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2019年9月 1日 (日)

世紀末ウィーンに咲いた花

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「圧力なべの中に最先端の学問と芸術を入れて圧をかけたとき、吹き出た蒸気がクリムトやシーレやフロイトである」。ミシェル・マリー監督のドキュメンタリー映画『クリムト エゴン・シーレとウイーン黄金時代』に出てくる言葉だ。原題は Klimt & Schiele - Eros and Psyche(クリムトとシーレ ― エロスとプシケ―)。ギリシャ神話の純愛物語からとったタイトルで、官能性と精神性をあらわしている。タイトルに「クリムト」とありますが、彼の伝記ではなく、彼が生きた時代を描いた映画です。

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 時は19世紀末から20世紀初頭にかけて、ハプスブルク家が統治したオーストリア=ハンガリー帝国の末期。場所はトラム網も整備されたメトロポリスのウィーン。封建的な社会や保守的な芸術に反発した画家や音楽家、作家や建築家、医者や科学者がカフェにたむろして議論を戦わせるサロン文化が花開く。「時代には芸術を 芸術には自由を」をモットーに掲げた『ウィーン分離派』を起ち上げたグスタフ・クリムトはその中核をなす人物だ。

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 金箔を多用し妖艶で死の香りを漂わせる夫人像を多く手掛けたクリムト。ねじ曲がった体躯と苦悶に満ちた表情で魂の痛みを表現したシーレ。このような当時としては異端なテーマは、ジークムント・フロイトがたどり着いた精神分析の誕生と時を同じくしている。(お互い影響を受けていた可能性ももちろんあります) 人間の不安や畏れ、エロスを描いた新しい絵画表現で、いままでなかった革新的な芸術を生み出した。

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 音楽でもマーラーやシェーンベルクやリヒャルト=シュトラウスが躍動。世紀末のウィーンは、既成の社会秩序や芸術観を打ち壊す、真に現代へとつながる歴史の転換点だったのだ。それは何百年も繁栄したハプスブルク帝国がなくなる前の一瞬の輝き。熟した果実が崩れ落ちる直前の甘美。フロイトのエディプスコンプレックス説になぞらえると、秩序を崩壊させることは新時代の種子が産まれるために避けて通れない道筋だったのかもしれない。

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 この映画はクリムトとシーレの没後100年となる2018年に製作された美術史ドキュメンタリー。この爛熟した時代の終焉とともに、ヨーロッパは第一次世界大戦、スペイン風邪によるパンデミック、世界大恐慌へと続く長く暗い時代へ突入する。19世紀末から20世紀初頭にかけてウィーンで花開いた絢爛たる芸術の時代背景を学ぶ、最高の美術史講義を受けた気分。国立国際美術館で始まっている「ウイーン・モダン」展をより深く楽しむための予習として観ましたが、とても役立ちました。

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