2019年6月12日 (水)

伝説のファッションデザイナー?

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 ダイアナ妃やサッチャー首相、スウェーデンのシルビア王妃などのためにイブニングドレスを作ってきた鳥丸軍雪 GNYUKI TORIMARU。英国オートクチュール界に大きなインパクトを与えてきたトップデザイナーです。1937年、宮崎県生まれ。59年に日本を出て、ロンドンカレッジ・オブ・ファッションで学ぶ。ピエール・カルダンのアシスタントデザイナーを務めたあと独立。シンプルで洗練された独自のスタイルで作品を発表し、国際的な評価を獲得したスゴイ人なのです。

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 軍雪(ぐんゆき)という珍しい名前からとった、YUKIというブランド名でセレブを魅了。類まれな感性と高度なテクニックで誰もマネできない世界まで到達した鳥丸。やわらかい布を垂らせて流れるような優美なひだを生むドレープの手法で、「ドレープの魔術師」とか「絹の彫刻家」と呼ばれてきた。今回はドレープやプリーツを駆使した代表作を中心に、デザイン画なども含め約80点を展示している。


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 独創的な布のカット、動きに連れて繊細に揺れる美。予想以上のすばらしさです。要素をできるだけ減らしたシンプルなデザインながら、優美さと気品を兼ね備えた完璧なアートです。ただし芸術作品のような服って着る人も選ぶでしょうね。でもオートクチュールだから、着る人それぞれに合わせてデザインも考えてもらえるでしょうから大丈夫か。とかなんとか、何が大丈夫なんだか⁉

伝説のファッションデザイナー
鳥丸軍雪 展
2019年4月13日(土)~6月23日(日)
神戸ファッション美術館

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2019年6月 6日 (木)

スーパー狂言って?

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 横尾忠則現代美術館で開催中の「笑う横尾忠則」展で、とても興味深かったのは『スーパー狂言』関連の展示。2002年から2003年に上演されたそうですが、当時はまったく知らなかった。お恥ずかしい限りですが、伝統芸能にまったく関心がなかったので。さて国立能楽堂委嘱作品『スーパー狂言』三部作は、原作:梅原 猛 演出:茂山千之丞 美術:横尾忠則 で創作された新作狂言なのです。

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 『ムツゴロウ』では自然破壊。『クローン人間ナマシマ』では科学技術。完結編の『王様と恐竜』では核戦争をテーマに、笑いを通して人間の愚かさをえぐり出した三部作。展覧会場では公演ポスターをはじめ、装束や小道具などさまざまなアイテムが展示されている。上演のDVDも流されています。21世紀のテーマと現代専門用語、それらに伝統的な狂言の所作やせりふ回しが妙にマッチ。おもしろい間を作っている。

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 シャガールやホックニーもオペラや芝居の舞台美術を手掛けているように、アーティストにとって舞台美術やコスチュームのデザインはものすごくやりがいのある仕事に違いない。自分のイメージが動き、演技し、ときに予想以上の効果を上げる。横尾さん自身の頭や手で完結しない世界。新しい発見や幸福な刺激に満ちあふれた、それこそ笑いが止まらない経験だったのではないでしょうか。

人食いザメと金髪美女―笑う横尾忠則展
2019年5月25日(土)~8月25日(日)
横尾忠則現代美術館

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2019年6月 3日 (月)

なにを笑う?横尾忠則

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 驚く!笑う!混乱する!惹き込まれる! いま横尾忠則のユーモアやウイットに焦点を当てた展覧会が開かれている。無邪気な遊び心と毒を作為的に散りばめ、観客を挑発するヨコオワールド。ポスターにもなっているこの作品、「Panic ぱにっく パニック」というタイトルですが、人食いザメも金髪美女も歯を見せて笑っている。下に横たわっている男も笑っている、しかもオチンチンを立てて。大笑いする顔にも背景にも、「ぱにっく」の文字がぎっしり。人を食ってるのか、ああ大変な時代だ!と警告しているのか。

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 批評家精神あふれるパロディもおもしろい。横尾さんのスゴイところは自らの過去の作品を何度もリメークし、パロディのネタにしているところ。自分自身が生み出したいわば分身のような作品さえも、笑い飛ばしている。客観的に冷徹に見る目と、深く熱い思い入れの奇妙なバランス。これは横尾作品を考えるうえで重要なポイントではないでしょうか。ポップで、土俗的。作品創造にいっさい制約を設けずチャレンジしていく。成功した自らのスタイルさえも踏み越えて、新たな世界を生み出す。

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 過去の敬愛するアーティスト、たとえばアンリ・ルソーの作品をパロディの手法でいくつも新しい作品によみがえらせている。その多くはブラックユーモアだけど。19世紀末から20世紀初頭にはたぶん想像もできなかった社会状況があらわれている現代。「ルソーが今生きていたら」的な遊び心がいい。『フットボールをする人々』や『正確な寸法で描かれたルソー像』や『眠れるジプシー女』など、大笑い出来ました。ところで、横尾さんはこんな風に観ている観客を、シニカルに笑い飛ばしているのかなぁ。

人食いザメと金髪美女―笑う横尾忠則展
2019年5月25日(土)~8月25日(日)
横尾忠則現代美術館

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2019年5月 4日 (土)

暁斎はキョウサイと読む

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 幕末から明治にかけて幅広く活躍した河鍋暁斎(カワナベ  キョウサイ)。没後130年を機に、兵庫県立美術館で大規模な展覧会が開催されている。ポスターにも使われている『美女の袖を引く骸骨たち』という絵。ドイツのビーティヒハイム・ビッシンゲン市立博物館から帰還した作品だそうだ。すぐれた作品が海外にある、というところは価値観が変わる激動の時代だからこそ。おかげで傑作が今に残ったともいえる。知らなかったけれどスゴイアーティストがいたものだ。

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 歌川国芳の画塾で修業し、狩野派にも入門。文明開化の時代に大衆向けの浮世絵も伝統絵画も自在に描いた天才として一世を風靡した。しかし型にはまらない奔放さゆえか、一時忘れられかけたという。けれども卓越した画力と発想力で近年再評価が進んでいる。端正な花鳥画や仏画からユーモア精神あふれる錦絵や妖怪画まで、今回集められたのは200点を超える作品。美しさも残虐さもユーモアも、聖俗あわせせ呑んだ天才絵師・河鍋暁斎を知る、またとないチャンスです。

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 屏風、掛け軸、絵馬、歌舞伎の引き幕、本の挿絵、工芸品など考えられるあらゆるものを作り出している。現代でいうところの狭い美術界にはおさまっていない。当時考えられるあらゆるメディア、あらゆる表現手法にチャレンジ。意識は現代アートの作家に近い。今回の展覧会では彼の卓越した観察力や写生力を物語る下絵がたくさん展示されているのもおもしろい。何を考え、どのように対象を見たか。修正や書き足しなどから彼の思考のあとがうかがえる。

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 葛飾北斎と比べれば、生まれてくるのがちょっと遅かったのかもしれない。また明治以降、欧米から入ってきた西洋画になじむには早すぎたのかもしれない。日本伝統美学の系譜と近代西洋美学の狭間に生きた暁斎。美術史のなかにどう位置付けるべきか評価が難しかったのが、忘れられかけた理由でしょう。作家の評価なんてモノサシが変わればすぐに変わる。あの若冲やフェルメールでさえ忘れられていたのですから。評価って難しいですね。

河鍋暁斎 鬼才!Kyosai!
2019年4月6日(土)~5月19日(日)
兵庫県立美術館

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2019年4月28日 (日)

台所から見る地理と歴史

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 人間の歴史で住まいとは寝るための場所であり食べるための場所でありました。洞窟で暮らした時代からその基本は変わらない。建築家の宮崎玲子さんは半世紀にわたり、世界の約50ヶ所の伝統的な台所を調査しておもしろい事実を発見したという。その成果が、大阪グランフロント LIXILギャラリーで開催中の「台所見聞録」展のひとつめの見どころ。以下にご紹介するのは、北緯40度を境に北と南では「火」と「水」の使い方に違いがあることを説明するパネル展示です。(スミマセン、下手な写真で見にくいです)

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 北は鍋を吊り、南は鍋を置く文化圏だという。世界地図にプロットした青い丸印は「吊る」文化。オレンジ色の丸印は「置く」文化。なるほど、日本でも東北地方などはオレンジ色で囲炉裏の上に鍋を吊る地域ですね。さらに北では水を使うことが少ないので流しが主役にならず、南では洗う頻度が高いので台所の設えは大量の水を使うことを前提にしている。イヌイット、ドイツ、ロシア、インド、ネパールなどの住まいを1/10スケールで再現した精巧なミニチュアハウスも見ごたえがあります。


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 この展覧会のもうひとつの見どころは、日本の台所の近代化についての展示です。日本では住まいや暮らしは明治から昭和にかけて西洋の影響を受けて大きく変わってきました。なかでも激変したしたのが台所。その当時「立働」「衛生」「利便」という3つの理念が台所改革のテーマだったそうだ。そして1950年代に現れた公団住宅のステンレス流し台が、現在へと続く大きな方向性を決めたという。食べるために必須である台所について、地理的にも歴史的にもとても興味深い展覧会でした。

台所見聞録 ー 人と暮らしの万華鏡 ー
2019年3月8日(金)~5月21日(火)
LIXILギャラリー
大阪グランフロント南館タワーA12F

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2019年4月19日 (金)

六本木で現代アート展

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 テクノロジーをつかってみる、社会を観察してみる、ふたつをつないでみる! 日本の現代アートの今を見せたい!とうたった「六本木クロッシング2019展:つないでみる」が森美術館で開催中だ。「おもしろい」と同時に「むずかしい」が混ざった、まさに現代アートらしい展覧会だ。すごく興味を惹かれるものもあり、サッと通り過ぎるものもある。

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 飯川雄大の「ピンクの猫の小林さん」、青野文昭の「ベンツの復元から―東京/宮城」、ヒスロムの「いってかえってー浮力4」、目の「景体」、竹川宣彰の「猫オリンピック:開会式」など、印象に残る作品がたくさんありました。難しく考えることなく、それぞれの作品世界に浸る。単純におもしろがるのもいいし、作家はこんなことを考えたのだろうかと推理しながら観るのも楽しい。

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 キュレーターの説明によると現代美術からファッション、AI、人工生命まで、今日の表現を通して見える「つながり」に注目した展覧会だそうだ。対極のものを接続する。異質なものを融合する。本来備わっている繋がりを可視化する。25組のアーティストが表現するさまざまな「つながり」が、現代の「分断」に向き合うためのヒントになるかも、とも書かれている。

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 企画する側からは展覧会として何らかのまとまりのあるメッセージを伝えたいから、このような難解な説明になるのでしょう。でもアートは観る人が自由に感じればいいもの。なぜなら、作品は展示した瞬間から作家や美術館のものではなくなり、観客一人一人のものになると思うからです。アーティストの意図は尊重するけれど、縛られる必要はない。作家も観客もとことん自由になれる。それが現代アートだと思います。いちファンより。
 
六本木クロッシング2019展
つないでみる
2019年2月9日(土)~5月26日(日)
森美術館

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2019年4月16日 (火)

「切り絵」博覧会が今里で


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 50人以上の切り絵作家たちが、大阪・今里に大集結して開催されている『切り博』。切り絵と聞くと成田一徹さんや滝平次郎さんの額に入った作品を思い浮かべるが、この展覧会でガラッとイメージが変わりました。もはや「切り絵」という言葉でひとくくりにできないほど、急速に「切り絵」は進化し、多様化している。

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 紙をカットする工程は以前と同じでも、それを素材としてどう生かすかが表現の核に変わってきたようだ。多彩な色をまとったり、立体のオブジェになったり、動く彫刻になったり。さまざまな技法を組み合わせて見たこともない作品を創造している。LED電球やモーターなど最新のテクノロジーや素材を駆使してイメージを表現する自由な発想が素晴らしい。

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 カットした紙で空間を埋めるインスタレーション。ウイスキーのボトルの中にケンタッキーやテネシーやスコットランドなどの風物の切り絵が入った作品。カットした紙を型にしてにアクリル板にスプレーで彩色、などなど。切り絵の未来は大きく広がっていると感じられる意欲的な作品群に、大きな刺激を受けました。

第1回 切り絵 博覧会
『切り博 Discovery』
2019年4月1日(月)~4月21日(日)
SAMURAI Gallery Regalia レガリア

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2019年4月13日 (土)

アルヴァ・アアルト、静かな主張

 フィンランドを代表する20世紀の建築家、アルヴァ・アアルト(1898~1976)の展覧会が東京ステーションギャラリーで開催されている。図書館やコンサートホール、教会や市役所、新聞社やサナトリウムなどたくさんの公共建築を設計したアアルト。森と湖に囲まれたフィンランドらしい涼しげな空気感と、木を効果的に使った優しさが特徴です。

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 展覧会のサブタイトルに「もうひとつの自然」とあるように、外観もインテリアもフィンランドの透明な風土と一体になった美しさ。まさに北欧モダンデザインの精華です。個人住宅にはより一層その美学が徹底されている。建築に合わせて家具、壁面タイル、ドアノブなどの細部までデザイン。強く主張はしないけれど、温かく包み込んでくれるように思います。

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 またアームチェアやスツール、照明器具、流線型のガラス器など、彼が手掛けた多くのプロダクトデザインは、いまも世界中で親しまれている。なかでも集成材を使った曲げ木の椅子は、知らない人がいないほど有名だ。デザインだけにとどまらず曲げきの製造方法を研究したスタディも残されていて、これ自体がアートになっています。

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 この展覧会で約300点の展示品を一覧すると、彼がデザインした建築や家具はまわりの環境との親和性が極めて高いことがよくわかる。会場の東京ステーションギャラリーは、空襲で焼け焦げたレンガ壁やアールデコ調の照明器具が残されている。この空間にもアアルトはとてもよくマッチしている。まもなく終了しますが、観ておいてよかった。

アルヴァ・アアルト
もう一つの自然
2019年2月16日(土)~4月14日(日)
東京ステーションギャラリー


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2019年4月 1日 (月)

世界へ輸出された超絶技巧

 19世紀後半、幕末から明治時代に欧米で開かれた数々の万国博覧会で大きな注目を集めた日本の工芸品。【木彫】【金工】【七宝】【陶磁】【漆工】【牙彫】【自在】【石彫】 さまざまな分野で人間業とは思えない超絶技巧の作品が大量に作られ、輸出されて貴重な外貨を稼いだという。自然に対する繊細な感受性と洗練された造形センス、それらを作品化する超絶的な技巧で世界を驚かせた明治工芸。いまあらためて注目されているようです。



 畑で採れたばかりに見えるみずみずしいキュウリや、ウロコの一枚一枚までリアルに再現されたヘビ、タカに襲い掛かるカラスを表現した刺繍画。ここまでの完成度になれば、感動を覚えざるを得ない。アーティストというより職人の手わざ、芸術品というよりは工芸品だけれど、そんなジャンル分けはまったく意味がない。イイものはイイのだから。スゴイものはスゴイのだから。素直な気持ちで観ないとソンをする。



 この展覧会のもうひとつの見どころは、現代作家の作品。明治の超絶技巧を引き継ぐような現代のアーティストが何人もあらわれてきて、日本のアートシーンを豊かにしている。高橋賢悟さん、前原冬樹さん、稲崎栄利子さんの作品には特に驚かされました。明治時代の欧米人がびっくりしたように、神が作ったとしか思えない緻密さに私たちが息を呑む。その根気、その執念、鬼気迫る創作欲の一端にに触れることができました。

驚異の超絶技巧!
明治工芸から現代アートへ
2019年1月26日(土)~4月14日(日)
あべのハルカス美術館

 

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2019年3月29日 (金)

不思議の国のアリスたち

 ルイス・キャロルの名作「不思議の国のアリス」にまつわる展覧会が、兵庫県立美術館で開催されている。誕生から約150年。すでに170の言語に翻訳され、毎年途切れることなく世界で出版され続けています。でも英語特有の韻や言葉遊びがいっぱいの物語なので、ほかの言語には翻訳できないだろうと初版当初は言われたそうです。その困難を作品の魅力が大きく上回った、ということ。キャロルの妄想力の勝利です。

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 そして何人もの画家が挿絵を描き、その美術のクオリティでも人気を呼んでいる。ストーリーの面白さ+アートの美しさ。いろんな解釈ができるところがアーティストの想像力を刺激し創作意欲をかきたてるのでしょう。なかでもチャールズ・サントーレが水彩で描いたシリーズがとても気に入りました。それにサルヴァドール・ダリやマリー・ローランサンまでが描いているのは初めて知った。驚きました。

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 やはり作品化する素材として、料理し甲斐があるということ。現代の美術家がアリスをよくテーマに取り上げるのも、同じ理由なのでしょう。草間彌生のシルクスクリーンや清川あさみの立体作品、エリック・カールのアクリル、山本容子のエッチング、ウラジミール・クラヴィヨ=テレプネフの写真etc。多種多様な表現手法で今も生み出し続けられる不思議の国のアリスたち。ほこりをかぶった古典ではないのです。

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