2019年4月19日 (金)

六本木で現代アート展

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 テクノロジーをつかってみる、社会を観察してみる、ふたつをつないでみる! 日本の現代アートの今を見せたい!とうたった「六本木クロッシング2019展:つないでみる」が森美術館で開催中だ。「おもしろい」と同時に「むずかしい」が混ざった、まさに現代アートらしい展覧会だ。すごく興味を惹かれるものもあり、サッと通り過ぎるものもある。

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 飯川雄大の「ピンクの猫の小林さん」、青野文昭の「ベンツの復元から―東京/宮城」、ヒスロムの「いってかえってー浮力4」、目の「景体」、竹川宣彰の「猫オリンピック:開会式」など、印象に残る作品がたくさんありました。難しく考えることなく、それぞれの作品世界に浸る。単純におもしろがるのもいいし、作家はこんなことを考えたのだろうかと推理しながら観るのも楽しい。

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 キュレーターの説明によると現代美術からファッション、AI、人工生命まで、今日の表現を通して見える「つながり」に注目した展覧会だそうだ。対極のものを接続する。異質なものを融合する。本来備わっている繋がりを可視化する。25組のアーティストが表現するさまざまな「つながり」が、現代の「分断」に向き合うためのヒントになるかも、とも書かれている。

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 企画する側からは展覧会として何らかのまとまりのあるメッセージを伝えたいから、このような難解な説明になるのでしょう。でもアートは観る人が自由に感じればいいもの。なぜなら、作品は展示した瞬間から作家や美術館のものではなくなり、観客一人一人のものになると思うからです。アーティストの意図は尊重するけれど、縛られる必要はない。作家も観客もとことん自由になれる。それが現代アートだと思います。いちファンより。
 
六本木クロッシング2019展
つないでみる
2019年2月9日(土)~5月26日(日)
森美術館

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2019年4月16日 (火)

「切り絵」博覧会が今里で


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 50人以上の切り絵作家たちが、大阪・今里に大集結して開催されている『切り博』。切り絵と聞くと成田一徹さんや滝平次郎さんの額に入った作品を思い浮かべるが、この展覧会でガラッとイメージが変わりました。もはや「切り絵」という言葉でひとくくりにできないほど、急速に「切り絵」は進化し、多様化している。

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 紙をカットする工程は以前と同じでも、それを素材としてどう生かすかが表現の核に変わってきたようだ。多彩な色をまとったり、立体のオブジェになったり、動く彫刻になったり。さまざまな技法を組み合わせて見たこともない作品を創造している。LED電球やモーターなど最新のテクノロジーや素材を駆使してイメージを表現する自由な発想が素晴らしい。

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 カットした紙で空間を埋めるインスタレーション。ウイスキーのボトルの中にケンタッキーやテネシーやスコットランドなどの風物の切り絵が入った作品。カットした紙を型にしてにアクリル板にスプレーで彩色、などなど。切り絵の未来は大きく広がっていると感じられる意欲的な作品群に、大きな刺激を受けました。

第1回 切り絵 博覧会
『切り博 Discovery』
2019年4月1日(月)~4月21日(日)
SAMURAI Gallery Regalia レガリア

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2019年4月13日 (土)

アルヴァ・アアルト、静かな主張

 フィンランドを代表する20世紀の建築家、アルヴァ・アアルト(1898~1976)の展覧会が東京ステーションギャラリーで開催されている。図書館やコンサートホール、教会や市役所、新聞社やサナトリウムなどたくさんの公共建築を設計したアアルト。森と湖に囲まれたフィンランドらしい涼しげな空気感と、木を効果的に使った優しさが特徴です。

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 展覧会のサブタイトルに「もうひとつの自然」とあるように、外観もインテリアもフィンランドの透明な風土と一体になった美しさ。まさに北欧モダンデザインの精華です。個人住宅にはより一層その美学が徹底されている。建築に合わせて家具、壁面タイル、ドアノブなどの細部までデザイン。強く主張はしないけれど、温かく包み込んでくれるように思います。

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 またアームチェアやスツール、照明器具、流線型のガラス器など、彼が手掛けた多くのプロダクトデザインは、いまも世界中で親しまれている。なかでも集成材を使った曲げ木の椅子は、知らない人がいないほど有名だ。デザインだけにとどまらず曲げきの製造方法を研究したスタディも残されていて、これ自体がアートになっています。

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 この展覧会で約300点の展示品を一覧すると、彼がデザインした建築や家具はまわりの環境との親和性が極めて高いことがよくわかる。会場の東京ステーションギャラリーは、空襲で焼け焦げたレンガ壁やアールデコ調の照明器具が残されている。この空間にもアアルトはとてもよくマッチしている。まもなく終了しますが、観ておいてよかった。

アルヴァ・アアルト
もう一つの自然
2019年2月16日(土)~4月14日(日)
東京ステーションギャラリー


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2019年4月 1日 (月)

世界へ輸出された超絶技巧

 19世紀後半、幕末から明治時代に欧米で開かれた数々の万国博覧会で大きな注目を集めた日本の工芸品。【木彫】【金工】【七宝】【陶磁】【漆工】【牙彫】【自在】【石彫】 さまざまな分野で人間業とは思えない超絶技巧の作品が大量に作られ、輸出されて貴重な外貨を稼いだという。自然に対する繊細な感受性と洗練された造形センス、それらを作品化する超絶的な技巧で世界を驚かせた明治工芸。いまあらためて注目されているようです。



 畑で採れたばかりに見えるみずみずしいキュウリや、ウロコの一枚一枚までリアルに再現されたヘビ、タカに襲い掛かるカラスを表現した刺繍画。ここまでの完成度になれば、感動を覚えざるを得ない。アーティストというより職人の手わざ、芸術品というよりは工芸品だけれど、そんなジャンル分けはまったく意味がない。イイものはイイのだから。スゴイものはスゴイのだから。素直な気持ちで観ないとソンをする。



 この展覧会のもうひとつの見どころは、現代作家の作品。明治の超絶技巧を引き継ぐような現代のアーティストが何人もあらわれてきて、日本のアートシーンを豊かにしている。高橋賢悟さん、前原冬樹さん、稲崎栄利子さんの作品には特に驚かされました。明治時代の欧米人がびっくりしたように、神が作ったとしか思えない緻密さに私たちが息を呑む。その根気、その執念、鬼気迫る創作欲の一端にに触れることができました。

驚異の超絶技巧!
明治工芸から現代アートへ
2019年1月26日(土)~4月14日(日)
あべのハルカス美術館

 

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2019年3月29日 (金)

不思議の国のアリスたち

 ルイス・キャロルの名作「不思議の国のアリス」にまつわる展覧会が、兵庫県立美術館で開催されている。誕生から約150年。すでに170の言語に翻訳され、毎年途切れることなく世界で出版され続けています。でも英語特有の韻や言葉遊びがいっぱいの物語なので、ほかの言語には翻訳できないだろうと初版当初は言われたそうです。その困難を作品の魅力が大きく上回った、ということ。キャロルの妄想力の勝利です。



 そして何人もの画家が挿絵を描き、その美術のクオリティでも人気を呼んでいる。ストーリーの面白さ+アートの美しさ。いろんな解釈ができるところがアーティストの想像力を刺激し創作意欲をかきたてるのでしょう。なかでもチャールズ・サントーレが水彩で描いたシリーズがとても気に入りました。それにサルヴァドール・ダリやマリー・ローランサンまでが描いているのは初めて知った。驚きました。



 やはり作品化する素材として、料理し甲斐があるということ。現代の美術家がアリスをよくテーマに取り上げるのも、同じ理由なのでしょう。草間彌生のシルクスクリーンや清川あさみの立体作品、エリック・カールのアクリル、山本容子のエッチング、ウラジミール・クラヴィヨ=テレプネフの写真etc。多種多様な表現手法で今も生み出し続けられる不思議の国のアリスたち。ほこりをかぶった古典ではないのです。

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2019年3月23日 (土)

フェルメール6作品が大阪へ

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 フェルメールの作品が日本初公開も含めて6点、大阪市立美術館へやって来ました。雨の平日にもかかわらず、かなりの人出です。それでも7年前に「真珠の耳飾りの少女」が神戸に来た時に比べると、だいぶんましです。フェルメールというだけでお客さんが押し寄せる17世紀オランダの画家。現存するのはわずか35点という希少性も人気の秘密なのでしょう。

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 へえ、こんな絵も描いていたのか、という初期の作品も来ている。人々の日常を題材とする静謐な風俗画で高い評価を受ける彼が、独自の世界を確立するちょっと前、24歳ごろのもの。上品な風俗画というよりは賑やかなフーゾク画と呼びたいような.。しかしこのころから腕は確かですよね。

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 吟味された構図と厳格な遠近法。緻密な筆づかいと優しい光の表現。美しく洗練された画風は他の追随を許さない。いち早く市民階級が誕生したオランダでは、貴族や教会など古い権威から解放されて自由になった商人や工場主が、芸術でも新しい表現を求めていた。それにうまくフィットした画家の代表がフェルメールです。

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 スタイルが確立して以来、手紙を書く婦人も牛乳を注ぐ女性も彼の代表作はすべて彼のアトリエで描かれている。向かって左に窓があり、その窓から入る穏やかな光による微妙な陰影は、カメラの原型であるカメラオブスキュラを覗いて描いていたというからとても正確だ。床は白黒の市松模様。これも遠近法による奥行き表現に役立っている。

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 部屋の様子以外にもおもしろい発見があります。彼の絵には同じコスチュームが登場すること。二つ上の手紙を書いている人と同じ黄色の服でしょ。この服は43歳で亡くなった彼の財産目録にも載っているそうです。場所も服も使いまわしてる。奥さんや同居していた姑さんがキツイ人だったと伝わっています。才能ある芸術家も苦労してたんだ。親しみを覚えませんか。

フェルメール展
2019年2月16日(土)~5月12日(日)
大阪市立美術館

 

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2019年3月 8日 (金)

生と死と、記憶と祈り

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 クリスチャン・ボルタンスキーの[ Lifetime ]と題された大規模な展覧会が国立国際美術館で開催されている。美術館では彼の意図が伝わらないんじゃないか?と危惧していたけれど、さすがボルタンスキー。狭い閉鎖空間ながら、ちゃんと彼独自のアートな世界が展開されている。彼の複雑な頭の中を巡る迷路なのか、と思わせる会場構成。

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 ボルタンスキーは越後妻有アートトリエンナーレや瀬戸内国際芸術祭で、いくつも作品を観てきた大好きなアーティスト。2012年にキナーレで観た古着を使った巨大なインスタレーションや2013年に豊島で体験した心臓音のアーカイブ、2018年の廃校になった小学校の最後の教室など、いまでも深く印象に残っている。それらの作品に関連付けられるものも多数ありました。

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 今回の展示は80年代、90年代からの作品も集められている。ナチスのホロコーストを想起させる肖像写真の羅列。古い記憶を祀った教会の祭壇のような立体作品。パタゴニアやカナダの雪原に無数の風鈴を立てて撮影した映像作品。ほんとに手法を選ばず、おもしろいと思ったら何でもやってしまう。そしてそれがまったく新しい美を生む。現代アートの巨匠たるゆえんだ。

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 この展覧会ために製作されたという、「黒いモニュメント、来世」もおもしろい。真っ黒な四角い柱がいっぱい建てられたスペースに、来世の電飾。電線はその前に垂れている。黒い墓標あるいは廃墟になったビル群といっしょに、世界の終末を考えさせる。会場を出るとき、大阪のオバちゃんらしき二人連れがしゃべっていた。「ようわからんかったね。あっ、これアートちゃう?」 なんだと思って来たのでしょうね。

クリスチャン・ボルタンスキー
Lifetime

2019年2月9日(土)~5月6日(月)
国立国際美術館

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2019年2月15日 (金)

日本の森と素木の家具

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 このステキなポスター、北欧家具のブランドを北欧デザインで作成したようでしょ。「SOMA」は岐阜県美濃加茂市にアトリエを構える木工作家・川合優さんが率いるライフスタイルブランドの名称だ。山で働き山に生きる杣人の『杣(そま)』からとったという。いま竹中大工道具館で「SOMA 日本の森と素木の家具」展が開催されている。

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 ふんだんに木が生かされた美しい会場に、シンプルで美しい家具や小物作品が並ぶ。木の美しさや温かさを伝えるために、装飾を廃しデザインは極力シンプルに作り上げる作品は、北欧の名品に通じる。北欧のオークやバーチに対して、日本のヒノキやスギ、ミズナラなどの木目の美しさを強調している。

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 日本では戦後間もないころに植林された木々が有効に使われず、山林の荒廃や生態系の崩壊を招いている。一方安価な木材を大量に輸入し、それは熱帯雨林をはじめ海外の環境破壊にも手を貸している。こんな日本の森の危機、地球規模の環境の危機に対して、木工作家ができることは?と考えた川合。

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 そんな状況を解消する一助としてSOMAを起ち上げ、木や森に寄り添って暮らす日本古来の生活を現代に取り入れる方法を展開している。それは家具の製造販売にとどまらず、森を生かすための活動、ワークショップやフィールドワークなどさまざまなコラボレーションに発展しているそうだ。もっともっと共感する人が増えて、豊かな森が後世に引き継がれることを祈っています。

SOMA 日本の森と素木の家具
2019年2月9日(土)~3月17日(日)
竹中大工道具館

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2019年2月 9日 (土)

石川直樹の THE HIMALAYAS

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 写真家・石川直樹さんがこれまで撮影してきたヒマラヤをテーマにした写真展が神戸元町で開かれている。越後妻有や瀬戸内国際アートトリエンナーレで彼のヒマラヤ作品群を観てきました。素晴らしかったけれど確かにそれらはまだ途中経過だったのかもしれない。さあ、神々が住む高みへ至った人だけが観ることを許された景色へ。

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 地球の偉大さを求めて、石川さんはエベレストをはじめいくつもの8,000m峰を登っている。そしてただ美しい山岳写真を撮るだけではなく、ヒマラヤの過密問題や環境問題にも目を配る。チベットやネパールの人々の村や暮らしを民俗学的な視点でも記録する。自然と人間との関係。人間がいてこその自然。厳しく、美しく、気高い。

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 この展覧会のタイトルになり、ヒマラヤ遠征の総集編となる『THE HIMALAYAS』(TOO MUCH MAGAZINE)、そして連続刊行中のヒマラヤシリーズ最新作『Ama Dablam』(SLANT)と、『この星の光の地図を写す』(リトルモア)の三冊の新刊が発売された。それらを記念した展覧会は、小規模だけど見る価値は高いと思います。

THE HIMALAYAS
Naoki Ishikawa
2019年2月2日(土)~2月14日(火)
strage books
神戸市中央区三宮町3-1-16 三星ビル3F

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2019年2月 6日 (水)

横尾忠則の公開制作とは

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 いま横尾忠則現代美術館で開催中の展覧会。タイトルは『横尾忠則 大公開制作劇場』です。「本日、美術館で事件を起こす」というサブタイトルがついている。長年にわたりさまざまな場所で行ってきた公開制作。この『公開制作』という言葉は横尾さんの表現方法にとって、とても大きな意味を持っている。だから会場の数か所で上映される各地での制作風景の記録映像は重要なのだ。

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 そのベースには、絵画を描く、という行為そのものを芸術にしてしまおうという考えがあるに違いない。いわば横尾絵画は観客と共に作り上げるパフォーミングアート。「人に見られることでかえって余計な自我やこだわりが消え、無心状態で制作することができる」という。もともとはアトリエのなかった横尾さんが制作場所を求めてやむなくとった手段だそうだ。しかしその効用に気づいてからはより積極的に取り入れ、独自の手法になっていく。

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 また横尾さんは公開制作を演劇にたとえている。舞台の上で起こる事件=創造の現場を固唾をのんで見つめる観客と、その熱気やエネルギーを創造=事件に利用する作家。そこに生まれる即興的でスリリングな瞬間瞬間。作家と観客は共犯となって事件を起こし、共同制作者として作品を創造する。この展覧会は、それらの事件の現場検証ということなのでしょう。

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 公開制作をもっと演劇的にしたPCPPP(Public Costume Play Performance Painting)もおもしろい発想だ。横尾さん自身が工事の現場監督や大工の棟梁のようなコスチュームで登場して絵を描く。決してホワイトカラーではないです。なぜなら横尾さんにとって「描く」ということは、まさに肉体的行為なのだから。横尾忠則という巨大な才能の、創造の一端に触れられた気がします。
 
横尾忠則 大公開制作劇場
2019年1月26日(土)~5月6日(月・休)
横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA

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