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2019年9月 7日 (土)

アレックスの静かなる挑戦

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 アレックス・オノルド。ロッククライミング界のスーパースターだ。日本でも毎年秋に開催されるバンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバルBMFFで何回も観ているので、そのすごさは知っていました。なぜかpatagoniaが2年前から日本上映の主催者を撤退してしまいましたが・・・。この『フリーソロ』は、彼がカリフォルニア州ヨセミテ国立公園にそびえる巨岩エル・キャピタンに挑んだドキュメンタリー映画です。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門をはじめ世界で数々の賞を受賞している。

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 監督はエリザベス・チャイ・バサルヘリィ&ジミー・チン。高さ975mの断崖絶壁を、身体を支えるロープなど安全装備を一切使わず、たった一人で自分の手と足だけで登る。こんな前人未到のチャレンジを、臨場感あふれるカメラワークでその一部始終を収めた。アレックスもすごいが、撮影クルーもまたすごい。いま流行りのCGや合成などはまったく使っていない。断崖にロープでつり下がったクルーの手持ちカメラ、地上から狙う超望遠レンズ、頭上のドローンのみの映像だ。リアルなこの体感は作り物の映像では表現できなかったでしょう。

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 死と隣り合わせの冒険。このようなアレックスを撮るべきか、もし失敗=死ならどうするのか、記録する側の葛藤も隠さず映し出しているのが素晴らしい。災害報道でも思うのですが、カメラは時として冷徹な傍観者になってしまう。ここでは撮影クルーも一方の当事者として、また生身の人間としてチャレンジしている気概が伝わってくる。無謀とも思える彼の行為を止められない恋人や友人クライマーたちの苦悩も丁寧に描く。しかし彼はまわりの思いを十分承知しながらも孤独な戦いに進んでいく。

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 入念なルートの検証とイメージトレーニング、そしていくつもの恐怖の要素の排除。何より大切なのは思い描いたとおりに身体が動くように心を整えること。人間の肉体の可能性、人間の精神力の偉大さ、未知に挑む勇気を教えてくれる傑作だと思います。でもアレックスは「ほんのちょっとクライマーの限界を広げただけ」ときわめて謙虚。超人的な人ほど、自分がすごいとは思わないのかもしれません。求道者のようなストイックな生き方も魅力的です。静かなる挑戦の全貌をぜひご覧ください。

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