抽象へ? 建築へ?
版画の技法を応用した型の技術や釉薬の厚みによる独自の表現を確立したルート・ブリュック。1951年にはミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞するなど、国際的にも大成功を収めました。ところが彼女は50歳ごろから大きく作風を変えていく。具象的な陶板から、抽象的で立体的な作品へ。その理由は今も分からないらしい。あくなき美の追求から、と言うしかないのでしょう。
彼女が編み出した独自の方法は、大小さまざまなピースを焼き上げて、それを組み合わせで作品にするというもの。同じ北欧つながりでデンマーク生まれのレゴブロックに考え方は少し似ている。とは言え似ているのは組み合わせて作るというだけで、もっと複雑なカタチや素材感やサイズ構成。光や影の効果も活用してとても重層的な表現を可能にしている。陶磁のモノとしての存在感がベースにあるので、カンディンスキーやモンドリアンの抽象とはまったく違う。
正方形、円、六角形などシンプルな基本形。凹と凸のピースや、色あざやかな釉薬の有り無し。一つ一つは小さなピースだけれど、たくさん集めて組み合わせることによって、多彩な表情を持つ作品に統合させる。もともと建築家志望だったという彼女の明晰さと関心は、美術作品を制作するという感覚的な行為より、壁面を創造するといったもっと構築的な作業に向けられたのかもしれません。
さらに晩年にかけては、ヘルシンキ市庁舎やフィンランド銀行、大統領公邸のモザイク壁画など、フィンランドを代表する建築の一部を構成するような巨大な作品制作に移行。もはやセラミック・アーティストというジャンルをはるかに超えた現代アーティストの姿です。しかし一見ミニマルで抽象的なこれらの作品も『流氷』や『色づいた太陽』などのタイトルに見られるように、持って生まれた抒情性はずっと健在だったのでしょう。必見の展覧会です。
ルート・ブリュック 蝶の軌跡
2019年9月7日(土)~10月20日(日)
伊丹市立美術館・工芸センター
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