寅さんは永遠に
日本映画を代表するキャラクターと言えば、1969年に始まった『男はつらいよ』シリーズの寅さん。しかし主演の渥美清さんが亡くなってもう20数年、歴史の彼方にしまい込まれようとしていました。それがまさかの新作。50周年で50本目、久しぶりに製作されたのが『男はつらいよ 50 お帰り 寅さん』です。いわば総集編。
過去の作品を4Kデジタル修復した映像と、新たに撮影された映像が違和感なくうまく使われている。目覚ましい映像技術の進歩があったからこそ可能になった作品です。ただし、新しく渥美さんを撮影することはできないので、吉岡秀隆さん演じる満男の物語になっている。登場するのは母・さくら、父・博などおなじみの面々に、なんと初恋の人・イズミちゃん。おまけにリリーまで出てくる大サービス。
思い出や幻として出てくる寅さん以外は、当然ながら年を取っている。倍賞千恵子さんも前田吟さんも後藤久美子さんも浅丘ルリ子さんも。くるまやの座敷に上がるところに手すりがついているところなど、芸が細かい。しみじみと歳月が感じられます。人は亡くなっても思い出は残る。しかも思い出の中では年を取らない。寅さんはいつまでも寅さんで、寅ジイにはならないのだ。
「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。おじさん、どっからでも飛んできてやるから」。破天荒で騒々しいけど心優しいおじさんは、満男だけのヒーローではない。寅さんは永遠に私たちのそばにいるのだ。「生まれてきてよかったと思うことが、そのうちあるさ」と励ましてくれる声が、悩み多く生きづらい今の時代によけいに深く響く。
山田洋次監督は生みの親として『男はつらいよ』を完結させる責任があると考えていたに違いない。渥美さんの死によって停まっていたけれど、ようやく決着がついたというところでしょう。よくある言い方をすれば、これで寅さんも安心して成仏できる。そして日本人の記憶の中で永遠に生き続ける。必要とする人がいる限り。
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