動の先頭に立つオピニオンリーダーでもあったそうです。

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2020年3月17日 (火)

汝の道を進め、そして

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 蜷川実花の『FOLLOWERS』は、日本版『セックス・アンド・ザ、シティ』の趣。時代の先端を生きるカッコいい女性たちが、自由に才能を発揮し、人生を謳歌する。そんな風に見えながら(あるいは目指しながら)も簡単にはいかないのが現実。だからドラマになるのだけれど。監督の実像を彷彿とさせながら、社会のいろんな問題をサラッと盛りだくさんに散らばめている。

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 このシリーズは2つのテーマを持ったトレンディドラマだ。一つは女性の自立、地位の向上。いつまでたっても男女平等社会に近づかない日本で闘う売れっ子フォトグラファーの日々を、ポップにオシャレに描く。LGBT、仕事と出産、パワハラ、無理解・・・。蜷川実花が経験してきた古い因習や社会との軋轢がベースになっているのでしょうか。多様性を尊重する社会への願いがこもっている。

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 二つ目は野心に燃える少女の成長物語。夢は女優になること。器用に立ち回れない。愛想笑いもできない。与えられた仕事はどれもしっくりこない。自分が何者なのか、何者になろうとしているのかも見失いがちな日々。反抗心をどこにぶつけたらいいかもわからない。誰もわかってくれない。不安、焦燥。それがいい出会いをきっかけに立ち直っていく。自分らしさに目覚めていく。

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 これら二つのテーマが最終的にどう交差してひとつにまとまるか? それがダンテの『神曲』からの「汝の道を進め そして人々をして語るにまかせよ」という言葉。他人の言うことなど気にせず自信をもって生きろ!というメッセージ。炎上してもいいじゃないですか、と。自立と凛々しい生き方を象徴しているかのように、東京タワーがすっくと立っている。蜷川美学ではスカイツリーじゃないんだね。

 

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2020年3月14日 (土)

蜷川実花の Followers

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 疾走感あふれたオンリーワンの映像美。 極彩色の氾濫でドギツイ悪趣味に陥る寸前の妖しい調和。ファッションも、インテリアも、夜の光も、どこを切り取っても蜷川実花の世界だ。Netflixオリジナルのドラマシリーズ『FOLLOWERS』全9話。世界190ヵ国に配信される という。さすが Netflix! さすが蜷川実花! 彼女の手にかかれば見慣れた東京の街が、きらめくTOKYOに変わる。

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 『FOLLOWERS』というタイトルが示す通り、SNSが日常生活のツールとして浸透している現代社会。思いがけず交差する情報に直接的、間接的に影響を受けている。中谷美紀が演じる売れっ子カメラマンと、池田エライザが演じる売れない女優の卵。時代の先端を生きる2人の生きざまにフォーカスし、カリスマ的プロゲーマーや人気ユーチューバーも絡んでストーリーは展開する。
 
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 華やかなファッション界や芸能界には、光もあれば影もある。人生の成功者にだって悩みはある。ギョーカイの慣習になじめない若者にも野心はある。まぁそうは言っても登場人物はみんな恵まれた人たちだ。世間一般からはかけ離れているけれど、社会派ドラマじゃなくてトレンディドラマなのだから、これでOK。リアリティは不要だ。人間臭さを感じさせないドライさも魅力のひとつだと思う。

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2020年3月11日 (水)

開花が早いと喜べる?

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 今年は記録的な暖冬だったのでサクラの開花もかなり早まりそうだ。なんと東京は15日ごろの予想。地球温暖化の影響がいよいよ顕著になってきたのでしょうか。満開の桜の下で入学式、なんて景色は遠い昭和のものとなってしまいました。今年の場合はそれまでに新型コロナが終息するのか、そのほうが気がかりかもしれません。それにしても、どの花も開花が早すぎると思いませんか。

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 春先に咲くロウバイ(蠟梅)はもう終わりだし、サンシュユ(山茱萸)も満開を過ぎました。神戸大学の塀沿いに植えてあるハクモクレン(白木蓮)も10日ほど前から咲いている。阪神・淡路大震災の復興のシンボルとして、安藤忠雄さんが提唱した白い花が咲く樹を植える活動に賛同して植えられたもの。神戸市内の街路樹や公園には震災後に植栽されたハクモクレンやコブシがたくさんある。

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 冬の寒さはつらいけれど、寒さが厳しいほど春が訪れたときの歓びは大きくなる。日本もイタリアも、四季の変化がはっきりした国では春にまつわる名画や詩歌がたくさんあります。この調子で温暖化が進めば、お花見という文化も「そんな風習があったみたいだよ、昔」なんてことにならないとも限らない。今は日本人の感性や美意識が変わってしまう危機にあるかも。冗談ではなく・・・。
 

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2020年3月 8日 (日)

「薪を焚く」は名著だ

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 信州の山の家では薪ストーブを使っている。ストーブに換える前の暖炉時代を含めると、薪との付き合いはもう30年以上。だから薪や斧やストーブの情報には常に注意を払っている。そんななかで最近見つけたラーシュ・ミッティング著『薪を焚く』(朝田千恵訳 晶文社)が素晴らしいので紹介します。冬は零下30度にもなるノルウェーの作家ならではの著作だ。

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 伐って、割って、積んで、乾かし、燃やす。あらゆる角度から薪にまつわる情報を集めた本は今までなかった。もちろん日本とは気候風土が違うので、薪に使う樹種も違うし乾燥のさせ方も異なる。でもその目的は同じなので、基本的なところは「そうだ、そうだ。なるほどね」と参考になることが多い。しかも読み物としてもおもしろい。

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 エネルギー事情の変遷。道具の進歩にともなう実践的な技術。その背後にある歴史や文化。森林大国ノルウェーの人たちが長い時間をかけて培ってきた薪に対する哲学と美学と叡智が詰まっています。地球環境に対しても森林資源を上手に利用することは、化石燃料を消費するよりずっといい。再生可能な未来への希望。

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 また知らなかったけれど、ノルウェーでは『薪アート』が盛んで、よくコンテストも行われているという。たとえば、魚の形に積んだ作品。国王の75歳を祝して国王夫妻の似顔絵を薪で作った作品などなど。薪積みを単なる労働ではなく、こんな楽しみに変えてしまうなんて! 有史以前から続く、炎と人の親密な関係。この本は教えてくれます。薪を焚くことは、暖をとる以上のなにかだと。

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2020年3月 5日 (木)

「1917」サイコーです

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 サム・メンデス監督『1917 命をかけた伝令』。第一次世界大戦のフランス西部戦線を舞台に、若き二人のイギリス兵の「1日」を全編ワンカット(に見える)映像で描く。ロジャー・ディーキンス撮影の究極の映像美。こんなすさまじいノンストップ体験は初めてです。アカデミーの撮影賞と視覚効果賞を受賞したのも当然だ。 

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 ワンカットかどうか、どこでうまくつないでるかなど些細なことは忘れ、いつしか主人公になった気分。ハラハラドキドキ、緊張が途切れることなく2時間が過ぎた。終わってしばらくは立ち上がれないほど、ぐったり心地よい脱力感。こんなに集中したのはいつ以来だろう。戦争映画には違いないけれど、深い人間ドラマにも感動です。

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 塹壕や廃墟。抑えた色のトーン。これらはヨーロッパの光と色だ。泥水や死体のニオイ。どろりとした血の触感すら伝わってくる圧巻の臨場感。皮膚感覚にまで訴えてくる映像ってあるのだ、と思い知らされる。しかも決してグロテスクではない。SFXも駆使しているはずだけど、まったくハイテク技術を感じさせない。その自然さこそ、壮大なお話に引き込む源泉なのでしょう。
 
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 銃弾が飛び交う戦場の最前線。ヒリヒリする緊張感の中で一ヶ所だけホッとするシーンがありました。白い桜の花びらが舞い散るシーン。しかし主人公は狙撃兵に撃たれて急流を流されている。命の危機に直面しているのに、ホッとしていたら不謹慎かもしれません。が、これも演出の妙。その一瞬後にはゾッとさせられるのだから。

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 戦争の無慈悲さ容赦なさ。軍隊あるいは命令系統の理不尽さ。過酷な状況であればあるほど、友情や家族の絆の大切さが浮かび上がる。人間の献身的な振る舞いや勇気ある行動が感動を生む。メンデス監督の力量に参りました。すべてを越えて、圧倒される2時間。体験してみる価値はあると思います。サイコー!

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2020年3月 2日 (月)

未だ見ぬ建築家たちの夢

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 『インポッシブル アーキテクチャー』展。建てることが不可能な建築、という意味だけではない。技術的に可能であったにもかかわらず社会的な条件や制約によって実施できなかった建築、実現させることよりも既存の制度に対して批評家精神を打ち出す提案、未来の問題を解決するために建築はこうあるべきだという理想を描くプラン。ガウディのころから建築は建てるだけのものではなくなった。

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 サブタイトルに「建築家たちの夢」とついているように、建築家はアーティストだと改めて思い出させてくれる企画です。素材の知識や構造計算を駆使する現実主義者、そしてまたイメージを操る夢想家。それぞれ得手不得手はあるものの、そして最近は専門化が進んでいるものの、その両面の知識と理解力がなければ建築家は務まらない。そんな考えがもう古いのかもしれないけれど。

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 実現しなかった建築で記憶に新しいのがザハ・ハディドの新国立競技場案。このまえ隈研吾さんの設計で完成しましたが、いろいろ話題になりましたね。改めて見てみると、とても20世紀的な感じがする。乱暴な言い方をすれば、圧倒的な迫力で国家やリーダーの権威を誇示するタイプの建造物。北京オリンピックのメインスタジアムは、まさにそれだ。でも21世紀の日本ではねぇ。

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 ここまで建築と建築家の話をしてきましたが、この展覧会でおもしろいところがもう一つある。荒川修作+マドリン・ギンズや岡本太郎など美術家に軸足を置いた作家の都市計画案や建築プランなども展示している点。イマジネーションの広げ方が、やっぱり違う。しかし会田誠の「東京都庁はこうだった方が良かったのでは?の図」まで同列に並べるのは、キュレーターの悪ノリじゃないですか?

IMPOSSIBLE ARCHITECTURE
インポッシブル・アーキテクチャー
建  築  家  た  ち  の  夢
2020年1月7日(火)~3月15日(日)
国立国際美術館

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