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2019年11月18日 (月)

ゴッホの眼が見た世界

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 『バスキア』や『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュナーベル監督が作った『永遠の門 ゴッホの見た未来』。この映画の革新性をひと言でいえば、ゴッホ自身が見た世界の映像化。そんなアホな、と突っ込みたくなるとんでもないアイデアながら、観ているうちにいつしか自分がゴッホになってしまっているかのように感じる。無謀とも思える企画が見事に成功しているのだ。これはスゴイ。

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 このユニークかつ画期的な試み。どんな手法なのか? それはほとんどを主観映像で構成していること。手持ちカメラを多用し、画面はブレ、ゆがみ、斜めになり、どんどん動く。頭がくらくらして、めまいを起こしそう。そして足元や人の顔の過度なアップ。遠近両用メガネのひずみのような効果をねらった、画面の上と下で被写界深度の違うレンズの使用。撮影監督のブノワ・ドゥロームの手腕とアイデアは特筆ものだと思います。


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 ときどき画面はフェイドアウトして暗転する。それは彼が発作を起こし不本意な出来事を起こすとき。次の画面は「意識がない、記憶がない」という言葉から始まる。精神を病んでいたのも、いろんな事件を起こしたのも記録に残る事実だ。けれどもそれを第三者の視点で客観的に描写するのではなく、この映画はあくまでゴッホの主観で構成する。ゴッホの視点だけではなく、ゴッホの意識でも映画を作るという試みがおもしろい。

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 ここまで「ゴッホが見た世界」と述べてきましたが、正確にはシュナーベル監督が「ゴッホはこう見ただろう」と考える世界。彼によるゴッホの解釈だ。「ゴッホは自分が新しい視点で世界を見ていることに気づいていて、それを人々に伝えたかったのだと思う」というシュナーベル。ゴッホは度重なる発作の合間には、極めて冷静に作品を制作している。「彼は絵を描くとき完全に正気だったと思う。彼の芸術は決して『狂気』の所産ではないのだ」と。

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 タチアナ・リソフスカヤの音楽もとてもいい。ピアノ主体の画期的な現代音楽。ゴッホの不安や苦悩を表現する不安定な和音や、世間や時代の無理解にとまどう姿に寄り添う旋律。この世の美しさに目ざめ、創作する喜びに感動するゴッホの魂の叫びが聞こえて来そう。長く記憶に残る映画音楽の誕生です。

 盟友でもあったポール・ゴーギャンが残した言葉。
      彼は黄色が好きだった。勇敢なフィンセント。
      霧を嫌う彼の魂を ー 太陽の光が復活させる。

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